長谷川和夫「私が痴呆に関して調べ始めたのは約50年前。当時はもちろん、痴呆症に対する薬もなかった」
認知症の簡易知能検査として有名な“長谷川式スケール”の生みの親。長谷川和夫さんは、1974年に長谷川式スケール(HDS-R)を開発して以来、常に認知症治療の第一人者として時代を牽引してきた。現在は診療の第一線を退いてはいるものの、認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長として後進の指導にあたるなど、その活動はいまなお精力的。そんな長谷川先生に、長谷川式スケールが誕生するまでの経緯や、現代の認知症対策に重要な視点について伺った。
文責/みんなの介護
私が痴呆に関して調べ始めたのは約50年前。当時はもちろん、痴呆症に対する薬もなかった
みんなの介護 長谷川先生が精神科医になったのは20代の後半と伺いました。当時は、当然ですが「認知症」という言葉はなかったわけですよね?
長谷川 そうですね。認知症の前は痴呆症と呼ばれていて、私が取り組み出したのはその頃ですね。それ以前は、やまいだれに疑うという字を使って「癡呆」、ぎぼうと呼んでいたですね。明治時代の初期頃からかな。
みんなの介護 精神科医になってすぐから、痴呆の治療にあたっていたんですか?
長谷川 いやいや、私はてんかんを専門に診ていたんですよ。患者の多くが子どもで、一番多かったのは小学校1年生から中学3年生くらい。痙攣発作の多い病気でね、高齢になるにつれて脳自体の力も弱ってきて、痙攣を起こすだけの力がなくなっていくものですが、子どもはそうではないですからね。発作というのは前触れもなく突如として起こるわけで、発作を起こしている最中というのはずっと意識がないわけで。海水浴中に発作が起きて亡くなったりとか、悲惨な事故もありましたよ。
みんなの介護 それがなぜ、痴呆の治療にあたるようになったんですか?
長谷川 それがまた、具体的にわかりやすいきっかけでね。勤めていた病院の教授が替わったの。当時、私は東京の慈恵医大で医局長を務めていたんですが、私が師事してきた高良武久教授という人が定年で辞められて、その後任として来られたのが痴呆を専門にされていた新福尚武教授という方だったんですよ。
学会からの委託として研究費をもらっての事業だったし。今みたいに認知症学会なんて専門的な組織はなかったですよ。日本医学会とか精神神経学会とか、そうした公的な機関からの受託です。断るわけにはいかなかったし…でも不安でしたね。当時の私は、高齢者を診ることはほとんどなかったし、そもそも痴呆に関しては薬もなかった時代でしたから。50年くらい前の話ですよ。
「長谷川式スケール」といっても、始まりは私のアイデアではなかったんですよ
みんなの介護 痴呆に処方する薬がなかった時代の、症状への対処はどのようにしていたんですか?
長谷川 収容ですよ。
みんなの介護 今でいうところの拘束…ということですか?
長谷川 そうですね。症状は、今とまったく変わりません。暴言や暴力、徘徊などの症状がきつく出始めたら、施設なり病院なりに収容して、対処をしていました。そんな状況だったので、施設や病院だけでなく、在宅にもどれくらい痴呆症の人がいるのかを調べることになったんです。
みんなの介護 調べる方法があったんですか?
長谷川 ありませんよ。だからその時に、新福先生が「長谷川くん、モノサシをつくってくれ」と言われたんです。痴呆症かどうかを調べる基準をつくれ、と。でも、痴呆症というのは認知機能の衰えですよね。いわゆる知能。知能を測定するっていうのは、目に見えないんだから難しいですよね。特に高齢者というのは、長く生き抜いてきた人たちだから、取り繕うかもしれないですし。
みんなの介護 例えばヒザが痛い…とかであれば、「これだけ曲がるから大丈夫」など、目に見える対処法がありそうですが。
長谷川 痴呆症の検査では、それがないですからね。だから“基準をつくる”ということが大切だったんです。当時、痴呆症を診る医師は精神科医だったので、僕は、精神科医が診察の時に使う質問項目というのを集めてずらっと並べてみたんです。その中から精査していくつかの質問事項をピックアップして、「これができたら1点、できなかったら0点」なんていう方式のテストを作り始めたんです。だからね、「長谷川式スケール」とは言っても、指示があって始めたものだし、質問は他の精神科医が使っていたものだし…で、私自身のアイデアじゃなかったんですよね(笑)。
みんなの介護 それでも、統計を取って、学会の専門誌に発表されたのは先生ですからね。
長谷川 調査を始めたのが1967~68年くらいで、それから約5年後の1973年ですね、学会に発表したのは。もう40年以上前…と思うと、懐かしさもこみ上げてきますね(笑)。
認知症患者はこれからまだ増える。今はまだ序の口でしょう
みんなの介護 現在は高齢化率が25%を超えていますが、当時は7%ほどと聞いています。その中で痴呆症と言われていた人の割合はどの程度だったのでしょう?
