佐々木俊尚「高齢者に忖度する新聞は読まなくていい。情報洪水時代に良い情報だけを手に入れるコツ」
フリージャーナリストの佐々木俊尚氏は、IT・社会・経済・政治…幅広いジャンルに見識を持ち、SNSやニュース番組などで縦横無尽に情報発信を続ける賢人だ。新刊『読む力 最新スキル大全』も発売2カ月で4万部を突破するなど好評の佐々木氏に、情報洪水時代に良い情報だけを手に入れる方法を聞いた。元毎日新聞記者でもある佐々木氏は「高齢者に忖度する新聞を読む必要はない」と言う。その心は。
文責/みんなの介護
情報は「プル」、自分から取りにいけ
みんなの介護 情報が洪水のように溢れる現代ですが、そこにどんな危険性があるのでしょうか?
佐々木 メディアの世界で、「プッシュ情報」と「プル情報」という用語があります。プッシュ情報は、何もしなくても勝手に向こうから押し寄せてくる情報。例えば、つけっぱなしのテレビやラジオから流れてくる情報や定期購読している新聞に載っている記事、FacebookやTwitterのタイムラインに流れてくる記事などです。
プル情報は、自分自身で能動的に集めてくる情報。書店に買いに行くお気に入りの雑誌、好きな著者の書籍、特定のウェブサイトでしか見られない情報などです。
プッシュ情報は効率的ですが、それだけを信じてしまうと、考え方が偏ってしまいます。例えば、友人に陰謀論好きな人がいるとします。彼のSNS上での偏った投稿をそのまま信じて、知らず知らずのうちに自分も陰謀論に染まっていってしまうということがあり得ます。
テレビもしかり。朝のワイドショーばかり見ていると、物事を勧善懲悪で語るようになってしまう危険性があります。
見せかけの肩書や数字に騙されるな
佐々木 常にフラットな情報を自分で取りに行く心がけを持つことです。決して、情報を発信する人のフォロワーの数や肩書だけで、情報の正しさを判断しないことです。
テレビに出ている専門家だから、YouTubeチャンネルの登録者数が多いから、といってその人の語っていることが正しいは限らないのです。
みんなの介護 私たちは肩書や数字といったものに弱いですよね。気をつけたいと思います。
佐々木 複数の意見を横断的に見ると良いでしょう。一人の意見を鵜呑みにするのは良くない。医療でもセカンドオピオンという考え方がありますが、それと同じです。
新型コロナに関して言えば、感染症専門医やウイルスの研究者などがコロナに対するいろいろな発言をしています。それぞれの意見を比べてみるのです。
また、専門家たちの“つながり”に注目するのも手です。彼らはTwitter上でやりとりをしていたり、トークセッションをしていたりします。
そのつながりを追っていくと、コロナ問題について発言しながら、専門家たちと離れている人がいる。専門家グループの中にいる人たちも、その人についてあまり言及していない。ということはこの人はあまり信用しない方が良いな、と判断できるんです。
信用のおける「キュレーター」を持つ
みんなの介護 とは言え、現実的にそうした分析を一つひとつ自分で行うのは骨が折れますね。
佐々木 なので、それを代わりにやってくれる「キュレーター」が重要になってきています。私は、その考え方を約10年前に『キュレーションの時代』という本に書きました。
「キュレーター」とは、たくさんの絵画作品から、それぞれのテーマに紐づいた作品を集め、美術展を開く人たちのことです。ワインのソムリエにも近いですね。
私は本の中で「情報の選別にもキュレーターが必要となる時代が来る」と書きました。今の時代、一人ひとりが信用のおけるキュレーターを持つべきです。
私自身、本の出版後キュレーターの仕事をこなしているんです。毎朝約1000本、記事の見出しをチェックし、玉石混交の記事の中で「玉」だと感じた10本ほどの記事をSNSで配信する「朝キュレ」をしています。配信を楽しみにしてくださっている方も増えて、現在は、80万人近くTwitterのフォロワーがいます。
新聞には高齢者に都合の悪い情報は出ない
みんなの介護 ちなみに佐々木さんは、古巣である新聞というメディアの現在をどのようにとらえているのでしょうか。以前、「新聞は高齢者向けになってしまった」という発言もされていましたが。
佐々木 高齢者向けになっていますね。理由は、ネットが台頭し若者が紙媒体をまったく読まなくなったから。他の世代含めて、最近は電車の中で雑誌や新聞を読んでいる人をほとんど見ないでしょう。自分も紙の新聞は一紙もとっていませんね。
結果的に紙の新聞の読者はネットが使えない70代・80代の高齢者がメインになっていて、新聞社も彼らが喜ぶ記事を増やしていく。そしてますます若者が離れていく。負のスパイラルに入っているのです。
だから今の新聞には、年金問題や社会保障費増大に関する話などは出てきません。もちろん高齢者の悪口も書かれません。完全に高齢者世代に忖度していて、新聞はもはやバイアスがかかった情報ばかりになっています。
また、新聞にもウェブ版があるわけですが、残念ながらウェブになったからと言って、紙の新聞に書かれていた内容から大きく変わることはないので、これも読む必要はありません。
ウェブ版は有料課金であることが多く、そこもハードルとなってシェアもされにくい。インターネットの世界での存在感もどんどん弱まっています。
例外は日経新聞、他紙も外政は読みどころあり
みんなの介護 私は「世の中を知るためには、日経新聞を読め」と言われた世代なのですが、時代は変わっているのですね。新聞というメディアが今でも優れている点はないのでしょうか。
佐々木 日経新聞は例外です。高齢者向けではなくて、現役世代のビジネスマン向けに記事を書いている。個人的な印象ですが、まっとうな記事は多いと思います。自分も日経新聞のデジタル版は購読していますよ。
また、優れている点ですが、日本の新聞って不思議で、内政に関してはいい加減な記事が多いですが、外政はわりとまともなんですよね。今回のウクライナ情勢に関して言うと、朝日新聞の記事は結構評価が高いです。
ただそうした優良な情報は10本中1本、2本あるかないか。そのためにわざわざ課金するのか?と言う話になります。発表モノであれば、ネット上にも情報は出回っていますから。
撮影:丸山 剛史
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