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ロバート・フェルドマン「保育士・介護士は英雄。彼らの社会的地位を認める仕組みづくりが必要」

最終更新日時 2017/04/10

ロバート・フェルドマン「保育士・介護士は英雄。彼らの社会的地位を認める仕組みづくりが必要」

テレビ番組などでも蝶ネクタイでおなじみ、エコノミストのロバート・フェルドマン氏は、1970年に初来日し、89年からは日本在住。高度経済成長期の終わりからバブル期を経て現代…と、日本経済の酸いも甘いも経験している。そんなフェルドマン氏の目には、日本の社会保障体制、ひいては介護業界はどのように見えているのだろうか?くしくも昨年12月に6年の介護生活の末に母親を亡くしたという氏の言葉には、格別の重みがあった。

文責/みんなの介護

?地方のことは地方に任せ、自由競争を活発にすべき

みんなの介護 フェルドマンさんの著書「フェルドマン博士の 日本経済最新講義」には、日本の少子化問題についての指摘があります。そこでは、問題の筆頭として保育所不足を挙げていらっしゃいました。

フェルドマン 保育ビジネスについて私は専門家ではありませんが、外側から見ていてもレギュレーション…つまり規制が多過ぎるというのは感じますよね。システムが非常に複雑で、国が認可する保育所、都道府県が認可する保育所、無認可…といろいろありますけど、形態によってぜんぜん違うのは良くないと思います。

また、役所の方は自分たちが管理するという責任感を一応は持っているはずですが、それを責任のもとにやっているのか、それとも単に管理したいのかという、その温度感が微妙…ということもありますね。誰かが管理しなきゃいけないルールだというのは当然ですが、それを言い訳とした“保育監督帝国”みたいなものが出来上がってしまっています。それが一概に悪だとは言いませんが、結果を見るとニーズに合っていないですよね。

みんなの介護 ニーズ…という観点だと、例えば料金が安い国や市町村の認可保育園にばかり需要が集まって、供給が追いつかないという現状があります。フェルドマンさんの考えに沿っていくと、国の認可制度そのものを見直さなければいけない、ということになるでしょうか。

フェルドマン 国の認可する保育所の制度を止めた方が良いと思っています。各都道府県、あるいは自治体が基準を作っても良いですし、基準を満たしているかどうかは国が決めてもいいと思いますが、結局、各地域が自分で決めて自分の事情に合った保育所を作ったらいいじゃないか、監督したらいいじゃないか、と。

みんなの介護 国ではなく地方自治に任せて、その地方ごとの多様性に合った保育所を作っていく、と。

フェルドマン というよりも、地方が監督するのですよ。規制づくりは地方に任せるということですね。今は国から補助金が出ていますが、そのお金を少なくして、もっと自由競争をさせて…そうすれば創意工夫が生まれてくるはずです。

例えば今、保育業界では労働力不足が非常に深刻ですね。今の給料では「保育士になりたい!」ということへの意欲をかき立てられないですよね。私個人としては、保育士さんは英雄だと思いますよ。決して高くない給料で、でも仕事自体はきつくて、ほとんど信念だけで厳しい状況を支えている…と考えると、本当に英雄だと思う。そんな彼・彼女らに対して社会的地位として認めてあげるような仕組みが必要だと思うのですが…。

みんなの介護 それさえも、規制が邪魔をしているのが現状である、という感じでしょうか。

フェルドマン その通りですね。

「賢人論。」第36回(前編)ロバート・フェルドマンさん「「何もしないほど得する」制度が自治体のクリエイティブを削ぐ。思考と行動を促すためのインセンティブが必要」

”苛立ちは発明の母”。自由競争のハングリーさが創意工夫の源

みんなの介護 保育業界の問題について伺った話は、同じようなことが介護業界でも起こっています。

フェルドマン 構造が似ているので、同じような問題が起きやすいという面は確かにありますね。

みんなの介護 ただ気になったのが、自治体に任せて…という点です。どこまで創意工夫を期待できるだろうか?というのは未知の部分ではないでしょうか?

