Q.179 低所得者や高齢者を支援する住宅セーフティーネット法が全然普及していません。打開策は考えられますか?(カタクリ子・会社員)
2017年10月に施行された住宅セーフティーネット法。東京都に関しては未だ登録がありません。それ以外の地域でも全然普及していない。低所得者と合わせて高齢者にとっても必要な取り組みと考えますが…
そもそも低所得で高齢化率が高いような地域に対して、長期的に展開することを予定した政策です
当たり前のことですが、あらゆる政策には目的と手段があります。
「住宅セーフティネット法」にとってもまた然りでして、同法ではその目的を「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与すること」と定めています。
これは「まぁそりゃそうだよな」という中身がない総論しか言ってませんが、他方、それを達成するための手段としては、法律において住宅の登録制度を規定するとともに、
- ①登録住宅の改修・入居への経済的支援
- ②家賃・家賃債務保証料の低廉化支援
- ③住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援
といった支援措置を掲げています。これが制度に基づいて住宅登録することによるメリットというわけですね。
このうち①の補助金は「補助金を受け取った場合は、住宅確保要配慮者専用の住宅にしなければいけない」という縛りがあるようで、相当に使い勝手が悪く、②の家賃・家賃債務保証量の低廉化支援も同様のようです。
これでは所得の高い、いわゆる”優良顧客”の入居が難しくなりますから、結果として主たる支援策は③しかなく、普通の賃貸マンションにとってはそれほどこの法律には住宅登録によるメリットがないというのが率直な印象です。人口が増え続けている首都圏ではなおさらです。
ではこの法律に全くメリットがないかというとそうでもなく、人口減少が既に顕在化しており所得水準が低い地方などではそれなりに住宅登録が進んでいます。大家としても地域市場の需要の先行きが厳しく、空室が増えて行く状況では、背に腹は変えられないということでしょう。
ざっと制度概要を眺めてきましたが、結論を言えばこの制度は、人口減少の影響がまだ顕在化しておらず、またマンションのような大人数の入居を前提とした住居の供給が中心の都市圏では、これからも住宅登録数がそれほど増えることはないでしょう。
むしろ、一つひとつの集合住宅の規模が小さく、また人口減少・高齢化の影響が顕著で、この法律が言うところの「住宅確保要配慮者」を専門として賃貸業を営むように割り切って経営戦略を転換できる地方の不動産業者の登録が中心になるのだと思います。
その意味では「打開策」というよりも、そもそも低所得で高齢化率が高いような地域に対して長期的に展開することを予定した政策で、初めから都心部での積極的な政策の展開を考えていないのだと思います。