クロサカタツヤ「ヒューマニティの問題として、介護ロボットの導入を急ぐべき。介護者がよりよく生きるために現場に光を当てていかないと」
今回の「賢人論。」ゲストは総務省の「AIネットワーク化検討会議」に委員として参加する経営コンサルタント・クロサカタツヤ氏。世の中をがらりと変えつつあるITの今を専門家に訊く。前編でクロサカ氏は、介護ロボットを早急に導入することの重要性を訴えるとともに、“自己改革の機会”としての結婚の意義を語った。
文責/みんなの介護
結婚以後、自分の中に山ほど変化があった
みんなの介護 クロサカさんには2人の娘さんがいらっしゃるそうですね。高齢化だけでなく少子化・晩婚化が日本の社会問題になって久しいですが、クロサカさんは結婚・子育てについてどう捉えていますか?
クロサカ 個人の視点ですが、家庭をもつことは“自己改革の機会”になると思っています。結婚以前と以後では、自分の中で変化が山ほどありました。私たち人間は社会の中で生きていく存在ですから、死ぬまで変わり続けざるを得ないんですよ。山の中で狩りでもして生きていない限りは、たとえ引きこもりであっても何らかの形で社会とつながっていなければならない。
けれど、変わることというのはそう簡単じゃありませんよね。たとえば一人暮らしをしていたら、生活を朝型にしようと思ってもすぐ心が折れるでしょう(笑)。でも、自分が変わらないとパートナーとの関係が維持できないんだ、良好にならないんだと気づくことで、改善への手がかりを獲得できますよね。パートナーを鏡として自分がどう変わっていくべきかを考えていける。
子供ができるとなおさらそうです。現実的な問題として、子供と遊ぶためには健康でいなければいけない。そういう意味では、もしそれが可能ならば、子供は若いうちに授かれた方が、親の身体は結果的にラクですね。一方、特にホワイトカラーの場合、仕事をして寝転がっているだけだと、身体はどんどん衰えていきますよ。それに抗うためにも、自己改革を促してくれる家庭という存在はすごく大切なものだと思います。
みんなの介護 “子供が欲しい”と思ったのはいつ頃でしたか?
クロサカ 20代の頃は親になっている自分を想像できなかったですね。30代前半だって、気持ちはまだ20代なんですよ。まだ何者にもなっていない段階だから、自信もないし。それでも32歳の頃、子供を授かったことを知って、「頃合いなんだな」と思いました。自分はそういう年齢になったんだなということを、そのときなんとなく悟ったんです。
逆にそれくらいでもいいのかもしれない。いま振り返ると、ちょっと気負いすぎていた気もして、正に「案ずるより産むが易し」だったのかな、とも思います。ただ、その言葉通りにするには、やはり結婚や育児を通じて山ほど訪れる「自己変革の機会」を正しく受け止める必要があります。特に男性の側は、「案ずるよりって…産まないお前が言うな!」と言われかねないですからね(笑)。
AIの製品は使われないと磨かれていかない
みんなの介護 クロサカさんは総務省の「AIネットワーク化検討会議」で、人工知能などの技術革新に伴う社会課題に取り組んでらっしゃるそうですね。
クロサカ 人工知能というと特別なものというイメージがまだあるかもしれません。でも、私たちは今や、一日の中で人工知能に接していない時間の方が短いかもしれませんよ。Gmailの迷惑メールフィルターやYouTubeの「あなたへのおすすめ動画」には人工知能が使われていますし、それにFacebookのタイムラインだって友達が投稿した順に表示されるのではなく、ユーザーの関心が分析された上で並べ替えられているんです。自動車もエレベーターも少なからず人工知能によって制御されている。
人工知能はいわば「ご本尊」なんですよ。普段は奥の方に隠れていて、御開帳されない限り目に触れることはないんだけれど、ずっとエンジンとして稼働し続け、いろいろなシステムを支えているんです。
みんなの介護 人工知能の発展に伴い、今後はどのような新しい技術が出てくるのでしょうか?
