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「科学のまち」つくば市の研究成果を生活に実装する取り組みについて、五十嵐市長に最近の動向をお聞きした。この内2017年にスタートした「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」は、市の内外から医療や教育、高齢者福祉などのアイデアを募るものだ。これまでには、医療相談のスマートフォンアプリなどが実装された。ほかにもIT技術を活用した多様な取り組みがなされ、魅力的なまちづくりが進められている。

監修/みんなの介護

つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業で「科学のまち」の恩恵を全市民へ

つくば市では、「世界のあしたが見えるまち」というビジョンを掲げ、2017年度から「つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業」をスタートしました。

これは、つくば市だけではなく全国からIoTやAI、ビッグデータ解析などを活用するアイデアを募り、それを社会に実装するための実証実験を支援する事業です。すでにスマホで医師に相談できるアプリ「LEBER(リーバー)」や、多言語のデジタル問診票などのプロジェクトが始動、注目されています。

科学技術は、社会生活に役立てるためのものです。さまざまなテクノロジーが医療や高齢化などの多くの課題解決に有効利用されるよう、企業や研究機関の働きをコーディネートするのが行政の役割です。一方で、「科学のまち」であるつくば市の半数近い市民が、その恩恵を感じていないことも、市の意識調査でわかっています。

私は2016年に市長に就任してから、意識調査に「つくばが『科学のまち』であることの恩恵を感じるか」という設問を入れたのですが、2017年・2019年のいずれの調査も、5割近くが恩恵は「あまりない」あるいは「ない」と回答しています。

これは、市のレゾンデートル(存在意義)として、危機感を持っています。ITなどの新規事業構想を社会に役立たせることで、多くの方に「科学のまち」の恩恵を感じていただきたいです。

24時間・365日対応の医療相談アプリなどを実装化

「つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業」の最大の特徴は、最新のテクノロジーを社会生活に役立てることにある。2017年の事業に採択されたAGREE(つくば市)が運営する医療相談スマホアプリであるLEBER(リーバー)は、「24時間・365日スマホで医師と相談できる遠隔医療相談アプリケーション」である。

症状をアプリのチャットで送ると、最短3分で適切な診療科や近隣の医療機関・ドラッグストアを教えてくれる

提携している医師がスマホを通じて利用者に症状に合った医療機関や市販薬を紹介することで、多忙で医療機関を訪れる時間がない利用者も気軽に相談でき、医療関係者の残業削減や医療機関の混雑緩和も見込める。

また、この機能を活用した新型コロナウイルス感染症対策も始まっている。つくば市では、6月8日から市内の小中学校で体温・体調管理ができる「LEBER for School」を導入、家庭から教育機関や学級管理の担当者へ体温などのデータを直接自動送信している。この取組は、隣接するつくばみらい市でも同時に始まっている。

このほか14ヵ国語に対応したデジタル問診票も興味深い。筑波大学発ベンチャー企業のAmbiiが開発したもので、利用者のスマートフォンでQRコードを読み取って自国語で入力すると日本語に翻訳される仕組みだ。

病院のHPなどに掲載されたQRコードを読み取ることで、事前に自宅や車の中で入力することが可能になる

診断に必要な情報を診察前に収集しやすくできる性能が評価され、同社は「令和元年度つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業」と新規事業者に贈られる「スタートアップ賞」を同時受賞している。

「市民の約1割が研究者」の街の発信力

国内の研究機関の約3割が集中する茨城県つくば市は、人口約24万人のうち2万人が研究従事者で占められる世界でも稀有の研究都市である。つくば市全域が科学技術の振興と高等教育の充実などを目的に1963年の閣議了解から建設された「筑波研究学園都市」であり、多くの研究成果が生み出されてきた。

約30の国などの公的研究・教育機関が立地する「筑波研究学園都市」周辺の様子

つくば市では、こうした研究成果の社会実装のために、起業家の育成から事業化までを支援する「つくば市スタートアップ戦略」を2018年12月に発表。「新たなビジネスモデルを開拓し急成長を目指す会社」を「スタートアップ」と定義して創業の前後から継続した支援を行う方針を示した。現在までに社会実装や資金調達の支援など24の施策を推進している。

さらに、2019年度からは市の公式サイト上に「つくば市未来共創プロジェクト」の窓口を開設。年間を通してつくば市内で行う先端技術の実証実験や、共同研究などのさまざまなアイデアの提案、「つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業」に関する相談などを総合的に受け付けている。

「この窓口を通じて、最新のテクノロジーを市民生活の向上や行政の課題解決や業務の効率化、経済の活性化につなげていきたいと思っています」と五十嵐市長。

新型コロナウイルス感染症による生活の変化にテクノロジーで対応していく

行政ができることは限られていますが、私は市議会議員(2004年~2012年)を務めていた経験からも、行政のコーディネート機能の強化は必要だと考えています。そうしたこともあり、2020年6月からの「つくばSciety5.0社会実装トライアル支援事業」の募集は、「With/Afterコロナの生活スタイル」をテーマにしました。

接触の機会を制限しながらの移動や食事、買い物や娯楽など市民の生活全般の課題解決のための技術やサービスのアイデアを募るもので、上限100万円の経費の支援を含むサポートを計画しています。

新型コロナの終息についてはまだ先が見えず、今後の私たちは、「コロナとともに」生きるのか、「コロナの終息後を」生きるのかはまだわかりませんが、いろいろな変化が起こることは明らかです。多くのご提案をいただき、市民の皆様に具体的な対応策を示したいと思っています。

