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河野和彦「認知症は根治ができなくても、ご家族が「昔のこの人に戻った」とおっしゃるレベルまで症状を改善することは可能です」

最終更新日時 2018/10/22

河野和彦「認知症は根治ができなくても、ご家族が「昔のこの人に戻った」とおっしゃるレベルまで症状を改善することは可能です」

1985年、名古屋大学大学院生だった時代から認知症の治療と研究を始め、これまでにのべ3万人以上の患者と向き合ってきた認知症治療の第一人者、河野和彦氏。その圧倒的な経験値をベースに考案した独自の治療法は、2007年から「コウノメソッド」としてインターネット上で無料公開されている。河野氏が院長を務める名古屋フォレストクリニックは重篤な認知症患者にとって最後の砦になっており、今も1日50組以上の患者が全国から訪れる。「認知症は治らない」という医学界の常識を真っ向から否定し、「認知症は治せる」と公言する河野氏に、まずは認知症に関する基礎知識からレクチャーしていただいた。

文責/みんなの介護

これまでは、医師も、患者さんも、患者さんのご家族も、認知症は治らないと諦めてきました。これからは違います

みんなの介護 河野さんが2014年に上梓した『医者は認知症を「治せる」』(健康人新書/廣済堂出版)は、多くの人たちから驚きをもって迎えられたと伺いました。

河野 そうですね。「認知症は治らない」というのが、それまでの医学界の常識でしたから。今でも、その常識に固執している医師は少なくありません。

認知症とは、脳の一部が萎縮したり、脳の神経細胞が死滅するなどして、記憶障害や見当識障害を起こす病気の総称です。最近、記憶の出入り口である海馬周辺の神経細胞は新生していることがわかりました。心地よいリハビリを受けるとそのまま成熟細胞になる一方、残念ながら、精神的ストレスや虐待を受けることで細胞は萎んでしまいます。

この事実がわかるまで33年間、ともし火が明確に見えないながら3万人の患者さんを黙々と観察してきて、最近治せるぞというイメージがいっそう膨らんできましたね。「治せる」などという本のタイトルに批判もありましたけれど。

みんなの介護 つまり、医学界の常識を覆して、「認知症は治せる」と河野さんが公言したこと自体がセンセーショナルだったわけですね。

河野 はい。症状を劇的に改善できるという意味で、私は「治せる」と言っています。特に、患者さんのご家族を悩ませている認知症の「周辺症状」については、治療次第で大きく改善することが見込まれます。

認知症の患者さんには、大きく分けて2つの症状が現れますが、周辺症状は脳組織の変性によって起こる「中核症状」に付随して起こります。

認知症の主症状である中核症状は、過去の体験や記憶をなくす「記憶障害」、今自分がどこにいて、今何時なのかがわからなくなる「見当識障害」、知っているはずのものがわからなくなる「失認」、着替えなどができなくなる「失行」、言葉が理解できなくなる「失語」など、認知機能の障害という形で現れます。

一方、それらの認知機能障害を起こした結果として現れるのが「周辺症状」です。例えば、幻覚、妄想、抑うつ、無気力・無反応、不安・焦燥、睡眠覚醒リズム障害、介護抵抗、徘徊、暴言・暴力・攻撃性、食行動異常、不潔行為など。そして、患者さんを介護しているご家族を本当に困らせているのは、実はこの周辺症状のほうなのです。

私にとって「認知症を治す」とは、できるだけ「その人本来の姿に戻す」こと。患者さんやご家族の苦しみを少しでも取り除くこと

みんなの介護 現在の医学界では、認知症の治療はどのように行われているのでしょうか。

河野 現在の認知症治療においては、あくまでも中核症状の改善が目標になります。抗認知症薬として厚生労働省が認可しているのも、中核症状の改善と進行の抑制を目的に開発された4薬のみ。ちなみにその4薬とは、アリセプト(ドネペジル塩酸塩)、レミニール(ガランタミン臭化水素酸塩)、メマリー(メマンチン塩酸塩)、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ(リバスチグミン)です。これらは認知症の中核症状を改善するための薬なので、まとめて「中核薬」と呼ばれることもあります。

そもそも医師にとっての治療とは、病気の根本原因を取り除き、患者さんを完治させること。そのため、認知症治療において中核症状の改善を目指すことは、アプローチとしては正しいと言えます。ところが、先ほど述べたように、一度萎縮してしまった脳組織は元に戻らないし、死滅した神経細胞も生き返りません。つまり、認知症を完治させることは初めから不可能なのです。

そして、中核症状が完璧に改善されない以上、「認知症は治せない」という結論に達せざるを得ません。そう言われてしまうと、認知症の患者さんもご家族も救われませんよね。

みんなの介護 絶望的な気持ちになると思います。

河野 一方、市井(しせい)の診療医であり、認知症専門医でもある私は、周辺症状の改善を重視しています。なぜなら、先ほども述べたとおり、介護しているご家族が本当に頭を悩ませているのは徘徊や暴力など、周辺症状のほうですから。

