いや、大変なことになってしまいました。新型コロナウイルス禍が2月上旬から一気に広まり、約2ヵ月の間に「日本で非常事態宣言が発令される」というところまで追い詰められてしまいました。

集団感染のリスクが高齢者施設を襲う…
面会禁止で「死後さえ家族に会えない」人も

4月7日に政府から発令された「緊急事態宣言」をふまえて、飲食店を中心にサービス業の営業自粛が広がり、国民の生活にも大きな影響が出ています。さらに高齢者向け介護施設でも、この新型コロナウイルスの流行初期から4月上旬にかけて、施設内の集団感染が広がっています。

4月10日現在、高齢者向けのサービス付き住宅や施設で新型コロナウイルスの集団感染が発生するなどのニュースがありました。いずれも常勤の介護職員さんや、ご親族が着替えなどを持参したタイミングでの感染の疑いが見られるということで、一層の注意が必要です。

この流行しているコロナウイルスの株は、高齢者や糖尿病や高血圧などの基礎疾患のある方を中心に、肺炎を簡単に引き起こし、そのまま呼吸不全から死に至ります。かなり致命的な予後をたどるということで、大変警戒をされています。

【年齢別】新型コロナウイルスの致死率

私事ながら、私も高齢者向けの施設に親族のお世話を一部お願いしていました。それがあるときから、面談に際してマスク着用や手洗い、消毒が義務付けられることになったのです。まあ仕方がないのかなと思っていたら、付近の施設に患者さんが発生してしまったこともあり、外来での面談は全面的に禁止となってしまいました。

闘病中であった親族は、実家が近いこともあってほぼ週4~5日の頻度で顔を合わせていたのですが、免疫に問題のある患者さんが施設に多数いることから、敷地内での面談さえも禁止されました。

皆さんが個人的に関係されていたり、ご親族が入居されていたりする施設も、その多くが外部との交流を大きく制限する施策を取っているのではないかと思います。愛用のバスタオルや着替えなどを手持ちで届けても、本人と面会できない状態が続くと、普段は精神的にタフなほうであると自認する私ですら、とても残念で悲しい気持ちになります。

先日、コメディアンの志村けんさんがコロナウイルス派生の疾患で亡くなられましたが、ご兄弟は最後のご挨拶を交わすことすら許されず、遺骨を抱いて記者会見されているのを見て、とても心が痛みました。

人間にはいずれ訪れることとはいえ、皆さまもどうかご留意のうえ、感染症対策を進めていただければと切に願うところです。

感染経路を理解して対策すれば予防できる!
基本は「3つの密」を避けること

さて、今回のウイルス感染については多くの解説や説明がテレビ新聞ラジオだけでなくネットでも展開されております。

その中では、基本の防止策として、まずは何よりも手洗い、そして「3つの密」と呼ばれる「集団で近い距離で話し合うこと」をしないよう対策を打ちましょうということが叫ばれております。

新型コロナ予防で避けるべき「3つの密」とは?

原則として、今回の新型コロナウイルスは今までのインフルエンザや麻疹などの感染症と同様に、飛沫やエアロゾル感染(気体中に浮遊する、より細かい唾液やホコリなどの粒子を通じての感染)が中心となっています。また糞口感染も感染経路として高い可能性を指摘されています。

つまり、これらの感染経路を理解してきちんと対策を取ってさえいれば、感染リスクを相当に抑えられるという特徴があります。

今までも、高齢者向け施設でインフルエンザの流行が発生することは度々ございました。しかし、今回の新型コロナウイルスによって、「施設内でうっかりインフルエンザにかかって大変なことになる」ケースは比較的減ったように見受けられます。

逆に言えば、「今やほとんど見られなくなったインフルエンザに比べても今回の新型コロナウイルスの感染力はそれだけ強い」ということでもあります。

介護施設ではクラスターが起こりやすい?!
無症状でも感染源になり得る点に注意を

厚生労働省からも、高齢者向け施設や介護事業所などにおける新型コロナウイルスの感染症対策・対応についてのまとめが発表されています。

高齢者向け施設において一部の入所者で感染が発生するか、感染の疑いが出た施設は、傾向として新型コロナウイルスの予後が急速に悪くなるケースが多くみられています。ここで重要なのは、他の入居者への感染拡大を防ぐ目的で、早期に施設自体を一時閉鎖しなければならなくなる可能性がある点です。

