家で両親や義父母を介護する大変さがわかってもらえないと辛いものですよね。
特に、要介護者本人が近所で元気そうにしていると、周囲の人から「あなたのお家のおじいちゃんは介護する必要もなく楽でいいわね」などと言われるようになり、「本当は介護以外の問題が大変」と思っていても、その本音が伝えづらくなってしまいます。
しかし実際には、要介護者がフレイルや、まだら認知症などの比較的軽度な状態であるがゆえに、問題や悩みが発生してしまうこともあります。
それを周囲にわかってもらえないと、なんだか自分の感情を否定されているように思えて苦しくなってしまうかもしれません。
そこで、この記事では、要介護者が一見しっかりしているように見えたり介護度が低いことで発生する問題や、その解決方法を紹介していきます。
周囲には伝わりにくい「まだら認知症」や「フレイル状態」の介護の辛さ
私が過去、関わった要介護者では以下のような事例がありました。
【事例】Мさん(53歳女性)
Mさんは、義父(85歳)・夫(54歳)・娘(23歳)の4人家族。
義父はもともと、地域活動などに積極的に参加し、明るく活発で周囲に好かれるタイプの人柄でした。しかし、あるときから、様子が少しずつ変わってきたのです。
近所のスーパーから帰って来なかったり、まだ洗っていない洗濯物を洗濯機の中から取り出して着始めたりと、今までとは明らかに違う行動が目立つようになりました。
更に、部屋の片づけができなくなったり、順序立てて行動することも難しくなり、日に日に異変を感じることが増していきました。
出掛ける際の支度など、義父ができなくなった部分をサポートしてきたМさん。
ですが、義父はやり残しに手を出すМさんに対し疎ましさを感じ始め、言い合いになったり、暴言や嫌味を吐いたりと家族の関係にも亀裂が入るようになりました。本人はプライドが高かったので、自分ができなくなったことを認めたくなかったのかもしれません。
そんな家庭内での苦労がある一方で、近所では愛想良くいつも通りに見えることから、近所の人に「あなたのお家のお父さんは元気でいいわね」と言われることに対しても、Mさんはモヤモヤしていました。
その言葉をかけられると、「実はこんなに大変なの」と言い返したいМさんでしたが、「言ったところでわかってもらえないかもしれない」「私が甘えているだけだと思われてしまう」と自分の大変さを訴えることで白い目を向けられるのが怖くなり、近所の人には本当の想いは打ち明けられません。
夫婦ともに、日中仕事をしていたため、誰も家に居ない時間帯はデイサービスに通わせたいということで介護認定調査を申し込むと、要介護1と判定されました。
Mさんは週3回のデイサービスに頼りながら仕事を続けましたが、デイサービスに行かない平日は家に義父しか居ないため、不安もあります。
一人の時間には火元を消し忘れ、あわや大火事に発展しそうになったこともありました。仕事を続けたい一方で、デイサービスは3日しか利用できない…。
要介護度が低いことでの、介護サービスの使いづらさにも困っていました。

要介護度が低いことによる苦労
要介護度が低いというだけで、「介護の必要性が低い」と周囲から認識されがちですが、要介護度で介護の大変さが図れるものではなく、実際には要介護度が低くても苦労している方は多いものです。
そこで、要介護度が低めの介護家族が抱える苦労を以下に紹介していきます。
介護サービス使用に制限がある
要介護度によって使えるサービスに制限があります。
例えば、介護保険を利用して要介護1でデイサービスを使える回数は、2~3回程度、また特別養護老人ホームへの入居は要介護度3~5であり、要介護度が低いと特養の入居は原則できません。
しかし、実際には要介護度が低くても家族の負担が大きい場合もあるため、家族の実際の負担と利用できる介護サービスが合っていないケースも。
介護の負担は重いのに、思うように介護サービスが使えないのは介護をする家族にとっても辛いものです。
周囲に辛さをわかってもらいづらい
要介護度の低い高齢者は、周囲に「介護の必要性」をわかってもらえないことがあります。
短時間話すだけでは、認知症による言動の矛盾や異変に気付きにくいからです。
