1980年に格安航空券販売で創業し、高額だった海外旅行を広く普及させた立役者HISの名前を知らない人はいないだろう。一方で、旅行業界のパイオニアであるHISが、高齢者や障害のある方に向けた旅行プランを20年以上にわたり提供していることはあまり知られていない。「誰もが、いつでも、自由に」がコンセプトのプランはなぜ生まれ、どのような未来を目指しているのか。パイオニアの挑戦に迫るべく、「ユニバーサル・ツーリズムデスク」の高頭大志さんにお話を伺った。
すべての人が旅行を楽しめるようにしたい
みんなの介護
高齢者や障害者のための専門部署「ユニバーサルツーリズムデスク」が始まったきっかけを教えてください。
高頭
背景からご説明すると、1993年に障害者基本法が制定されて、この法律の第1次改正が2004年にありました。ここに向けてバリアフリーに対応できるよう、2002年にユニバーサルツーリズムデスクが新宿本社営業所で立ち上がりました。当時はシンプルに、車椅子のお客様がご来店をされて、どうやったら目の前のお客様が旅行に行けるかということを考え、ご案内していました。その後、パラリンピックが開催されたり、多様性という言葉が一般に浸透したりするなど、時代の流れとともにこのサービスの必要性も高まっていったという経緯があります。
あらゆるハプニングへの対応が必要
みんなの介護
オーダーメイドで旅をつくっていくのは大変なことだと思います。実際にどのような苦労があるのでしょうか?
高頭
「突発的なトラブルに対しての対応を行うのが、一番難しいです。海外旅行の場合だと、バリアフリーのお部屋を予約したはずが、現地では普通の部屋に案内されるなどのアクシデントが起きることがあります。貸し切りのお風呂や多目的トイレがあるかといったファシリティの部分はもちろん、旅行先でのちょっとした段差などが動線として命取りになることもあるので、細部の情報を徹底的に取りに行く必要があります。調べた上でも、実際に行ってみたら工事中だったなどの突発的なアクシデントが起こるので、現場での臨機応変な対応も求められます。一般の旅行とは企画する上での労力がまったく違います。
みんなの介護
なぜ、そのような臨機応変な対応ができるのでしょうか?
高頭
添乗員は限られたプロの人間が務めています。福祉に対しての知見があり、車椅子でここまでだったら行ける、行けないというようなことを判断することができます。また、我々企画する立場のメンバーも旅行に添乗して、常に改善を繰り返しています。一つのトラブルでお客様が旅の目的を果たせなくなることがないよう、ささいなことにも気を配りながら、一つひとつの旅行をご提供しています。
旅行は参加者全員でつくるもの
では、実際にこのサービスを利用した方々はどう感じているのか?HISのユニバーサルツーリズムデスクを利用した経験がある渡邉さん(仮名)が、今回「みんなの介護」の取材に応じてくれた。
渡邉
「今から10年ほど前、仕事を引退したころの事です。現役時代は、多忙でなかなか時間を作れなかったので、妻と二人で旅行するのがちょっとした夢でした。しかし、私自身が腰を痛めてしまったため、夫婦だけでの旅行は難しかったんです。そんな時にHISさんのサービスを見つけて、四国にお遍路に行きました」
みんなの介護
「お遍路さんというと、かなり行程が長いですし、場所によってはアップダウンも激しく、健康な人でもハードですよね」
渡邉
「私たちもそこは不安でした。ですが、小さな段差1つに至るまで、事前に十分に下調べをして下さっていて、添乗員の方がきめ細かくサポートしてくれました。おかげで、想像以上に快適に旅を楽しむことができました」
みんなの介護
「実際に旅行を経験されてみて、それまでと考え方が変わった部分などがあれば教えてください」
渡邉
「若いころは、全てのサービスを“当たり前”だと思っていました。ですが、旅には、大なり小なり、何かしら想定外のことが起こるものですよね。ユニバーサルツーリズムデスクでの旅を経験して、このような旅行を実現させるためには、一般の人たちの想像が及ばないところまで配慮を行き届かせる必要があるということに気付きました。
サービスを受ける側としては、『やってもらって当たり前』ではなくて、私たち利用者もお互いに努力して良い旅にしたいという気持ちが高まっていきました。これからも旅を楽しんでいきたいと思っているので、私たち障害のある人や高齢者向けの旅行パッケージを継続してくださっているHISさんにはとても感謝しています。旅行の回数を重ねるごとに、まるで添乗員さんの方も“仲間”のように感じられるようになってきました」
リピート率の高さと大きな期待
みんなの介護
「他には、このサービスの特徴としてどのようなものがありますか?」
高頭
「リピーターになってくださる割合が、とても高いです。総合旅行会社の中で、バリアフリー事業を展開していて、BtoCのお客様にご利用いただける専用パッケージを作っているのは弊社だけなので、お客様のために、しっかり続けていきたいと思っています」
みんなの介護
「それは責任重大ですね。普通の旅行であれば様々な選択肢がありますが、高齢者や障害のある方が満足できる旅行をしようと思ったときに、貴社のサービスを利用しないと、同じような体験はなかなかできないでしょう」
高頭
「おかげさまで、我々のサービスを利用いただいた多くのお客様にご満足いただいているので、期待に応えるためにもしっかり続けていきたいと思っています。また、旅行業界全体で”ツアーグランプリ”といった表彰があるのですが、毎年のようにご評価をいただいており、お客様の声とあわせて、やりがいに繋がっています」
「旅をあきらめないで」より多くの人に届けたい
みんなの介護
まだ「ユニバーサルツーリズムデスク」を知らない方、最初からあきらめてしまっている方も多くいらっしゃると思います。そんな方たちに伝えたいことがあれば教えてください。
高頭
まずは気軽にご相談いただければと思います。私たちには20年以上の培ってきたノウハウがありますので、お客様が想像もしていなかった方法でお手伝いができるかもしれません。こんな旅ができないかと思ったら、まずは問い合わせいただければと思います。
みんなの介護
最後の質問です。20年かかってここまで築き上げてきたと思いますが、ここからどのようにサービスを発展させていきたいですか?
高頭
来年、障害者差別解消法の改正があります。事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されます。これまで民間の事業者の「努力義務」とされていた合理的配慮の提供が、国や地方公共団体などと同様に「義務」とされるのです。障害があっても誰もがいつでも自由に、気軽に旅行できるようにすること。その一助になることが、これから私たちがしていくことだと思います。
これから先、世の中の社会的なバリアフリーが進めば、私たちができることもきっと増えていくと思いますし、もっとさまざまなお客様を受け入れることができるのではないかと考えています。お客様から、「あの時のHISさんでの旅行が最後になったんです。本当に参加してよかった」というようなお話を聞くと、続けてきてよかったなと心から思います。そのような体験をもっと多くの方にしていただけるよう、これからもサービスをよりよくしていきます。
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