長谷川 パーセンテージは昔も今も変わらないと思いますよ。高齢者の数がグンと増えた今は、だから実数は増え続けていますよね。まだまだ高齢化は進んでいくわけだから…ここからは現在進行形の話だから、「認知症」で統一しましょうか(笑)。認知症患者はまだ増える。今はまだ序の口でしょうね。
みんなの介護 昨今、その認知症患者に関連する事故や事件がニュースとして取り上げられることが多くなりました。そうした事故や事件への対策として、長谷川先生はどのようなことが大切だと思いますか?
長谷川 国としてもいろんな対策に乗り出しているけれど…重要なのは、一般の人たちの認知症に対する理解を広めるというか、啓発が大事ですよね。まずは認知症というものがどういうものなのかと知っていただくこと。
みんなの介護 具体的に、啓発の方法としてはどのようなものが考えられるでしょうか?
長谷川 日本では2005年から一般市民に認知症の講義等を行って、認知症サポーターを作っています。これに注目したイギリス、オーストラリア、カナダなどの国は、キャラバンメイトを活用したサポーターシステムを整えています。日本のシステムが国際的に高く評価されたのです。地方自治体からもいろいろと情報提供をしたり、講義したり。そういうシステムは素晴らしいし、どんどん取り入れていくべきだと思いますよ。
みんなの介護 例えばワインに含まれるポリフェノールが認知症予防に効果があるとか、エゴマ油やアマニ油が良いとか…。いろんな研究結果が発表されていますが、どうも抜本的な解決とは言えないのかな?という気もしますが。
長谷川 そうですね。確かに抜本的とは言えないかもしれないけれど、そうしたしっかりとしたエビデンスがあるデータが集まっているんだったら、やはり取り入れた方が良いですよ。
例えば高血圧や高脂血症、糖尿病、それから年を取ること…まぁ、年を取ることはどうしようもないけれど、45~50歳くらいで高血圧という人はかかりつけ医の先生に相談して、高血圧を治しておくのは良いことですよね。大切なのは、いろんな情報を活用して危険因子を除くこと。それだけは間違いなくて、どこまで真剣に認知症予防に取り組むかということだと思いますよ。
地域の人が協力しあって、支え合う交流をもつということが、改めて大切な時代になっているんです
みんなの介護 先ほど、認知症対策として何より予防への意識が大切だというお話をいただきました。
長谷川 まずは、転ばないことが大事ですよね。転んで、骨折して、それから認知症になる高齢者は本当に多いですから。例えば大腿骨転子部骨折という大腿骨の付け根を骨折するような大怪我をおってしまうと、置換手術という大手術が必要になります。
そうなると専門病院で治療することになりますが、手術をして、術後の経過をみるのに一月半くらいかかります。その後リハビリをしなくちゃいけないから、リハビリ病棟に移ってさらに1~2ヶ月だから、合計3~4ヶ月くらいは拘束することになります。
高齢者にとって、大きな手術をして痛みに耐えたり、環境がガラリと変わったりするのは本当に大きなストレスですから、それをきっかけにして認知症になる人が多い。だから、転ばないように気をつけるっていうのが、まずとても大事になるんです。
みんなの介護 ということは、まず転ばないようにするための体力づくりや運動習慣が大切になりますね。
長谷川 そうですね。週に2~3回、いや1回でも良いです。その代わり、大股に歩くことを意識したり、あとは“ながら”の動作を意識すること。しりとりをしながら歩くとか、歌いながら歩くとか。運動とともに脳に刺激を与えるというのは非常に重要で、例えば麻雀や囲碁将棋、トランプなんかも良いですね。
