佐々木俊尚「高齢者に忖度する新聞は読まなくていい。情報洪水時代に良い情報だけを手に入れるコツ」
新聞社時代は下調べをしていなかった
みんなの介護 佐々木さんは新聞記者時代、タイトな締め切りの中でどう情報収集をされていたのですか?
佐々木 あまり下調べなどはしていませんでしたね。まず、私が新聞記者をしていた頃は、インターネットの情報はまだほとんどありませんでした。下調べの余地がなかったのです。
専門的な取材であれば下調べは重要ですが、私は社会部の事件記者でした。殺人事件などは現場でひたすら取材するのみ。会社も「リサーチしている暇があったら、取材先に行って取材先から学べ」というスタンスでした。
命の危険すら感じたオウム事件の取材
みんなの介護 当時担当されたなかで、心に残っている事件は何でしょうか?
佐々木 一番大きい事件はオウム真理教事件ですね。私は、警視庁捜査一課の担当だったのですが、とにかく寝る時間がなかった。
警察というのは大事件が起きると、特別捜査本部を署に設置します。そこに100人ぐらいの刑事が集まって捜査をスタートするんですが、彼らはなかなか家に帰らない。警察署の最上階には、だいたい畳敷きの武道場があってそこで寝ることもできる。
それでもなんとか家に帰るタイミングを狙って、刑事の家の近くで待ち構えて取材をするんです。所沢や大宮、土浦なんかに行っていました。
終電の12時くらいまで刑事たちを待ち、そこから警視庁に戻って打ち合わせをして、自分の家に帰るのは深夜2時。そして、翌朝の5時には家を出る。自宅滞在時間は3時間ぐらいでした。そんな状況が1~2ヵ月続きます。いつ終わるのかもわからない。かなりきつかったですね。
オウムへの取材は常に恐怖がありましたね。1995年の1月に松本サリン事件や坂本弁護士拉致誘拐殺害事件が起きました。その事件の犯人がオウム真理教かどうかは明らかになっていませんでした。そして、3月に地下鉄サリン事件が起きました。
当時、オウムはサリンを持っていて、ヘリコプターを買ったり、銃をつくったりして武装化して霞ヶ関を攻撃するという計画も出ていました。
上九一色村に取材に行けばサリンをまかれるんじゃないかという恐怖があったし、南青山にあったオウム真理教の東京総本部に取材に行ったときは信者に連れ込まれそうになって、殺されるんじゃないかという思いをしたこともあります。
一つの会社に40年もいてはいけない
みんなの介護 かなりハードな状況だったのですね。佐々木さんは、30代後半で新聞社を退社。「アスキー」を経て、40代で独立されています。
佐々木 新聞社のあと出版社に勤めて、フリーになったのは41歳のときでした。ゼロからの再スタートですが、意外となんとかなるものだなと感じました。
38歳で新聞社を辞めるときは「これから面白くなるのに、何でその年齢で…」とさんざん言われました。でも、あのままあと10年新聞社にいたら、今のような仕事はできなかっただろうなと思います。
「40歳の終活」ということを言ったことがありますが、40歳で人生の後半戦をどうするかを考えた方がいいと思うんです。死に方まで踏まえるかどうかは別として。
新卒で入った会社に定年までいると、一つの会社に40年間いることになる。しかし日本企業に長く勤めてもその会社の専門家にしかなりません。
誰に言えばこの案件が通るか、常務と専務の仲が良いか悪いか。そういった社内の人間関係や会社特有の慣例は熟知するようになる。しかし、ほかの会社ではまったく役に立たない。
今後80歳ぐらいまで仕事をするようになると、社会人としての人生は60年ほどあるわけです。その60年を30年ごとで区切れば、50歳からがセカンドステージですが、現実的に40歳までが転職に適した時期だと言われています。
一旦40歳でリセットをする。そして、社会に出てから20年の経験を持ってほかの会社に行けば、もう1度ゼロから始められる。40歳ぐらいだとまだ元気で若いので、新しいことにチャレンジする気力もあるでしょう。一つの会社に絶対40年もいない方が良いです。

目的のある転職をすれば40歳で無敵になる
みんなの介護 今は若い人の意識も変わってきて、佐々木さんのような考え方は受け入れられるのではないでしょうか。短期間で転職したり、副業をする人も増えています。
佐々木 最近多いですよね。私はウェブや広告の業界に知人が多いんですが、その世界では3年スパンでの転職は当たり前。4回も5回も転職している人が一杯います。
昔は、転職を繰り返していると「仕事がうまくいかないから転職している」という見方でした。しかし、その人たちはスキルを高めていくために転職してるんですよね。
例えば広告制作会社にいたけど、アドテクを知りたくなり、アドテクを専門にしている広告会社に転職したとか。これからはインターネットショッピングだと思って、事業会社に行って物を売るとか。
そうやって転職することで自分の中のスキルやノウハウをどんどん増やしています。そのような転職を若いうちから積み重ねると、40歳ぐらいで何でもできるようになっている。無敵ですよね。
前だけ見てはいけない、俯瞰することが重要
みんなの介護 最後に「みんなの介護」の読者に伝えたいことは、ありますか?
佐々木 人生長いので、目の前のことばかり見ないで、上から俯瞰して見た方がいいよということですかね。道に迷いやすい人というのは、目印しか見ていないんです。
例えばマクドナルドを目指すときに、マクドナルドの場所しか頭にないとする。すると、もし通り過ぎてしまった場合、どこで曲がったら良いのかわからなくなって道に迷うわけです。
地図が読める人は、俯瞰して見ているんですよね。駅からマクドナルドまでの間にある道順を頭の中に描いている。だから通り過ぎてしまっても、他のルートを使ってもとの道に戻ることができる。
人生も同じことが言えると思うのです。俯瞰的に見てみる。今40歳であれば、定年まで20年。例えば90歳になるまでにはあと50年ぐらいあるとか。最終地点の目的から考えると、どういうスキルを積み重ねていけばいいかということがわかります。
撮影:丸山 剛史
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