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「誰もが泊まれる」を当たり前に。日本初の福祉旅館で観光の未来を変えていく

2005年に9つの町村が合併してできた、岡山県真庭市。中国山地のほぼ中央に位置する真庭市は、その面積の約8割を森林が占めており、30もの製材会社が操業する「木のまち」だ。現在では「バイオマス産業杜市(とし)」として、先進的な取り組みが注目を集めている。「バイオマス」とは、木材などの再生可能な有機性の資源のこと。廃材などを利用した発電や、新たなプロダクトの生産を行っている。そんな真庭市が推し進めている、「里山資本主義」と高齢者支援を両立させるための具体的な取り組みについて、太田昇市長より話を伺った。

監修/みんなの介護

「21世紀の真庭塾」での学びが、バイオマス産業を始めるきっかけに

真庭市は昔から林業や製材業が盛んなまちで、ヒノキなどの銘木産地としても有名でした。しかし、近年、木造住宅の需要が減ったことや、輸入材の増加によって木材産業は低迷しておりました。

そのような地域の現状に危機感を感じた地元の民間企業が有志で集まり、1993年に「21世紀の真庭塾」という勉強会を発足しました。

そこでの学びを通じて、「持続可能な地域循環型産業を創出する」というビジョンが描かれ、その実現のために「木材を中心としたバイオマス資源の利用を広げていこう」との構想が打ち出されました。

2015年4月に稼働を始めた「真庭バイオマス発電所」は、未利用の木や製材・端材樹皮などを燃料として稼働しています。これらの用材やバイオマスを利用することによって、この事業で地域産業の発展や雇用創出を促し、地域活性化につなげてきました。

里山を資源に地域再生を図る「里山資本主義」は、人々が支えあう持続可能な社会の形成を目指しています。真庭市では、高齢者もバイオマス資源を活用するさまざまな仕組みに参加することで、資源循環や環境保全などを推進する役割を担っているのです。

木くずの活用など、バイオマスで循環する社会を目指す

「真庭市ではほかの地域に先がけ、木質バイオマスの活用方法について20年ほど前から研究と実践を進めてきました」

真庭市内の製材所である銘建工業株式会社は、西日本でも最大規模を誇る製材業者のひとつである。銘建工業株式会社では、製材の際に出る年間4万トンもの木くずを使って「木質ペレット(固形燃料)」を製造したり、木くずを燃やして発電し、工場内の電力をまかなう発電施設を稼働させたりしていた。

真庭市の豊かな森林(左)と木質ペレット(右上)、発電用の木くず(右下)

銘建工業の中島浩一郎代表取締役社長は、「21世紀の真庭塾」の設立当初より塾長を引き受け、活動をリードしてきた人物だ。「21世紀の真庭塾」には、市内の経営者だけでなく、大学や研究機関、行政などあらゆる分野の専門家とも交流を図り、数々の事業や商品開発に挑戦。着実な成果を積み重ねてきた実績がある。

「木質バイオマスによる循環型社会の『真庭モデル』を提唱し、さまざまな活動を推進してきた『21世紀の真庭塾』の存在は、真庭市のバイオマス事業を語るうえで、欠かすことができません」と、太田市長は力強く話す。

新たなバイオマスツアーの取り組みで、観光への波及効果も

銘建工業や真庭市、森林組合など9団体が出資した真庭バイオマス発電所は、国内有数の木質バイオマスを利用した発電所だ。発電能力は1万kWに達する。

さらに1年間では、約7,920万kWh(キロワットアワー:1時間あたりの発電量)の電力を供給できる。一般家庭の使用量に換算すると、2万2,000世帯分の電力がまかなえるという。

高さ25mの巨大ボイラーを備えた「真庭バイオマス発電所」

「発電所の昨年1年間の売り上げは、約23億円でした。また、発電所の社員として15人が新規雇用され、木材の集積など関連事業の人材を含めると、50人の雇用が実現しています」