みんなの介護 そうした遊びなんかは多人数でやることが前提になるので、そうした交流もまた、認知症予防に良さそうですね。
長谷川 そう。交流を活発にするということは非常に大切。一人暮らしだと人との交流がなくなりがちですが、寄り合いがあったときに出かけるとか、外に出て空気にあたるとかいうことは、簡単にできる非常に大切なことですね。
みんなの介護 今日は、先生が名誉センター長を務めておられる「認知症介護研究・研修東京センター」に伺わせていただきました。その敷地内では健康教室が開催されているなど、たくさんの高齢者と、支援する人たちが和気あいあいとされている光景に心が和みました。
長谷川 近所力とでも言うんでしょうか。昔で言うと、隣組というのがありましたよね。戦時中なんかは、焼夷弾が落とされたらみんなでバケツリレーをして水をかけて日を消し止めるっていう。地域の人が協力しあって、支え合う交流をもつということが、改めて大切な時代になっているんですよ。
認知症患者を地域で見守るには、感情的な交流をもつことが大切
長谷川 地域の見守りといっても、上辺だけのことじゃダメですよ。「こんにちは。どうですか、お元気でやっていますか?」「あぁ、元気でやっています」「そうですか。それではお大事にね。何かあったら言ってください」。それで別れちゃったりしたらダメ。
みんなの介護 そこまで他人の生活に入り込む形での“見守り”というのは、あまり聞かないですね。
長谷川 例えばですが、家に行って冷蔵庫を見てみたら、やたらトマトばっかりあったり。和室に行ってみたら畳に水気があったり…と、それはもうオシッコじゃないかと。そんなこともあるわけです。
それでね、話をするわけです。「お医者さんには行っていますか?」「ええ、もうちょっと角を曲がって左に行くと、かかりつけのお医者さんがいますから、2週間に1回はお薬をもらいにいっています」「あぁ。それはよかった」…って、そこで終わってはダメなんです。
みんなの介護 もう一歩踏み込んだコミュニティの形成が必要、ということですね。
長谷川 一人で病院に行くときなんて、よそ行きの格好をして、よそ行きの受け答えをするものですからね。お医者さんに「どうだい?」って聞かれても、「元気でおります、先生のお薬もちゃんと飲んでますから」って。そうじゃなくて、普段の生活を知っている人がついていって、日常生活をしっかり見て、医師に報告する人が必要ですよね。
みんなの介護 難しいですね…。関東圏、特に東京都心などは、そうしたコミュニティが希薄になっているのが現代社会の象徴です。
長谷川 私は徹底したアナログ人間でコンピューターは使ってないんですが、やっぱりコンピューターが発達してから人間関係が希薄になってきましたよね。
みんなの介護 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が発達した今、ネット上でのメッセージのやり取りが盛んになって、それで満足感を得ている人も多いと思いますが、それではやはりダメですね。
長谷川 そりゃそうですよ。だって、人と人とが会って、話をして、コミュニケーションを取るというのは、ただ単語を羅列して情報を交換するわけじゃなくて、その時の雰囲気や空気感を感じられるじゃないですか。情感…とでも言いましょうか。感情的な交流という人間にとってとても大切なことは、やはりコンピューターでは十分にわからないことがありますから。
介護者のフォローは「大変だね」と共感するだけじゃダメ。介護していることを褒めてあげなきゃ
みんなの介護 先生はもう、診察の第一線からは退いていらっしゃると伺いましたが、実際に診察されていたときは、どのようなスタイルだったのでしょう?