例えば、介護する人に対して怒鳴りまくっていた患者さんが、穏やかな笑顔で「ありがとう」と言ってくれるようになったとすれば、それは「改善した」ことにならないでしょうか。あるいは、ほとんど寝たきりになってしまっていた患者さんが、再び自分の足で歩けるようになったとすれば、それは「改善した」と言えるはずです。

私にとって「認知症を治す」とは、できるだけ「その人本来の姿に戻す」こと。そうすることで、患者さんやご家族の苦しみを少しでも取り除くことです。たとえ中核症状が進行していったとしても、周辺症状を治療で抑えることができれば、患者さんも介護する人も穏やかに生活することができます。また、周辺症状を抑えることで、中核症状まで改善されるケースもしばしば見受けられます。

みんなの介護 河野さんの実践している治療法は現実的なんですね。

河野 治療はより現実的であるべきです。現実に困っている人がいるのですから。私に「認知症は治らない」という発想はありません。どんな患者さんでも必ず治す。その信念がなければ、認知症を治すことはできないと思います。

「認知症=アルツハイマー」という認識は間違っています。さまざまなタイプがある認知症は、それぞれに有効な治療法や効く薬が異なります

みんなの介護 河野さんは認知症に対して「コウノメソッド」という独自の治療法を開発したことでも知られています。周辺症状の改善を重視することも、コウノメソッドに含まれるのですね。

河野 コウノメソッドについて解説する前に、認知症について、もう少し詳しくお話ししておく必要がありそうです。

一般社会では、「認知症=アルツハイマー」という認識があるようですが、それは間違っています。認知症には、実はさまざまなタイプがあって、それぞれに有効な治療法や効く薬が異なるので注意が必要です。

みんなの介護 それぞれの概略を教えてください。

河野 認知症は、大きく以下の4つのタイプに分けられます。

①アルツハイマー型認知症

②レビー小体型認知症

③脳血管性認知症

④ピック病(前頭側頭型認知症)・意味性認知症

①アルツハイマー型認知症は認知症の中でも最も多いタイプで、全体の45?60%を占めます。脳に「アミロイドβ」や「タウ」という物質が蓄積して脳の萎縮と変性が起こり発病。時間をかけてゆっくり進行していくのが特徴で、比較的女性に多く見られるタイプです。症状は、物忘れ、病識がない、落ち着きがない、道に迷う、昼に徘徊するなど。見た目は明るく元気で穏やかです。

②レビー小体型認知症は、アルツハイマー型に次いで多いタイプで、実はパーキンソン病と深い関係があります。レビー小体という特殊な物質が脳幹の中だけに現れて増殖するのがパーキンソン病である一方、大脳皮質全般に出現するのがレビー小体型認知症。そのため、症状の特徴もパーキンソン病と似ています。具体的には、幻視、上半身の前傾、無表情、奇声、薬剤過敏性など。男女比では2:1で男性に多いタイプです。

③脳血管性認知症は認知症の中で3番目に多く、脳梗塞やくも膜下出血など、脳血管障害の後遺症として発病します。症状の特徴は、尿失禁、ちょっとしたことで泣いたり怒ったりする、ろれつが回らない、表情が暗くあまり喋らない、病識がある、など。

④ピック病(前頭側頭型認知症)・意味性認知症は、脳の前頭葉や側頭葉前部に萎縮が起こることで発病します。症状の特徴は、無表情、突然怒ったり笑い出したりする、聞かれたことが理解できない、万引きや性的問題行動、理解力低下、など。ちなみに、アルツハイマー型は頭頂葉や側頭葉後部が萎縮するので、ピック病とは症状が異なるわけです。

違った型同士の混合型や、型から型への移行がある認知症の治療。患者さん一人ひとりと向き合うことが本当に重要なのです

みんなの介護 「認知症」と一口に言っても、やはりすべて違いますね。

河野 それぞれの混合型もありますし、アルツハイマー型からレビー小体型に病理組織が移行していくケースもあります。だからこそ、認知症の治療は、患者さん一人ひとりにきちんと向き合って進めていかなければなりません。

ところが、認知症のことをよく知らない医師は、認知症=アルツハイマー型と決めつけ、アルツハイマー型にのみ有効な薬を処方してしまう。その結果、症状がかえって悪化してしまうケースが跡を絶ちません

みんなの介護 そういえば、河野さんが2017年に出版した本のタイトルは衝撃的でしたね。『認知症治療の9割は間違い』(健康人新書/廣済堂出版)。これは本当ですか。

河野 本当です。認知症は、学問的な研究が始まってからまだ30有余年と歴史が浅く、認知症を専門に扱う「老年科」や「もの忘れ外来」はまだ数が少ないのが現状。そこで、認知症が疑われる多くの患者さんは、大病院の「神経内科」か「精神科」か「脳神経外科」を受診することになります。ところが、これらの診療科に認知症専門医は期待するほどいません。

