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介護を理由にあなたの人生を諦めないで(後編)

介護当事者の本当の気持ちを伺う「みんなの介護座談会」。「前編」では介護によって“自分の人生”を諦めないために、「仕事、娘、妻、母と、さまざまな顔を持つことが大切」だというお話がありました。前編に引き続き、ダブルケアラーの当事者として介護と育児をする3名の方々にお話を伺います。

この記事に登場するみなさんのプロフィール(敬称略)
岡崎 杏里 岡崎 杏里 鈴木 (仮名) 鈴木 (仮名) 藤田 (仮名) 藤田 (仮名)
介護ライター・エッセイスト。20代より若年性認知症になった父親とガンを患った母親の看病を一人娘として担う。2013年に長男を出産し、育児と介護の “ダブルケア”に。2020年に母親は死去、父親(要介護4)は現在、施設に入所している。著書に『笑う介護。』『みんなの認知症』(成美堂出版)、『わんこも介護』(朝日新聞出版)など。
40代、会社員、2人の女の子の母。20代から若年性認知症の母親の介護をしている。在宅で一緒に介護をしていた父親が脳出血を発症。同時期に長女を妊娠し、結婚したため実家への通いの介護になる。両親の介護に限界を感じ、母親(要介護5)は特別養護老人ホームへ入所。その後、父親は他界した。
40代、会社員、2人の男の子の母。50代の母親に認知症の傾向が見られる中、父親が他界。その後、母親は若年性認知症と診断される。在宅介護を続ける中で介護と仕事の両立が難しくなり母親はグループホームへ入所。その後、母親は車椅子生活(要介護5)となり特別養護老人ホームへ転居。

“オムツ”を持ち歩く人生!?

みんなの介護(以下、―――) 介護と育児が同時進行のダブルケアとなり、気がついたことを教えてください。

岡崎
外出するときは常に“オムツ”を持ち歩いている人生のような気がしています。まずは「親のオムツ」を持って出掛けて、子どもが生まれたら「子どものオムツ」がそれに加わって……。子どものオムツが「外れる」までは二人分のオムツを持って歩きました。

今は、父の分だけを持ち歩く感じに戻りましたけど。
藤田
鈴木さんが、お母さんと娘ちゃんのオムツの大きさを比べて「大きさが全然違う!」と言っていたことがあったよね。
鈴木
そう。母の病院の付き添いに0歳の子どもを連れて、2人分のオムツとおしり拭きを持って出かけたりしていました。
岡崎
多くの方はその「オムツ」の時期がズレるのかもしれないけど、ダブルケアだと重なる時期があるからね。
鈴木
子ども用と大人用を比較せざるを得ないこともあったな。

子どもと出かける時に、使用済みのオムツを入れるためにLサイズのジッパー袋を持っていっていましたが、0歳児の娘のSサイズのオムツであれば、使用済みのものが7、8個は入ります。でも、母は尿取りバッドも併用しているし、そもそものサイズが大きいからLサイズのジッパー袋にそんなに入らない。
岡崎
尿の量が多くてオムツが膨らんで嵩張るし。
鈴木
母のものがジッパー袋からハミだしちゃうみたいなことが結構ありました。……これ、必要な情報なのかわかりませんけど(笑)。

岡崎さんが、撮影した一コマ。

介護用のおむつカバーは無機質なデザインが多く、赤ちゃん用の「かわいらしい」デザインと比べてしまったそう。その「差」にケアの違いが暗に示されているように感じられたのかもしれません。

おむつカバー

(写真提供:岡崎杏里)