フェルドマン 創意工夫は、できます。自治体でそういう創意工夫が出るかわからない、というのは、断るための言い訳でしかありません。よく「お役所仕事」と言われますが、自治体の職員も優秀ですよ。かなり厳しい試験を通ってきた人たちですから、疑いはありません。

問題なのは、彼らが「何もしないほうが楽」というインセンティブ(=動機付け)を持っていることです。例えばゲームをすることを考えてみてください。ゲームをするときは「こういうルールでやれば点数が上がる」ということをわかった上でやりますよね。裏を返せば、やらなくてもいいことはやらない。これは仕事でも同じで、「どうやって問題解決するか」ではなく「どうやって行動を取らないか」がインセンティブになってしまっている。これが問題なのです。

もちろん、そこに悪意はないと思いますよ。そういう制度になってしまっていることが問題であって、制度設計を直せば、そこに創意工夫は必ず生まれます。

みんなの介護 そうですか。ではもうひとつ、自治体に制度設計を任せると、裕福な自治体とそうでない自治体とで、サービスの質量に格差が出てしまう恐れがあります。財政的に厳しい自治体では、受けられるサービスが限定的になってしまう…とか。

フェルドマン その可能性もないわけではないですが、逆のことも考えられますよ。イギリスの作家、サミュエル・スマイルズの名著「自助論」には、“貧乏ほど考える”と書かれています。だから、お金がないところから発想が出る。“必要は発明の母”という言葉がありますが、むしろ“苛立ちは発明の母”とも言えるでしょう。

みんなの介護 「なんでできないんだ!」という苛立ちを、「やれるようにしよう!」という風に考えられるようになれば、確かにそこに発明が生まれそうですね。

フェルドマン “苛立ちは発明の母”を裏付ける一例もあります。1960年代の北九州市の話ですが、大きな公害問題がありましたよね。1900年代初頭から鉄鋼業が盛んで、そのために大気汚染がひどくなっていたんです。ぜん息を発症する子どもたちが増える一方で、その親である従業員たちは収入を鉄工所から得ているわけですから、簡単にその土地を離れるわけにもいきません。

じゃあどうするか?考えた市民たちから市民運動が発生して、そこに会社が同調して、一緒に頑張って克服していったわけです。こうした問題は、政府がしゃしゃり出ては問題解決にはなりません。あくまで個人個人が一緒になって動こうというのがポイントです。翻って今の制度を見てみると、「何か問題が起きたら、その時は国が面倒を見ますよ」というスタンスですよね。これは…

みんなの介護 アイデアの芽が出にくい制度になっている、ということですね。

フェルドマン その通りです。もしくは、頑張っても意味がない、という感じでしょうか。農業もそうですよね。JAがある限り、農家の皆さんが創意工夫をしても全く意味がない。今でこそだいぶ規制は緩和されましたが、大昔、JAが独占企業のように幅を利かせていた時代には、考える利得の低下は著しかったものです。

みんなの介護 やっても無駄、だったらやらないほうが楽…というインセンティブが働きますからね。そうではなく、「やったほうが得」というインセンティブが必要ですね。

「賢人論。」第37回(前編)ロバート・フェルドマンさん「介護士のスキルを「見える化」し市場原理の元に置くべき。そうすることでサービスが向上し被介護者とのミスマッチも減る」

情報を「見える化」することで、サービスの比較検討が可能に

みんなの介護 個人へのインセンティブを大きくして、やったほうが得、という仕組み作りをしていくと、その先には自由競争を活発化させることにつながりますよね。著書「フェルドマン博士の日本経済最新講義」では、そのために情報の見える化が大事だ、と書かれていました。

フェルドマン 実は昨年12月、私の母が亡くなりました。それまで6年くらいの間、24時間体制で介護が必要という大変な時期があったのです。家族はもちろん大きな負担になりますし、なにより一番困ったのは、どんなヘルパーさんに来てもらうか、ということ。「この人を雇ったらどうなるか」という情報が見えづらいのは大変でした。

みんなの介護 それは日本の話ですか?それともアメリカ?