それで、専門医でない医師がどうするかというと、病院側が定めた診療ガイドラインに沿った治療を行うわけです。その結果、先ほど紹介した抗認知症薬が闇雲に処方されることになり、症状を悪化させてしまうケースが少なくありません。

みんなの介護 診療ガイドラインに沿った治療を行うと、なぜ抗認知症薬が闇雲に処方されるのでしょうか。

河野 診療ガイドラインは統計学的・科学的に作られたといいますが、私はガイドラインを作った方々よりも多くの患者を診察して、用法用量が多すぎると感じてきました。中枢神経系の薬剤反応というのは用量依存性ではありません。ガイドライン通り処方するのではなく、患者さんの反応をちゃんと見るという臨床医の基本的な能力が大事だと思います。

先ほど、アリセプトという抗認知症薬を紹介しましたが、かつては「なんでもかんでもアリセプト」という時代があったようです。「認知症なら、とりあえずアリセプトを出しておけば良い」という感じで。今、その状況からは多少改善されたようですが…。

みんなの介護 アリセプトばかりではなぜいけないのでしょうか。

河野 実はアリセプトは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症にしか薬効が認められていません。また、残り3種の抗認知症薬はいずれもアルツハイマー型用の薬です。これらの薬を脳血管性認知症やピック病、意味性認知症の患者さんに処方すると、思ったように効かないとか副作用だけ出てくるという可能性が生じます。にもかかわらず、ガイドラインには「効果が出なければ、良くなるまで薬を増やし続けよ」と書かれているので、患者さんの症状はさらに重篤となってしまいます。

例えば、大学病院でアルツハイマーと診断され、長年アリセプトを処方され続けたおばあさんがいたのですが、私のところに連れて来られたときには、すでに歩き方がわからなくなっているほど重症化していましたね。脳のCT画像を見ると、海馬が萎縮しており、一見アルツハイマーにも見える。しかしよく見ると、脳の側頭葉前部も萎縮しているので、前頭側頭型認知症だとわかります。それを前の医師が見落としていたのか、そもそも前頭側頭型認知症を知らなかったのか。

いずれにせよ、認知症=アルツハイマー=アリセプトという短絡的な判断による間違った薬物治療で、患者さんが症状を悪化させたのは明らか。それを、「認知症は進行性の病気だからしようがないですね」の一言で済ませられたのだとすれば、患者さんは救われません。

認知症は治ってはいけない病気という認識が、一部には存在しているのです

みんなの介護 河野さんは「認知症は治らない」という医学界の常識に敢然(かんぜん)と対抗して、「認知症は治る」と宣言しています。その拠り所となっているのが、独自に考案したコウノメソッドという治療法ですね。コウノメソッドはどのように生まれたのでしょうか。

河野 今思えば、現在の医学界に対する私の反骨精神は、私がまだ大学院生だった時代に芽生えたようです。

1990年当時、私は名古屋大学大学院の博士課程で老年医学について研究しながら、ある民間の病院で臨床研究をしていました。その病院には認知症専門の病棟があって、250人もの患者さんが入院していたので、認知症のさまざまな症例について働きながら学ぶことができました。そしてあるとき、アルツハイマー型認知症の患者さんが、リハビリテーションによって症状が改善するケースを目の当たりにしたのです。

そこで私は、その症例を認知症の学会で発表しました。すると、ある神経内科の大家が「症状が改善したのなら、その人はもともとアルツハイマー型認知症ではなかったのだ」と昂然(こうぜん)と言い放ったのです。そのとき、私は思ったのです。「学会にとって、認知症は治ってはいけない病気なのだ。いくら臨床データを揃えて発表しても、“認知症は治る”という主張は握りつぶされてしまう。だったら、もう学会で発表するのは止めよう。その代わり、自分の研究成果は本にまとめて世の中に公表しよう」と。

みんなの介護 その出来事をきっかけに、認知症について独自に研究しようと思われたのですね。

河野 はい。その後、コウノメソッドを考案するひとつの契機となったのが、1999年11月に日本で初めての抗認知症薬であるアリセプトが発売されたことです。当時、私は愛知県にあるJA厚生連海南病院の老年科部長として認知症治療にあたっていて、「ついに夢の新薬が発売された」と期待に胸をふくらませていました。そして、実際に患者さんに使ってみると、アルツハイマー型認知症の症状が確かに改善したのです。

しかし、良いことばかりではありませんでした。患者さんによっては、いきなり怒りっぽくなったり、徐々に歩きにくくなったりしていきました。

そこで私は、病院に「アリセプト・ホットライン」を開設し、アリセプトを実際に投与してみてどうだったのか、私から処方を受けた患者さんやご家族からの情報を集めました。すると、「アリセプトを投与した患者さんが急に怒りっぽくなり、攻撃的になった」「アリセプトを投与した患者さんが歩けなくなった」など、明らかに副作用と思われる事例が多数報告されるに至りました。

