いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915

「やさしいまち」とは「強いまち」である

2013年から6年連続で人口増加を達成――兵庫県明石市の、この躍進の秘訣といえるのが「人に寄り添う行政」という姿勢である。今年4月には「地域総合支援センター」を立ち上げたほか、全国で初めて認知症健診助成費(最大7,000円)の給付も開始するなど、高齢者への支援も充実させつつある。明石市の原動力である泉房穂市長に、超高齢社会に向け、行政が歩むべき方向性について聞いた。

監修/みんなの介護

支援を要する「人」がいるのではなく
支援を要する「時」が誰にでもある

高齢者福祉について考えるとき、もっとも大切にしているのは「地域目線」です。住み慣れた、身近な地域でサポートを受けながら暮らし続けたい。この視点で、市民に寄り添った支援を続けています。

また、同時に「総合的な支援」というものもとても重要です。高齢者、障害者、子育て世帯などに、各分野の専門部署がバラバラに対応するという「縦割り」のやり方では、問題は解決に至りません。なぜなら、問題は個人にあるだけでなく家族の問題でもあり、それぞれ繋がっているのです。こうした想いのもとに立ち上げたのが「地域総合支援センター」です。

私には、30数年前からずっと抱き続けてきたある考え方があります。それは、支援を要する「人」がいるのではなく、支援を要する「時」が誰にでもある、というものです。

認知症になったり、寝たきりになったり、事故にあってしまう可能性は誰にでもあります。そのための予防をすることももちろん大切ですが、それより、どんな状態になった「時」でも「だいじょうぶ」と支えてあげられるまちをつくりたい。そんなふうに、あらゆる人を包み込む「強さ」を持ったまちこそ、ほんとうの意味で「やさしい」まちといえるのではないかと、私は考えています。

住民目線に立ち、行政が先回りして施策を打つ

兵庫県明石市の快進撃が止まらない。2013年から6年連続で人口増加を達成し、東京都23区を上回る増加率を記録しているのだ。その要因はいったいどこにあるのだろうか。

「良く言われているのは、子育て世帯に対する支援の手厚さです。でも、それはただの表層の一面に過ぎないと私は捉えています。人口増加の最大の要因といえるのは、なによりも『とことん人に寄り添う行政の姿勢』。住まわれる人々の目線に立ち、行政が先回りしてさまざまな施策を打つ。そういった取り組みを積極的に行なっているところが評価されているのではないでしょうか」

この言葉の通り、明石市では、住民の快適性・安全性を高めるためのきめ細かな取り組みが行なわれている。たとえば、商店街の段差の解消もそのひとつ。歩行の不自由な人が車椅子に乗ったままでも気軽に買い物を楽しめるよう、行政が費用を出してフラット化を進めているのだ。

障害者でも気軽に行き来できるようにした明石市の段差解消の試み

車椅子の方が買い物を気軽に楽しめるよう商店街の段差を解消。住民目線の改良のひとつ

「段差を解消することで、歩行の不自由な方は商店街でのお買い物を楽しみやすくなり、商店街はお客が増えてさらなる利益を得やすくなり、そしてまちはますます活気に満ちてくる。まさに『三方よし』です」

既存の常識という垣根を超え、本気で人に寄り添うという明石市の姿勢は、介護・福祉のみならず、さまざまな分野にメリットをもたらしているようだ。

本当に困っている人は、市役所には来られない

最初に相談を受けた職員が最後まで責任をもってサポートする「ワンストップ」、各分野の専門職が連携して支援する「チームアプローチ」、そして行政から要支援者のもとへ足を運ぶ「アウトリーチ」。泉市長が常に職員に伝えている3つのポイントである。中でも「アウトリーチ」は特に重要だと泉市長は語る。

「日本では旧態依然とした『申請主義』が未だに根を張り続けています。これは、市民が役所に申請して初めて支援を受けられる、という考え方です。本当に困っている人は、市役所に相談になど来られません。行政が責任をもって要支援者のもとへ足を運び、充分なサービスを提供する。こういった姿勢こそが、老老介護や児童虐待といった問題を解決する糸口となるのではないでしょうか」