フェルドマン アメリカです。

みんなの介護 確かに日本でも、介護スタッフさん個人個人の経験値やスキルなどを知る術、情報源は少ないですね。実際に介護サービスを利用して初めて知る、というのが一般的です。

フェルドマン それに加えて、要介護者本人と気が合うか合わないか、というところも大きいですね。さらに言えば、要介護者に人気があるだけでなく、その家族と気が合うかどうかも大きな要素だと思います。

そういった情報を見える化することでもいいですし、自由競争の活発化という意味で言えば、Aさんが介護サービスを提供する場合は時間あたり3000円で、Bさんは2000円です、といったように区別することだって考えられますよね。エコノミストの市場も弁護士市場も同じようにできています。

みんなの介護 それをあえて区別をつけるほうが、「スキルが上がれば給料も上がる。だから頑張る」というインセンティブが生まれるわけですね。

フェルドマン じゃあそのスキルをどう評価するのか?これは雇っている会社の役割であり、客観的な指標に基づいた評価が必要になってきます。お医者さんだって、または美容師だって、不動産のエージェントも同じ市場原理ですよね。それと何が違うのでしょう?介護士という職業を尊敬する限り、介護業界も、そうした市場原理が働くような制度にしていくべきだと思いますね。

高齢化が進んでいる地域になるほど、外国人労働者が少ない。需要と供給のバランスが取れていないのが日本社会

みんなの介護 先ほど、介護業界も制度づくりを見直して、正しい市場原理が働くようにしなければならない、というお話を伺いました。

フェルドマン 厳しい規制が新規参入を阻んでいるのが現状ですからね。

みんなの介護 新規参入が増えれば市場全体が活発化しますし。

フェルドマン 今、一番のカンフル剤は何か?と考えると、やはり給料を上げることでしょうか。

みんなの介護 消費増税による増収分を社会保障に充てるという話もありますが、それについてフェルドマンさんはどうお考えですか?

フェルドマン 反対です。なぜなら、国がお金を出すと、そもそも市場経済が動かないからです。「財源をどこから捻出するか」という問いは今の制度を前提にしているわけで、今の制度が問題を大きくしているというのが私の考えですから、今の制度を救うために増税ということは、私は二重の間違いだと思っています。

みんなの介護 では、別のところから市場が活性化するような仕組みを考えなければなりませんね。

フェルドマン 7~8年前でしょうか。とある次官クラスのトップ官僚の方に「フェルドマンさん、あなたテレビに出てるんでしょ?もっと移民を活用しよう、と言ってくださいよ」と言われたんです。その方は当時60歳前後で、おそらくご家族の介護をされていたのでしょう。

60代の方がフルの仕事をしながら90歳の人の面倒をみるのは負担が大きいですよね。だけど、それでも今のがんじがらめの制度の中では、介護の担い手も少なく、自分でやるしかない…と。そんな状況をなんとかしたいと思っておられたのでしょう。

みんなの介護 官僚の、それも次官クラスの人たちが制度を変えようという気持ちになっているのは心強いですよね。

フェルドマン 厚生労働省が公表している数字に面白いものがあります。ひとつは各都道府県の高齢化率。もうひとつは、各都道府県の外国人労働者の割合。高齢化率が一番高かったのは秋田県で、外国人労働者の割合が一番少なかったのも秋田県でした。つまりこれはどういうことかというと…。

みんなの介護 需要があるところに供給がない、ということですね。そうした地域で、外国人労働者の方にヘルパーとして働いてもらえばいい、と。

「賢人論。」第37回(中編)ロバート・フェルドマンさん「介護保険の自己負担は最低でも3割が妥当。そうならないと高齢者自身も“効率”を考えてくれない」

市場原理がしっかりと機能して競争が生まれているからこそ、北欧は社会保障体制がしっかりしている

みんなの介護 外国人ヘルパーに介護してもらうということについて、心情的な抵抗感を抱く高齢者も少なくありません。その点はどうお考えですか?

