前野隆司「日本人は先天的に孤独を感じやすい心配性遺伝子を持っている」
まずはコミュニティを試すことから
みんなの介護 孤独を解消する方法としてコミュニティに入る大切さが語られますね。
前野 今オンラインコミュニティが増えています。それに、役場に置いているチラシなどにもさまざまなボランティアや趣味の会の案内があります。実は、コミュニティの誘いは日本中にあるのですが、家にこもっていたり、調べなかったりしたら気づきません。
それらをチェックして一度見に行ってみることですね。気に入るか気に入らないかは試してみないとわからない。
例えばコミュニティではなくて、シェアオフィスでもいいと思うのです。私の知り合いにもシェアオフィスに入って人生が変わった人がいます。
会社がオンラインの在宅勤務になってしまって、ほっておくと家にずっといる。それは良くないから、シェアオフィスを借りてほかの人と話すようにした。すると、人と知り合う機会が増えて、会社に勤務していたときよりも豊かな人生になったと言うのです。
その方は一人暮らしなので、行動に出ていなければ孤独に過ごしていたかもしれません。しかし、少しお金がかかるけどシェアオフィスに出ていくことで幸せを手に入れているわけです。こういう、ちょっとした一歩は日本中に溢れています。
二の足を踏んでしまうのは、「新しいことをするのは恥ずかしい」「忙しいから無理」「家でゴロゴロしていたい」という思いがあるからでしょう。
実は、家でゴロゴロしていても疲れもストレスも取れません。人と励まし合ったり、楽しさを共有し合ったりする方が、精神的ストレスはやわらぎます。それを知らないからコミュニティに躊躇している面もあるのではないでしょうか。
欧米人の積極的な利他心から学ぶことは多い
みんなの介護 アメリカなどではNPOに参加している人も多いと聞きます。
前野 アメリカ人もヨーロッパ人も、積極的にNPOなどの社会貢献活動に入って活動していますね。寄付もよくします。彼らには積極的な利他心があります。
日本人も素晴らしい利他心を持っていますが、「迷惑をかけない」に重心が置かれすぎている。マスクをちゃんとつけましょうというのもその心のあらわれです。
もう少しみんなが積極的に行動するようになると、良い社会をつくりやすいといえるでしょう。NPOはもう少し宣伝すべきだし、人々はもっと前に出た方がいい。
実際に取り組んでみると素晴らしいのですが、参加するまでに二の足を踏んでしまう。NPOというのは、少人数で頑張ると結構疲れるんですよね。10倍の人がいれば、10分の1ずつ分ければいい。
アメリカなんかそうですね。大した労力をかけていなくても、みんなが少しずつやる。だから、災害復興のボランティアも、お祭りのように楽しそうにやっていた。あの感じでできれば良いですよね。
PTAもそうです。日本はPTAの役員をやりたくない人が多い。みんながやらないので取り組んでいる一部の人だけが疲れます。
アメリカでは多くの人がPTAの役員をするから一人ひとりの労力は少しずつでいい。作業が早く終わって「みんなで力を合わせて良かったね」という話になります。
サードプレイスという言葉がありますが、本当は4つか5つぐらいは居場所を持った方がいい。職場、家、ボランティア、趣味のサークル、地域のサークルという感じで。いくつも入って、いくつもちょっとずつやるのがコツです。それぐらいの方が豊かで幸せだと感じられるでしょう。
みんなの介護 アメリカ人のようなノリで、一つの楽しみとしてNPOやボランティアに参加できたら、もっと楽しく問題解決できそうですよね。
前野 アメリカ人は全部楽しんでいます。その気になれば全部楽しめるのです。
日本人は「世のため人のために自己犠牲でやります」というスタンスが好きです。みんなで苦しさを分け合う儒教文化の思想が根強く残っているからです。考えを大きく転換する必要がありますね。
幸福になる法則があり、4つの因子で表現できる
みんなの介護 孤独を解消することから踏み込んで、幸せになるコツのようなものはあるのでしょうか。
前野 自己肯定感が高い、夢がある、感謝できる、前向きな考え方ができる。幸福感を高める要素は、沢山あります。そして、1980年代からの研究の結果、幸福にも法則があることがわかっています。
私はそれらの法則を分析して4つの因子にまとめました。
- ①やってみよう
- ②ありがとう
- ③なんとかなる
- ④ありのままに
この4つを満たしている人は幸せだと言えるでしょう。
①やってみよう
やりがいを感じながら主体性を持って取り組めることを見つけること。やりたくないなぁと思いながら、いやいや取り組むのとは真逆の行動です。
②ありがとう
良いことにも悪いことにも、ありがとうと感謝すること。自分に起こる出来事というのは何かの意味があります。悪いことであっても何かを教えてくれたり、その後の成長のきっかけにしたりもできます。
③なんとかなる
良い未来を思い描いて生きること。つらいことが起こったり、重い病気になったりして も、ただ悲観するのではなく、良い未来に向かう糸口があることに希望を持つことです。
④ありのままに
自分らしくありのままにいることを受け入れること。人と自分を比べると、私だけがどうしてこんなつらいことを背負わなきゃいけないのだろうと思う気持ちが出てくるかもしれません。しかし、自分の人生と向き合って受け入れない限り、本当の意味での幸福は感じられないでしょう。
みんなの介護 幸福にも法則があるのですね。今後、幸福度〇%…という感じで、一人ひとりが測れるようになったら面白いですね。
前野 そうですね。幸福というものは、今まで漠然と捉えられてきましたが、それぞれのスコアを測ることができるんです。オリンピックの種目がたくさんあるように、幸福の種目もどれぐらいのスコアがとれているか見ることができたら、面白いですよね。
これからは幸福をもっと明示的に判断していく時代だと思います。
どれぐらいありがとうと思えているか。どれぐらい自分を受け入れられているか。振り返る指標にもできます。
幸せへの関心が“健康ブーム”のように拡大してほしい
みんなの介護 今、幸福は「ウェルビーイング」という言葉でも、企業のSDGsへの取り組みの文脈の中で語られることがありますよね。
前野 ある種ブームっぽくなっていますね。しかしブームで終わらせず、より良いものに発展させていく必要があると思うのです。
健康ブームでは「健康に気をつけよう」という意識を人々の心に植え付けました。それと同じように「幸せに気をつける」。すると、創造性が発揮されて職場が豊かになる。健康長寿で幸せな人が多い社会になっていくわけです。
昔は幸せについての研究が盛んではなかったから、どうやって幸せを目指していいかわかりませんでした。でも今はデータがあります。
一つひとつ、データから導き出されるヒントを実践すれば、健康な人になるように幸せな人になるわけです。このことをもっと多くの人が知る社会になる必要がある。そう思っています。
健康ブームになって、野菜をとらなきゃいけないとか炭水化物を取りすぎたらいけないということを知る人が増えました。テレビで健康に関する情報が発信されるようになりました。
それと同じで、幸せブームになって、幸せになるための情報がバラエティー番組などとかでシェアされるようになるといいですよね。
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連載コンテンツ
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