「友人はいますか」と問われると、即答できる人と、悩む人とがいらっしゃいます。友人と呼べる人が仮にいなかったとしても、若年層や中年層の場合は「寂しい」という感情が起こるだけで済みます。しかし高齢者の場合は、認知症や孤独死など、さまざまなリスクや問題が生じます。

日本の社会慣習にみる「人とのつながり」

世界的な調査では定番になっている「家族以外で相談や世話をしたり、されたりする親しい友人がいるか」という質問があります。『平成28年版高齢社会白書』でも同様の質問をする調査を実施しており、日本の高齢者の孤立・孤独が浮き彫りになっています。

親しい友人がいる高齢者の割合
出典:『平成28年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 時点

もともと日本では、いわゆる家族ぐるみの付き合いをする社会慣習が根付いていません。「近所付き合いをしても、家に他人をあげる文化がない」「飲食店が充実しているため、ホームパーティーをあまり開かない」など、日本の社会設計そのものが海外とは異なるわけです。

言われてみれば、子どもの頃の同級生で両親も知っている人は、それほど多くないように思います。また、お祭りなどの地域の催しで、近所の家族同士が誘い合って参加することも少なくなっているように感じます。

一方、特定の地域では、海開きや大きな祭事への参加をきっかけに、親しい友人ができたり、家族ぐるみの付き合いが生まれたり、「地縁」が構築されているケースもあります。

内閣府の調査では、都道府県別の数値までは公表されていませんが、民間で行われた県民性調査では、大型の祭りが開催される沖縄、徳島、福井、秋田、冨山、青森などが、「地元に友人がいる割合」で上位を独占しています。こうした地域では、人とのつながりを軸に社会が構成されていることがわかっているのです。

意外に大切だった職場での友人関係

「今まで家族以外の人と、どのような人間関係を構築してきたか」という社会性調査をすると、8割近い男女が「職場での関係」を挙げています。勤務先での人間関係がすべてであるというケースすらあるようです。「中学・高校などでの同級生」と比べても、日本社会において職場が人間の絆をつなぎとめていることは特筆されるべきことです。

高齢者になったら仕事をリタイアして、穏やかな老後を過ごそうと考える人たちが多くいらっしゃいます。しかし、職場でしか人間関係を築いていないと、地域で新たなつながりをつくることができずに孤立してしまいます。

確かに、私が町内会などで独居高齢者の皆さんを訪問すると、地域の福祉関係の方以外に訪問者もなく「数日ぶりに人と話した」という高齢者に多くお会いします。

孤独を感じ続けると認知症リスクが上がる!?

「親しい友人がいない」ことが、イコール「人生における孤独」というわけではありません。しかし、日常生活で困ることがあったときに相談できる相手がいないのは寂しいものです。

現在、各国で「孤独」と認知症の関係についての研究が進んでいます。その研究結果では、「他人と交わる」「他人から必要とされている」という自己認識や、会話による脳の活性の有無で、認知症の発症リスクがまったく異なることがわかってきています。

とりわけ、家族のいない人で、友だちのいない高齢者の認知機能が低下するリスクは相当高いと想定されています。ただ、「話す機会が少なく、社会から期待されていないので認知症のリスクが上がる」のか、あるいは「認知症のリスクが高い人は、そもそも他人とあまり話をせず社会と交わろうとしない」のか、まだその因果関係ははっきりしていません。あくまで相関があるということが確認されたというレベルではないかと思います。

ニーズに沿って選択できる社会制度がベスト

では、社会的に健康寿命を延ばし、多くの人たちがなるべく健康に、現役として働ける高齢社会を築くには何が必要でしょうか。

これまでのような介護主体のケアを中核に置きつつ、高齢者コミュニティの構築もセットで考えるべきではないでしょうか。また、地域と仕事の人間関係をより身近に感じられるように「地域コミュニティがそのまま生活の糧になる」制度設計をしていく必要もあるかもしれません。

逆に、親しい友人がいると答えた人たちが暮らす地域は、限界集落のような濃厚すぎる人間関係で固定されて、親しい友人そのものがストレスになってしまっているケースも少なくありません。一人ひとりの暮らしにおいてどんな政策がベストかという線引きは、さじ加減が難しいテーマであり、介護保険制度以上に難題です。その中で重要な役割を果たすのが「孤独」対策ではないかと思います。

私としては「友人は欲しいけど、手頃な距離感でいてほしい」というニーズに合うような選択可能な仕組みを構築できるのがベストではないかと思うんですよね。

近所付き合いの程度別生きがいを感じている人の割合
出典:『平成22年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 時点

日本の場合は、諸外国に比べても孤立の可能性が高い状態にあります。孤独死の問題は、高齢者の「お一人さま問題」や、独居老人への対策を進めるためにも不可欠です。特に、都市部での高齢者の孤立を対処するためのコミュニティづくりを推進する必要があります。

都市部の高齢化と独身世帯の増加が、2040年に向けて大きな社会問題となっています。家族がいてもいなくても、国民一人ひとりの老後の迎え方の問題として認識を持っておいてほしいと思います。