クロサカ 現時点で要素技術はすでにいろいろできているので、あとは「使わないと先に進まない」という状況に来ています。というのは、人工知能をはじめとしたIT関連のサービスは、あらかじめ100年変わらない完成版がリリースされるのではなくて、いつまでも「ベータ版」だから。使っていくうちにどんどん機能が磨かれていく構造になっているんです。
ですから今後は、「何が出てくるか」というより「何を使いたいか」という話になってくるでしょうね。この先は、そんな風に製品を実際に使いながら磨いていく、そしてサービスの質を上げていくという段階に入っていくんだと思います。
みんなの介護 介護業界でも、ロボットを導入していく動きがあります。
クロサカ 日本社会ではどう考えても介護業界にテクノロジーを使っていくべきです。個人的なことを言えば、僕は今42歳で、父が85歳。幸いにしてまだ父は元気な方なんですが、2年前に大きな手術をしてから身動きが取りづらくなってきました。いずれベッドの上での生活が長くなり、80kgもある父を「よっこらしょ」と起こすのか…と思うとなかなかしんどいのだろうなと思います。
みんなの介護 個人向けの介護ロボットや身につけるタイプのパワーアームがあれば、介護はずっと楽になるでしょうね。
クロサカ そこまでいかなくても、ベッドから起きたがっていることをセンサーで感知して知らせたりですとか、テクノロジーの力でやれることは山ほどありますよ。我々のような介護する側に対してこそ、そういったサポートを積極的に取り入れていかないと、これからの介護は間違いなく成立しないですよね。“老々介護”という状況が始まってきていますから、今こそ導入を急がないと。
みんなの介護 介護ロボットは実際に開発が進められ製品化もされていますが、いまいち普及しきっていません。
クロサカ 「機械に介護されるのは嫌だな」という感情的な障壁があったり、さっき言った「ベータ版的な思考」、つまり使いながら磨いていこうという発想が根付いていなかったりといった、我々ユーザー側が持つ課題の方がむしろ多いのかもしれませんね。
介護ロボットの導入は“ヒューマニティ”の問題として必須
みんなの介護 介護ロボットが普及するにはまだ時間がかかりそうですか?
クロサカ 何十年もかかってしまっては意味がないですよね。この前、経済産業省の若手有志がまとめた「次官・若手未来戦略プロジェクト」という資料がSNSで話題になりました。賛否両論ありますし、分析として雑なところもありますが、少なくともこれは正しいなと思ったのは、「人生が100年になる」という記載でした。このままいくと、私たちはますます死ななくなっていくんです。
しかも10年後には団塊の世代が80歳前後となり、介護需要に対して供給は確実に逼迫(ひっぱく)します。そう考えると、介護ロボットの普及まで10年かかったとしてもまだ遅い。現時点でもうニーズが見えているんですから、そろそろ現場に技術を投入してブラッシュアップしていかなければいけません。
みんなの介護 介護ロボットはどうすれば普及するでしょうか?
クロサカ 介護ロボットを導入するにはお金が大きなネックになりそうですから、いろんなアプローチで解決を図るべきでしょうね。介護保険制度にしても、業務を効率化・自動化していくことにインセンティブを置くような仕組みに変えていく必要があります。一方で、人ベースでやってきた既存の介護産業の構造を変えるという話にもなるので、既得権者の反発も予想されるでしょう。彼らをもどうにか説得していかなければいけない。
みんなの介護 介護業界が根本から変わっていく必要があるんですね。
クロサカ 「現実を見ましょう」ということだと思うんです。介護する側の苦労は限界を超え始め、そのひずみがあちこちで表出し始めているのに、なぜそこへ光を当ててあげないのか。介護の現場に少しでも触れてみたら、どれだけ追い込まれているかわかりますよね。
これはヒューマニティの問題です。そしてそれは、介護される側だけでなく、介護する側の問題でもある。介護する側も良く生きていけるような環境を整えていかなければいけません。そこまで話が進めば当然、業務の効率化・自動化を進めていかなければという結論になるはず。勇気の要ることでもあるんですが、今こそブレイクスルーが必要です。
みんなの介護 政府が補助金などの形で支援していくことも重要になりそうですね。
クロサカ どこにどれだけ財源を使うのか考えるには、介護ロボットだけでなく、終末期医療などあらゆる医療体制を含めて総合的に考えなければなりません。潤沢どころか政府部門は借金漬けである以上、適正にお金を回していく必要がある。ロボットを買っておしまいではなく、それをどう使いこなしていくのか。つまりキャッシュフローの問題です。
みんなの介護 具体的には?
