鈴木邦彦「高齢化率がピークに達する2025年。医療と介護を一体的にケアする“地域包括ケアシステム”の構築は超高齢社会を乗り切る切り札になる」
賢人論。第46回にお招きしたのは、日本医師会の常任理事・鈴木邦彦氏。緩和ケア病棟「エーデルワイス」を擁し、志村大宮病院を中核とする「医療法人博仁会」の理事長も務め、日本の医療を牽引するキーパーソンとして活躍している。医療と介護が連携し、地域の中でケアを完結する「地域包括ケアシステム」が超高齢社会を救う切り札となる、と鈴木氏は語る。
文責/みんなの介護
医師のワークライフバランスも考えつつ、地域医療の担い手も確保しなければ
みんなの介護 鈴木さんが院長を務めている「志村大宮病院」は常陸大宮市の郊外にあり、しかも高齢化率が30%超という環境だそうですね。
鈴木 志村大宮病院がある水戸市もそうですが、日本の多くの地方では高齢化が進み、人口減少の局面に入ってきています。高齢化・人口減少問題の進行はとてもゆっくりしたスピードですから、東京にいるとなかなか体感しづらいかもしれませんが。
みんなの介護 地方の医療にはどのような問題があるのでしょうか?
鈴木 人口の減少もありますが、今までのやり方で医療を考えると、まず病院の医師が不足する、ということが避けられない問題として出てきています。
みんなの介護 医師の人手不足によって、すでに何か問題は出始めているのでしょうか?
鈴木 医師の先生方は非常に使命感が強いので、人が足りない分は長い時間働いてカバーしているわけです。ただ、最近言われている「働き方改革」でその長時間労働が問題視され、医師が時間外で十分に働けない、となると困る地域もたくさん出てくるのではないでしょうか。
これは国でも、あと2年以内を目処に対策を考えていこう、ということになっているテーマですし、日本医師会で検討していることでもあります。いわゆるワークライフバランスも考えつつ、これからの医療を担う人材を社会の中で確保していかなければなりません。
みんなの介護 地方の医療機関は予約もとりにくいですし、いつも高齢者で混雑している、というイメージもあります。高齢化の進む地域では、医療の“需要過多”になりつつあるようですね。
地域の状況に応じて医療体制を見直していく必要
鈴木 そんな地方の医療を救う手立てとして、私たちは「地域包括ケアシステム」の構築を推進しています。地域包括ケアシステムとは、地域の中に医療・介護サービスを充実させ、かつ各分野を連携させていくことで、できるだけ長くお住いの地域の中で過ごしていただけるような仕組みをつくっていこう、という計画です。
みんなの介護 端的に言うと「必要な医療や介護サービスは近所で完結できる」というのが地域包括ケアの骨子ですね。
鈴木 これを構築していくと、軽い症状の方は地域のかかりつけ医を中心に地域の中でケアし、大病院は高度な急性期医療を必要とする患者さんのケアに注力することができるようになります(※急性期…病気になりはじめの、症状が急激に現れる時期)。
みんなの介護 症状に関わらず大病院に集中していた患者さんが、各地域に適切に分散するんですね。
鈴木 2025年には、戦後の第一次ベビーブームで生まれた団塊の世代がすべて後期高齢者(※75歳以上)になり、いよいよ本格的に超高齢社会が始まります。それに備えて、超高齢社会を乗り切る体制をつくっておかなければいけない。地域包括ケアシステムはその切り札だと思います。
みんなの介護 地域包括ケアシステムには「医療の無駄を少なくする」という効果も見込めるそうですね。
鈴木 今後は高齢者の誤嚥性肺炎や大腿骨頸部骨折、脳梗塞など、中小病院や有床診療所で十分に治療できる傷病が増えてくるでしょう。そういったものまでわざわざ遠方の大病院まで運ばなくても済むようなシステムにしなければいけないと思います。
みんなの介護 本当に大病院への緊急搬送が必要な方のためにも、それは重要なことだと思います。ところで、地域包括ケアの“地域”について、鈴木先生はどの程度のエリアだと考えていますか?
