新型コロナウイルス感染症の流行によって、人混みを避け、自宅で穏やかに暮らす高齢者が増えました。一方、外出控えによる運動不足の影響で、身体機能や認知機能が低下する高齢者の増加が問題視されています。

とりわけ、都市部にお住まいの高齢者に、機能低下の症状が顕著に表れていると想定されています。そのため、今年度早々に、聞き取り調査が始まりそうなあんばいです。

高齢者の働き方を大きく変える
「改正高年齢者雇用安定法」がついに施行

高齢者が新型コロナに感染してしまう場所は、生活に欠かせない駅やスーパー、公園などではありません。カラオケボックスやカウンター席のみのスナックなど、換気が悪く、大声を出すような場所に集中していることがわかっています。

もし身の回りでカラオケ大会などが予定されているような場合、「時世柄、感染予防のために延期しませんか」と一声かけていただければと思います。ただでさえ外出しづらい状況で、「ストレス発散に歌いたい」という気持ちは良くわかるんですけどね。

このような状況下で、4月1日に「70歳就業法」とも呼ばれている「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。

今回の「2020年改正」での主眼は何と言っても「60歳未満定年の禁止」と「65歳までの高年齢者雇用確保措置」です。「中高年齢者が離職する場合の措置」も含めて、働く高齢者に対する企業・事業者の義務付けが、嘱託での再雇用に対して不利にならないように手配している点にあります。

改正高年齢者雇用安定法改正のポイント
出典:『高年齢者雇用安定法 改正の概要』(厚生労働省)を基に作成 時点

65歳未満の定年は廃止!
高齢者になるまで働くことが当たり前に

「改正高年齢者雇用安定法」によって、企業などが就業規則で定める「定年」を60歳未満に設定することが、法的に無効になりました。

加えて、企業などが定年を「60歳まで」としている場合、65歳まで引き上げるか、65歳まで継続して雇用するための制度を導入しなければなりません。あるいは就業規則上、定年制を廃止することも可能です。

2013年の改正でもそうだったように、企業などは希望者全員に対して定年を引き上げるために、環境を整備する必要があります。

就業者の9割が高齢になっても
働き続けることを希望している

一連の改正については、「高齢者を働かせるための法律だ」と批判する向きもかなりありました。年金問題の解決の切り札として、将来的に、いわゆる「70歳就業法」が策定されることにも賛否あります。実際、生活に不自由ないぐらいの充分な年金が支払われているのであれば、無理に働かず、ゆっくりと余生を過ごして人生を楽しむこともできるよねとは思います。

他方、培った技術をまだまだ社会や勤め先に生かしたいと思っている高齢者は少なくありません。また、70歳を超えても「まだまだ働ける、健康だ」と就業に意欲のある高齢者の割合も、非常に高いのが日本の特徴です。

「働けるうちはいつまでも」働きたい60歳以上の人は約4割。さらに、健康なら65歳を超えても働きたいと考える人は9割もいるということがわかっています。

あなたは何歳くらいまで収入を伴う仕事をしたいですか?
出典:『令和2年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 時点

労働法や制度論についての賛成・反対はともかく、実際には健康ならいつまでも働きたいという気持ちは自然なのかもしれません。私自身も、生涯現役がいいなあと思います。

高齢者の就業率が上昇する一方で
受け入れに積極的な企業は減少傾向という事実も…?

企業に対して「希望者がいるなら、少なくとも65歳まではちゃんと雇い続けられるようにしてくれよ」と制度面の充実を働きかけたのが、施行された今回の改正法です。しかし、中長期的にみて現実に立ちはだかる課題は、まだたくさんあります。

例えば、「高齢者を積極的に雇いたい」「それなりの給料を払ってでも高齢者に来て欲しい」と思っている企業が少ないことです。そのうえ、そんな企業は現在どんどん減少しています。

総務省統計局が発表している高齢者就業状況のデータは、現在、コロナ禍で更新が止まってしまっています。しかし、少なくとも新型コロナ拡大前までは、60歳から64歳の就業率は7割を超えていました。

さらに65歳以上でみてもその就業率は3割近くで、上昇傾向が続いていました。働きたい人が働けて、企業なども必要な人材を雇えているわけですから、これは良いことだと思うんですよね。

65歳以上の就業者数と就業率の推移

ところが、一部の企業では、60歳を定年にすることで、定年後の従業員を嘱託として再雇用しています。その場合、現役時代に比べて給料が半分になってしまう従業員も少なくありません。

スキルがあるにもかかわらず、単に「高齢だから給料半分ね」というのは、企業などに有利な雇用条件になっていることは否めません。これは今回の改正で、一部カバーされるようになるはずです。