泉市長は、行政が困っている住民のもとへ足を運ぶ「アウトリーチ」を重要視する

また、泉市長は、高齢者や子育てを家族の責任とする「世帯主義」にも問題があるという。

「かつては『法は家族に入らず』という言葉がありました。日本全体がムラ社会だった頃にはそれで良かったのでしょうが、そういう考え方は、核家族化が進んだ今の時代に合っていません。『世帯主義』では家族に責任が押しつけられ、哀しい結果になってしまうこともあります。そういったケースを防ぐためにも、『法は家族を支えるもの』であるべきだと考えています。今、求められているのは、行政が家族に関わり、高齢者も子どもも『支援』することです」

「縦割り」の悪しき習慣を打破し
高齢者や障害のある方の更生支援に注力

明石市では、高齢者や障害のある方の再犯を防ぎ、前向きに生きていけるようサポートする「更生支援」にも注力しています。

行政がこういった支援事業に取り組むことは、ヨーロッパ等ではかなり以前からスタンダードとなっています。しかし、残念ながら国内ではあまり例を見ません。なぜか?その原因となっているのは、やはり「縦割り」という悪しき慣習です。

行政と司法がバラバラになっており、連携して問題にあたるということができないためです。たとえば、認知症の方がスーパーやコンビニのレジを通さずに商品を持ち出してしまったとします。もちろん、本人には窃盗するという意識はありません。しかし、通報されて警察が駆け付けると、厳重注意あるいは司法の場へと連れ出されて刑罰を受けることになります。

このようなやり方で問題は根本的に解決するでしょうか?私はできないと思います。だから、明石市では行政が主体となって福祉が司法と連携し、再犯防止に取り組むと同時に、万一罪を犯してしまっても排除されることなく、地域で生活できるまちづくりをめざしています。

罪を犯して勾留されたとして、そこから戻ってきたときに「おかえりなさい」と迎えてくれる人たちがいる。そういうまちのほうが素敵だし、住み続けたいと思えるのではないでしょうか。

政府が設定する『標準家庭』の設定は甘いと指摘

行政と司法が「縦割り」で潤滑に連携できないでいると、充分な支援を届けられない。これは泉市長が国会議員、ひいては弁護士として活躍していた頃から唱え続けてきた持論だという。

「弁護士時代、高齢者や障害者の方々からさまざまな相談を受けました。その中で実感した、日本の社会制度への疑問がベースのひとつとなっています。まず、縦割り行政という悪しき慣習は絶対に打破しなければいけません。それと、政府が想定する『標準家庭』(税金の試算や行政サービスについて考える際の基準として想定する家族のあり方)の設定が甘いというのも問題です。現実の家庭の多くは、もっと複雑な事情を抱えています。そういった人々の課題を直視して、縦割りではなく総合的な支援をすることが、基礎自治体の役割だと考えています」

今年4月に設置された地域総合支援センターは、縦割り行政にはできない総合的な支援を行う

「地域総合支援センター」を立ち上げ、子ども・高齢者・障害者の支援とともに、再犯防止に向けた「更生支援」にも積極的に取り組む。他自治体に先駆けた取り組みは、生活者のリアルな実態を見つめ続けてきた泉市長の眼差しから生まれたものといえる。

認知症チェックシートの提出率アップに「図書カード」

明石市では、全国初の取り組みとして、2018年9月より「認知症チェックシート」の配布を始めた。簡単なアンケートを通じ、認知症の疑いがあるかどうかをチェックするものだ。疑いがあるとされた人には図書カードと受診案内を、疑いがないとされた人には図書カードを郵送する仕組みとなっている。

『認知症チェックシート』はインセンティブで驚異の提出率を実現した

「高齢者にとって、自分が認知症かどうかを検査するのはなかなかハードルが高いものです。そのハードルを下げ、疑いのある方を早期発見および支援するために始めた取り組みです。ここで重要なのは、チェックシートを提出すれば、疑いの有無にかかわらず図書カードという『インセンティブ』を得られるところです。500円分の図書カードではありますが、これを付けることにより提出率は格段にアップしました。こういうふうに、上手にインセンティブを活用し、市民の方々がアプローチしやすい仕組みをつくることも、行政の大切な役割だと思います」