鈴木 基本的には中学校の学区を単位とした「日常生活圏域」と呼ばれるエリアによって区分けします。ただ、地方では少子化が原因で統廃合がどんどん進み、中学校区と言っても広いですから、ほぼ市町村単位になるでしょうね。
どこまでを一地域とするかは、その地域の状況や医療資源・介護資源の量などをみて総合的に判断しなければいけません。市町村が介護保険事業計画をつくり、都道府県がつくる医療計画との整合性をとりながら基本的な仕組みの整備を進めていこう、という流れになると思います。
その際、「住まい」は特に重要になっていきます。自宅での介護もそうですし、住み替え用の住宅もたくさんできていますから、そこに入る形でもいい。そういうところにお住いになって地域の中で必要なサービスを受けることがこれから増えてくると思います。
治療だけでなく、“看取り”に関する情報共有も重要
みんなの介護 「医療と介護の連携」も、地域包括ケアの大きなキーワードだそうですね。
鈴木 高齢の患者さんの多くは慢性疾患を複数持ち、かつ虚弱になっていきます。すると介護施設に入りながら医療的ケアも必要になる。今後、医療と介護を一体的にケアする必要性はますます増えてくると思います。
わざわざ遠くの大病院へ通うのではなく、中小病院や診療所のかかりつけ医を中心に在宅医療や在宅介護、かかりつけ医機能を持つ中小病院・有床診療所の入院機能、介護施設の入所機能を上手く使い分けながら地域の中で過ごしていく。そういうやり方にパラダイム・シフトしていかなければいけません。それが地域包括ケアシステムの本当の姿だと思います。
高齢化問題は、医療の力だけで解決できるものではありません。介護の力も借りなければいけないし、地域全体の問題でもあると思います。
みんなの介護 医療と介護の垣根がなくなり、互いに役割分担し、連携しながら地域を支えていく。素人考えですが、病院で使っているカルテが介護にも活かされたり、ということが可能になるのでしょうか?
鈴木 カルテは個人情報の問題もありますから、第三者に渡すことはできませんけれども、必要な情報に限っては共有するようにしていくべきでしょう。
地域包括ケアには医療・介護など多職種の方々が関わります。いちいち集まって会議していたら大変ですから、ICTの技術も有効に使っていくべきだと思います。
みんなの介護 ICTを使って業務を効率化しよう、という動きは介護業界にも共通しています。
鈴木 使えるものは駆使して、人手不足を補うような取り組みも盛んになるでしょうね。AI(※人工知能)を診断の参考にしたり、一定の遠隔診療が可能になったりと、いろいろなことが進んでくるでしょう。
みんなの介護 遠隔診療ですか。自宅にいたまま体調を調べられたり、診察を受けられるということになれば、高齢者の皆さんにとっては助かるでしょうね。
鈴木 もちろん、対面診療が前提の上で、ですよ。医療機関に行かないで、遠隔診療だけを受ければいいというわけではありません。ただ患者さんの情報が日々、医療機関に送られるとなると、頻繁には医療機関に行かなくてもいいようにはなるでしょうし、診断の精度もより上がってくると思います。
地域包括ケアシステムは“まちづくり”まで巻き込んだ大改革
みんなの介護 先ほど、伺った地域包括ケアシステムですが、現在、どれほど整備が進んでいるのでしょうか。
鈴木 これからですね。ある程度人口が多く、かつ高齢化の進み方も著しい中規模の自治体は「一刻も早くやらざるを得ない」という意識になってきていると思います。一方で大都市や小さな市区町村に関してはこれからです。大都市ではまだ高齢化の実感を持てずにいますし、小さな市区町村では、高齢化が進んでいるにも関わらず医療資源・介護資源が足りていないところも多いのです。
特に医療資源の不足は深刻ですね。介護資源はある程度計画的に整備してきましたから、まだマシな方ですが。全国一律のシステムにするのではなく、各々の地域性に応じてやっていく必要があります。1,700の市区町村があるなら1,700通りのやり方があっていい、ということも厚労省の見解で出ています。
