Q.166 ポリファーマシーへの対策が報酬面で評価される一方、すぐに薬の量を減らすのは難しいのですが…?(黒帯・会社員)
高齢者は多くの薬を飲まなければならない傾向にあります。そしてその結果、体に悪い副作用をおよぼしています。その流れを断つために薬を中止したり減らしたりしましょうという方針がとられています。報酬面でも評価するよとも。だけど、そんな簡単には減らせないんですよね…それで評価されるような枠組みが結構しんどくて。
ポリファーマシーは健康保険の自己負担率を上げなければ解決できない
なかなか難しい問題ですね。
先に結論を申しますと、健康保険の自己負担率が上がらない限りは、薬の過剰提供という問題は解決できないと思います。
そもそも論に帰って「なぜ薬が過剰提供される傾向にあるか」を考えてみましょう。当然本来は「必要な薬が必要なだけ提供される」ということが制度上は理想的なわけですが、これを実現するには、極めて正確な診断とそれに伴う経済的メリットが求められます。
他方で現実には、病院にとって薬を多めに出すことは「保険点数が高くなる」という経済的なメリットがありますし、「さまざまな可能性を考慮して最大限のソリューションを提供する」という診断漏れを防ぐサービス面での意味合いもあります。したがって、病院にとっては薬を多めに出しておくのが無難な選択ということになります。
では受け取る側の患者はどうなのかというと、まず医療に関する知識は医者と患者では天と地ほどの差があるため、患者が診断・処方に注文をつけることは難しい構造にあります。その上、高齢者の医療費の自己負担は原則として1〜2割負担に過ぎず、提供される薬の量が多少増えたところでほとんど財布には影響しません。
そのため患者側が「薬の量を減らしてくれ」と積極的に注文するインセンティブは非常に低いといってもいいでしょう。これは高齢者に限らず、構造としては自己負担率3割の現役世代でも基本的には同様のことです。
このように、現状では薬を提供する側にもされる側にも薬の過剰提供を抑えるインセンティブはほとんどありません。仮にこの状況の打開を目指すとしたら、根本的な構造自体を変える必要があります。具体的には健康保険の自己負担率を大きく上げることが考えられます。
もちろん自己負担率をあげるだけでは不満が高まるので、政策としてはそれによって節約できた財源でベーシックインカムに近い「健康手当」のような制度を創設することと合わせ技になると思うのですが、例えば自己負担率が5割になったら患者側から大きな不満が出て、良くも悪くも現状は大きく変わることになるでしょう。
いずれにしろ、健康保険の財政は事実上毎年数千億円の赤字で地方自治体の他の財源を侵食、またそれを国が補填するという悪循環が起きつつあり、このままでは持続不可能なので、どこかのタイミングで「保険率を引き上げて現金給付制度を創設する」という大きな制度改正が必要になると思います。