いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915

小黒一正「今の介護はある意味“負のコーディネイト”になってしまっている。その定義から変えたいんです」

最終更新日時 2016/03/31

小黒一正「今の介護はある意味“負のコーディネイト”になってしまっている。その定義から変えたいんです」

元大蔵省(現財務省)官僚にして、法政大学経済学部教授。公共経済学を専門とする小黒一正氏は今、世代間衡平や財政・社会保障を中心に研究を進める中で、財務省主催の「財務総合政策研究所」で「持続可能な介護に関する研究会」の研究員としても活躍した。そんな小黒氏が提唱する「地域包括ケア・コンパクトシティ構想」の詳細について伺った。

文責/みんなの介護

「地域包括ケア・コンパクトシティ」で、死ぬまでのライフスタイルをコーディネートする

みんなの介護 小黒さんは、財務省が主催していた「持続可能な介護に関する研究会」のメンバーとしてもご活躍でしたね。どうして介護に興味を持ったんですか?

小黒 噛み砕いて言うと…もう少し年月が経って、我々の世代が老人ホームへの入居を考える時に、もう少しグレードアップして欲しいな、という思いがあったからです。もちろん、今、介護業界で頑張っておられる方も、真剣に問題に立ち向かっているとは思うんですが、もう一段階上のステップに行けるんじゃないか?と。

みんなの介護 それは、設備とか居心地…とかの面の話でしょうか?

小黒 狭義ではそれもありますが、もう少し広く考えて、「定義を変える」という感じでしょうか。今の介護ですと、介護が必要になった高齢者をいかにして面倒をみていくか…という、ある意味で“負のコーディネート”みたいになっていますが、その逆を考えたいんです。極論でいうと、財産などいろんなものを含めて、最期の最期、死ぬまでのライフスタイルをトータル・コーディネートする、という感じですね。

みんなの介護 それが、提唱されている「地域包括ケア・コンパクトシティ」なんですね。そうした住まいだったら小黒さん自身も入りたい、と。

小黒 長寿化はどんどん進んでいて、老後の時間は本当に長くなりましたよね、昔に比べて。その残った時間全体を含めて「元気なとき」「元気じゃないとき」を交互に繰り返したりするのは間違いないわけで、だからこそ生活全体のバリューを上げることを考えなければならないと思うんです。

私が今、一番注目しているのが、九州・中間市のウエルパークヒルズというコンパクトシティで、特養や老健、ケアハウス、病院が立ち並んでいて、有料老人ホームもあり、スーパーやアミューズメント施設、スーパー銭湯があって、近くに映画館もある。これらが、中心から徒歩5分圏内にあるんですよ。これが目指すべき形に一番近いような気がしています。

みんなの介護 近い…というと、これが理想というわけではないんですか?

小黒 そうですね。足りないものがいくつかあって…最も大きなものは、全体をコーディネートする司令塔のような人でしょうか。こうした取り組みを行うにあたって問題になってくるのが、それぞれを管理する所管がバラバラだということなんです。厚生労働省ひとつをとっても、介護を担っている局と医療を担っている局が違いますし。ですから、そうしたものをひっくるめて、全体をコーディネートする人がいないと成功しづらいと思います。

「賢人論。」第11回(前編)小黒一正さんは「土地が余っている地方部でコンパクトシティ構想を推めることは理に適っていると思う」と語る

コンパクトシティ構想を推めるうえでは、エリアマネジメントをできる人材が不可欠

みんなの介護 この中間市のコンパクトシティは、民間の社会福祉法人の主導で行われているんですよね。

小黒 そうですね。構想から20年以上かけて、ようやく今の形になってきました。もともとは更地で、住所すらない場所だったことを考えれば、コツコツと積み上げてきたことに敬意を表したいくらいです。

みんなの介護 今、世間的には「地方創生」や「日本版CCRC」といった言葉が取り沙汰されていますが、これは国としての考え方ですよね?であれば、国主導の施策として推めていくものにはならないのでしょうか?