周囲は表面上の部分だけを見て介護家族にあれこれと言うため、介護者本人は「本当は大変で辛い」と思っていても「どうせわかってはもらえないだろう」と飲み込み、本音は伝えないようになります。
高齢者の頭はクリアで口が達者。本人の自己主張にストレスが溜まる
まだら認知症やフレイル状態など、曖昧で比較的軽度な状態であると、要介護者自身が自分の変化に気付きにくく「自分が正しい」というスタンスでいることもあります。
その場合、家族の指摘を聞き入れないことも多く、関係にひびが入ってしまうことも。
家族がサポートしているのにも関わらず、本人からは嫌味や可愛げのない言葉をかけられてしまうと、家族側もイライラしたり、虚しくなったりと精神的に不安定になることがあります。
介護者の不満が「自分のわがまま」と思えてしまう
「周囲にはもっと大変な介護をしている人もいる」
「嫁(娘)なのだからこれくらいのことは私の務めであり、拒否する気持ちはわがまま」など、要介護者の介護度が低いことによって介護が楽であると周りから思われることで、介護を嫌になる気持ちに罪悪感を持ってしまうこともあります。
しかし、介護に対して否定的な気持ちに罪悪感を持ち続けると、自分の心の逃げ道が閉ざされ余計に苦しくなってしまうのです。
介護の大変さは比べられない
介護生活を続けていて、以下のように感じることはありませんか?
- 介護が自分より大変そうな近所の人を思い浮かべて「自分が弱音を吐くのは甘えだ」と思ってしまう
- 要介護者のことを見るのは当然の務めだと感じる
- 本人が元気なのだから介護サービスを頼るのも気が引ける
周囲と比べ、自分のしているサポートは「たいしたことない」と思ってしまうことで、周りに頼りたかったり、愚痴を吐きたかったりする気持ちに蓋をしてしまっているかもしれません。
しかし、介護の大変さは誰かと比べられるものではないので、まずは「介護によるストレスを抱えている」という状況を自分自身が肯定してあげることから始めましょう。
「介護が辛い」と思う気持ちは、大げさでもなければ、不思議なことでもなくごく普通の感情なのです。
自分の機嫌を上手に取れるようになろう
周囲の目に敏感になるのは、「本当は自分の辛さをわかってほしい」気持ちがあるからだと思います。
“自分の辛い気持ちを否定されたくないから、敢えて周囲には言いたくない”
“でも本当はわかってほしい”
そんな気持ちの葛藤が、あなたをモヤモヤさせてしまうのです。そして、そんなモヤモヤの解決法は、周囲にわかってもらいたい気持ちをいい意味で諦めることです。
周囲からの共感・理解で助けられる場合もありますが、だからと言ってそればかりに固執してしまうと自分の本当の感覚がわからなくなってしまいます。
あなたが辛いなら、その感覚を自分自身でまず肯定すべきです。物事の価値観を他人軸から自分軸に変換することを意識してみましょう。
また、介護によるストレスを自分自身で解消する時間を作ることも大切です。周囲に愚痴を言う以外でも、ストレスの解消方法はあるはず。家族と相談し、たまには一人で出かける時間をつくるなど、上手く息抜きをするのも効果的です。
両親や義両親の介護は、確かに大切なことです。しかし、あなたの人生の主人公はあなたであることを忘れないでください。
最も優先すべきは、介護や周囲の目ではなく、あなた自身の心の充実なはずです。

介護保険の範囲内でのサービスが使いづらいなら保険外サービスの検討も
介護サービスは要介護度が低いとサービスが制限されてしまうので、事足りないケースもあるかもしれません。
そんな時には、保険外サービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか?最近の保険外サービスには、さまざまなものが存在します。
介護保険外サービスは、介護保険内では利用できないような、入院中の世話や見守り、趣味などの外出付き添いなども頼むことができます。
介護保険内で賄えない部分を無理して介護家族が負担するのではなく、保険外サービスも上手く利用していくのがおすすめです。
介護の大変さは結局、当事者にしかわからず、周囲に正しく理解してもらうことは難しいのが現実です。
だからこそ、自分の心や体を一番に労わってあげましょう。
そして、介護保険内のサービスが足りなければ、是非保険外サービスの利用も検討してみてください。