Q.133 介護業界の給与水準が低いのは、仕事の内容で差別化ができていないからですか?(サボテン・会社員)
需要と供給の法則に従えば、その仕事をできる人が少ないほど重宝されて給料も増加するはずです。そうではない現実は、介護の仕事が誰にでもできるということの裏返しなのでしょうか。
介護業界の給料が上がらないのは、原資が乏しいのと、生産性の向上が遅れているから
介護業界の給料が上がらないのは、介護保険料なり税金なりというみなさんの給料の原資が乏しいのと生産性の向上が遅れているからだと思います。
まず前者についてですが、介護サービスというのは消費者が好き好んでお金を払って購入するという種のものではなく、国民の大半が加齢による身体機能の衰えに応じて「日常的に消費しなければならなくなる」サービスです。多くの高齢者は所得に余裕があるわけではありませんから、必然的に介護サービスには公的支援が必要となり、日本でも介護保険料と税金によって大半の介護サービスが賄われているのはご存知の通りです。つまり何が言いたいかといいますと、みなさんの給料の原資は消費者の財布ではなくむしろ税金にあるということです。
なので社会保険財政がひっ迫していることは、「みなさんの仕事ぶりとは関係なく、給料水準の下方圧力」になります。こうした状況を改善するにはやはり消費増税に期待するしかなく、その増税分が介護行政に重点的に配分されることにより皆さんの給料アップにつながるという道筋をなんとかつけることが必要でしょう。そういう意味では介護業界がそのようなロビー活動をしていないのはとても残念なことです。
他方で後者、生産性の議論ですが、これは「職員一人当たりどれだけの介護サービス利用者を担当できるか」という問題にも言い換えられます。一人当たり担当するサービス利用者が増えれば按分(あんぶん)で原価は下がるわけですから、その浮いた分をみなさんの賃金上昇に充てられるわけです。
ただだからと言ってサービス水準を落としたり職員が身体的に無理をしたりしては元も子もないわけで、やっぱりサービス水準を維持、もしくは向上させながら、生産性を上げる必要があり、そのためにはAI やロボットを中心とするテクノロジーの進歩とそれを受け入れる側の事業者の努力なり、質問者様のおっしゃるところの差別化が必要になってくるでしょう。
そんなわけで介護業界の給料水準が低いことの半分は国のせいであり、半分は業界のせいというところなんであろうと思います。介護というのは本当に重要な産業ですから、なんとかこの状況を脱して、社会保険財政に多少なりとも余裕が生まれ、業界として新しい技術を導入してサービスの質も生産性も向上、それに応じて皆さんの給料も上がるという状況になってほしいと切に願っています。