小黒 そうではなくて、国としては環境を整備するだけにとどめた方が良いんですよ。国がやろうとしても、さっき言ったように所管が大きすぎて統制が取れませんから。また、自治体レベルでやろうとしても、役所の人間はだいたい3年とか5年とかの任期で異動があるので、長期にわたって取りまとめてくれる人材を確保できないんです。

コンパクトシティ構想を推めていくためには、全体をコーディネートできる人、エリア単位でマネジメントできる人が必要になってくるので、地域包括ケアとあわせて街づくりを引っ張っていってくれる人材が、民間に必要になってくるんです。

みんなの介護 そういうことなんですね。それにしても、こうした中間市での取り組みのようなものが全国的に広まっていけば、言葉だけじゃなくて現実味を帯びてくるように思います。

小黒 今、注力されている地域包括ケアにしても、地方部に行けば、車で30分くらいかかるようなところでさえ、「地域でケアしましょう」となっていますよね。これはやはり非現実的で、介護に関わる人材が不足する中で、そんな移動距離をみて回るということにも限界があるでしょう。それでも頑張ってやっていこうと思っている人でも、頑張りすぎて疲弊していくのは目に見えています。

中間市の他に岐阜市では、岐阜駅の駅ビル「岐阜シティ・タワー43」でコンパクトシティを目指す施策が進んでいますし、流れとしては向いてきている気はします。ただし、無理して都市部などに作る必要はなくて、地方発信で良いと思います。

特に地方部などでは、今でもショッピングモールが続々とできるじゃないですか。あれは、土地が余っているからであって、そうした土地を有効活用するための施策としても、コンパクトシティ構想を推めていくことは理に適っていると思います。

「賢人論。」第11回(前編)小黒一正さんは「介護の予算を集約化することでもっと質の高いサービスを提供できるようになる」と語る

国の財政を長期的に考えると、地域包括ケアは確かにマッチしている

みんなの介護 そもそも地域包括ケアというのは、財政的な施策の一環でもありますよね。社会保障財源をいかに抑制するかという観点も重視されてきました。

小黒 介護にかかるお金、つまり国が面倒を見る範囲を小さくしたいという考えは、確かにありますよね。「これまでは国が面倒を見ていましたが、これからはご自宅で」と。はっきり言ってしまえば丸投げになりますが、ともあれそちらの方向に舵を切ったわけです。

みんなの介護 それにしては、在宅介護を支えるためのデイサービスの介護報酬を大幅に引き下げたりと、言っていることとやっていることにちぐはぐな感じがするのは拭えませんが…。

小黒 丸投げ…というと言葉にトゲが出てしまいますが、業務の丸投げと予算の丸投げとに分けて考えなければならなくて。予算的なところで言うと、切り離せるところは切り離していこう、という感じですね。

長期的な視野に立ったときの過渡期が今である、と考えてはいかがでしょうか。2025年になると介護にかかる予算が倍になると予測されている今、その伸びを少しでも抑えたいと、財務省は考えています。これは医療も同じで、現在が約40兆円となっていますが、2025年には55兆円くらいにまでなると言われています。そうした中で、国の統制から切り離せるところは切り離していきたい、リスク管理をきちんとしていきたいという考え方の上で、介護報酬、医療報酬の予算について考えているんだと思います。

みんなの介護 そうした考え方と地域包括ケアというのは、確かにマッチしているように思います。

小黒 そうですね。切り離す…というとまた語弊があるので、集約化するメリットがある、と言い換えましょうか。「同じ額の予算でも、地域の実情に応じて集約化することでもっと質の高いサービスを提供することができるようになる」と。

例えば、介護施設に入るだけ…と考えると、距離的な意味でのコミュニティって、その施設以外の行動範囲を考えづらいですよね。自分の老後について考えてみてください。年老いて、体を動かすのがおっくうになったとしても、地域包括ケアの中で、コンパクトシティの中でだったら、外出したくなると思いませんか?

みんなの介護 確かにそうですね。なんだか介護に対する概念が変わる…それが、最初に小黒先生がおっしゃった「ある意味で、介護が負のコーディネートなっている、その逆を考えたい」ということなんですね。

小黒 その通りです。地域包括ケアとコンパクトシティ構想をセットで考えると、介護というものの考え方、もっと言うと定義さえも、ずいぶんと変わってくると思いますし、変えたいと思っているんです。

地域包括ケアシステムは、厚生労働省や国土交通省が具体的な“絵”を公表しないと市民の理解を得られない

みんなの介護 先ほど小黒さんが力を入れてらっしゃる「地域包括ケア・コンパクトシティ」構想についてのお話をいただきました。では、こうした取り組みが広まっていくためには、どうしたら良いと思いますか?