みんなの介護 前編で伺った、「なんでもかんでもアリセプト」の弊害ですね。

河野 その通りです。1999年当時、アルツハイマー型以外にもさまざまなタイプが認知症にあることは、まだあまり知られていませんでした。アリセプトはあくまでもアルツハイマー型の治療薬なので、認知症のタイプによっては投与してはいけないし、怒りっぽい患者さんにはアルツハイマーでも量を半分で処方しないといけない薬だったのです。

その後、私はアリセプト処方の危うさと副作用に関して独自に研究し、その成果を2006年に『認知症の薬物治療』(フジメディカル出版)にまとめて刊行しました。後年、「先生のあの本を読んで初めて、アリセプトを処方した患者さんがなぜ凶暴になったのかがわかりました」と、多くの開業医の先生に言われましたね。今思えば、あの本を出版したことが、その後のコウノメソッド構築のきっかけになったことは間違いありません。

アリセプトの増量規定撤廃は進展していますが、県によっては取り組みがまだ不充分

みんなの介護 初の抗認知症薬として期待されたアリセプトも、決して万能薬ではなかったのですね。

河野 アリセプト自体は良い薬なんですが、私の経験から言うと、レビー小体型認知症やピック病の患者さんへの投与は第一選択にはなりません。しかし、問題はそれだけではありません。製薬会社が定めた増量規定にも、実は大きな問題があったのです。

みんなの介護 増量規定とはなんですか。

河野 アリセプトの用法・用量として、投薬量を段階的に増やさなければならないという規定のことです。製薬会社の医薬品添付文書には「1日1回3mgから開始し、1?2週間後に5mgに増量し、経口投与する」と明記されていて、それ以外の処方は認められていません。つまり、投与開始から2週間後には、投薬量を必ず5mgにしなければいけないと定められているのです。

しかし、1日5mgというのは、明らかに量が多すぎます。多くの患者さんにとっては過剰投与となり、かえって症状を悪化させてしまいかねません。アリセプトという薬は効きすぎるので、できれば2.5mgくらいから使い始めたいところですが、その場合は適応外使用と見なされ、レセプト(診療報酬明細書)審査に通りません。すると、病院は診療報酬を受け取れなくなるので、100%病院側の持ち出しになってしまいます。

みんなの介護 薬の量は普通、患者さんの症状を診ながら医師が加減するものではないでしょうか。

河野 そのはずなんですけどね。ところが長い間、抗認知症薬だけは4種とも増量規定が決められていて、それが臨床の現場では大きな弊害になっていました。

状況がようやく改善したのは、アリセプトが発売されてから17年後の2016年6月。在宅医療の第一人者として知られる長尾和宏医師、山東昭子参議院議員、それに私が中心となって「抗認知症薬の適量処方を実現する会」を立ち上げて各方面に働きかけた結果、厚生労働省保険局医療課から全国の健康保険組合に「抗認知症薬の処方に関しては医師の裁量を重視するよう」事務連絡を出してもらいました。

これで事実上、抗認知症薬の増量規定は撤廃されたはずですが、先日、私のお弟子さんとして山陰地方で開業しているコウノメソッド実践医から思わぬ連絡がありました。ある患者さんにアリセプトを2mgだけ処方したところ、県の健康保険組合から呼び出しを食らい、「保険医を剥奪しますよ」と伝えられたそうです。これは厚労省からの通達が適切ではなく、県によっては増量規定撤廃への取り組みがまだ不充分だということを表しています。

みんなの介護 なぜ健康保険組合はそこまで3mgの処方にこだわるのですか?

河野 レセプトを審査した人は、「アリセプトは3mg以上の処方でないと効かない」と信じ込んでしまっているのでしょうね。3mg以上でなければ効かない薬を2mgだけ出したら、確かに薬をドブに捨てるようなものですから。しかし、アリセプトは2mgでも確実に効くし、3mgだと過剰投与になる場合があるのです。

「賢人論。」第75回(中編)河野和彦氏「「認知症の進行を止めてほしい」よりも、「穏やかな毎日を過ごしたい」というご家族の希望が圧倒的に多いんです」

副作用を出さない症状の改善には、患者さんに一日24時間接しているご家族の協力が必須。そのためにはお薬の勉強もしていただきます

みんなの介護 河野さんは2007年に「コウノメソッド」を確立し、インターネット上で公開しています。その結果、コウノメソッドが認知症治療に極めて有効であることが多くの臨床医に確認され、お弟子さんとも言うべき「コウノメソッド実践医」が全国で名乗りを上げています。河野さんが考えるコウノメソッドの特徴とは一体なんでしょうか。

河野 コウノメソッドには3つのは柱がありますが、その中の一つは、「介護者保護主義」に立っていることですね。

認知症の患者さんには治療だけでなく、介護が必要になります。認知機能が次第に衰えていって、ある時点から、一人では生活できなくなりますから。つまり、ここに1人の認知症患者さんがいるとすれば、その背後には必ず介護しているご家族がいるということ。またご家族にとって、その負担は小さくないはずなのです。

