身の回りの高齢者から、「終の棲家だと思って、家をバリアフリーに改築したけど、健康の問題で施設に入ることになり、空き家になってしまいそうで困っている」という相談を受けることがあります。
実際当事者の話を聞くと、備えていてもどうしようもないことはあるのだなぁと身につまされます。
近くに子どもが住んでいても、定期的な往来がなかったり、病院の付き添いでケアマネに手助けしてもらうというケースも多いわけです。
そこで、今回は高齢者の資産管理や老後資金について考えていきたいと思います。
高齢者の自宅が空き家になると片付けだけでも大変!!
最近は、郊外の分譲マンションなど集合住宅の空き家が問題になっています。自治体でも、もう家主が戻れない物件への対処のため、空き家バンクなどの施策を打たざるを得ないことが多くあります。
さらに、これらの高齢者世帯における空き家問題がややこしいのは「健康になったら戻ろう」「また自宅に戻って住むかもしれない」ということで、物件売却などの手放す算段がないまま長期入院や施設に入ってしまうケースです。こうなってしまうと、文字通り売ろうとしても売る手配ができなくなる恐れがあります。
例えば、物件を売るとなると、当然不動産屋さんに物件を持ち込んで登録してもらう必要がありますが、そもそも入院したり施設に入っているとその物件に「いまいない」のでどうしようもありません。
物件の鍵開けをして、購入希望者に内覧をしてもらう鍵の受け渡しひとつとっても大変な作業で、特に急な病気で入院した場合は家の中が生活していたときそのままになっていますから、片づけだけでも大変です。
ケアマネに頼めばいいじゃないかという人も少なくないのですが、実際には、親族や子どもが健在でもない限り、そのような家の片づけや手配を本人以外がやることは難しいのです。
私も町内会の仕事で、そのような家主が入院してしまった家の保全のために訪問することがあります。買い置いていたみかんが居間のど真ん中で腐ってカビてしまっていたり、異臭がするのでキッチンに行ったら冷蔵庫の中が痛んだ食べ物でパンパンになったり、おそらく直前まで着ていたであろう普段着やデリケートなものが放置されてしまっていたり、なかなか大変なのです。
ご本人からすれば、なるべくそういうものも見られたくないので、訪問介護などでの家事片付けも頼まないようにしている方も大勢いらっしゃいます。いつまでも健康でいるつもりですので、まさかご自身が長らくお家を空けられ、誰かが片づけたり整理したりしなければならない事態になるなんて思いもよらないのも当然です。
何もわからない高齢者を利用する悪質な金融機関も!
片づけひとつとっても大変なのに、「物件を貸す」「物件を売却する」というような、空き家にしない準備をしておきたいという方は多くいらっしゃいます。
家だけでなく、保有している車や農地・農具なども相談いただくことがあります。
社会保障の専門家の一人として相談を受けるというよりは、近所に住んでる町内会の人間としてどうにかしてあげたいと思うわけですが、ご本人の意志だけでなく、相続の対象となる親族のご意向も踏まえて何かしなければならないとなると、私のような近所の人間が親切心で対応できる範囲を超えてしまいます。
資産面でのいわゆる「終活」サービスとして、よくお話をするのは地元の金融機関で「リバースモーゲージ」というサービスを元気なうちに検討しておくことや、地域の弁護士事務所に相談だけでもしておく手段についておすすめします。
リバースモーゲージとは、老後にいざという資金が必要になる前に、自宅を担保にし、金融機関などから資金を借りてその資金で引き続き居宅を借り続ける仕組みです。施設に入居される高齢者が、不動産売却までは希望しないときなどによくおすすめしています。
ただ、最近は地方の金融機関のリバースモーゲージも品質の良し悪しがあり、知らないうちに大損させられることがあります。
私がそのケースに直面したときは、激怒して弁護士を連れて金融機関の支店長のところまで怒鳴り込みにいった経験もあります。何もわからない高齢者に、プロである私でさえリスクが高くて手を出さない商品を売りつけてどうするつもりなんだか…。
かつては、高齢者世帯が住んでいる家屋を担保にお金を借りるという手段もあったのですが、この先どこまで健康かわからない高齢者だと担保価値がある家をたとえ無借金で保有していても貸し出しできないと断られるケースが多くなりました。
何とも世知辛い世の中になったものですよね。それだけ日本の金融機関も余裕がなくなって、担保があればカネを借りることができたた時代は過ぎてしまいつつあるということです。
成年後見制度でもトラブルがある!関係機関での連携強化が必須!
子どもとの親子関係が良好でなかったり、そもそも子どもがいない高齢者世帯から相談を受けるときは、裁判所に申し立てをして成年後見人(法定後見人)制度を使い、弁護士や裁判所指定の後見人に立ってもらって資産整理をしたり、保全をしたりすることも検討します。
しかし、これもまた指名される弁護士や後見人とトラブルになることもあります。
後見人を立てたときは依頼主の高齢者もまだ元気だったものの、5年、10年と経つうちに健康を害されたり、認知に問題が出たりすることも少なくありません。いくら善意で職業倫理で縛られているとはいえ、バレないと思って好き放題やりそうになることも少なくありません。
結局、自分の資産は自分で守らなければならないのが鉄則とはいえ、いざ病気になってしまったり、認知に課題が出たタイミングで自宅のことを整理するとか、売却のための手配や手続きを高齢者が全部行えと言っても自分では無理、ということは往々にしてあります。
これらの高齢者を守るためには、介護保険制度が想定しているものをより実態に合わせて利用できるように家庭裁判所と地方自治体、社会福祉法人などがうまく連携を取りながら仕組みづくりをやっていくのが望ましいのでしょう。
しかし、私が見聞きしているケースですらトラブルがそれなりの頻度で起きることを考えると、やはり元気なうちにあれこれ準備をしておく、ということに尽きると思うんですよね。
なお、社会保障制度とは別に、一般的な不動産売買や仲介の実態についても簡単に解説をしておくと、やはり高齢者が住んでいた住宅でも、制度的な担保ができるのは「ある程度高額な物件」に限られます。
というのも、不動産会社もあまり価値のないような地方・郊外の戸建てや築古分譲マンションはたいした値段がつかず、仕事で仲介をしようにも売買価格が低すぎると利益が出ません。
地域の高齢者と話していると、やはり住み慣れた地域からは出たくないし、お家も売りたくない、できればここで人生をまっとうしたいとお考えになるのも人情です。すごく良くわかります。たぶん、私が年老いたら同じことを言って周囲を困らせるんだろうなあと思いながらお話しています。
一方で、自分のことは自分でやるのは当然としつつも、その自分のことすらできなくなる状況は、誰しもに訪れます。残念ながら、それが人間の運命でもあり、生き物の摂理です。それに逆らわないようにしながら、社会的合意としてうまい具合に制度設計をして、着地させるべきかという議論はもう少し詰めてやっていくべきなのでしょう。