小黒 簡単に言うと「ワクワク感」だと思うんですよね。こういうのって文章にしても伝わりづらいですし、最初に立案する人…例えば厚生労働省でも国土交通省でも良いんですけど、そもそもイメージがはっきりしていないのでは?と思うんです。具体的な絵を見せるとか、動画を作って公表するとかしないと、一般市民の理解を得るのはなかなか難しいと思います。

みんなの介護 映画やテレビドラマなんかを作ったら面白く観られそうですよね。

小黒 良いと思いますよ。過去を振り返ると、軽井沢だって昔は全然おしゃれな街なんかじゃなかったですからね。メディアの力に拠るところがかなり大きいと思います。例えば熱海とか別府とか、温泉が湧いているようなところなんか、これからは面白そうですよね。東京都心部からだったら、那須塩原とかも良さそうですよね。リニアが開通すれば、東京と名古屋圏の街のアクセスも良くなりますし。

そうした街に「老後はここに住みたいなぁ」というイメージを植え付けることができれば、必然的に人が移住するんじゃないかな?と。

これは退職した方に聞いた話なんですが、退職者というのはだいたい2つの階層に分かれるらしいんですよ。ひとつは、時間つぶしのため、朝から喫茶店などに通う人たち。もうひとつは公園などに通う人たち。

みんなの介護 なんとなくわかるような気がします。お金に余裕のある人たちと、そうでもない人たち…という感じでしょうか。

小黒 その通りです。喫茶店…例えばドトールなどの割りと安価な店に通ったとしても、1日200円くらいはかかって、それがひと月となると結構な金額になりますよね。国民年金で暮らしている方には厳しい出費ですよね。

一方で、朝から公園に行ってラジオ体操をしたり、太極拳をしたり。あまりコストをかけずに楽しめる環境で生活しているわけです。そういう意味で言うと、前編でお話しした中間市の事例というよりは、私の理想としては、農作業をする場所があって、緑に囲まれた公園があって、ベンチに座っておしゃべりして…という感じなんです。

みんなの介護 のんびりと過ごせそうで、とても魅力的です。

小黒 一生を24時間で考えると、リタイアするのは夜の6時くらいらしいんですよ。20歳くらいが朝6時、午前中が終わる12時がちょうど40歳くらいで、そこからまだ6時間位働いて夕方になる。で、60歳くらい。人生が80年と考えると、それから20年間、つまり夜6時以降なんて一番楽しい時間じゃないですか。仕事も終わって、さぁこれから何をしよう!?って。

生まれてから深夜から早朝は周りも真っ暗で何もわからなくて、朝がきて学生生活が始まって、昼になって働いて、働いて働きずくめで、それが終わってようやく本当に自分がやりたいことができるときになったのに、その時期を楽しまないで、私は死にたくないんです。

「賢人論。」第11回(中編)小黒一正さんは「今の時代に大切なのはフローじゃなくてストック。資産をつくっていうという発想がなければ超高齢社会を乗り切れない」と語る

これからの社会では、「街」というストックの資産を形成することを重視する必要性がある

みんなの介護 こうした「地域包括ケア・コンパクトシティ構想」を実現するためには、国としても大きな予算が必要になってくるのではないでしょうか?

小黒 確かに、それはそうでしょうね。でも、社会保障全体で見ると、社会保障のお金ってものすごいたくさんあるんですよ。今で110兆円くらいある…そのうちのたった1%を「地域包括ケア・コンパクトシティ」の実現に回すだけで毎年1兆円、5年で5兆円もの予算を確保することができると考えたら、十分にいろんなことができるでしょう。要は、社会保障費の資源配分をちょっと変えるだけでいろんなことができるんじゃないか?という提案をしたいんです。

みんなの介護 理に適っていると思いますが…それができない理由は?

小黒 お役所は縦割りだから。

みんなの介護 なんだか、その弊害をいろんなところで耳にします。

小黒 ただ、そうした弊害があったとしても、きちんと考えなければならないことがあります。それが、フローとストックという考え方ですね。

人口が減少していくことが確実な高齢化していく社会は、ストックを重視しなければならないんです。一般企業で言うと、PL(損益計算書) とBS(貸借対照表)というものがあって、人口減少や高齢化で重視しなければならないのがBSの方。

みんなの介護 PLは「ある一定期間における経営成績を表す財務諸表」、BSは「ある一定時点での財政状態を表す財務諸表」という認識で良いでしょうか?

