皆さんは、VRという技術をご存知でしょうか?
VRは「バーチャルリアリティ」の略で、「人工現実感」や「仮想現実」と訳され、「実体験に近い体験が得られる」ことを示します。
つまり、VRを通して得られるリアル体験は、あたかも現実であるかのように感じられるということです。
近年、この技術を通じて認知症の方が見えている世界を体験できるようなイベントなどが開催されています。
そこで、今回は認知症のVR体験が持つ意義について解説いたします。
いまだ誤解が多い認知症
認知症の方に限らず、要介護状態の方は、周囲の偏見などから“できない人・わからない人”という世界に閉じ込められてしまいがちです。
しかし、当事者の方の声から「何もかもできない人・わからない人」ではないということがわかります。
数年前、あるテレビ番組に寄せられた認知症の方からのメッセージをもとに、その「声」を社会に届けるためのポスターができました。そこには次のようなメッセージが記されていました。
- 認知症になっても人生は終わらない
- 社会とつながる場があると、自信が持てる
- 何かしてほしいわけではない。ただ普通に生きたい
- 徘徊ではない。目的があって歩いている
- 誰かと話したい
- うまく言えないけど話したいことはたくさんある
- できることをうばわないで、できないことだけサポートして!!
10年ほど前から、認知症の方が積極的にメッセージを発信していることで、社会の認知症の方を見る視点は確実に変化しています。
当事者の声、認知症に対する啓発などが進み、認知症は正しく理解されつつありますが、まだ限定的だと思います。
VRで認知症の病態を疑似体験する意義
介護保険法第5条の2第1項では、認知症を次のように定義しています。
認知症はそれ自体が病気というわけではなく、原因となる疾患はアルツハイマー病や脳血管障がいなど多岐にわたります。
そのため、症状も個別的で複雑ですが、主に以下が低下します。
- 記憶力
- 言語能力
- 判断力
- 理解力
- 遂行力 など
こうした症状により「生きる・暮らすのが大変困難」になり、日常生活に支障をきたすのが認知症です。
認知症ではない私たちは、言葉では「生きる・暮らすのが大変だ」ということは理解をしているつもりでいます。
しかし、実際には頭で理解していることとは異なる行動をとってしまいがちです。
例えば、以下のような行動が挙げられます。
- 何度も同じことを繰り返し聞く認知症の方に対して「さっきも言ったでしょ」と怒鳴ってしまう
- 施設入所中にもかかわらず、「家に帰りたい」と言う利用者に対して「あなたは家に帰れません。施設で暮らしているのだからここに泊まってください」と伝えてしまう

認知症を理解するうえで大事なことは病態への理解です。
どんな病気やケガであっても、本人にとっては不本意でつらいものです。身近な病気でいえば風邪。38℃以上の発熱や咳・咽頭痛は誰しもが一度は経験したことがあるでしょう。
自分が経験したことがあれば、想像やイメージはつきやすいものです。発熱していたり咳をしている方を見ると、私たちは本人の立場に立って考え、相手の心情を推し量ったり、相手に合わせた対応ができます。
それは認知症であっても同じ。しかし、私たちは認知症になった経験がないため、普通に暮らしている目線で物事を考えてしまい、認知症の方を否定・𠮟責につながるのではないかと考えます。
理解していた“つもり”が変わる
そこで、より認知症への理解を深めるためにも、認知症の方が見ている世界や気持ちを疑似体験できるVRが注目されているのです。
例えば、VR専用のスコープを装着し、認知症の中核症状を体験するプログラムがあります。体験者の話を聞くと、リアルな映像を見ることで、次のような“気づき”があったと言います。
- 表面的に理解をしていたつもりになっていたことがわかった
- VR体験を通じてこれからの介護をどうしていいかわかった気がした
- 講義などを受けることも認知症理解に有効であるが、VR体験によって、より本質的な理解が深まった
このVR認知症体験会は、全国各地で広がりつつあります。百聞は一見にしかずとも言いますし、お近くで開催されることがあれば、ぜひ体験することをおすすめします。
私が所属する「一般社団法人千葉市認知症介護指導者の会」でも、令和5年度に「認知症とVR」をテーマにセミナーを開催する予定です。本セミナーでは、「認知症の知識確認」「VR体験の有効性」「実際のVR体験」などをプログラムに組み込む予定です。
ご興味のある方は、「一般社団法人千葉市認知症介護指導者の会」ウェブサイトをご確認ください。