医師会についても、自分たちで地域包括ケアシステムを進めることが難しい小さな医師会は周辺の大きな医師会や都道府県の医師会が支援をしたり、あるいは小さな医師会同士で協力し合ったりする取り組みをするなど、さまざまに工夫していくべきだと思います。地域包括ケアシステムに必要な資源が十分ではない地域もありますが、1人も医者がいない、という地区は日本には少ないですから、今地域にある資源を活用することでできる対策の余地はまだまだあるでしょう。
みんなの介護 限りある資源を有効に運用する、というのは、医療に限らず介護業界でも重要なテーマです。
鈴木 特に地方ではこれからどんどん人口が減っていきますから、元気な高齢者に頑張ってもらいながら、女性も子育てと両立しながら仕事ができる社会にしていかなければなりません。そういう意味で、地域包括ケアシステムは“まちづくり”へもつながっていかなければならないのです。奥が深い問題なのですよ。
医療だけでもない、介護だけでもない。働き方まで絡めて、高齢化に対応できるよう地域のあり方を変えていこうというのですから。大きな改革だと思います。
医師会は“かかりつけ医”育成のための研修制度も実施
みんなの介護 医療・介護サービスを提供する側だけでなく、私たち利用者の側にもできることはありそうですね。
鈴木 病院をまるで“コンビニ”みたいに捉えて、ちょっとしたことですぐ頼ったり、タクシー代わりに救急車を使ったり、というようなことをしていては限界があるでしょう。日本型の「かゆいところに手が届く」サービスを追求することは、人手不足の中では難しくなってきます。他業種ですが「ヤマト運輸」なども最近、手厚いサービスの提供を削減しましたね。
高齢者自身も、全部介護保険にお世話になるのではなく、自立できる部分は自立していく。それは“生きがい”につながっていくことにもなりますからね。支えられるだけでなく、余力のある高齢者はむしろ支える側に回っていただく。同時に仕事と子育ての両立できる環境を整えながら、少子化対策も進めていく。そうすれば20年後、これから生まれる人たちが社会に出る頃には、もう少し次の世代につなぎやすくなっているのではないでしょうか。
みんなの介護 世界史上類を見ない速度の高齢化を経験している日本の動向は、「高齢社会の先輩国」として、特にアジア各国から注目されています。
鈴木 私自身、昨年(2016年)の11月と今年の6月に韓国へ視察に行きました。韓国の出生率は直近で1.17(※日本は1.44)ですから、日本よりも早い速度で少子化が進んでいます。韓国の高齢化率は13%台、日本は27%台。まだ韓国の方がはるかに低いのですが、それでも2060年には日本を追い抜くと言われています。
日本がうまくいったら、それを参考に高齢化対策をしていく方針である、ということを韓国ははっきりと表明しています。日本は、世界でトップの高齢国ですから、世界のお手本になるように我々も頑張らなければいけないですね。
みんなの介護 地域包括ケアシステムはそのひとつの試金石となりそうですね。
鈴木 本格的に超高齢社会が始まる2025年までに、地域包括ケアシステムを地域性に応じた形で完成させられれば、と思っています。地域包括ケアシステムを構築していくためには、900近くある郡市区医師会と行政が車の両輪になる必要があります。
特に郡市区医師会とそこに所属するかかりつけ医たちには、地域包括ケアのリーダーとして、多職種のまとめ役になっていただきたいと考えています。そのために、我々医師会は昨年の4月から「日医かかりつけ医機能研修制度」を始めました。
昨年度1年間に延べ9,391名の方が研修を受講されましたが、今年度も延べ1万人以上の先生方が研修を受けられるのではないでしょうか。日本医師会の調査では、診療所の内科医の45%、外科医の40%がこの研修を受けているというデータも出ています。今後は、かかりつけ医機能を中心的に担う医師と、眼科などの専門医療を中心に活躍する医師が緩やかに分かれていく、という状況になるのではないでしょうか。
超高齢社会に向けて、医師が介護分野のことを深く知ることが必要
みんなの介護 そもそもですが、「かかりつけ医」と聞いても漠然としたイメージしか持てないという人も多くいると思います。いったいどのような存在なのか、具体的に教えてください。