長谷川 私はね、診察の時は認知症の人と、家族も同席してもらうようにしていたんですよ。別々に診察するという話も聞くんですけど。だって、家族は本人の前では言いにくいってこともありますから。
だけど、やっぱり認知症の人っていうのはすごく敏感で。医者と家族だけで話をしていると、診察室の外にいる患者さんは「あ、今は医者と二人で、何を相談しているんだろう。おれをどこかの病院に入れる相談をしているのかもしれない」なんてピーンとくるんですよ。それくらい、すごくセンシティブ。だから、それはやめて、一緒に話すようにしていましたね。
みんなの介護 でも、家族の方は先生と2人で話をしたい、相談したいということもありそうですが。
長谷川 確かに、家族の介護の大変さは、壮絶ですよね。特に大変だと思うのは、大便の失禁。便を失禁すると全部とりかえないといけないですよね。身体を洗ってあげて、新しい寝巻きを着せて、シーツも新しくして。本人は「とても気持ち良くなった。ありがとうね」なんて言って、すぐ寝ちゃうんだけど、家族はもう眠れないですよ。そうした家族のしんどさは、医者でも、例えばデイサービスの職員でも一緒で、他人にははかり知れない辛さがあるものです。
みんなの介護 そうした家族のフォローなんかは、どのようにされるんですか?
長谷川 私はね、褒めるようにしているんですよ。
みんなの介護 褒める…?
長谷川 そう、褒める。「大変ですね」って共感や同情するだけじゃなくて、その後に、褒める。「あなたはよくやっていますね。えらいですよ」って。介護って、誰も褒めてくれないですから。
みんなの介護 人間、何歳になっても褒められたら嬉しいですよね。嬉しいし、また頑張ろうかなっていう気になるものなんですね。
長谷川 例えば老々介護の家庭を例にしてみましょうか。旦那さんが認知症で、奥さんが一人で介護をしています、と。奥さんが認知症介護をしているうちにうつ状態になってしまうような場合は、間違いなく奥さんに対するフォローが足りないんですよ。介護は誰も褒めてくれないから、誰かが褒めてあげなきゃ。
学校でテストや通信簿をもらうじゃないですか。そこに、点数だけじゃなくて「よく出来ました」って書かれていたら嬉しいですよね。それと同じ。そういう記憶というか、なんて言うか子どもっぽさみたいなものが、何歳になっても人間にはあるんじゃないかな?と思うんですよ。
認知症患者の介護で大切なのは、本人を焦らせたり、不安を助長するようなことをしないこと
みんなの介護 先生は今、「認知症介護研究・研修東京センター」の名誉センター長という立場で、後進の方の育成に力を入れているそうですね。心がけている教え方などはあるのでしょうか?
長谷川 まずね、「認知症の人の立場に立って、考えてみるということを第一にしなさい」ということですね。認知症だからと言って、僕らと同じ人格を持った主体であるということ、同じ人間であるということを忘れないで対応しなさい、ということですね。
多くの介護職員が陥りがちなことに、「認知症の患者さんが何か特異な行動をしていると、何かを言わなきゃいけない」という気持ちになることなんです。そうではなくて、「聞く」ということを大事にしなければいけません。それも、「今日の気分は良いですか?」などという「良いです」「良くないです」なんて二択で答えられるような聞き方ではなくて、「今日の気分はどうですか?」という聞き方でないとダメ。
みんなの介護 具体的な言葉を引き出させる、ということですね。
長谷川 そうですね。そして、「あなたの目の前に座っているお年寄りは、あなたが思っているのと全然違ったことを思ってらっしゃるかもしれないよ。ニコニコ笑っているように感じるかもしれないけれど、実は不安でいっぱいで、これからオレはどうなるんだろうかとか、この人オレをどうしようとしているんだろうかとか、ここにいていいんだろうかとか、不安でいっぱいなんだよ」ということを話します。
自分よりも2倍も3倍も長生きしてきた人の前に座っているんだから、その人が今まで培ってきた、その人しか持っていないヒストリーを大切にしなきゃいけませんよね。その人と同じヒストリーを持っている人は一人もいないんだから、とても大切な自分というものを持っていらっしゃる“ユニークな存在”なんだから、そういうことを認識しなければならない。介護職員の方には「あなた自身も、自分をユニークな存在だと思っていると思うけれども、それはお年寄りも同じなんだよ」ということですね。
みんなの介護 介護をするときの意識の持ち方についてはわかりました。では、介護の方法として具体的な事例を挙げていただけますか?