小黒 その通りです。例えば100人の人口が50年かけて半分の50人になると仮定しましょう。その場合、流通させるお金、つまりフローを重視するのではなく、その50年の間にどれだけの資産や貯蓄、つまりストックできるかということをしっかり考えなければなりません。だけど今の状態は、その発想がまったくない。しっかりした資産をつくっていくという発想をしなければ、これからの超高齢社会を乗り切ることはできないと思います。

みんなの介護 その資産というのが、小黒さんが提案する「地域包括ケア・コンパクトシティ」であり、それを実現する街、ということですね。

小黒 そういうことです。例えばCCRCなんかは、以前の総務大臣でもある増田寛也さんもやった方が良いと仰っているんですが、なかなか上手くいかなくて。やっぱり一番重要なのはまちづくりみたいなものであって、全体をコーディネートする意志をもって、何年間もやり続けないと。10年、20年のスパンで、ストックをいかにつくっていくかを考えなければならないですよね。

「賢人論。」第11回(中編)小黒一正さんは「「地域包括ケアマネジメント学」のようなものが生まれれば街づくりをマネジメントできる人材を育てられると思う」と語る

“地域包括ケアマネジメント学”のような、教育から変えていく必要がある

小黒 冒頭でもお話しした通り、結局は人材が重要というところに落ち着くんですよね。実は今、何人かの共著という形で本を執筆しているんですが、その中でも、“地域包括ケア運営法人(仮称)”というキーワードについて触れています。

みんなの介護 “地域包括ケア運営法人”…というと、耳慣れない言葉ですが。

小黒 地域包括ケア・コンパクトシティを形成するためには、多職種の人が連携しないとダメ。建物を管理する人はもちろん、医療、介護、商業施設…と様々な職業の人に加えて、その街の人たちがいます。そうしたコミュニティの司令塔になる人が大事で。

例えばですが、これも前編でお話しした岐阜県の駅ビルをコンパクトシティ化する事例ですが、施設の一部には高級ホテルのような仕様になっているエリアがあります。一泊あたりの料金も高いんですが、一方でそれ以外の施設の方は利用しやすい料金設定になっている。これがどういうことかと言うと、どちらかが赤字でも、他方で黒字化できれば相殺できる、ということ。ビル単位じゃなくても、街単位で全体を見て収益化できるようにコーディネートすれば良いわけで、そのマネジメントする人材が重要になってくるんです。

みんなの介護 その器づくりというか、環境の整備を国がすれば良いわけですね。

小黒 その通りです。こうしたマネジメントをしていくためにはプラットフォームが重要になってきます。多職種間の連絡会議のようなものもちゃんと制度化させるなど、民間が動きやすいような環境を整備してあげるのは国の仕事ということになるでしょうね。

あとは、自治体レベルの先導役も大事なんですが…もっと長期的に見ると、そうした人材を育てるための大学などの組織体も必要になるかもしれませんね。“地域包括ケアマネジメント学”のようなものが生まれれば、また状況は明るくなっていくのではないでしょうか。

“町医者”のような人が率先することが、コンパクトシティのプラットフォームづくりに寄与する

みんなの介護 ここまで地域包括ケア・コンパクトシティ構想についてお話を伺いました。素晴らしい理念からなる構想とは思いますが、その土台を作り上げるのは、今の社会では課題も多そうな印象があります。

小黒 プラットフォームを作るのは、確かに容易ではないでしょうが、これは海外にも前例があって。オランダでは、エリアマネジメントをする人と、医師や介護士などが意見を交換する場をきちんと設けています。そこには当然、一般市民も入って、抱えている問題について話し合う。「ここをこうしたら、もっと良くなるんじゃないか?」って。

みんなの介護 特に医師と介護士など、そうした多職種の人が意見をすり合わせる…ということ自体のハードルが高いという話も聞きますが。

小黒 オランダでは、医師が司令塔になっているケースが多いようですね。それは、具合が悪くなったときに単発的に診てくれるような医師ではなく、ホームドクター、つまりかかりつけ医です。そうしたかかりつけ医というのは、患者本人だけでなく家族の状況も把握していますから、「患者の状態がどうだ」「家族の状況はこうだから、患者の容態がここまでいったら介護が必要になる」といったこともわかっている。そうした人が司令塔として機能していれば、適切な指示を出すことができますよね。