さらにエネルギー面以外でも、真庭市のバイオマス政策は、産業観光ツアーという新たなビジネスを生み出した。

市内のバイオマス事業や関連施設への視察が急増したことからスタートした「バイオマスツアー真庭」は、ピーク時には年間2,000人を超える参加者が集まり、旅館や飲食店への波及効果も生まれた。

「バイオマスツアー真庭」は日帰りと1泊2日のプランが選択可。発電所に加えて観光地などもめぐる

また、ツアーに参加したことがきっかけとなり、真庭市に移住してバイオマス発電所で働いている人もいる。

真庭市では、庭木の剪定や支障木の伐採で発生した枝・葉を含む木質資源を、少量であっても買い取る仕組みを構築。それらを、バイオマス集積基地で燃料用チップ原料として活用している。剪定や伐採を行う高齢者にも、役割や活躍の場が創出されているというわけだ。

さらに森林所有者の高齢化に伴い、自らの手で山の管理ができなくなっているケースも多くある。真庭市では、間伐施業(山林の手入れ)などを業者に委託した場合でも、森林資源がバイオマス発電所で利用されるならば、1tあたり500円を所有者に還元している。

「バイオマスタウン構想」で、地域の財産である高齢者が活躍する

真庭市の人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は38.1%で、75歳以上の割合(後期高齢化率)は、21.4%となっており、ともに年々増加しています。また、真庭市にいる認知症の人は2,000人を超え、65歳以上の人たちの約7人に1人が認知症といわれています。

高齢者や認知症の人ができる限り住み慣れた地域で、希望を持って暮らし続けることができるように、真庭市では実情に応じて介護サービス事業所や医療機関、地域の支援機関などをつなぐ連携支援、認知症の人やその家族への相談業務を行っています。

知恵と経験を持つ高齢者を「地域の大切な財産」だと考えている真庭市では、行政だけではなく、高齢者の生活不安や困りごとを地域で支える仕組みづくりにも注力しています。

認知症の人たちを地域で支える「認知症キャラバン・メイト」の養成や、「認知症サポーター養成講座」の開催、認知症キャラバン・メイトが運営する「認知症カフェ」などを支援する取り組みを行っています。

独自のエクササイズで高齢者の健康を促す

真庭市では、高齢者が自主的に参加できる認知症予防・介護予防の活動として、独自のエクササイズ「げんき☆輝きエクササイズ」の推進に取り組んでいる。

真庭市が独自に考案した「げんき☆輝きエクササイズ」の様子

「このエクササイズは、認知機能や運動機能、情動機能に効果があることが学術的にもわかってきています。続けている高齢者のなかには、上がらなかった腕が上がるようになったり、転倒することが少なくなったりした人もいます」と太田市長。

認知症キャラバン・メイトが運営している「認知症カフェ」は、市内各地域に6ヵ所ある。この「カフェ」という形は、認知症の人もそうでない人もまた家族も気軽に参加できる良さがある。

社会との接触や心地よい刺激などで脳を活性化することは、認知症の予防や進行予防に効果的だ。また、介護している家族のホッとできる場所、認知症の正しい理解を深める場所としての役割も担っている。

このような地域の集いの場に、誰でも参加できる仕組みを構築するためには、「移動手段の確保」が重要な課題のひとつだ。

「現在、社会福祉法人所有の車両を無償で提供してもらい、ボランティアがカフェへの送迎を手伝うという先行事例があります。真庭市では、この取り組みが少しずつ広がることを願って、地域ケア会議や生活支援協議体で検討を行っています」