親の介護が育児に「生きる」

――― ありがとうございます。ほかにも、ダブルケアならではの発見がありましたら教えてください。

藤田
介護と育児は、似ているところがすごく多いと思います。ただ、育児よりも介護の方が先に始まったからだと思いますが、「育児の方が楽だ」と思うことが多いです。
鈴木
わかる! 育児をしていると、2歳ぐらいにイヤイヤ期がやってきます。認知症の場合は、永遠のイヤイヤ期というか……。大人のイヤイヤと2歳のイヤイヤは全然違う。
藤田
大人は抵抗するときの力が強いけれど、子どもの力はたかが知れているし、かわいいと思えちゃう。
岡崎
オムツ交換も、「インパクト」がある親を先にやってしまっているから、“子ども版”はかわいく思えるときもあった。
藤田
うん。育児は、子どもの成長に繋がっているように思えるから「希望」を感じられる機会が多いよね。やっぱり大人の「扱い」の方が大変だったな。
鈴木
2歳児が大人と同じような話し方で、「なんで私を産んだのよ!」とか言いながら大人と同じ力で突き飛ばしてきたら、やっていられないけれども。
藤田
勝手に遠くまで行って、警察に毎回「探してください」と頭を下げて、帰ってきたら私のことを罵倒する。……2歳児はそんなことはしないし。
鈴木
だから、若者介護者で親の介護を先に経験している人は、育児はそんな感覚になるから、介護を理由に出産や育児を諦める必要は全然ないと思った。
岡崎
むしろ、大変な方を先にやっているかもしれない。もちろん育児も大変。それでも、介護はきっと育児に生きると思う。

座談会写真

育児を通じて見つけたあの「感情」

鈴木
独身時代に母を施設に入所させるかどうか迷って、いろいろな方に相談をしたんです。大半の方が、「入ってもらった方がいいよ」「若いんだから、自分のことをした方がいい」というアドバイスをくれました。
岡崎
うんうん。周囲から見ればそうなのかもしれないけれども……。
鈴木
確かにその通りなのかもしれない。でも、私のことを自分の味方だという認識が母にはあったんです、私の名前を呼ぶことはできなくなっていたけど。母の名前を呼ぶとニコッと笑ってくれます。私が仕事に行こうとするとしがみついてきたりすることもありました。

いつまでも「お母さん」なんだけれども、不思議な愛おしさが沸いてきました。介護が大変なのは十分にわかっていたけど、「やっぱり施設に入れたくない」と、そのときは見送ってしまいました。

鈴木さんはケアという側面だけでなくて、気持ちの面でも、介護と育児で共通する部分に気づいたと言います。

鈴木
当時は「あの感情」を人に説明してもなかなか分かってもらえなかったんです。でも、今ならわかります。子どもを保育園に預けることに躊躇う気持ちに似ていると気づきました。
藤田
わかる。子どももね、保育園に慣れるまでは、母親と離れたくなくて泣くもんね。それの大人バージョンというか。私の母は「デイサービスの送迎のバスに乗りたくない」って、2階からなかなか降りてきてくれなくて。「デイサービスに行けば、仲間もできて、楽しく過ごせるよ」と何回説得したことか。母がデイサービスに行ってくれないと、こちらは仕事に行けないし。
岡崎
うちの場合は、ちょっと違ったな。父の介護で家族の関係性がギスギスしてしまったから、そこから“脱出”したかったのか、父はデイサービスに行くのを楽しみにしていました。そもそもの関係性とか、お二人は母親で、私は父ということもあるのかもしれないけど。

岡崎さんのようなドライなケースもあるかもしれませんが、鈴木さんのように親に対して「母性」が出てくるケースがあるのかもしれません。

座談会写真

ダブルケアの悩み

――― ダブルケアで大変だったことも教えてください。

鈴木
長女の“物心”が付き始めるまでは、母の施設へ連れていくと「ばあばが怖い」と長女は母を怖がってしまいました。母は常に目をつぶったままだし、話しかけても反応はあまりなく、細い身体で手をたまに動かすだけでしたから。

母のオムツ替えの時間になると、部屋に臭いが充満することもあったので、「ばあば、臭い」と言ったりすることも。それで、「ばあばは、怖いし、臭い。あそこ(施設)には行きたくない」という時期がありました。
岡崎
残念ながら、何も知らない子どもだと認知症の方のことを怖いと思ってしまうことがあるかもしれないよね。息子が物事の分別が付くような年齢になったときに、おじいちゃんが患っている認知症がどういう病気なのかを説明して、ほかのおじいちゃんと違うのは認知症のせいだということを教えました。