日本は今、だんだんと専門化が進んでいて、機関ごとに分かれてしまっているのが良くないですね。いわゆる“町医者”のような人が率先することが、プラットフォームづくりに寄与すると思うんですが。

みんなの介護 状況を取りまとめるだけでも、苦労が多そうですね。

小黒 だからこそ、エリアマネジメントという専門業種を成り立たせることに、大きな価値が考えられますよね。海外では、そうした職種の人に、地価が上がったら報酬を出すというケースもあるんですよ。固定資産税の収入が上がったら、その一部をエリアマネジャーに還元するんです。そういうファンドも組まれているくらいですから、考え方として発達していますよね。

ここで見失ってはいけないのは、それを何のためにやるのか?という原点に還ること。確かにプラットフォーム作りは大切ですし、そこにはビジネス的な観点も生まれてくるでしょう。でも、何より考えなくてはいけないのは、医療・介護サービスを受けている人の満足度を高めること、クオリティを上げること。データベースをしっかり管理するなど、きちんと効果をあげること、そして持続していける形をとることというのが前提になりますね。

「賢人論。」第11回(後編)小黒一正さんは「介護士の仕事は、「高齢者の生活の質を 高めることがコアなんだ」ということを意識しないと」と語る

重要なのは、環境変化に応じて自らのコアの価値観を再定義し、新たな使命をもつカンパニーだと自覚できるかどうか

みんなの介護 制度化の進め方についてはわかりました。とはいえ、そうした考え方から変えていくことも、なかなか難しいのでは…という感じもしますが、いかがでしょうか?

小黒 どんなことだって、またいつの時代も、イノベーションを起こすのは簡単なことではありませんよね。つい最近まで、NHKの朝の連続テレビ小説で『あさが来た』という番組をやっていましたよね。女性が表舞台に出ることがなかった江戸時代に、経営者として銀行や生命保険会社、女子大学を日本で初めてつくった女性の物語ですが、あの時代に、“女なんて…”という先入観を壊して推し進めたのは、相当な苦労だったと思います。

でも、未来が見えていれば、たぶん大丈夫なんですよ。明治維新だって、未来が見えている人が出てきたらから成立したんでしょうし、自動車が普及した時だって、「アメリカでこんな技術が出来たらしい。日本でも出来るはずだ」って、未来をはっきり想像した人がいたんですよ。最初のうちは、多くの人が「そんなの無理だよ」って言ったかもしれないですけど、チャレンジすれば出来るんです。

みんなの介護 社会的に広まっている先入観を取り払うのは並大抵のことではないですが、チャレンジせずに「無理だ」というのも良くないですよね。

小黒 企業が倒産するという場合でも、そうした価値観を変えられなかったということが多いと思います。例えばですが、世界的に有名なIBMという企業がありますよね。あの会社は、コンピューターを作る会社として成長を遂げてきたわけですが、今やコンサルティングの企業へと生まれ変わっているじゃないですか。環境変化に応じて自らのコアの価値観を再定義し、新たな使命をもつカンパニーだと自覚できるかどうかは、けっこう重要だと思うんですね。

みんなの介護 IBMが上手くいった事例だとして…介護事業者はどうすれば良いでしょう?

小黒 介護士の仕事も、基本的には肉体的な重労働ですよね。そうした状態が続いて、「高齢者のお世話だけしていれば良いんだ」みたいな考え方になってしまうとマズイですよね。そうではなく、各個人の人生をもっと質が高いものにコンサルティングして、変えていくということがコアなんだ、ということを意識しないと。

その中の、あくまでひとつの要素が介護である、というように考えてはいかがでしょうか。その周辺にライフコンサルティングやマネープランニングがあって、亡くなった後の相続対策などもあって、生活全般を設計していくわけです。で、そうした個人を超えた瞬間に、今度は地域に目が向いて、街づくり、エリアマネジメントへ…というように世界が広がっていくんだと思います。

撮影:伊原正浩

関連記事
医師・医療ジャーナリスト森田豊氏「認知症になった母への懺悔 医師である僕が後悔する『あの日』のこと」
医師・医療ジャーナリスト森田豊氏「認知症になった母への懺悔 医師である僕が後悔する『あの日』のこと」

森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
【まずはLINE登録】
希望に合った施設をご紹介!