クロサカ まずお金の流れの大きなものとして、介護士さんの人件費があります。当面は、ロボットに介護を学習させることを含めて、この人件費は削れないし、むしろ待遇はもっと改善しなければならない。ロボットの開発・維持費と人件費の両方が発生しますから、そのお金をどこから捻出するのかを考えなければならない。
それから、介護施設がロボットを購入するための費用は、単なるコストではなく将来に向けた投資でもあるので、補助を考えるのも妥当ではないでしょうか。そしてそれは単純にお金を給付するだけの補助ではなくて、減税措置や減価償却等での優遇等、いろいろとやり方はあるはずです。
人工知能で病気の原因を見抜くことができる時代
みんなの介護 先ほど、介護ロボットを導入することの緊急性とその課題についてお話していただきました。ロボットの技術は今後社会を大きく変えていきそうですね。
クロサカ 今まさに、ロボット技術が社会の中でどのように位置づけられるべきかということが世界中で議論されています。ですから「こうあるべきであろう」という明確な方向性が出てきている段階ではまだありません。
しかし、日本の合意が整うまで諸外国が待ってくれる、なんてことはあり得ない。ヨーロッパがロボット技術に対して何らかの規制の網をかけていく方向を打ち出し始めた今、我々日本はどうしていくべきなのか。その辺をちゃんと議論しておくべきじゃないのか。
私が参加している総務省「AIネットワーク社会推進会議」をはじめ、経済産業省、また民間団体の「ロボット革命推進協議会」、「人工知能学会」などで、ロボットが社会でどのように位置づけられていくのかということが盛んに話し合われています。
みんなの介護 その議論は、どのくらいの現実味を持って進んでいるのでしょうか?数年先の話なのか、ずっと何十年も後のことを見据えているのか…。
クロサカ 議論の中身によりますね。例えば「人工知能」と一口に括ってしまうのは、ブラウン管も液晶も全部ひっくるめて「テレビ」と言ってしまうくらい、ざっくりとした総称です。人工知能研究者はすでに「人工知能」という言葉を嫌いつつありますね(笑)。
一方で、技術を知らない一般の立場からすれば、「あれもこれも人工知能」と認識するのは、避けられないわけです。そしてその観点から考えれば、もうすでに私たちの生活の中に入っている人工知能技術もあるし、まだあと実現まで10年かかるとみられているもの、さらに言えばニーズが顕在化するまで20年かかるものなどさまざまあります。
いろんな技術要素が絡んでいる中で、どれを捉えるのか?または、その機能が提供する便益のどれについて考えるのか?それによって計画の時間尺は変わってくるわけです。
みんなの介護 医療の現場ではすでに人工知能の導入が進んでいるらしいですね。
クロサカ 例えば、新薬の開発は成果を出すまでに何十万回、何百万回と試験を繰り返さなければいけないもので、人間がやるには気が遠くなる作業です。そういうものに関しては人工知能が役立ちます。なおかつ、どうやったら100万回試験しなければいけないところを10万回に減らせるのか、どうやったら成果が出る確率が高くなるのかという推論を行うのも、人工知能(特に機械学習)の得意分野なんですよ。
また、東京大学医科学研究所がIBMの「ワトソン」という自然言語処理システムに、過去の研究成果や症例を学習させたところ、病因を突き止められるようになったということも報告されています。
みんなの介護 技術はそこまで進歩しているんですね!