みんなのおじいちゃんやおばあちゃんとすこし違うところがあるかもしれないけれど、その存在は子どもの記憶に残って欲しいと思います。
鈴木
父にとっては最後の入院のきっかけになった救急外来のときも、2歳の長女も一緒に病院へ行きました。それから、亡くなる前日の晩まで長女を連れて毎日面会に行っていたのですが……。父の遺影を見せながら、そのときの話をしても、今は忘れてしまっているようです。

長女が父のことを覚えているのは年齢的にも難しいと思いますが、母が娘たちを認識できていなくても、娘たちには母のことは覚えていて欲しいですね。

そのためにも、「ばあばにお熱が出たから、病院に行ってくるね」と、娘たちに“ちょくちょく”母のことを報告するようにしています。

小学生になった鈴木さんの長女は、保育園に通う次女におばあさんのことを伝えるべく、こんなことを言われるそうです。

「私がばあばのことを教えてあげるんだ」

鈴木さんの思いをしっかりと受け取ることができる優しい子に育っているようです。

コロナ禍での影響

岡崎
コロナ禍になってから、子どもの面会は基本的に禁止になっていて、長いこと父と私の息子が会えていないから、父が孫のことを覚えているか心配なんです。
 
藤田
うちもグループホームから特別養護老人ホームに転居して、コロナ禍になると母の部屋まで行くことが禁止になりました。パーテーションのある部屋でワクチン接種済みの大人二人までの面会ならOKでも、子どもがそこに一緒に入ることはダメ。

施設の出入口の構造が、下駄箱が設置されたエントランスのガラスドア、ロビーのある受付に続くガラスドアと2重になっているので、下駄箱の前に椅子を置き、そこに子どもたちを座らせて、ロビー側から母にちらっと見せたりしていました。

介護者の集いなどへいくと、入所している親に孫に会わせると、元気になるという話をよく聞きます。それをみんなが「孫ワクチン」と呼んでいて。

――  孫ワクチン! かわいらしい響きですね。

藤田
免疫力を上げるためにも「孫ワクチンを打たないと!」って、みんなで話しているのですが、私もそうしてあげたいな、と。施設に電話で相談をしたこともありますが、直接、会わせることがなかなか難しくて。

でも、1回だけ「お孫さんが来られているんですか……。車椅子でお孫さんとその辺を1周するぐらいでしたらいいですよ」と言っていただいたことがありました。
岡崎
それはうらやましい。父がいる施設は敷地内に子どもが入ることも基本的にNGだから。
藤田
そのときは私の次男と一緒に施設に行きました。散歩しながら、母の乗る車椅子の周りを子どもが“ピョコピョコ”するんです。それを見る母はずっとニコニコしていて。
岡崎
コロナ禍になる前、子どもを施設に連れていくと入居者の方からはアイドルみたいに大人気でしたね。
藤田
そうそう。母がグループホームに居たころは、母の部屋で息子のオムツ交換をしたり、ミルクをあげたり、母と孫が会う時間をいっぱい作りました。息子が歩けるようになったら、他の入居者さんとボールで遊んでもらったこともありましたよ。

やっぱり、孫のような「若い」年齢の人を見ると元気になる入居者の方が多いみたい。私が家庭と子どもを持ちたかった理由の一つには、「母を元気にしたい」という思いもありました。

子どもを施設に連れていくことでそれが叶うというか、親は自分がどんな状態になっても子どもの幸せを願うものだと思っています。

藤田さんは自分が幸せに生きている姿をお母さんに見せることも、ひとつの親孝行だと考えているそうです。

座談会写真

「当事者」から「当事者」へのメッセージ

―― みなさま、本日はありがとうございました。さいごに、ダブルケアの当事者の方やダブルケアに対して不安を抱いている方へのメッセージをいただけないでしょうか。

藤田
ダブルケアも含めて、人によって状況や抱えている悩みはそれぞれ違うと思います。でも、さっきも話したように、親は基本的には子どもの幸せを願っているもの。ですから、自分の介護のために、――私であれば家庭と子どもを持ちたいという希望――子どもとしてのそういう夢や希望を親の介護で諦めて欲しくはないです。