長谷川 患者さんがしていることを中断してはいけない、ということですね。とかく、認知症の人が何かをしていると「それは後にして、ちょっとこっちへ来てください」なんてことを言いがちなんですが、それはしてはダメ。例えば、通院の時間だったとしても、それはきちんと説明してから行くようにしなさい、と。焦らせたり、不安を助長したりするようなことをするのは絶対にダメですね。
これからは日本の介護技術を輸出する時代。どのように日本が世界の介護をリードするのか見守りたい
みんなの介護 要介護者のことを尊重して、その人らしい生き方をサポートする。そうした観点に立てば、確かにそうだよな…と納得できる一方で、介護職員の方が日々の忙しい業務の中で、そうした原点に立ち返るのもまた、難しい面があるとも思います。
長谷川 介護施設での虐待のニュースなんかを目にすると、確かに現実的に考えたら難しい面もあるかもしれませんね。グループホームなんかでは、9人の1ユニットを日中は4~5人でみていたとしても、夜間は1人だったりしますからね。それは壮絶なくらい大変な仕事だと思いますよ。
夜中に1人で待機しているときに、1人が歩き回っていて、もう1人の排泄の処理をしなきゃいけなくて…なんて事態になったら、原則を頭で理解できていたとしても、そんなものは吹き飛んでしまいますよね。
みんなの介護 何か良い対策はないでしょうか…。
長谷川 根本的な解決を見ようとするなら、やっぱり介護職員の待遇を良くして、現場の人員を確保しなければいけないでしょうね。考えてみてくださいよ。例えば初任給が20万円だったとしても、今のシステムでは大きな昇給が望めないんですよ。独身だったらまだ良いかもしれないけれど、結婚して、子どもができて…となったら、生活が苦しくなるのは目に見えてしまう。となれば、介護職は辞めて他の仕事を…となって、現場の人手が足りなくなってしまう。
みんなの介護 そうすると、介護施設が要介護者を受け入れる余裕がなくなって、在宅介護の家庭が増える。在宅で介護をするために、家族が仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」が増える…という、まさに悪循環のケースが増えているのが現代社会です。
長谷川 安倍総理がね、「介護離職をゼロにする」と公言しましたよね。そんなに上手くいくかね…と半信半疑ながら、僕としては、日本の総理大臣が介護について言及したということだけでも良いことだと思っていますよ。なんたって、歴代の総理大臣で初めてのことですからね。
みんなの介護 安倍総理が、歴代の総理大臣の中で介護に言及した初めての人…そういえば、そうですね。
長谷川 一昨年の話になりますが、東京で認知症サミット会議がありましたよね。その委員会から、僕にも出席してくれという要請があったんですが、その席で、この耳で聞きましたからね。諸外国からも多くの人が出席したサミットという公的な場所での発言だったから、それは本当に意義のあることでしたよ。
みんなの介護 実行が伴うかというのは先の話になるとしても、国としての姿勢は見えたということですよね。
長谷川 認知症対策については、世界が日本を注目していますからね。なんたって、日本は世界中の最長寿国なんですから、認知症の人が一番多いということ。マラソンで言えばトップを走っているわけで、トップを走っているときは、カメラマンがやっぱり追いかけるわけですよ。日本はこれからどうするんだ?ってね。
ことに、注目しているのは東南アジアでしょうね。フィリピン、インドネシア、カンボジアなどは日本より高齢化のスピードが早いんですから。
みんなの介護 東南アジアの国々からは、EPA(経済連携協定)を利用して、日本の介護を学ぶべく来日する人も多いですね。
長谷川 それはひとつ良いことだと思いますが、やはり日本語というハードルが高いですよ。介護福祉士の試験で「褥瘡」なんて漢字が出たら、向こうの人だって困っちゃいますよね。だから僕が考えるのは、日本から東南アジアに出向いて、日本人が講義をしてあげれば良いということなんです。
現地の方々は、日本人講師から技術を学んで、現地の試験を受ければ良い。こちらは現地の言葉を話せなくても、同時通訳でもなんでも雇えば良いですよ。これはそんなに難しいことではないでしょう。これからは、日本の介護技術を輸出する時代ですよ。日本が先頭を切って世界の介護をリードする。その成り行きには、私も注目しています。
撮影:鈴木英隆
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