もし、患者さんと介護しているご家族のどちらか一方しか救えないとすれば、私はご家族を選ぶと思います。ご家族が倒れてしまっては、共倒れになってしまうからです。ときどき「認知症の患者さんとその家族が無理心中を図った」というニュースを耳にする度に、もっと早い段階で家族を救う方法はなかったのかと胸が痛みます。

みんなの介護 前編でお話を伺ったように、コウノメソッドが認知症の中核症状の改善ではなく、周辺症状の改善を優先しているのも、介護者保護主義の現れなんですね。

河野 まさにその通りです。実際、多くのご家族にお話を聞いてみると、「認知症の進行そのものを止めてほしい」という希望よりも、「穏やかで平和な毎日を過ごしたい」という希望のほうが圧倒的に多いですね。患者さんが次第にボケていくのは仕方がない。むしろ、頭は多少ボケていてもいいから、徘徊したり、暴力を振るったりするのではなく、いつもニコニコ笑っている普通のお年寄りに戻ってほしい。それがご家族の本音でしょう。私自身も、そんな願いを込めて治療にあたっています。

また、副作用を出さないための「家庭天秤法」もコウノメソッドの柱の一つです。

ここで言う「天秤」とは、薬の量を測る天秤のこと。医師から処方された薬の用法・用量については、医師の指示を100%遵守する必要はなく、介護者が患者さんの様子を見ながら適宜加減して良い、ということにしています。副作用を出さすに症状をしっかり改善していくには、患者さんに一日24時間接しているご家族の協力が必要であり、そのためにはお薬の勉強もしていただきます。認知症の患者さんもご家族も、抗認知症薬の杓子定規な増量規定に長年苦しめられてきましたので、用量については、もっと柔軟に考えようということですね。

みんなの介護 河野さんの著書を拝読しましたが、抗認知症薬以外にも、実にさまざまな薬を治療に使っていますね。

河野 はい。コウノメソッドでは、先ほど紹介した抗認知症薬だけでなく、50?60年前に開発された抗精神病薬や、漢方薬、サプリメントなど、有効と思えるものは何でも積極的に使用します。ポイントは、患者さんの周辺症状を陽性か陰性か見極めたうえで、その周辺症状を改善するための薬を処方すること。これがコウノメソッドの第三の柱ですね。

みんなの介護 周辺症状の陽性、陰性とはどういうことですか。

河野 陽性とは、患者さんのエネルギーが旺盛な状態。陰性とは、患者さんのエネルギーが不足し、元気がない状態。

認知症に見られる周辺症状で言えば、「怒りっぽくなる・妄想・幻覚・独語・不眠・徘徊・暴力・暴言・介護抵抗・過食」などは陽性、「無気力・無関心・無言・うつ状態」などは陰性と判断します。そして、症状が陽性の場合は興奮を抑制する方向で、陰性の場合は行動を活性化する方向で薬を処方するのです。

具体的には、陽性症状の患者さんの興奮を抑える抑制系の薬として、アルツハイマーにはグラマリール(抗精神病薬)、ピック病にはウインタミン(抗精神病薬、レビー小体型には抑肝散(漢方薬)が第一選択になります。逆に、陰性症状の患者 さんを活性化させる興奮系の薬としては、サアミオン(脳循環代謝改善薬)、シンメトレル(パーキンソン病薬・ドーパミン放出促進薬)が代表です。

また、歩けなくなった患者さんには、抗酸化剤のグルタチオン投与が極めて有効です。さらに、サプリメント(栄養補助食品)ながら保険薬以上の効果があるフェルラ酸サプリとルンブルクスルベルスサプリは、いまやコウノメソッドに欠かせない“お薬”になっています。

研究を続けた結果、想像していた以上に認知症の患者さんのなかには”発達障害”を抱えている方がいるとわかった

みんなの介護 河野さんのクリニックでは最近、認知症以外の患者さんも増えているそうですね。

河野 はい。脳や神経の変性疾患の患者さんや、ADHDや自閉症スペクトラムなど発達障害の患者さんも外来で訪れるようになりました。

一般的にはあまり知られていないのですが、皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)という病気があります。どちらも脳の神経細胞が変性することで発病し、パーキンソン病のように体の動きがぎこちなくなることから、パーキンソン症候群に分類されることもあります。一般的には神経内科で扱われる難病ですが、これまでの治療経験は150例以上あり、コウノメソッドで症状が改善した例をブログで報告したところ、神経変性疾患の患者さんも少しずつ増えてきたのです。

みんなの介護 コウノメソッドは認知症以外の病気にも有効だったんですね。

河野 私自身、驚きました。たった15分の点滴で、それまで車椅子生活だった患者さんが自分の足で歩けるようになるんですから。もちろん一時的な効果ですから、繰り返し点滴に来たり、代替としてアメリカのサプリメントを内服していただきますが、こういったミラクルはご家族にとっても今後の介護のモチベーションになりますよ。希望というのは、最大のエネルギーなのですよね。