鈴木 日本医師会の定義では、かかりつけ医は「何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」とされています。
超高齢社会ですから、必要なときには介護サービスを紹介したり、認知症の方をまず診察できたり、あるいは生活支援、介護予防などと医療の整合性を取りながら全体を見ることができるのが、かかりつけ医という存在だと思うのです。
ある程度以上の年齢の医師はそれを自然と実践しているわけですが、最近新しく開業する医師の中には専門医療のみをやりたいという方も増えていますので、もう一度かかりつけ医機能を見直しましょうということで研修制度が始まったのです。
みんなの介護 高齢者の方の相談役・窓口のような役割をかかりつけ医が担っていくんですね。
鈴木 直接関わることはなくても、医師が介護分野のことをもっと深く知っておくことは今後の超高齢社会に向けて必要です。かといって、介護のことを全部把握するのでは大変なので、うまくケアマネジャーと連携していくことが大切です。今後増えてくる高齢の患者さんをできるだけ総合的に診ることができるようにする、診きれないときはきちんと専門家を紹介できる環境を整えておく、ということが大事ですね。
介護に関しては、もともと、要介護認定を受けるために必要な「主治医意見書」を書くことが医師の仕事のひとつとしてありますから、介護にまったく無関係というわけではありませんでした。これからは、現場の介護サービスにも目を向けて患者さんの相談に幅広く乗りながら、必要ならいつでもケアマネジャーを紹介できるという仕組みが回っていけばいいですね。
みんなの介護 高齢者の方が必要としている情報を一通り提供できなければならない。大変な役割ですね。
鈴木 最近話題の、「ロコモティブ・シンドローム」(※加齢や生活習慣による、運動機能の低下)や「フレイル」(※加齢によって心身の活力が低下すること)など、加齢による変化について学んでおくことはもちろん、リハビリテーションや栄養の知識、障害者に対する理解、健康寿命を延伸する取り組みなど、幅広いスキルが必要になってきます。その他には、子どもの貧困も問題になっていますから、そうしたことにも心を配る必要がありますし。
かかりつけ医の役割はますます拡大していくわけですから、先生方が高齢者医療や介護について理解し、もっと地域や社会に目を向けて実践していただけるように研修をできるだけ充実していかなければ、と考えています。
消費税、社会保険料の増加は避けられない
みんなの介護 先ほど、少し触れましたが、高齢化の進行によって日本の医療費は年々膨らむ一方です。今後ますます需要が増す医療財源を確保するには、どうすれば良いでしょうか?
鈴木 高齢化が進んでくると、避けられないことなのですが、国の医療費や介護費が増加します。それでも、1人あたりの医療費は世界の中ではまだ低く抑えられている方なのです。第一次ベビーブームの世代、第二次ベビーブームの世代と、高齢化のピークが大きく2つあって、それをどう乗り切るかが課題です。
期待したいのは「社会保障と税の一体改革」で、これは地域医療構想や地域包括ケアシステムを構築していくことと、消費税率を上げて財源を確保することがセットになったものです。消費税率10%への引き上げが2019年10月に予定されていますが、過去すでに二度延期になっています。今度こそぜひ実現していただきたいと思います。
みんなの介護 やはり、国民の負担はもう少し増えそうでしょうか。
鈴木 社会保障のメインの財源はやはり社会保険料ですから、払う余裕のある方にはもう少し負担していただきたいと考えています。特に大企業の「健保組合」や公務員の「共済組合」はまだ保険料率が中小企業・零細企業の「協会けんぽ」の10%に比べて低いのです。もう少し、そこから財源が出てくるといいと思いますし、まだやり方はあると思います。
あとは、医療費の節約ですね。同じ病気を治療するのでも、診療所や中小病院で治療するのと大病院で治療するのでは全然コストが違います。ですから、なるべくかかりつけ医機能をもつ診療所や有床診療所、中小病院での診察を促していくことが大切です。
みんなの介護 例えば、かかりつけ医を受診した場合の治療費を安くするとか…?
