この数週間、社会保障の分野でも政策面での大きな転換に関する議論が進んでいます。

数年後には日本の医療はもたないのではないかとか、猛烈な制度変更で多くの高齢者が置き去りになるのではないかとか、社会保険料の負担に耐え切れなくなった現役世代との分断が深まって取り返しのつかない事態になるのではないかなどの悲観論が多く聞かれるようになりました。

こうした議論のひとつに、「医療・介護分野をいかに効率化していくか」というテーマがあります。

福祉分野の合理化は必須!強烈な変化が訪れる可能性も……

去年のいまごろまでは、ポストコロナ政策(コロナ感染拡大と脅威がひと段落した後で、どうやって日常的な社会・経済を取り戻すのか)という着眼点から医療制度を問い直そうという動きが盛んでした。

そのときは「結構過激な議論をやっとるなあ」と目を白黒させていたのですが、昨今の議論のほうがよっぽど強烈な変化の前触れを感じさせるんですよね。

もちろん根底には冒頭にも書きましたように「もうこのままでは医療制度は持たないし、社会保障制度全体を改革しないければいけない」という議論が下敷きになっているのは事実です。

我が国の戦後復興を支えた人口のボリュームゾーンである団塊の世代の皆さんが「そのまま」後期高齢者入りをしてしまうと、医療制度が持たないんだよというのは自明です。

そのため、医療費を削減したり介護を合理化したり、年金をどうにかすることで問題を先送りにするという政策のモチベーションがあったわけです。

AIの進歩によって古い医師は不要に!? 医療法人の株式会社化も進むか

ところが、最近になって人工知能が割と使える状態で世の中に普及してきました。

本稿をご覧の方でも、人工知能が盛り上がっていることに興味関心をお持ちの方も少なくないのではないかと思いますが、医療制度においても直接的な恩恵と中長期的な影響とがかなり日本の医療に衝撃を与えるのではないかと見られています。

例えば、医療政策学で活躍しておられる津川友介さんの研究発表が代表的なように、単に薬が「効くよ効かないよ」という話を超えて、「この人は治療として降圧剤を服用してもらって血圧を下げることが、QOLに良い影響を与えるかどうか」を判断できるところまで時代が進んできました。

個人的にはとても良いことだと思いますが、他方でこのような慢性疾患の患者さんが日々診療を受けていたかかりつけ医など地域医療を支えている側からすると「この治療は必要ないのだ」となれば、医療機関は大変なことになります。

同様のことは遠隔医療・オンライン診療にもあって、コロナ禍で通院による感染リスク拡大を防ぐために特例的に認められていたオンラインの診療が、いつの間にか「なし崩し的」に各医療分野・診療科でも可能な方向へシフトしてきました。

こうなると、急病で担ぎ込まれる場合をのぞき。過去の診察なども踏まえて「オンライン診療でいいや」となれば、同じように地元のかかりつけ医など医療機関や診療所よりも、テレビで観たコマーシャルでいい感じの都市部の医療法人のオンライン診療を受けて、処方箋も郵送で来るほうが楽じゃないかと、医療法人の株式会社化がどっと進むことを意味します。

もともと診療においては病理医参などが行う読影は、人工知能に任せたほうが精度が出るぞという話になり、また、「込み入った」手術についてもAIを駆使して術前検査から執刀ロボットの操作まで医師が介在しなくてもできるようになっちゃうじゃないかという議論があるのです。

逆に言えば、勉強しないで古くからの治療法しか知らない医師や、保険収載されていたけど実は症例に効果がなかった薬などが淘汰されることをも意味し、それはそれで良かったじゃねえかという面もあります。

ただ、そのような本格的な人工知能の時代が到来して、医師は人工知能の行う治療方針を監督するだけという立場になると、社会における医療の役割が人工知能の登場と普及・発展によって随分違ったものになっていく恐れさえもあります。

人の手がもっとも必要なのが介護!AIと人間のハイブリッドが重要に!!

他方で、このような人工知能によっても失われることのない仕事が、実は介護業界なんじゃないかとも思います。

人工知能はADLが下がってしまった高齢者や患者さんのリハビリに付き合う補助はできても、実際に手がけるのは両手両足を持ち、横で励ますことのできる理学療法士さんでしょうし、高齢者の状況を見ながら日々の暮らしを支える介護職の人たちの代替はロボットには不可能であるとも言えます。

言い方として適切ではないかもしれませんが、医学的知識を持つ人を国家資格でカバーしたはずの医師の仕事が容易に人工知能に置き換わり、人間とのかかわりを最後まで持ちながら最前線でケアする介護職の皆さんが技術革新の恩恵をあまり受けられず、今後も貴重な仕事を担うことになりそうだというのは悩ましいところです。

逆に本稿をお読みになっている介護職の読者の皆さんが、自分の仕事を人工知能に置き換えるとして、どこが可能だろうと思われますか?

あるいは、自動車の洗車機のように、高齢者の方の自動入浴機のような介助の補助以上に、具体的に何か画期的な技術の使い方が介護の世界で可能になり、ときとして凄い力仕事を強いられかねないこの世界に福音がもたらされるといいなと心から思うのですが。