みんなの介護 それはすごいですね。『レナードの朝』という古い映画を思い出しました。

河野 まさにあの映画のように、奇跡が目の前で起きているのを目撃しているみたいで、私自身とても感動します。そんな感動した症例は、必ず文章で書き残すようにしていますね。書き残すことで、その経験が医師である私の財産になると思うのです。

また、認知症が良くなった患者さんから「孫も診てほしい」と頼まれたり、知人から紹介されたりする形で、発達障害のお子さんを診る機会も増えました。その結果、コウノメソッドは発達障害にも有効であることが確認できました。

例えば、自閉症スペクトラムのカナー症候群(低機能自閉症)の患者さんは、認知症のような脳の萎縮は見られないものの、体の動きがピック病(前頭側頭型認知症)の患者さんとよく似ていました。そこでピック病のための薬を処方したところ、衝動性や易怒性(怒りっぽさ)が見事に治まったのです。発達障害は認知症と同じように、各種神経伝達物質の欠乏が原因とも考えられているので、認知症の治療法が流用できるんですね。

みんなの介護 認知症と発達障害の関係についてはさまざまな意見がありますが…驚きです。

河野 そうやって少しずつ発達障害の患者さんを診るようになり、自分でも文献にあたるなどして研究を続けた結果、新たにわかったことがあります。それは、私が想像していた以上に、世の中には発達障害の人が数多く存在しているということ。そして、認知症の患者さんの中に「実は発達障害でもある」という人が数多く含まれていたことです。あるデータによれば、アルツハイマー型認知症の人の15%、レビー小体型認知症の人の47%は発達障害でもあるとか。また、これまで認知症の前駆症状の軽度認知障害が疑われた人の中にも、実は発達障害だったり、精神疾患のうつ病圏の人がいることも明らかになりました。

こうした事実を知って、私自身、腑に落ちましたね。というのも、どう考えても攻撃的にはならないはずのレビー小体型認知症の人が、なぜかときどき暴力を振るうケースがあり、ずっと「解せない」と感じてきたからです。しかし、その患者さんがそもそも発達障害のある人であれば、説明がつきます。生まれつき発達障害のある人が、高齢化してレビー小体型認知症を発病したとすれば、発達障害とレビー小体型認知症の双方の症状が出るはずですから。

みんなの介護 今のお話からすると、認知症はますますわかりにくい病気になっていきますね。

河野 認知症はもともと複雑怪奇な病気なんです。一応4タイプに分かれるものの、あるタイプから別のタイプへ移行していくケースもあるし、その混合型もあります。それに加えて、これからはある種の発達障害が潜んでいる可能性も考慮しなければなりません。だからこそ、患者さん一人ひとりの症状に合わせて、きめ細かく対処していかなければならない。病名にこだわらずに状態を見て処方する、まさにコウノメソッドの得意とするところです。

【定型発達と発達障害の境目】

定型発育と発達障害のさかえめは明確ではありません。私自身も収集癖、オタク系、コミュニケーションのまずさ、空気を読めないこともあります。音符が読めない、セリフを暗記できないなど学習障害かなと思う点もありますし、自己愛パーソナリテイー障害に近いものもあります。本人が苦しんでいるなら病気と判断して治療してあげたいし、偏見だとアレルギーをおこされるなら、一種の個性だよねと理解すれば良いですね。

患者さんにきちんと向き合っていなかった結果、施設が崩壊してしまう例はいくつもある

みんなの介護 認知症の患者さんと介護施設とは、切っても切れない関係にあります。介護スタッフが日頃から心がけておくべきことは何でしょうか。

河野 認知症の患者さんが施設に入居している場合は、その患者さんが普段どんなお薬を処方されていて、そのお薬にはどんな特徴があるのか、スタッフとしてきちんと知っておいてほしいですね。例えば、アリセプトは記憶障害の進行を遅らせる薬だけど、処方された患者さんが怒りっぽくなることもある、とか。そして、医師の投薬方法に何らかの疑問を抱いた場合は、ただちに施設の責任者に報告して、対応策を検討すべきです。というのも、患者さんにきちんと向き合っていなかった結果、施設が崩壊してしまう例をいくつも見てきましたから。

高齢者施設が崩壊するパターンには、次のようなものがあります。

ある地域に、認知症患者を受け入れる高齢者施設が開設されました。オープンにあたって、近隣のいくつかの病院と業務提携をすることになり、嘱託医が何名か任命されました。そうした場合、認知症専門医として、大学病院の神経内科に所属する若い医師が着任することが多くあります。

しかし、大学病院の医師たちの多くは多忙。彼らは、上司にあたる教授の古い論文をいくつか読んでいるくらいで、最新の知見など入手しようもなく、「認知症=アルツハイマー=アリセプト」という思考から逃れられないのです。