九州の介護老人保健施設で、「クラスター」と呼ばれる、新型コロナウイルス感染者が同時に複数発生する事件がありました。

その介護施設では、対策として一時的に消毒を行ったフロアへ、症状のない高齢入居者を移動させる手配を進めていました。ところが、今回の新型コロナウイルスに関しては「無症状だが感染している場合、ほかの人を感染させてしまう危険がある」という対処しがたい問題を有しています。

結果として、自宅へ帰宅を促したり、他の施設への受け入れを進めて最終的にほぼ一時閉鎖の措置に追い込まれてしまいました。

また、中部地方の介護施設では、散発的に新型コロナウイルスの感染者が発生し、重い症状を来した高齢者が複数救急搬送されるという事例に発展しました。感染源と疑われている経路は、九州の一件とは異なり、食事配膳などを行う出入り業者でした。発熱などの症状がないまま配膳や食事の補助を至近距離で行った結果、施設内での感染が一部拡大したと見られています。

ほかにも全国で、クラスターが発生したことが発表されています。

国内のクラスター発生状況

高齢者向け施設での感染拡大では、高齢者だけでなく職員が感染してしまうケースが特徴として見られます。食事やレクリエーション、入浴の補助や排泄処理など感染の可能性がある経路に触れる機会が極めて多いことは、対策を考えるうえでいくら神経質にやってもやりすぎることはないぐらい大切なことになってきています。

ウイルスは欧州で変異してさらに強力に!
勤労世代や若者でも重症化する可能性がある

既報ではありますが、少なくとも中国・武漢から発生した新型コロナウイルスの株は、今まで勤労世代や若者は重症化せず、基礎疾患を持つ方や高齢者に重篤な状態が起きる、死亡率の高い感染症と見られてきました。

最近では、ヨーロッパで感染拡大した後、そこからの帰国者が感染しているという「輸入感染者」が問題となっています。

どうやらこれは欧州での感染拡大を受けて、変異しやすいコロナウイルスの特徴もあって中国・武漢で発生したオリジナルのコロナウイルスとはまた異なる株が、さらに感染力と毒性を高めて再流行している危険が指摘されています。

大都市圏で大規模な感染拡大が発生する見込み
介護施設や職員への影響は?

それもあって、比較的健康に自信のあるはずの30代、40代の介護事業者・介護士や理学療法士が施設内感染の発生源となっているケースが出てきています。実際に、無症状か、37度5分程度の軽い発熱のような状態でも、コロナウイルスを移してしまう可能性が高いとされています。

さらにウイルスに感染していても別に体調が悪くないので、普通に出勤してきてしまい、伝染させてしまうリスクもあります。

政府や東京都などが「不要不急の外出を控えるよう要請」と一口に言っても、仕事先はともかく、帰りに一杯ひっかけるとか、気晴らしにライブハウスやカラオケに行くということも生活防衛上の禁忌となります。残念ですが、こと死亡率の高い高齢者の皆さんと相対する仕事をされる方は、特に仕事場以外は食事も含めて「なるべく不特定多数の方と近くで接しないよう、出歩かない」ことしか対処できる方法がないのでしょう。

今後は、おそらくは東京都や大阪府、兵庫県、神奈川県、愛知県といった大都市圏、さらに埼玉県、福岡県から大規模な感染拡大(アウトブレイク)が発生すると見られます。

施設への通勤だけでなく、高齢者の皆さんとの接触が絶えない介護事業者の負担が大きくなることは間違いありません。

地域の介護を担う施設で、同時に複数人が感染する可能性は否定できません。この業務を担う皆様方におかれましては、感染経路に関する知識をベースに、感染そのものを防ぐ手だてをどうか可能な限り行っていただきたいと切に願います。

「施設ごと見捨てられる」海外のケースも
人が人の命を選別する事態に…

なお、日本社会全体で感染爆発をしてしまう、そういう最悪のケースを前提として考えることは望ましくはありません。

しかしながら、アメリカやイタリア、スペインなど海外の事例でも、高齢者向け施設で大規模な感染が広がっています。それにより、コロナウイルスかどうか検査もされないまま多数の高齢者が亡くなり「施設ごと見捨てられる」というケースが発生しています。

高齢者を見捨てるなど許されない、ましてや感染症に苦しむ人を…と思う一方、人類社会に今回の新型コロナウイルスの災厄が直撃して、人が人の命を選別することもまた発生しています。

単に仕事として介護を行い、高齢者と向き合うだけでなく、人として何が適切なものであるのか、危機が私たちの心に何かを直接問いかけているのではないか、と思わずにはいられません。