新型コロナ拡大に対する「緊急事態宣言」の全面解除が、5月25日に政府より発表されました。今なお街中は閑散としておりますが、これからどっと人出が増えて、感染症患者が激増しないことをまずは祈ります。
緊急事態宣言が解除になっても油断は禁物!
しばらくは全国でデリケートな対応が必要になる
新型コロナの海外の事例では、特に高齢者が多数入居する介護施設での蔓延と、抵抗力の落ちた高齢者を主とした死者数が増大している状況です。
また国内でも、5月17日時点で749名以上の方が亡くなっています。
万全の対策が求められる状況下で大変な思いをされている介護職員の皆さまや、医師・看護師など医療関係の皆さまの負担とご苦労はいかばかりかと心配しています。
都市部の施設を中心に、新型コロナへの感染や感染疑いで介護職員が2週間の自宅待機を求められたり、入居者のご親族に経過観察者が出る事態が発生したりしています。それにより、日中の食事・配膳やアクティビティ、入浴などのケアサービスを縮小、休止する施設が多く出てきています。
5月25日の発表で緊急事態宣言が全面解除になったとはいえ、一気に規制や配慮を緩めて感染拡大してしまっては、大変なことになります。引き続き、デリケートな対応が求められることは間違いありません。
介護職は命と隣接する仕事で負担も大きい。
人員不足による費用増で立ち行かなくなる介護施設も
「脱コロナ」といっても、考えるべきは「新型コロナ対策にいつまで対応しなければならないのか」という感染症対策としての側面だけではありません。
今までも介護施設でのインフルエンザ集団感染などの「事故」は、往々にして起きてきました。世間で軽く見られがちな「誤嚥による肺炎で入居者さんが亡くなられるケース」は、事件や事故としては一部しかカウントされないものの、介護職が人の死と隣接する業務であるが故の心配りが大事であることに変わりはありません。
ただでさえ確認事項の多い介護の現場では、感染症対策の徹底の名のもとに今以上に負荷のかかる業務が作業手順に加わり、介護費用がかさむことが考えられます。人員の確保に苦労が絶えない現状を超え、立ち行かなくなる社会福祉法人や介護施設が出てくることが懸念されます。
頼みの外国人介護士も来日できない状況に…
解決の手立てもなく良化を待つしかないのか
また直近の事例として、外国人の介護職の皆さんが、コロナウイルスの入国制限に引っかかってしまい、来日の手配をしていたのにもかかわらず日本に来られない事態が発生しました。こうなると、戦力として受け入れを進めていた施設は人員不足に陥ってしまいます。
さらに、すでに来日した外国人介護士さんのケースでも、ビザ切れで更新ができず、管理団体経由で申請待ちをしている人が増えてきたように思います。くわえて、在留資格「特定技能」を取得する外国人のための介護士認定試験が順延になったことで、宙ぶらりん状態になっている外国人介護士さんも多数出ています。
これはある意味で「新型コロナのおかげで危機に晒されている」だけでなく「必要なすべての手順が煩雑になるか、手続きが止まってしまっている」状況です。
そのうえ、介護施設や関係職員の皆さんの手が届かないところで起きている問題のため、改善しようにも何もできずにただ状況が良化するのを期待して待つだけという話になってしまうのは残念なことです。
診療所によっては患者が8割減で苦しい状況。
期待の2次補正予算は医師たちを救う手立てに?
この状況に対応するため、与党・自民党では党内からは「医療・介護に5兆円規模の支援を盛り込んだ2次補正予算案」、野党からもさらなる助成を求める声が出ていますが、どこまで実現できるのかはっきりしません。ただ、厚生労働省が財務省との調整の末に医療・介護職員に20万円の支援金を支給する方向で検討が始まったというニュースもあります。
というのも、介護事業の状況も良くない一方、新型コロナ禍のおかげで概ねベッド数10床未満の小規模医院や診療所(クリニック)の患者数が激減しています。診療科によっては文字通り8割も減少してしまっている場合があります。
これらの診療科について言えば、週5日働く医師に支払う年収自体が、高いゾーンであれば概ね1,800万~2,000万円台と高額です。また、診療科を複数持つ地域の基幹病院では、医師充足率がもともと低かったにもかかわらず、医師や看護師を感染症対策として別の機関に駆り出されるケースも発生しています。
そうした機関では、経営的に成り立たなくなる事態が続出してしまう…というジレンマも起きています。
新型コロナ対策で矢面に立って感染拡大を防ごうと努力してきた日本医師会や各都道府県医師会の努力には、頭が下がります。現状で新型コロナ対策の諸手当は、危険手当込みで1日400円程度しか支給されていません。
激務の中、感染のリスクを負って対応している医師や看護師など医療関係者の負担にどう応えるのかよく考えなければなりません。
「不要不急」のサービスを提供する法人にも支援は必要⁉
医療業界の不均衡に配慮した予算の投下を
日本医師会については十全な支援をするべきだという議論がある一方、いま困っている医療機関について言えば、売上が急減している医療法人の一定数が「不要不急」の医療サービスを提供している美容整形や代替医療(非標準医療)などです。
「医療や介護は社会インフラであり、必要不可欠の業態であるので、救済すべきだ」と一枚大きな風呂敷を広げるのでなく、そもそも高額な医師の給与を実現してきた医療業界全体の不均衡を踏まえて「日本のあるべき医療、介護の姿」を考えたうえで支援予算を投下しないといけません。
今まで非効率であったこの界隈が、「コロナ後」もそのまま温存されてしまうのではないかということが危惧されます。
今、目の前で燃え盛っている「コロナ危機」はようやく緊急事態宣言の全面解除が決まり、重症者の確定検査に伴う感染者数の減少によって何とか脱することができるかもしれません。しかし、「コロナ前」の状態に戻ってしまっては、元の木阿弥(もくあみ)です。
これは決して日本政府や厚生労働省、各都道府県の保健行政が怠慢であったということではありません。
地域や診療科などにおける医師の偏在から、介護職のあり方、保険収載と薬価、そこで働く人たちの給与、外国人の活用など、総じて日本の医療や介護をどうグランドデザインしていくか。また働きやすく効率的な制度にするだけでなく、公平をどう担保するのか。
「元の状態に戻る」というのは、このような課題に対する遠大な政策、そしてそれを支える「哲学」「思想」の欠落にほかならないと思うのです。
「コロナ前」に戻るのでは意味がない。
医療・介護体制を考え直すときが来ている
問題が起きたのは決して政府の責任ではないし、日本人だって、また運悪く感染してしまった人もそれ自体が悪、駄目なことだとは言えません。
しかしながら、これだけの問題が起き、自粛などによって国民全体が苦しい思いをしました。その結果、補償として出てきたのが「国庫の現状に見合った」少ない助成金や10万円の現金支給では、現状を乗り切れるわけがありません。
お金をばら撒いてくれというよりは、「何が本来あるべき医療や介護の体制で」「今まであったどのような非合理や不具合や不公平を」「どのような方法でなら効率的かつ公平で納得のいく内容にできるのか」という点を吟味しなければならないのです。
「目の前の新型コロナ対策(給付や助成を含む)」と「あるべき医療・介護の体制への変革」とは異なります。仮に時間が経過して「コロナ前」に戻れたとして、本当に「コロナ前」で良かったのかという検証が不足しています。
今まさに問い直されているのは、「私たち日本国民は、何を目指し、何を解決したくて、新型コロナ対策を含む医療・介護事業に人生の限られた時間を使って取り組んでいるのか」という命題ではないかと思います。