みんなの介護 そうなると、誰でも一律にアリセプトを…

河野 はい。認知症の患者さんに対しては、そのタイプなどお構いなく、一律にアリセプトを同量だけ処方してしまいます。その結果、ある患者さんは急に粗暴になって暴力を振るい、ある患者さんは動けなくなって寝たきりになり、介護スタッフと患者さんの間では争い事が絶えず、患者さんのご家族からは施設へのクレームが殺到します。

困り果てた施設側は神経内科の嘱託医に「なんとかしてください」と相談しますが、嘱託医の選択肢には「増量規定」しかありません。恐ろしいことに、「患者さんの状態が悪くなったのは投薬量が足りないからだ」と思い込み、さらに投薬量を増やし、状況はますます悪化していき、ついには施設閉鎖へと追い込まれてしまうのです。

みんなの介護 …最悪のパターンですね。

河野 でも、こういったケースは実際によくあるんです。大きなニュースになっていないだけで。

みんなの介護 介護スタッフとしては、どうすれば良かったのでしょうか。

河野 認知症のすべての患者さんに一律にアリセプトが処方されている時点で、「なにかおかしいぞ?」と気づくべきでしたね。そして、施設責任者に相談したうえで、セカンドオピニオンを求める必要があったわけです。

介護スタッフは施設の入居者、あるいはそのご家族の中に、発達障害の人がいる可能性を踏まえて接する必要がある

みんなの介護 介護施設では、残念ながら、介護スタッフが入居者を虐待する事件がしばしば起こります。こういった事件も、どこかで認知症が関係しているのでしょうか。

河野 関係しているかもしれませんね。介護スタッフが入居者に暴力を振るう事件では、実は最初に入居者のほうから手を出した可能性があります。その場合、入居者が実は認知症で、しかも誤った薬を処方されているケースが考えられるでしょう。例えば、ピック病の人に対してアルツハイマー型認知症に有効なアリセプトを投与すると、さらに攻撃的になりますから。

また、発達障害の患者さんを最近診るようになって気づいたのですが、高齢者介護をめぐる虐待事件では、どこかで誰かの発達障害が関係しているケースもありそうですね。例えば、認知症の患者さんがもともと何らかの発達障害を抱えているとか、介護スタッフのほうに軽度の発達障害があるとか。

みんなの介護 河野さんも、高齢者の虐待を実際目にしたことはありますか。

河野 あります。そのときは、認知症の患者さんのご家族が、患者さん本人を虐待しているケースでした。

あるグループホームに往診したときのことです。一人の患者さんの様子が気になったので、クリニックに連れてきてCTを撮ったところ、慢性硬膜下血腫が見つかりました。それで、患者さんの奥さんに「最近転ぶか何かして、頭をひどくぶつけましたか」とたずねたところ、実の娘さんに頭を殴られたんだとか。

しかし、普通に頭を殴ったくらいで硬膜下血腫はできません。それこそ、バットか何かで思い切り殴らない限りは。それで、さらに詳しく奥さんから話を聞いてみると、どうやら娘さんに発達障害があることがわかりました。そこで、患者さんと娘さんをできるだけ引き離すよう、自治体にお願いしました。娘さんにクリニックへ来てもらえれば、何らかの治療はできたはずですが…。

もしかすると施設の入居者の中に、あるいはそのご家族の中に、発達障害の人がいるかもしれない。介護スタッフとしては、その可能性を頭の片隅に入れながら接したほうが良いかもしれません。

「賢人論。」第75回(後編)河野和彦氏「患者さんは病名の特定よりも、苦しみから救ってほしいと願っている。それに応えることこそ医師の使命」

認知症予防では、毎日の食事が重要だと考えます。ケトン体ダイエットでは脳の若返りも期待できる

みんなの介護 現在、超高齢化が急速に進んでいるわが国においては、認知症患者の数も急増していくことが予想され、2025年には700万人に到達するとの試算もあります。国の医療費増大に歯止めをかけ、かつ介護難民を少しでも減らすためには、国民一人ひとりが認知症予防に真剣に取り組んでいかなければなりません。認知症予防のために、私たちには何ができるのでしょうか。

河野 認知症予防では、毎日の食事が重要だと考えています。今、私の患者さんやそのご家族にすすめているのが、ダイエットです。特に「ケトン食ダイエット」というものを私も実践していて、この3カ月で体重を8.5kg落としました(笑)。

ダイエットを始めたきっかけは、人間ドックで脂肪肝だと指摘され、「このままだと肝硬変になるよ」と担当医の先生に脅かされたから。以前からPSA検査の数値が高く、前立腺がんのリスクが高い上に、認知症の多くの患者さんから「先生、私より先に死なないで」とお願いされていることもあって、思いきって食生活を見直すことにしました。

みんなの介護 ケトン食ダイエットとは、どのようなものなのですか?

