Q.155 高齢受刑者の認知症検査を実施するそうですが、そこまでする必要ありますか?(みずたまり・会社員)
超高齢社会の影響は刑務所にも広がっているようで、高齢受刑者の認知症検査を簡易的に実施するというニュースを耳にしました。そんなところまで気にするの?という気持ちが私なんかはしてしまうのですが、宇佐美さんはどうお考えですか?
隔絶された刑務所といえども、日本社会の一部。超高齢社会への対応は必要
刑務所の中は日本全体の縮図ですから、やはり刑務所の中でも日本社会と同じく、超高齢社会に向けた対応が必要ということなのだと思います。
ご存知の通り、刑務所での暮らしの中心は刑務作業です。各囚人は、その希望や適性に応じて刑務作業を行う工場に振り分けられることになりますが、その際に刑務所側としては、個々人の健康や知能に関する情報をあらかじめ知っておく必要があります。
特に認知症となると、通常の作業はとてもこなせず、かえって周りの足を引っ張ることにもなってしまいます。そのため刑務所の中には、こうした高齢者や障害者が働く場として軽作業を中心とする特別な工場があり、従来はある程度、現場の判断で作業者の配置を工夫し、サポートする体制を構築してきたようです。
ただ、新規受刑者の10%弱が70歳以上という時代が来て、そうした対症療法の限界が露呈しつつあり、より体型的、組織的な対応が求められるようになってきたということなのだと思います。
このように、今回の高齢受刑者の認知症検査は、役所側が積極的な囚人への福祉政策として行うものではなく、むしろ現場任せの対応では限界が近づいている中で、超高齢社会時代の刑務所のあり方を探る、実態調査の第一歩として実施されるものなのでしょう。
こうした話は介護とは決して無縁ではなく、高齢者や障害者が作業している工場では、若い囚人が排泄や歩行の補助などをこなしているようです。せっかくこのような実務経験を積めるのだから、介護福祉士の資格取得などと連動しているとよいのですが、残念ながら今のところ、そうはなっていないようです。
こう言うと拒否感を示す方もいるかもしれませんが、ただ隔絶された刑務所といえども日本社会の一部であり、このように地続きな部分もあるのですから、その接点をできるだけ前向きに捉えられるよう、刑務所の運営のあり方を見直していくことができれば、双方にとって望ましいのではないでしょうか。