現在、「認知症チェックシート」の提出数は開始1ヵ月で約1,000件を数えるという。少しの工夫で効果を高められるという証といえるだろう。

「食」にも行政が責任を持つ時代に
家族に代わり、暮らしを支援する

私たちが目指しているのは、「あらゆる人に寄り添うまちづくり」です。高齢者はもちろん、貧困家庭の子どもたちなど、支援を必要とする方々の目線に立って、「あったらいいな」というサービスを届けたいと考えています。

そのために始めようとしている新しい取り組みのひとつに「みんな食堂」の開設というものがあります。全国的に浸透しつつある「こども食堂」の対象をさらに拡げ、子どもだけでなく高齢者を含めた大人にも良質な食事を提供する施設です。

また、明石市では全公立中学校で給食制度を導入していますが、この給食設備を利用し、外出機会の少ない高齢者のもとへ宅食するという取り組みも次年度からの実施を検討しています。これもひとつの「アウトリーチ」のやり方だと思います。

これからは、「食」についても行政が責任を持つ時代です。「食」以外の分野にも同じことが言えますが、家族に代わり、暮らしをぐるりと包み込むように支えられる社会をつくること。行政が先陣を切ってその動きを主導しなければ、超高齢社会を乗り切り、持続可能な社会を築くことはできません。

公立中学校の給食設備を利用した高齢者への宅食を検討

「子どもにやさしいまちは、高齢者にも、罪を犯した人にもやさしいまちです。そして、やさしいまちとは、あらゆる人を包み込む強いまちです」

「こども食堂」をさらに発展させ、高齢者を含む大人も利用できる「みんな食堂」にしていくという全国初の取り組みは、こういった泉市長の想いをもとに始まったものだ。

行政が先回りして必要な支援をするために、泉市長の目線は常に住民と地域に向けられる

「食事はただ栄養を摂取するだけのものではありません。いわゆる『孤食』ではなく、誰かと一緒に食事を摂ることで、心が触れあい、情を感じることができる。そういった場を提供することも、これからの時代における行政の役割だと思います」

また、次年度以降には、公立中学校の給食設備を利用して高齢者への「宅食」も検討中だという。独居老人はもちろん、老老介護状態にある世帯にとっても、非常に有意義な施策といえるだろう。もちろん、実現すればこれもまた全国初となる。このように明石市では、次々と画期的な取り組みを行なっている。

「困ったときはお互い様」の意識を持てるまちづくりを

「強いまちというのは、免震構造のマンションのようなもの。地震で揺れたとしても、免震構造のおかげで倒壊することはない。そういうふうに、何か問題が起こっても、『だいじょうぶ』と包み込んでくれるまちづくりを目指したい」

泉房穂市長のこの想いは、明石市に明らかな変化をもたらしている。認知症になった高齢者はもちろん、障害を抱えている人も、貧困状態にある子どもも、罪を犯してしまった人も、誰もが住みやすいまちへと進化しつつあるのだ。明石市が6年連続で人口増加を達成している要因はここにあるといえるだろう。

明石市は更生支援にかかわる団体が集まり情報交換をする「更生支援ネットワーク会議」も開催

「人間、誰の力も借りずに生きられる人はいません。誰しも、誰かの力を借り、世話になって生きています。つまり、支援が必要なときはお互い様です。いま、求められているのは、そういう意識を自然と持てるまちづくりだと思います」

泉市長が推し進める「やさしく、強く、人を包み込むまちづくり」から今後も目が離せない。

※2018年10月22日取材時点の情報です

撮影:KOYABU SATOSHI

【第10回】年間300万人が訪れる”健康図書館”に脚光。外出が楽しくなる居場所をつくる!
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
!

この記事の
要望をお聞かせください!

みんなの介護は皆さまの声をもとに制作を行っています。
本記事について「この箇所をより詳しく知りたい」「こんな解説があればもっとわかりやすい」などのご意見を、ぜひお聞かせください。

年齢

メッセージを送りました!

貴重なご意見を
ありがとうございました。

頂戴したご意見は今後のより良い記事づくりの
参考にさせていただきます!