鈴木 そういう考え方もありますが、「誰がかかりつけ医になるか」が非常に難しいのです。日本の場合は、1人の患者に対して1人のかかりつけ医、ということが制度としては決まっていません。疾患ごとにかかりつけ医を持っている患者さんもいらっしゃいますので、1人には決められないのです。そういう意味で、医療機関の役割分担のために一番良いのは、大病院と、かかりつけ医機能を持った診療所や有床診療所、中小病院の間に差をつける、というやり方ではないでしょうか。
みんなの介護 できるだけ患者さんが地域の医療機関(診療所・有床診療所、中小病院)へ流れるように促し、大病院は“砦”として温存しておく、というイメージですね。
現行の医療保険3割自己負担は限界
鈴木 今の急性期の大病院は、ベッドの数が多いのです。軽い病気の方も診察に訪れるし、その気になれば入院することもできる。そこを、なるべく中小病院、有床診療所や在宅で診るように変えていけば“最後の砦”である大病院に余裕が生まれます。日本の医療費の半分弱は大病院で使われていますから、その大病院のベッドの数を減らすことで医療費を抑えることもできるのではないでしょうか。
例えば肺炎を診ると、中小病院なら1日あたり2~3万円で済むところが、大学病院だと8~10万円かかる。それくらい違うものなのですよ。そのへんはある程度の役割分担が必要でしょうね。脳卒中で倒れたら、治療のために一旦、大病院に入院する。その後病状が良くなって、リハビリが必要なら地域の回復期リハビリテーション病棟を有する病院に移る、という風に使い分けるのです。
みんなの介護 その他、風邪などの軽い病気で診察を受ける場合の受診料を値上げする、というアイデアも出ているようですが。
鈴木 そういうことをおっしゃる方もいますが、私は賛成しません。一見軽い病気でも、その中には重い病気の兆候が隠れているかもしれないですから。見くびらずに丁寧に診ていかなければいけないと思います。そもそも、本当に“軽い病気”だったのかということは、治るまでわからないですからね。
みんなの介護 自己負担率そのものを上げるのは好ましくない、というのが鈴木さんの見解ですか。
鈴木 現行の自己負担3割が限界でしょう。ドイツやフランスなどのヨーロッパ諸国では、むしろもっと低いです。
終末期医療は“看護の本質”を学べる神聖な現場
みんなの介護 最後に、終末期医療についても少しお話を伺いたいと思います。鈴木さんは「エーデルワイス」という緩和ケア病棟も運営されていますね。
鈴木 緩和ケア病棟はがんの末期やエイズの患者さんを対象にしています。私は昔から、病気が良くなって退院していく方と、治らない病気で、亡くなるまで入院するであろう方が一緒の病室にいる、ということに対して非常に心苦しく思っていました。
現在、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。がん患者のための病棟は必要だと思いました。実際、2年くらい前につくったところ、非常に喜ばれています。
みんなの介護 末期がんの患者さんが、できるだけ安らかに最期を迎えられるようにケアをするんですね。
鈴木 麻薬だけでなく、看護・介護の力で精神的にも癒やしを感じてもらって、できるだけ痛みもなく、心安らかに最期のときを過ごしていただけるように配慮しています。そういうケアができるのは、先進国ならではのことだと思いますよ。
「エーデルワイス病棟」には、関連の看護専門学校を卒業して3年目の学生が研修で行くことになっています。100%、亡くなることがわかっている患者さんの看護に関わることになるので、介護の本質を学ぶには大変良い機会だと思っています。
みんなの介護 “終活”という言葉も流行しました。自分の死に際について考えることが最近、関心を集めているようです。
鈴木 生き方、死に方というテーマに関しては、我々は皆、きちんと考えておくべきだと思います。“上手に生きて、上手に死ぬ”ということですが、自分がどういう死に方をしたいか考えて、自分の最期を“リビング・ウィル”として明らかにしておくことが、“上手な死に方”の条件のひとつにはあるでしょう。
最近、アドバンス・ケア・プランニング(※前もって治療について話し合っておくこと。ACP)の重要性も提唱され始めています。医療や介護、地域など、各種関係者と自分や家族が迎えたい最期を共有しておく。自宅が良いのか、施設が良いのか。延命治療はご希望されるのかなどです。
情報が共有されていれば、家族の方が近くにいなくても、医療や介護関係者が代わりに意志を汲み取ることができます。そうした“看取り”もまた、地域包括ケアシステムの重要な役割のひとつになってくると思います。
撮影:公家勇人
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