河野 江部康二先生が実践している糖質制限食をベースに、白澤卓二先生がココナッツオイルの利点をドッキングさせた食事法です。ケトン体とは、肝臓が脂肪を燃やす際に作られる代謝物質で、ブドウ糖と同様、脳や細胞のエネルギー源になります。ブドウ糖の摂取を極力制限すれば、体はブドウ糖に代わるエネルギー源を生産するため、脂肪を燃やしてケトン体を作らざるを得ません。そうやって脂肪を自然に燃焼させることで、運動しなくてもダイエットが可能になります。また、体のエネルギー源がブドウ糖からケトン体に置き換えられることで、脳も体も若返ります。

みんなの介護 先生は具体的にどのような食事を摂っているのですか?

河野 私が実践している方法は次のようなものです。

毎日、朝食は抜きで、ブラックコーヒーを1杯だけ飲みます。ただし、それだけだと空腹感が強く、気分もイライラしてしまうので、ココナッツオイルを13ml程度だけ摂ります。肝臓がケトン体を作るには、少なくとも15時間の絶食が必要なので、朝食をしっかり抜いて、前日の夕食から翌日の昼食まで、15時間以上空けなければなりません。

昼食は、卵2個と生野菜のみ。生野菜はトマス、レタス、キュウリなどで、亜麻仁油またはオリーブ油、岩塩をかけて食べます。市販のドレッシングは不可。卵の代わりに、コンビニで売っている蒸し鶏も可。白米、パン、麺類などの炭水化物は厳禁です。あまりに空腹感が強い場合は、15時頃、塩・油無添加のミックスナッツを最大20粒まで食べることができます。

朝・昼食とは対照的に、夕食は何を食べても構いません。適量なら飲酒もOK。できれば焼酎やウイスキーなど蒸留酒が望ましいですが。コーヒーは1日3杯まで飲んでも可。おかし、フルーツ、オメガ6の油を含むマーガリンは避け、調理にはできるだけオリーブ油を使ってください。

みんなの介護 普段から朝食を抜くことはありますが、夜まで炭水化物が摂れないのはキツそうですね。

河野 苦しいのは最初の2週間だけです。2週間我慢すれば、その後は日中も空腹感を覚えなくなるし、体調が良くなっていることを実感できるはず。私もこの食事法を始めてから体調はすこぶる良いし、頭の回転も速くなったように感じます。実際、認知症の患者さんの何人かにこの食事法を試してもらいましたが、すべての人に効果が確認できました。

私はもともと食道楽なので、「夕食は何を食べても良い」というのが魅力ですね。妻が夕食に何を用意してくれているのか、毎日楽しみです。また、この食事法を毎日続けている限り、認知症やがんになるリスクをきわめて小さくできるのです。

私の先生は患者さん。患者さんこそが私にいろいろなことを教えてくれる

みんなの介護 河野さんは学会に昂然と反旗を翻しているし、クリティカルな物言いもされています。コウノメソッド実践医というお弟子さんたちが多数いる一方で、敵も多いのではないでしょうか。

河野 その通りですね。特に論文に書かれていることのみを信じて、目の前の患者さんを決して見ようとしない医師たちとは反りが合いません。彼らは学術的な病名を特定することばかりに躍起になっているように感じますが、患者さんからすれば、病名が正確ではなくてもいい場合が多いのです。それよりもむしろ、今の苦しい状態から何とか救ってほしいと願っている。その願いに応えることこそ、医師の使命だと考えています。

だから私は、必ずしも病名にはこだわりません。あくまでも患者さんの症状を診て、その症状を改善するにはどうすれば良いかを考える。それこそがコウノメソッドです。幸い、このメソッドが患者さんに受け入れられているからこそ、毎日50人以上の患者さんが訪ねてくるし、年間約800人の初診の患者さんと接することができる。私の先生は患者さんですよ。患者さんこそが私に、いろいろなことを教えてくれるのです。

みんなの介護 コウノメソッドがさらに認められるためには何が必要なのでしょうか。

河野 先日テレビで、すい臓がんの初期(治せる)を広島県尾道市の開業医が発見できているという報道がありました。この医師会は一丸となって困難な疾患にぶつかっていくという伝統があるのです。私は介護保険制度とアリセプトが発売された頃から、この尾道市医師会に14回ほど呼ばれて講演しました。

真実の臨床は、学会ではなく1人の熟練医が知っていると見抜いてくれたのだと思います。コウノメソッドは各地の1人の医師会長が「これに決めた」と思ってくれれば普及できるのです。

みんなの介護 最後に、日々どのようなことを”心の拠り所”としているのかを教えてください。

河野 患者さんが敵にならない限り、私は医者として生き残って良いと神様に許されていると思うんです。コウノメソッド普及で、すべての認知症が最寄りの先生に診てもらえるようになることが目標。コウノメソッドが世の常識になり、コウノメソッドという名称すら消えていけば良いと思っています。なので、名古屋フォレストクリニックの次の目標は、発達障害だけを診られる場所にすることです。

極論を言えば、私のクリニックに患者さんが一人も来なくなることが理想です。そんな日が来るのかはわかりませんが、明日からまた、認知症の患者さんたちと向き合う日々が続きます。

撮影:土屋敏朗

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07