岸田政権が通常国会前の年末年始にかけて、いわゆる大枠での社会保障関連議論を進めております。

少なくとも2040年までは、我が国の高齢者の絶対数も割合も費用(年金、医療、介護の三分野すべて)も上がっていくわけですから、すでに苦しい負担率になりつつある社会保険料の改訂を上積みで修正するのも、安全保障政策を考えるうえで苦渋の決断と言えます。

逆に言えば、選択肢がない。もし現在の医療体制を維持し、年金の給付を保つのであれば、働いている国民に負担をお願いするしか方法がないのですよ。これが、健康な人からすれば健康だから罰ゲームを食らってると感じるし、子育て世帯からするとお母さんがキャリアを捨ててまで子育てをしているのに生活が維持できるだけの給付がないと感じる。そこへ、大学教育の無償化をやるぞとか子育て世帯支援の割合を増やすよってなると、あらゆるところで社会保障予算の奪い合いになってしまうのもまたむべなるかなというものです。

日本が迎えている“衰退”のフェーズ

今回、岸田政権が提示しているのは、このような社会保障政策の大枠に関する議論であって、要するに「もうもちませんけど、増税しますか、サービス削減を受け入れますか」という国民的判断を促すようなものに見えます。決断しないと強く批判され、また増税かと詰られることの多い岸田政権ではありますが、ただいま日本の政治が抱えた難題こそこの高齢者対策予算をどう抑えるかであって、ひとくちに「抑えるぞ」というのはダイレクトに高齢者の生活や、それを支える医療者や介護職を含めた皆さんの生活にも直結するわけですから大変なことなのです。

私もつぶさに見ておりましたが先の参議院選挙において、自民党もまあ何となく「持続可能な全世代型社会保障の構築に向け取組を進める」と言い、連立与党の公明党もまた「持続可能性を高め、皆で支え合う全世代型社会保障の構築を進める」などと耳障りの良い言葉で何となく良い感じの社会保障政策をやるよという以上のことは言っていません。

具体的な計画がない中、論点として「年金・社会保障」という定点分野の個別議論を避けた公約を掲げたのですから、これを見て「それは違う」といったところで何も言っていないに等しい状況である限り、与野党議論も盛り上がらないのは致し方ないところです。また、野党も社会福祉予算を増額しろと強弁したところで、その予算は結局誰かが負担することになりますし、社会保険料負担が重いから下げろというと年金給付も医療も薬も介護も干上がる政策になりますから議論になりません。

これだけの負担増が見込まれる社会保障界隈が、政策議論として盛り上がりを欠くのは、完全に出口がないから誰も具体的なことを言えないので、全体として何となく5,000億の社会保障費の削減とか、全世代型福祉で安心できる社会にという中身の薄い対策とセットでスローガンを掲げることに終始せざるを得ないからです。

ない予算は支出できないし、国債を出せばいいじゃないかといっても次の世代にツケ回しするのかという話になり、日銀が国債を全額買い取ればいいのだからじゃんじゃん支出しろという暴論を支持するまともな人はほとんどいません。

ついこの前、量的緩和で金利が上げられない日本円の信認が失われて円安になり、そのため輸入物価が上がってガソリンや食料品などの値上がりが社会問題になったばっかりじゃないですか。

これらが意味するのは単純な日本の「衰退」です。今後、少子高齢化を止める有効な手立てが無いまま「衰退」がますます加速していきます。

出典:『令和5年度予算のポイント』(財務省)

政策議論で行われるのは予算の奪い合い

これらの社会保障費は何も高齢者対策予算や出生率向上、子育て世帯への支援だけでなく、失業保険や生活保護も含まれます。しかも、一部の予算は地方自治体の負担でもありますので、増大する社会保障費の問題は特に地方で深刻です。ふるさと納税で資金が都市部から集まっても焼け石に水。そこにコロナ禍で受給者が激増した雇用保険や生活保護が財源をさらに圧迫しています。

ふるさと納税で資金が都市部から集まっても、彼らに返礼品を送る人手が足りなくてせっかくいただいた税金を返金しないといけない自治体が問題になるレベルです。また、コロナで受給者が激増した雇用保険制度では財源が枯渇し、高齢者も生活保護制度の援用の割合が増えていって削減するところがもはやないというのが実情なのです。

生活保護費の推移
出典:『生活保護制度の現状について』(厚生労働省) 更新

大枠の議論でさえこのような状況ですから、各分野の細目を検討したり、サービス案と予算を試算する仕事で、おのおのの費目を調整することが困難に陥るのも当然です。2024年の改訂に向けた各種政策議論が年明けからキックオフしますが、これはもう紛糾することが大前提の議論であり、有力な業界団体同士のおしくら饅頭が勃発し、また大物とされた議員が政策議論に駆り出されてパワハラ会議が連ちゃんで開催されるのも予想される事態と言えます。

もしかすると、一部の野党から「もうベーシックインカムにしよう」といった、ある種乱暴な提案が出てくる可能性も十分にあります。だって、どんなに議論したってみんなが満足するような結果にはならないので出口がありませんから。