フェルドマン 最近の世論調査を見てみますと、高齢者ほどその抵抗感が強いようですね。一方で、若い人たちはその抵抗感があまりない。じゃあ外国人労働者に介護してもらいたくないという高齢者は誰にやってもらうんですか?他にいないじゃないですか。そこはもう、慣れてもらうしかないでしょう。

それに、若い人たちから徴収した税金を使ってまでわざわざ補助するということは、自分の身の回りの世話をしてもらうために、例えば保育や教育などを無視してもいいということですよね。これは私は勝手だと思いますよ。そんなわがままをまかり通していては国が成り立たなくなってしまいます。

みんなの介護 世代間の支え合いには限度がある、というのが現状です。その打開策としてごく最近の話ですが、高齢者の介護保険の自己負担額を3割に…という審議が国会で始まっています。

フェルドマン 最低水準として3割、でしょうね。自己負担が増えるほど、高齢者自身も「じゃあどうやって効率的にやるの?」ということを考えるようになります。困ったことによってそういう工夫が始まるのが、結局は一番いいのではないかと思いますね。

みんなの介護 前提として「困ったことになったら」というのが、なんとも…という感じです。諸外国をお手本にして、そもそも困る前に良い施策を打って欲しいのですが。

フェルドマン よく言われるのは北欧ですよね。例えば入院した場合の在院日数ですが、日本が国際平均の倍以上となる約23日で、最も福祉が発達していると言われるスウェーデンで約3日です。この違いこそ、市場原理がしっかりと機能して競争が生まれている証拠です。

みんなの介護 福祉に手厚いというイメージからは、入院先でも手厚く看護・介護してもらえるイメージでしたが。

フェルドマン もちろん、痛かったり調子が悪かったりしたらもっと長期間の入院でもいいんですが、仲介者が儲かるような仕組みになっていないので、基本的には「必要のないことはやらない」というスタンスですね。そう、これも“仕組み”の問題です。

北欧は確かに福祉に手厚いというイメージ通りの国々ですが、一方では非常に厳しい競争社会です。それは医療や福祉も同じことで、激しい競争があるからこそ効率的なサービスの提供を、すべての企業が意識している、ということです。

「賢人論。」第37回(中編)ロバート・フェルドマンさん「30歳は“折り返し地点”。90歳までの「老後30年間」に備え、長期的な準備をしておきましょう。まず健康管理、そして地道な貯蓄を」

いつまでも自立した生活を続けていく。そんな“良い年の取り方”をしたい

みんなの介護 フェルドマンさんは現在63歳で、あと2年で高齢者の仲間入りをされますね。ご自身の老後はどのようにイメージされているのでしょうか?

フェルドマン 具体的な計画があるか…と言われると、まだおぼろげですね。ただ、30代の頃から将来のために資産を貯めようと心には決めていました。ですから、長期的に考えて欲望的な消費はしない。車は30年間持っていません。住まいは小さなアパートです。あまり豪華な海外旅行もしません。もちろん、教育のためのお金は使いますし、寄付もします。

30歳くらいのときには、60歳前後で引退して90歳まで生きるとなれば30年間…長いよな、とにかくお金を貯めで不測の事態にも対応できるようにしなきゃな、と考えていました。で、30歳の頃に考えていた時代のことが今、現実になっていて…今は、働けてもあと15年くらいかなぁ、という感じです。

みんなの介護 80歳近くまでは働こうと考えているんですね(笑)。その後はどうするご予定ですか?

フェルドマン 具体的にはまだですが、とにかく“良い年の取り方をしたい”とは思っています。

みんなの介護 “良い年の取り方”とは、具体的にどのような?