たとえ認知症であっても、意思疎通ができる状態であれば、自分の希望をご本人に理解してもらうように努めて、「そうなるためにはどうしたらいい?」というようなところでお互いに折り合いをつけていくことも大切なのではないでしょうか。

―― 意思疎通が難しいときはどうすればいいのでしょうか。

藤田
施設入所を検討するような段階になっているのならば、どこかで「踏ん切り」をつけないといけないと思います。踏ん切りや決断を迫られる場面が介護ではたくさんあります。家族のことを一番に考えて「目の前の状況」だけで決断するのではなく、自分が描く人生設計も重要。「いま、自分はこういう段階にある」という自分の視点を入れてもいい。

一人で考え込むのではなく、ケアマネジャーなどのプロの手を借りてもいいし、介護の経験をした先輩たちからアドバイスを受けたり、そういったことが書かれた本を読んでもいい。「先人の知恵」がどこかしらに散らばっているので、それらを日々の介護に埋もれることなく探して、問題を解決していって欲しいと思います。
鈴木
親の介護だけに集中し過ぎていた独身時代は、「自分の人生を犠牲にしてもいい」と思っている部分もありましたが、自分の人生の方が大切。今、以前の私のような状態にいて、誰にも相談もできない方がいらっしゃれば、周囲にSOSを発信してください

介護で追い詰められると精神的にも落ち込んで、前を向くことができなくなることもあります。でも、やまない雨はありませんから。どこでもいいから、助けを求める発信をして、自分の人生を生きて欲しいです。

――― ありがとうございます。SOSの発信を迷っている方もいらっしゃると思います。

鈴木
そうですね。ひとつ知っていただきたいのは、「あなたのように悩んでいる人は他にもいて、決して一人じゃないよ」と知って欲しいです。少なくとも、ここに三人はいるし、両親の介護が重なって未来に絶望していた私でも、子どもを2人持つことができました。

介護は真正面から向き合うと大きなダメージを負ってしまうので、「切り替え」というか、逃げ道を持っておくのがいいと思います。

あと、最後に伝えたいのは、大変な決断かもしれませんが、親の介護を施設にお願いすることは絶対に悪いことではありません。
岡崎
これまでも大変なことがたくさんありましたが、介護を通じて住むところもバラバラな藤田さんや鈴木さんに出会うことできたのは、私にとって大きな財産です。出会ったころの話題は、親の介護の悩みと将来の不安について語ることが多かったのですが、今では子どもたちの将来について話すなど、内容も変わりました。

親たちも施設に入所したこともあり介護に関する悩みも変わってきました。私たちのように介護生活が長くなると、どんどん状況が変わっていきます。

――― 出会ってから10年が経過したみなさんの状況も変わったのではないのでしょうか。

岡崎
突然の母との悲しい別れで途方に暮れていたときに、力をくれたのが、藤田さんや鈴木さんをはじめとした、同じような“痛み”を知る介護仲間たちの存在でした。今、介護や育児で苦しんでいる方にも同じような仲間に出会って欲しいと強く思っています。

介護と育児を経験してみて思ったことは、どちらも決して一人ではできません。さらに、「あなたが壊れてしまうと、ケアしいる人たちも壊れてしまう」という共通点があります。だからこそ、一人で頑張り過ぎないで「余裕が出来たときに恩返しをすればいい」と、遠慮せずに周りを頼ってしまってもいいのではないでしょうか。

「やまない雨はない」。介護も育児も1人で抱え込まずに、こんかいお話を伺ったみなさんのように、仲間はどこかに必ずいるはずです。

取材・文:岡崎杏里

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