人工知能の普及には、倫理的な課題が大きなネック
クロサカ ただ、そんなに多くの病院に人工知能が実装されているわけではまだありません。技術の問題ではなく、ビジネスとして成立させていくための道筋がまだ立っていないんです。もうひとつ、そもそも人工知能が出した「判断」を医師が信用して「診断」に用いるという行為ひとつとっても、倫理や法律はもちろん、様々な課題があります。
現在は最後には人間の医師が責任を負うわけですが、人工知能の判断支援が普及すれば、医師は自らの力だけで診断する能力を失うかもしれない。しかし、人工知能の方が解析能力に優れているのであれば、そもそも人間が介在する方が事故を起こしやすくなるかもしれない。
みんなの介護 仮に人工知能が原因で事故が起こってしまった場合、誰が責任を問われるのか?など、結論を出すのが難しそうな問題ですね。
クロサカ 既存の技術論や法律論だけでは整理しきれません。それもあって、「AIネットワーク化戦略会議」には法哲学を始めとした人文科学系の専門家も参加しています。日本はそういった倫理的・哲学的な議論を非常に不得意にしてきました。数学や哲学と聞くと、我々日本人はつい現実と切り離された世界だと思い込みがちで、ずっとこれを棚上げしてきたんです。ところが、テクノロジーの発展によってこれらが差し迫った問題として突きつけられることになってきた。
みんなの介護 数学まで必要になってくるんですか。
クロサカ グーグルの「テンサーフロー」は線形代数のテンソル積が名前の由来のはずですし、人工知能自体は数学の固まりのようなものですね。そしてその構造の理解を試みないと、議題に上がっている「人工知能」というのがどんな特徴を持ち、どんな振る舞いをするのか把握できないです。
私にしても完璧に把握できているわけではないですが、少なくとも人工知能と社会の関係を考えるには、その仕組みをなんとなくでも理解できるくらいの知識は必要なのだと思います。“総合格闘技”的に様々な知識が要求されるというところが人工知能を語ることの難しいところです。
みんなの介護 身近なところで言えば、自動運転の自動車が開発されているというお話も耳にします。完全に人間が操作しない自動車だなんて怖ろしいような気がしますが…。
クロサカ 最初は確かに怖いかもしれませんが、慣れていくんじゃないかなと思いますね。そもそも「人間が運転するなら安全だ」という前提さえ、本当に正しいのでしょうか?そこで想定されているのはあくまでも“健康で運転経験が豊富”な人間ですよね。風邪で高熱があるペーパードライバーの車になんてとても乗りたくないでしょう。
同じ「人間」といっても、様々な幅があり、そのぶん安全性にもムラがある。となると、むしろ優秀なロボットに任せた方がよっぽど安心かもしれない、という考え方もありうるわけです。
テクノロジーの良い面と悪い面、両方を同時に考えていく
クロサカ それに、今走ってる自動車にしたって、我々はどのくらい運転の作業に関与しているのか?と考えてみてください。車がキビキビと走っているのは私たちの能力のおかげですか?そんなことはないですよね。
みんなの介護 エンジンやモーターなど、車の性能が走行のほとんどを担っている。
クロサカ ここ20年で普及したオートマチックの自動車なんて、まさしくそれですよね。クラッチを踏みギアを変えるという過程を自動車が勝手にやってくれている。とすると、自動車の運転に関して人間がやっていることは今だってかなり減っているわけです。
それは少なくともこれまでの科学技術の正しい発展の方向だったはずなんですよ。「人間の脚より遅い車」なんて要らないでしょう。人間がやることの領域がどんどん減っていくのでなければ、そもそもエンジニアリングの意味がない。
医療ロボットにしてもそうです。従来何万人に1人の天才医師しか手術できなかった難しい病気を、手術ロボットの力で治せるとなれば爆発に普及しますよ。
みんなの介護 私たちは科学技術が発展することのポジティブな面にもう少し目を向けてもいいのかもしれませんね。
クロサカ もちろん、ポジティブな面がすべてではありません。いわばパンドラの箱が開くことで起こってしまう事故や事件もあるわけですから。ポジティブとネガティブを同時に考えていく。その中で今できること、この先のためにやっておくべきことを整理しておく。それが今の社会に必要なことですね。
電話やインターネットはいろいろな法律によって厳しく基準が定められている
クロサカ ITはその領域を広げつつあります。インターネットは現在、ずっと身近な存在になりましたね。するとそれに伴い、いろんな新しい問題にぶつかってしまうことにもなります。
みんなの介護 具体的には、どのような問題があるのでしょうか?