フェルドマン 私の妻の母がお手本なんですが、彼女はいつも、頭の回転が遅くならないように色々なことをやっているんですよ。クロスワードパズルとか、数独とか。あと、大勢で並んで踊るラインダンシングもやっていますね。もう85歳になるんですが、かなり若い頃から取り組んでいるので、頭も体もシャキッとしている今の姿を見ると、本当に尊敬してしまうくらい。あんなふうに年を取れたらいいなぁ、と思っているんですよ。

みんなの介護 いわゆる介護予防ですね。それは素晴らしいです。

フェルドマン ちなみに彼女は、オレゴン州のベントに住んでいたんですが、同じオレゴン州の中のポートランドに引っ越します。ポートランドという街は小さな東京みたいな街で、民度が高く、路面電車ですけれども交通機関が発達していて、非常に住みやすい街なんです。ただ、今までずっと住んでいたベントから、誰も知っている人がいないポートランドに住むという、自立心の高さもまた、彼女を尊敬できる点なんです。それもまたすごいですよね。

みんなの介護 高齢になってから一人で引っ越し…というのは大きな決断ですよね。日本でも高齢者が都心部から地方へ移転するという動きに注目が集まっているのですが、そのお話を後編でも続けて伺いたいと思います。

日本は非常に協力的な社会。それは逆に、自立心が育ちにくい社会でもある

みんなの介護 先ほど、フェルドマンさんは「良い年の取り方をしたい」というお話をされました。そのひとつの例として挙げられた奥様のお母さんの話ですが、85歳にして、一人で誰も知っている人がいない場所に引っ越す、というのには驚きました。

フェルドマン 心身ともに衰えないように努力をする。これは尊敬すべき点だと思います。

みんなの介護 日本に置き換えると、高度経済成長期に地方から関東に移住してきたけれども、高齢者になってからまた地方に移住する、みたいな感覚でしょうか。

フェルドマン 義母が引っ越したポートランドと同じように路面電車があって、過ごしやすくて…と考えると、日本では長崎や広島、高知あたりも住みやすそうですよね。

みんなの介護 最近はあまり聞かれなくなりましたが、地方創生を推進したり、CCRC(継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)という構想があったりと、高齢者が地方でも住みやすいような仕組みづくりは行われてきました。しかし現状では、尻切れとんぼのように少し動きに翳りが見えてきた感じが否めません。

フェルドマン 私はそれが不思議でしょうがないんですよ。色んな面で日本人は賢い生き方をしていますよね。これほど住みやすい大都会はない!というくらいの東京という街を作り上げたのに、これからのこと、老後のことに関してだけは賢くない。住み慣れた場所を離れたくない、と思ってしまうような社会しかつくることができなかったのです。

みんなの介護 それにはどんな理由があるとお考えですか?

フェルドマン 日本という国は、諸外国に例を見ないくらい社会として協力的です。3.11以降の認識もありますが、「一緒になって頑張りましょう」という意識が非常に強い。“向こう三軒両隣”という良い言葉もありますが、それも良きにつけ悪しきにつけ…という感じでしょう。楽して暮らしていてもなんとかなる…という環境が“あってしまう”ので、自分で頭を働かせる自立心が育たないのではないか、と思います。

その現状に、若い人がもっと一石を投じないと、医療制度も介護制度も成り立たなくなってしまいます。CCRCのような仕組みづくりをもっと推進して、効率よく回していきましょうよ、と。

「賢人論。」第37回(後編)ロバート・フェルドマン氏「今の日本は、シルバー社会でかつ一票の格差問題もある。この社会を変えようとするならば選挙制度そのものを見直さなければ」

現状の制度では、高齢者が地方に移住したいと思えるようなインセンティブはない

みんなの介護 ということは、フェルドマンさんはCCRC構想に賛成なんですね。

フェルドマン その通りです。ただ…実現は難しいのかな?という実感があるのも事実です。

みんなの介護 その理由は?