臨時休校中も子どもたちを受け入れ

つくば市は、学校教育の場での新型コロナ対策についても、いち早く動いた。前述の「LEBER for School」のほか、3月からの全国一斉の小中高校の臨時休校に対しても、独自で給食を提供し、登校したい児童・生徒については学校で受け入れて教員が学習をサポートした。

さらに、五十嵐市長は「今後の学校教育のあり方」も見据える。「今後の学校教育については、『元(=ビフォーコロナ)に戻す』のではなく、オンラインとオフラインのハイブリッドが前提になると思います。学校とは授業を受けるだけではなく、コミュニケーションや共同生活を学んでいく場としての位置づけはあります。その場としての役割について、改めて論じることが重要になります」と説明する。

休校の期間中、つくば市立みどりの学園義務教育学校では、ビデオ会議システム「Zoom」を使ったリモート学習の実証授業も行われた。教師が各生徒の端末へ送った問題を、各自で回答し、その回答を集約するものだ。感染症対策のほか、災害時や事情があって学校に登校できない生徒への対応にも活用できることが期待されている。

除菌ロボットの検証、自身の退職金減額など斬新な取り組みも

新型コロナをはじめとする感染症予防に不可欠の除菌対策にも、ロボットは有効だ。この6月には、市内のロボットメーカーにより、閉庁後のつくば市庁舎を利用して自動で巡回して殺菌用のUV-C紫外線を照射するロボットの動作検証が行われた。

「道具として役立つ移動ロボットで人々を笑顔に」を理念とするつくば市内のロボットベンチャー・Doogが開発したもので、皮膚癌など人体への影響が懸念される紫外線を効率的に使うシステムが評価されている。

こうしたつくば市ならではの取り組みのほか、今年11月に任期満了を迎える五十嵐市長が、退職金を過去最少の「22円」とする条例の制定を発表したことも話題となった。市長は、「4年ごとに2,000万円を受け取るのは市民感覚からかけ離れていると思ってきた。市民が新型コロナで大変な時期なので、痛みを分かち合いたい」とメディアにも明かしている。なお、この条例は、後任の市長には及ばない。

介護・作業支援ロボットの開発から普及までを支援することも行政の務め

高齢者福祉や認知症対策はすべての自治体が抱える悩みであり、全国的に見て高齢化率は比較的低いつくば市も例外ではありません。市民の皆さんが健康で暮らしやすいまちにするために、多くの取り組みを続けています。

例えば国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が開発した次世代インターフェースである「脳テレパシー技術」を用いたゲーム競技「bスポーツ」は、子どもから高齢者まで楽しめる全世代型のゲームです。健康促進のほか、世代間交流、新産業創出なども目指しています。

こうしたアイデアの開発支援のほか、介護・作業支援ロボットの普及支援も行政の務めです。筑波大学発のベンチャーであるCYBERDYNEなどが開発しており、市としては積極的に支援してきました。

ただしどうしても費用が高額になるので、お試しとして一時的にトライアル導入する費用の一部を市が負担する普及支援事業なども行っています。

高齢者支援や認知症対策でロボットが大活躍

つくば市は、高齢化率が2020年4月1日現在で19.37%。県内で最も高齢化率が低い「若いまち」であるが、五十嵐市長は高齢化や認知症対策にも力を入れる。それを支えるのも、ハイテク機器だ。

体が動かすことが難しい高齢者でも楽しめる「bスポーツ」。脳波でPC上のコマンドを選択してロボットを動かす

2月には、つくば市とスタートアップのトルビズオン(福岡市)が小型無人機・ドローンによる商品配送の実証実験を住宅街で公開した。今回の実験では、国や飛行ルート沿いの住民の了承を得たうえでルートにスタッフを配置して通行の安全を確保、五十嵐市長がスマホアプリを使ってオーダーした食品が届けられた。将来的には高齢者など買い物困難者のサポートや、物流業界の深刻な人手不足の解消などを目指しているという。

このほか産業技術総合研究所(産総研/AIST)と自動車メーカーのスズキなどとの協力により自動運転のシニアカー(電動車いす)の公道での実証実験なども行われている。

生活支援ロボットアワードは賞金総額1億円

4月には、つくば市と産総研、病院や企業などが認知症早期発見のためのコンソーシアム型共同研究の開始を公表、これも期待される研究だ。老化や認知症など健康の問題による交通事故の撲滅のための取り組みで、認知機能の有無などさまざまなドライバーの生活行動データを取得して事故防止策を検討していく。

また、来年秋には、下肢麻痺障害者の生活支援をテーマにした賞金総額1億円の「生活支援ロボットアワード」が、Global Innovation Challenge実行委員会の主催により市内で開催される。入浴や買い物、夜間のトイレなど日常生活の行動の項目について、車いす利用者が車いすを使わずにロボットを使って課題達成にチャレンジする。ヒアリングやデモンストレーションを基に、実行委員会が各参加チームを訪問し、選考する。賞金は協賛企業などが拠出し、1項目ごとに金額が設定されている。

五十嵐市長は、「さまざまなチャレンジからユニークな発想のものが出てくることを期待しています。今後も企業と研究機関、市民の皆さんなどの多くの方々とのコラボレーションによって、住みやすいまちづくりを進めていきます」と意欲を見せた。

※2020年6月15日取材時点の情報です

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