クロサカ 身近な例のひとつとしては、青少年保護問題があります。要は、SNSの普及によって未成年者が売春・買春行為に巻き込まれやすくなり、ひどいときには誘拐事件にまで発展するケースも出てくる。その他、SNSによるいじめ問題も深刻ですよね。インターネットは犯罪行為をやりやすくし、発覚しにくくするという特徴をもっているので、放置しておくわけにはいかないのではないか。
しかしもう一方では、インターネットは社会問題の本質的な原因ではなくただのツールにすぎない、だから自由に使うべきだ、という意見もあります。そんな風に常に議論が交わされながら、私たちの社会が合意できるところを探っているわけです。
みんなの介護 誰もが手軽に使えるツールだからこそ、きちんとしたルールづくりをしておく必要があるのですね。
通信事業は法律と切っても切れない関係を持っている
クロサカ 我々が一番身近に感じるインフラが「電気」「ガス」「水道」だとすれば、「通信」はその次くらいにはくるでしょうね。あるいは日常生活ではもっと重要に感じるかもしれない。
その通信はインターネットや電話が中心ですが、これらは基本的に「電気通信事業法」によって取り締まられていて、この法律が通信産業の構造を法的に裏付けている。平たく言えば「こういう具合に仕事をしましょうね」という、事業の定義付けをしているんです。そういう意味では介護や医療と似ているかもしれませんね。
ですから通信は法律と切っても切れない関係をもっており「この法律の使い勝手が悪い」だとか「この法律は利用者の利益にならない」「この状況だと適切な自由競争が機能しない」など、状況の変化に応じて法律を常に見直す仕事が必要になってくるんです。
みんなの介護 「電気通信事業法」にはどのような内容が盛り込まれているのですか?
クロサカ 例えば「うちに電話を引いてください」という依頼があったら、事業者はそれを応諾しなければならないと定められていたり、それから「110番や119番がつながるようにしなければいけない」という決まりごとも、細かいですが重要ですよね。
そこでひとつの問題になるのは、電話を引いて欲しいという利用者の要望に対して、事業者がどこまで応じるべきかということです。彼ら事業者だって民間でやっていますから、できることの範囲には限界がある。離島や過疎地にはどこまで対応するのか。富士山頂なら人出が多いから電話を引いてもいいかもしれないけれど、年間に数人しか登らないような山はどうするのか。そういった個々の状況にどこまで事業者は対応すべきなのか? 考えていかなくてはいけませんよね。
今は通信インフラが電話からインターネットに変わる過渡期
クロサカ 今は通信のインフラが電話からインターネットに切り替わろうとしている過渡期ですし、それぞれの社会によって考え方はまちまちです。この記事をネットで読んでいる方にしてみれば、「え、インターネットはすでにインフラでしょう?」と思う方もいるかもしれません。でも、実はまだそこまで環境が整っているわけではないんです。例として、まだインターネットでは救急車も消防車も確実に呼ぶことができませんよね。
みんなの介護 となると「インターネットで救急車を呼べるようにすべきかどうか」「では消防車はどうか」というような細かい議論が今後重ねられていくわけですね。
クロサカ インターネットの特徴である「匿名性」を考えると、病院や消防署へいたずらの通報が頻発するのではないか、という懸念も出てきます。調べればすぐに番号がわかる電話でさえそういうことをする人がいるんですからね。そうなってくると、「いたずらの通報かどうかを判断する方法はないのか」ということにもなって。
みんなの介護 誰でもアクセスができ、しかも匿名性を持っている。インターネットを取り締まるのはなかなか大変そうですね。
クロサカ すでに規制が始まってきているのは著作権周りですね。たとえば著作権を有した作品のコピーが「YouTube」にアップロードされた場合、権利者からの申し立てで削除して良くなった。
「YouTube」において著作権侵害を訴えることはもともと「著作権法」の枠組みの中で認められていたことなんですが、それでさえ、実現はそう簡単ではありませんでした。でもいまは、著作権管理団体や規制当局に申し立てるより、ずっと実効的に対応してくれるともいえる。
みんなの介護 新しい技術を享受するためは、綿密に議論を進めていかなければいけないんですね。
クロサカ ただ、議論が終わって初めて導入する、というのでは時代のスピードに追いつけないでしょうね。法律で縛る前に、現にその技術ができてしまい、普及してしまうことだってあり得る。
新しい法律をつくるには大体5年くらいはかかります。5年もあればテクノロジーなんてガラッと変わってしまっていますから、いくら議論しようとも法制化という観点では間に合いません。
だとしても、新しい事態に対して常に議論し続けるということは大切です。そういう形にして残しておかないと自分たちの価値観がどこにあるのかわからなくなってしまいますし、それを元に自分自身の考え方を築き上げることもできなくなってしまいますからね。
撮影:公家勇人
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