皆さんこんにちは。株式会社てづくり介護代表取締役の高木亨です。
今回は、介護職の負担軽減にペーパレス化は効果があるか、お話していきたいと思います。
介護現場の仕事の約2割は書類の作成や記録
結論から書きますと、現時点で各省庁にて議論されている「ペーパーレス化」は、介護現場での適用を目指したものではなさそうです。
したがって、「効果はほとんど見込めない」というのが筆者の見解です。
介護現場で、労力の削減を意味するペーパーレス化が本当にされるのであれば、効果はあるでしょう。
少なくとも、介護現場の仕事の約2割は書類の作成や記録に割かれていることがわかっています。
しかし、今各省庁にて議論されているペーパーレス化は、指定申請や更新手続き、各種加算項目の要件に関わる文書、行政指導や監査、報酬申請手続きなどに関する書類の削減が主で、少なくとも、「介護職の負担軽減」を目指したものではありません。
たしかに、膨大な量で削減の必要性はあるでしょう。
添付を求められる書類の量はもちろん、誤字脱字や表現の不適切等の不備があるたびに作成しなおし、出向かなくてはならない手間と時間は確かに閉口せざるを得ないものがあります。
ペーパーレス化では、介護現場の負担は変わりにくい
とはいえ、まことに残念ながら、この部分のペーパーレス化は「介護現場」にとっての負担軽減とは全くと言って良いほど関連がありません。
上記は管理者や事務方が行う業務であって、それはいわゆる「介護現場」とは明確に異なります。
そもそも「介護職」には管理者や事務員はカウントされていません。
もちろん、兼務を余儀なくされる小規模な事業所にとっては多少の効果はあるかもしれません。
しかし介護現場の約2割を占めると言われる書類の作成や記録には上記の業務を含んでいません。
従って、議論が進められているいわゆる事務文書のペーパーレス化がどんなにうまくいっても「介護職の負担軽減」につながるとは思えません。
今回議論されているペーパーレス化よりもはるかに急務なのは、「介護現場」にかかる負担削減でしょう。
介護現場で記載された内容は現場で共有されますから、誤記入や誤記載、未記入、未記載は誤ったケアや事故に直結しかねません。
しかし、24時間365日のケアに欠かせない最も重要な記録よりも行政側に重視されているのは、届け出が出されている各種加算の算定要件を満たす記録がされているか否かです。
こうした各種加算の算定要件を満たす記録の有無は収益に関係してきますから、最終的には介護職員の給与に影響してきます。
一方で介護現場にとって、そうした「各種加算の算定要件を満たす記録」がいったい何のために必要で、どういったことに使われるのか、細部にわたって理解している介護職がどれほどいるでしょうか。
「書けと言われたから書いている」「作れと言われたので作っている」介護職も少なくないでしょう。
必要なのは予算削減ではなく介護現場の業務削減
発達しつづける情報通信技術を取り入れて1日でも早く大幅な削減が行われることを期待したいところですが、その場その場で設けられてきた各種の加算要件自体も見直す必要があります。
なぜならば、加算要件を満たすような記録になっているかどうかが行政側にとって重視されるべき内容であるからです。
そうした内容はケアに欠かすことのできない最も重要な記録以外の余計な記録になっているうえ、新たな加算要件が追加されるたびに増え続けてきた経緯があるからにほかなりません。
記録や書類作成に介護業務が圧迫されていく状況を生み出したのは、再三にわたる一貫性のない制度改定と報酬改定が根本原因であると筆者は考えます。
唯一、一貫しているのは「予算削減」という方向だけでしょう。
介護業務を行ううえで改善がなされるような改定は今まで一度も見たことはありません。
業務に支障があれば改善を図ることは大切ですが、制度発足当時から予算削減ばかりを気に掛け、制度の健全性や命、人生よりも「目先のお金が大事」と言わんばかりに「行き当たりばったり」で、内容は迷走を続けています。
こうしてみると介護に当てられるべき予算をほかのことに割かざるを得ない状況を作ってきたのは、ペーパーレス化を謳いながら、介護現場の業務削減に全く寄与しない議論を行っているような場所なのではないかと首を傾げざるを得ません。