フェルドマン ひとことで言えば、高齢者が「移住しよう」と思えるようなインセンティブ(=動機付け)がないから、です。例えばですが、高齢者に「自治体の負担が重いので引っ越していただきたい」ということを言ったら、だいたいの人が反対しますよね。そうした人たちでも動いてもらえるような仕組みができていないのです。

本来であれば、どうすれば高齢者に動いてもらえるようなインセンティブができるか…を考えなければならないのですが。「動かないんだったらそれはそれで良いけれど、自己負担が高くなりますよ」など、少し厳しめにでもしないと、若者たちのこれからの社会が成り立たないと言うことになってしまいます。

みんなの介護 いわゆるシルバーデモクラシー(高齢者の意見をより反映されやすい政治のこと)によって、高齢者に移住を勧めづらいような社会になっている側面は否めません。

フェルドマン その点については、選挙制度の改革ともあわせて触れる必要がありますね。今の制度ですと一票の格差問題があるので、基本的に地方の方は制度上有利ですよね。地方選出の国会議員からすれば、「どうやって中央のお金を自分のところに持ってくるか」ということが一番大きなポイントになります。つまり、「補助金を地元に持って帰ってきた」ということが政治です。

新潟県に行ったときの話なのですが、ホテルから市内に出るためにタクシーに乗ったところ通ったのが素晴らしい高速道路だったので、タクシーの運転手さんに聞いたんです。すると「田中角栄は素晴らしい政治家だったんですよ。こういう素晴らしい道路を作ったんですから」と言いました。おかしいですよね。それは誰のお金で作ったのか?と。

みんなの介護 角栄さんのお金ではないですね(苦笑)

フェルドマン 私たちのお金、税金です。今のインセンティブからすれば、シルバー社会ではありますし、一票の格差が大きいということですから、国会議員の人たちが高齢者向けの補助金をどうやって取ってくるのかという点に主題を置くのも致し方ないことかと思います。インセンティブを変えないといけないと考えるならば、選挙制度そのものを見直すべきではないかと思っています。

「賢人論。」第37回(後編)ロバート・フェルドマン氏「国会議員の数を減らすのではなく国会での議決権を人口に比例させるという選挙制度改革もある。大事なのは地方に主体性を持たせること」

一票の格差問題を解決するためには、「人口の数を国会での議決権に反映させる」という方法もある

みんなの介護 どのように選挙制度を見直せば、シルバーデモクラシーや一票の格差問題が解決すると思いますか?

フェルドマン やり方としてはいくつかあると思います。よく言われているのは、選挙区の数を少なくしましょうというやり方ですが、私は全く違う観点から見るべきだと思います。

今は、各地区で選出された議員が国会に行って、議会での投票権は一人一票ですね。国民には格差問題が生じているんですが、議員は平等に一人一票。その点を考え直したほうが良いのではないかと考えています。

みんなの介護 選挙区は変えなくてもよくて…

フェルドマン その選挙区から国会に出る議員の議決権を人口比例にすれば良いんじゃないか、と。実際にアメリカでも導入されている制度ではありますが、いままでの日本では成立しない制度でした。なぜそれが成り立たないのか?国会議員の方にそういう話をすると、「いやいや、私が0.3票しかなくて別の人には1.3票ある、となると『君は影響力ないよね』と対等に話せなくなるから困ります」と答えてくれたことがあります。

みんなの介護 確かに、政治家の方の間のパワーバランスは崩れそうですが、その制度には大きなメリットがありますね。どんなに人口の少ない地域でも、政界での発言力は弱いかもしれないけれど、その声を届けることはできる。

フェルドマン その通りです。そうすると、どうなるか?自分の言っていることを納得してもらうために、人口の少ない人達は創意工夫するようになりますよね。その方がむしろ正しい姿なのかな、と思います。

みんなの介護 フェルドマンさんのお話を伺っていると、個人や地方の主体性を重んじる考え方をされているのがよく伝わってきます。

フェルドマン 地方のことは地方の方が決めるほうが上手く回ります。今の制度では、国会が「地方は考えなくていい。我々が決めるから」といった感じに見えます。それはやはり良くないですよね。前編「何もしないほど得する制度が自治体のクリエイティブを削ぐ。思考と行動を促すためのインセンティブが必要」でもお話しした通り、自治体の創意工夫にはおおいに期待したいところです。そのための制度改革を、今の日本には求めたいですね。

撮影:公家勇人

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07