バイオマス技術を使った農業支援で介護予防も実現へ

真庭市は、「人間の生活のすべてが、バイオマス事業という持続可能な産業のなかでつながる地域」を目指し、「バイオマスタウン構想」を打ち出している。

具体的には、木質以外にも畜産業のバイオマス資源や、生ごみなどを含めた総合的なバイオマスの利活用システムを備えたまちづくりに取り組んでいる。

例えば、生ごみなどの資源化事業でできたバイオ液肥を田畑への肥料として活用しています。各地域の庁舎などに無料の液肥スタンドを設置して、高齢者も手軽に農業や家庭菜園に利用できる仕組みとなっている。

「バイオ液肥を田畑への肥料として活用し、高付加価値の農産物を栽培する高齢者は増えています。また、家庭菜園などで採れた少量の野菜でも、旬の農産物として道の駅や真庭市場などに出荷・販売できるアグリネットワークが構築されたことによって、高齢者の生きがいや健康づくり、家計のゆとりづくり、耕作放棄地の防止にもつながっています」

日本を代表する「SDGs未来都市」として、地域の魅力を増進させていく

昨年、真庭市は、国から「SDGs未来都市」に選ばれました。また、森林資源を活用したエネルギー政策が高い評価を受けて、「自治体SDGsモデル事業」にも選定されています。

真庭市の取り組みとSDGsの考え方の方向は一致しているという理解のもと、行政は、住民の幸せづくりと地域の魅力、地域価値の増進を応援するための“条件整備会社”(=条件や環境を整備する役割を担う団体)としての役割があると考えます。

住民や企業・団体は、それぞれが地域の一員、真庭市の一員、日本の、世界の一員であることを意識して、地域と地球が永続するように取り組むことが大切なのではないでしょうか。

持続可能な開発「SDGs」を周知していく

「SDGs(エスディージーズ)」とは、持続可能な開発のための17項目による国際目標のこと。2015年に国連で開かれたサミットの中で採択された。

「一般市民にもSDGsの取り組みを根付かせていくため、住民や企業でつくる推進組織「真庭SDGs円卓会議」を結成しました。今後は、研修会を開いて先進事例を学び、さらなる周知を図ろうと思っています」

持続可能な開発「SDGs」を促進するため、「真庭SDGs円卓会議」が開催された

これまで推し進めてきた「地域資源を活用した地域循環型経済の取り組み=里山資本主義」とSDGsの目標は一致している点も多く、真庭市は引き続き、安全・安心で、未来に誇れる持続可能な地域づくりに取り組んでいく。

具体的には、以下の3つの取り組みだ。

直交集成板(板を繊維方向に垂直に接着したパネル)の活用など、木材の需要拡大
生ごみなどの処理によって発生する消化液(液肥)やメタンガスの有効利用
独自の観光事業(ツアーなど)の促進

「循環型の『回る経済』を推進していく」と、太田市長は意気込む。

持続可能な地域づくりのための人材育成が課題

持続可能な地域づくりを担う人材の育成も課題のひとつ。

「真庭なりわい塾」は、農山村における新たな生き方と多様な働き方を模索し、創造する人材を育成する場所だ。市内外から幅広い世代、さまざまな職種の受講者が、自らの生き方や地域づくりについて、現場での活動に取り組みながら学んでいる。

「SDGsの理念である『誰一人取り残さない共生社会』を目指す真庭市では、年齢や性別、立場に関係なく活躍できる、すべての人が参加できるまちづくりに取り組んでいます。そこでは、互いの価値観を認め合い、互いに助け合い、互いに学び合う意識を持った人や企業・団体が必要となります」

高齢者も含め、誰もが真庭市に必要な「地域の財産」として活躍する場所があり、地域や専門家、各団体が、積極的に連携、応援し合う。これを、「真庭ライフスタイル」と呼んでいる。

真庭市は、「真庭ライフスタイルの実現」をキーワードに、市民が自分らしく生きることができる「まち」を目指す。地域資源を活かした、今後の真庭市の取り組みにも注目したい。

※2019年11月19日取材時点の情報です

撮影:森貴彩

【第34回】認知症を身近にする「Dカフェ」の取り組みとは?「スタバ」が認知症カフェに
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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