私が本稿を執筆している段階(8月29日)で、新型コロナ感染症は、「第9波」とも呼ばれる状況で、学校では学級閉鎖、介護施設ではクラスターの発生など、ちょっと厳しい状況が続いています。
この記事が掲載される頃には、2023年夏に大流行したXBB株以降のコロナウイルス感染症も落ち着き始めているのではないかと期待はしているのですが…。
5類になって大流行!?ゆるくなる新型コロナ感染症対策
岸田政権のコロナ対策は、従前のような国家が危機感を持って感染拡大を封じ込めるために諸政策を組んでいくというよりは、コロナに負けない社会、日本経済の構築によって人口減少に伴う国威低迷から脱しようという方針へと大きく舵を切ってきました。
とりわけ、これまで国家のコロナ対策を主導してきた新型コロナ感染症対策本部の廃止(4月28日)と、所定方針だったコロナ感染症に対する5類移行(5月8日から)、有識者による新型コロナウイルス感染症対策分科会、基本的対処方針分科会を廃止することで、コロナ対策の牽引役であった尾身茂さんの分科会長退任も8月24日に発表されました。
そもそもコロナ関連では、その対策本部自体が新型インフルエンザ対策特別措置法に基づいて2020年に設置されています。特措法からコロナウイルス対策が外れ、感染症法上の分類が従前の2類から5類に変更されれば、特措法上の対策本部は廃止する必要があるのです。
2類から5類へという変更は、あくまで人間の都合、政治の判断によるものであって、コロナウイルス自体は、より感染力の強い方向にシフトしてオミクロン系のXBB株、EG5.1x株への移行が日本では顕著に見られます。その結果、子どもへの感染拡大が広まり、発熱症状の続発からインフルエンザの再流行とともに学級閉鎖に追い込まれる地域が激増して問題となりました。
政府がモニタリングをやめたため、流行の度合いがわからない!
これらは5類への変更に伴って、保健所などでのコロナ感染状況の追跡が主体的にできなくなったことで、結果的に、病院などへの発熱外来やコロナワクチン製造会社などによる流行状況の間接的なモニタリングしかできなくなってしまいました。
つまり、政府が直接感染状況をダッシュボードでリアルタイムで確認することができなくなったので、実際に国民がコロナに感染して倒れて運び込まれて、初めてどの程度流行しているのかわかる、という状況にまで感染症対策が後退したことを意味します。
裏を返せば、それまでの日本の感染症対策は割と成功してきており、ワクチン接種の奨励と、満員電車や職場・学校などでの混雑した屋内でのマスクの着用、手洗い励行などがコロナだけでなくインフルエンザ、手足口病、RSウイルスなどの望ましくない感染症の拡大を効率的に防いで来ていたということでもあります。
もちろん、感染症対策はマスクの着用にせよ、煩わしく面倒くさいと思う国民も少なくないことから、感染症対策とは別に忌避的な感情があることはよく理解できます。
また、コロナワクチンについても接種を行っても半年から1年ほどでコロナウイルスへの抗体価がかなり失われてしまうことから、経年的に接種を続けていかなければならないことで「終わらない感染症対策」は見ないことにして、一刻も早く通常の社会活動、経済を取り戻したいと国民が望むのも当然と言えます。
ただ、5類に変更されたおかげで感染対策が後手になり、そのほかの感染症や酷暑による熱中症症状での救急出動も激増。結果的に、心筋梗塞や脳出血などの緊急を要する劇症疾患での救急搬送をする余裕がなく、救急外来もコロナ患者などにより一杯で対応できないという状況にまで陥っているのが本稿を執筆している8月29日現在の状況です。
子どもの学校や保育園、学童などでの感染拡大は、そのまま家庭内での感染に繋がっている状況も明確になってきています。
介護施設のクラスター発生で、高齢者の死亡数も増えている!?
コロナ対策の仕組みを緩めた今夏の第9波は、過去のあらゆる感染拡大のペースよりも最悪な状況で感染者を増やしていると見込まれ(これも5類になったので過去の感染者の増加ペースよりも速いとされつつ実数が良く分からないので比較さえできなくなっている)、結果的に、家庭内感染を通じてコロナ由来による高齢者の死亡が増えてきている問題が懸念されます。
特に、高齢者を管理する介護施設などでは過去最悪のペースでクラスターが発生しており、とはいえ制度上、コロナが発生したら面談を禁じたり、当該職員の出所を控えたりなどの対応までになっていますので、以前のように、クラスターが出た施設は抜本的に対応を求められることもなくなりました。その結果が、デイケアや老人ホームなどでのクラスター化、集団感染につながっている恐れがあることは正面から捉え直される必要があります。
健常者が感染しても、無症状で済む割合もある一方で、複数回の感染で身体の感覚や運動を司る迷走神経へのダメージの蓄積が原因と思われる後遺症で悩む割合も増えてきました。
それだけ、ワクチンを接種せずマスクもしない無防備な国民が複数回コロナに感染し、当初は無症状で大丈夫だろうと思っていても何度も感染することで取り返しのつかない健康被害を引き起こす問題について、社会も政治も、もう少し認識を改めて対策の在り方を見直す必要があるのかもしれません。
9月26日以降は、日本国内の医療機関などでオミクロン株以降のコロナウイルスに防御力があるとされる対応ワクチンの接種が一般にも始まりますし、長い目で感染症と付き合うという観点からもきちんと接種しておくことを強くおすすめする次第です。