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太田直樹「デジタル社会の実現を阻む「三つの壁」」

最終更新日時 2021/04/12

太田直樹「教育を学校だけでなく家庭や地域へと開いていく。介護も社会へオープンに」

系統主義教育から経験主義教育にシフト

みんなの介護 新型コロナウイルスの感染拡大は日本の教育界にも多大な影響を与えました。子どもたちが満足に登校できない日々が続き、オンライン授業を受けられる子と受けられない子の間で、教育格差が生じてしまったのも事実です。太田さんは総務大臣補佐官時代、教育行政にもかかわっていたと伺っています。日本の教育界を見てどんな感想を持たれますか。

太田 コロナ禍で深刻な影響が出てしまった学校もあれば、それほど大きな影響を受けなかった学校もあったりと、学校間格差はあるようです。しかし、初等中等教育に限って言えば、パンデミックが発生する以前から、今後の教育改革につながる新たな動きが全国レベルで起きていたので、現状をそれほど深刻に捉える必要はないかなと考えます。

みんなの介護 その動きとはどんなものでしょうか。詳しく教えてください。

太田 探究型学習、アクティブラーニング、プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)などさまざまな形が生まれています。呼び名はまだ統一されていませんが、要するに自分で課題を発見して、周りの人たちと協力しながら問題を解決する能力を養う学習のことです。

教育には、大きく分けて2種類の学習法があります。先生の講義を聞いて知識を習得し、ドリルやテストで知識の正確性と応用力を身につける「系統主義教育」と、自分で問題を見つけて解決策を自力で考える「経験主義教育」です。

従来の学校教育はどちらかと言えば前者で、生徒全員が教師から系統だった知識を学び、暗記してテストに臨み、得点の高い順に難易度の高い上級学校に進学できます。生徒全員を「得点」という一つの物差しで評価するので、教育の公平性も担保されるし、生徒の評価について教師があれこれ思い悩む必要もありませんでした。そうやって正確な知識を身につけた生徒たちは、大量生産・大量消費時代にふさわしい人材として、20世紀の工業化を支えてきたのです。

21世紀に求められるのは想像力と表現力を持った人材

みんなの介護 21世紀を迎えている今、様相はどのように変化しているのでしょうか。

太田 今、求められているのは、自ら問題を発見し、それが答えのない問題であっても、自らの力で答えを導き出せる、創造力と表現力を持った人材です。そもそも、正確な知識を持っているだけの人材は、急速に技術革新が進むAIに取って代わられる恐れが大きいのです。

みんなの介護 つまりコンピュータでは代替できないユニークな能力を持った人材が求められているんですね。

太田 従来の教育だけでは、AI時代に生き残れる人材を育成することは難しいと思います。文部科学省ではタイムリーにこれについて検討を行い、2020年から順次実施されている新学習指導要領を大幅に改訂しました。先ほど紹介した探究型学習を重視する方向へ大きく舵を切ったわけです。

文科省と経産省が目指すAI時代に適合する人材育成

太田 また、文科省の動きと連動するかのように、経産省は「『未来の教室』とEdTech研究会」というプロジェクトを立ち上げ、教育改革について議論を始めています。言ってみれば、文科省は子どもを教育して人材を実社会に送り出す側であり、経産省はその子どもを人材として受け取る側です。つまり、未来型社会に適応する人材を育てたいという思いはどちらも同じ。経産省が求める「これからのAI時代にふさわしい人材像」もまた、「創造的な課題発見・解決力を持つ者」でした。

今回の教育改革に携わる文科省の課長と経産省の課長は、省庁の垣根を越えて、これからの教育を熱く語り合う間柄であったのが良かったです。コロナ禍を受けて、多くの企業が全国の小中学校に情報端末やネットワーク環境を無償で提供したのも、このお二人の尽力が大きかったと思います。

みんなの介護 なるほど。お話を伺っていると、「教育のデジタル化」の未来は明るいようですね。

太田 教員の働き方改革は依然として大きな課題ですが、学びのあり方については、いま向かっている方向やスピードは素晴らしいと思います。探究型学習についても、志の高い小中高等学校はすでに数年前から準備を進めています。その際、多くの学校が参考にしたのが、あるアメリカの公立高校が初めて探究型学習に取り組む様子が丹念に記録されている『Most Likely To Succeed』というドキュメンタリー映画でした。2015年にアメリカで公開されてから教育関係者の間で話題を呼び、世界20カ国以上で公開されているそうです。

みんなの介護 私たちの知らないところで、教育現場もさまざまなチャレンジに取り組んでいるんですね。

太田 学習指導要領最新版のまえがきを読むと、「連携する社会に開かれた教育課程を重視する」という文言が目を引きます。先ほど紹介した文科省の課長に意味するところを聞いてみると、家庭、地域、企業など学校以外の開かれた場で行われる教育を指しているのだそうです。教育分野に限らず介護などでも、「開く」ことが今後の社会を構想する際のキーワードになってくるのだと思います。

40歳を過ぎた頃から、私のイメージする葬式の様子は賑やかになりました

地方のケタ違いに面白い人たちとの出会いが人生を変えた

みんなの介護 最後に、人生100年時代の太田さんの生き方について伺います。ご自身の老後は何かイメージされていますか。

太田 私は定期的に、自分が死んだ後の葬式の様子を想像しています。最初に想像したのは、ロンドン留学から帰ってきた30代前半の頃だったでしょうか。以来、数年おきに、自分自身の葬式の様子を頭の中で思い描くようになりました。妄想と言ったほうがいいのかな。

私はもともと団体行動が苦手で、ボストンコンサルティングに在籍していた頃は、とにかく仕事しかしませんでした。そのため、若くして役員になったものの、自分自身でイメージする葬式はずいぶんさみしいものでしたね。参列者の人数はそこそこいるのですが、ほとんど喋らず、お焼香を終えるとそそくさと帰っていく。とてもクールでつまらない葬式でした。

そんな葬式のイメージが変わったのは、40歳を過ぎて、いろいろな地方で仕事をするようになってからです。地方を中心にしたプロジェクトを常時20個くらい掛け持ちしているので、さまざまな地域へ赴くのですが、その中で「世の中にはケタ違いに面白い人がいるんだ」と驚愕しましたね。ロボット開発に滅法強い農家さんや町全体を宿にして、ついには町全体で演劇までやってしまった限界集落の農家19代目でランドスケープデザイナーの人とか。とにかくあり得ないくらい変な人たちなんです。そういう人たちと出会ってからは、私のイメージする葬式で喪に服している人もほとんどいないし、最近では、葬式がほとんど音楽フェスと化していました。

みんなの介護 お葬式が賑やかになっていくのは、それだけご自身の人生を愛すべきものだと感じるようになったからではないでしょうか。

太田 どうでしょう、そうだといいんですが…。ちょっと照れますね(笑)。

撮影:丸山剛史

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
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