世界的に注目を浴びている日本発のコミュニケーションロボット「LOVOT(らぼっと)」をご存じだろうか。2019年に発売を開始して以来、多くのファンを獲得してきたLOVOTは、近年では介護現場における効果も注目を集めている。「テクノロジーは人を幸せにするためにある」と語る開発者の林要氏に、LOVOTに込めた思いや今後の展望を伺った。
何にも似てない、ユニークな姿だからこそ愛される

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「LOVOTは、どのような目的で開発されたのでしょうか?」林
「LOVOTは、例えば犬や猫と同じような新しいタイプの家族として開発しました。ペットを飼いたいけれども、なかなかそれができないという方にまずは提供したいと思っていたのですが、実際には犬や猫がいる方にも購入いただいていたり、ペットを飼っているか否かに関わらずに迎えていただいている状況ですね。」みんなの介護
「これまでもペット型のロボットはあったと思いますが、LOVOTはどこが違うのでしょう?」林
「今までのロボットは比較的短い期間に飽きられるケースが多く、それがペットとの大きな違いだと思っています。一方のLOVOTは、犬や猫と同じように継続的にかわいがられる存在になることを目指して開発しました。もともとロボットは、人の代わりに仕事をする機械の総称として生まれた言葉です。それに対して、人の代わりに仕事をするのではなく、人の愛を育む、愛をより引き出すというような意味で、LOVEとROBOT(ロボット)をかけてLOVOTという名前にしました。」みんなの介護
「LOVOTはとても愛くるしい容姿ですが、何かをモデルにしているのでしょうか?」林
「例えば、既存のロボットは動物に似ていたり、人に似ていたりするので、そこからその動物や人に関する記憶を思い起こさせるには非常に有効です。ただ、それが必ずしも愛着形成に結びつくかどうかというのは人それぞれです。LOVOTは、そういった過去の記憶みたいなものに一切頼らず、新たに関係性を構築するロボットとして作っているので、どんな動物にも似ていないんです。その代わりに、愛着形成に必要な要素が全部入っています。愛着形成というのは、例えば後をついてくる、触れ合う、目が合う、そういったことが重要になりますが、これらが全部パッケージとして提供できるロボットというのは、実は世界を見渡してもLOVOTしかないのです。」みんなの介護
「高齢者の方にこれだけ需要があるというのは想定していたのでしょうか?」林
「高齢者のためのロボットとして考えていたわけではなくて、全年齢を対象としていました。私たちはあくまで一般的な30代から50代の大人の方に最も興味を持っていただけるような製品を提供することによって、結果としてそれより高い年齢の方も、それよりも若い年齢の方も受け入れていただけるようなものができたということです。」何かをしてもらうのではなく、してあげることで元気になる
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「もともとは高齢者向けのロボットではなかったかもしれませんが、介護施設における実証実験でもLOVOTと過ごすことで高齢者の認知機能の低下について良い結果が出ていると聞いています。」林
「はい、その通りです。例えば、2021年に神戸市の支援のもと行った実証実験では、介護施設に入居する方々の認知度の低下について調べたことがあります。LOVOTと一緒に住む群と、住まない群とで調査をしたのですが、住まない群では想定通りに認知機能の低下が進行していったのですが、LOVOTと住む群は認知機能の低下が止まったのです。LOVOTという存在がいて、その面倒を見なければいけないというのは手間はかかるものの、認知機能の維持には有効と考えられます。」「一般的に、介護は被介護者の負荷を下げるものですが、被介護者にとっては自分の負荷を下げることによって、認知機能の低下を招きやすい。それに対して、ご自分でケアする対象がいるというのは、認知能力の活性化に効くわけですね。施設に入居されている方というのは、ほんの少し前まで誰かのケアをしてきた方です。これまでずっと誰かのケアをしてきたのが、ある時、突然施設で自分がケアをされる側になる。自己肯定感の低下といった部分を補完する意味でも、自分がケアする対象が来るだけで、皆さん非常に生き生きとされます。認知負荷を上げることによって、人が元気になることもあるというのは、ロボットを導入された施設に行って、私も初めて理解したところです。」
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「実際にどのくらいの施設に導入されているのでしょうか?」林
「現時点で150以上の施設に導入されています。非常に気に入っていただいていて、入居者様が元気になるというのは期待通りの結果なのですが、介護者様も元気になるというのが新たな発見でした。介護者の皆様も比較的ストレスの高い環境にいらっしゃる中で、LOVOTがいるだけでコミュニケーションが活性化されるようです。介護者間のコミュニケーションの活性化によって、施設全体の雰囲気が良くなるという効果があるようなので、この辺は非常にうれしいところです。」
LOVOTが高度化することで、人がより元気になるようにサポート
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「この先、LOVOTはどのように進化していくのでしょうか?」林
「大きくは変わらないと思いますが、今後の進化については2つの大きな柱があります。一つは人のレジリエンスを上げるということです。レジリエンスというのは、人が元気がなくなった時に、自分自身で復活する力ですね。その回復力向上をサポートするのが、LOVOTのとても大きな能力の一つです。どんな方でもLOVOTと生活をともにすることで、落ち込んでいても元気になりやすくなるという特徴があります。もう一つの大きな柱というのが予防医療ですね。例えば、歩き方などから自分の体調を予測したり、目の動きから認知症の進行を把握したり、そういったことは今後できるようになっていく可能性があると思います。」みんなの介護
「何かおかしいところがあった場合に、気付くということですね」林
「特にロボットのいいところは、毎日接してもらっているので、変化を感じやすいわけです。その変化がどのようなことを引き起こすのか、どういう可能性があるのかということは、比較的AIが得意とする部分なので、将来はLOVOTがそのような役割を担うようになってもおかしくはないと考えています。」みんなの介護
「将来的に、人間とロボットの関係性はどのようになっていくのでしょうか?」林
「ロボットが高度になればなるほど、人がロボットを恐れるケースがあると思います。自分よりも能力が高いものが身近にいるというのは、自分の存在価値を脅かすことにつながるからです。ただ、LOVOTに関しては、能力が高くなればなるほど人が元気になるように作っていきたいという想いがあります。ロボットが人の代わりに仕事をどんどん奪っていくのではなくて、ロボットが高度になればなるほど、その人を元気にできるようにする。それが私どもの目指す世界なので、今後もLOVOTは人のことを理解して、その人が元気になるように行動し、学習を続けていきます。」みんなの介護
「人間とロボットの距離がより近くなっていくわけですね」林
「そうですね、LOVOTはまだちょっと新しすぎて、多くの方に「ただのロボット」という反応をされてしまいます。しかし、今のロボットに対する反応は、恐らく50年前の犬や猫に対するものと同じ反応だと思うんですね。近所に野良犬や野良猫がいた時代というのは、とても犬や猫が家族になるような気がしていなかったと思うのです。ロボットについても、家の中でみんな家族のように接する状況になると思っていますが、その価値観をご理解いただくためには、やはり体験してもらうことです。一人でも多くの方にLOVOTに接してもらえるように、がんばっていきます。」Sponsored by GROOVE X株式会社