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湊かなえ「何事も答えは一つではない。背景に思いを巡らす想像力が大切」

最終更新日時 2021/04/26

湊かなえ「どこかの誰かを支える力になりたい。小説家として精一杯務めを果たす」

DVも児童虐待もコロナ禍で生まれたのではなく浮き彫りになっただけ

みんなの介護 昨年来のコロナ禍で、しばしば後味の悪いニュースを見聞きするようになりました。自粛警察が横行したり、医療従事者や新型コロナ患者が差別を受けたり、DVや児童虐待の通報件数が増えていたり…。こうした現実社会をイヤミスの女王・湊さんはどのように見ているのでしょうか。

 まず言えるのは、「何事も新型コロナのせいにしてはいけない」ということでしょう。新型コロナの感染が拡大したからDVや児童虐待が発生したわけではありません。コロナ禍で確かに在宅ワークが増えたことも要因の一つとなっているかもしれませんが、DVを起こす人にはもともとその傾向があったはずで、コロナ禍で問題が顕在化しただけだと思います。

児童虐待、特にネグレクトについても、学校がコロナ禍で休みになり、給食が食べられなくなったから、栄養失調の子どもが目立つようになったのでしょう。つまり、悲しい事実ですが、給食だけでなんとか命をつないでいた子どもたちがそれだけたくさんいた、ということです。

DVにしろ、児童虐待にしろ、問題が顕在化した今こそ、自分事として「私たちにはどんな支援ができるのか」皆で考えるきっかけになったと思います。

多くの人が抱えている悲しさや無念さを小説に投影する

みんなの介護 詳しくお話しできないのがもどかしいのですが、コロナ禍で閉塞感のある今日、『ドキュメント』のラストには救いがありましたね。

 『ドキュメント』を書き始めたときには、新型コロナのパンデミックはまだ発生していなかったし、発生してからも作品の中であえて触れるつもりはありませんでした。自分の作品にはある程度の普遍性を持たせたいと考えているからです。

私はこの作品を、10年後20年後の高校生にも、「今、自分たちにも起こり得る物語」として読んでほしいと考えています。そのため、一過性の流行語などは極力使わないよう、常に気をつけて書いています。

しかし、物語が終盤に向けて進んでいくにつれて、私の考え方も少しずつ変化していきました。今、多くの若い人たちが、新型コロナの影響で何かに挑戦する機会を理不尽に奪われたまま、泣き言も文句も言えず、現実を黙って受け入れざるを得ない状況が続いています。多くの人々が抱えているこの悲しさや無念さを、連載中の物語にもきちんと反映させるべきだと思い至りました。そんな思いで終章をつけ加えました。

祖父母の介護で感じた複雑な思いを小説で昇華させた

災厄に際したとき、私たち小説家は本当に無力

みんなの介護 湊さんご自身は昨年からのコロナ禍で、どのような影響を受けたのでしょうか。

 東日本大震災のときも思ったのですが、社会が大きな災害や危機に見舞われたとき、私たち小説家は本当に無力だと感じました。小説家という仕事はこれまで、世の中が平和で安定しているからこそ成り立っていたんです。でも、泣き言ばかり言っていられません。もし、私たちの書いたものが、どこかで誰かを支える力になるのであれば、精一杯その務めを果たそうと改めて思いました。

みんなの介護 それが『ドキュメント』の終章でもあったわけですね。日常生活にも何か変化はありましたか。

 実は2019年の時点で、「2020年はもっと芸術的な生活を送ろう」という目標を立てていました。そのために実行しようとしていたのが、毎月1本ずつミュージカル作品を劇場で鑑賞すること。数ヵ月前から早々とチケットを確保しました。たとえ仕事がどんなに忙しくても、先にチケットを買っておけば、必ず足を運ぶだろうと思ったんです(笑)。

ところが、3月以降の上演はすべて中止になり、チケットを払い戻しするしかありませんでした。私自身、見たかったミュージカルを見られないのはショックでしたが、世の中にはもっと大きな困難に直面している人が大勢いたので、「観劇できなくて悲しい」なんて口が裂けても言えませんでしたね。

「どうして他人のおじいさんおばあさんにはやさしくできるんだろう」

みんなの介護 わが国は人口減少・超高齢社会を迎えています。湊さんの代表作の一つ、『少女』では、主人公の1人が特別養護老人ホームでボランティア活動する様子が描かれていますね。湊さんご自身は、介護施設に行かれたことはあるのでしょうか。

 先ほど、淡路島の高校で家庭科の非常勤講師をしていた話をしましたが、当時家庭科の授業の一環として、近くの老人ホームで介護ヘルパー向けの短期研修を受けたことがあります。家庭科の教科書でも高齢者介護について取り上げられていました。そこで、介護施設から学校に講師をお招きしてお話を伺ったり、私たち家庭科の教師が施設にお邪魔したりして、高齢者の方を車椅子に乗せる手順、排泄の介助や声がけの仕方など、さまざまなレクチャーを受けました。選択授業で「介護」を選択した生徒たちを連れて、老人ホームに実習に出かけたこともあります。

淡路島はそれほど都市化が進んでいないので、当時も祖父母と同居している高校生が多く、「おじいさんおばあさんを介護してあげたい」という理由で老人ホームでの実習に参加する生徒も少なくありませんでした。ですが実習の後、生徒たちが書いた感想文にあった「自分の祖父母にはどうしてもやさしくできないのに、他人のおじいさんおばあさんにはどうしてやさしくできるんだろう」という一文が、私の胸にずしんときました。まったく同感だったからです。

当時、私の実家では母が祖母の介護をしていましたが、私は幼い頃から祖父母が苦手で、どうしても祖父母にやさしくすることができませんでした。

他人のおじいさんおばあさんを「介護してあげるべき」存在と思えるのに、血のつながった祖父母の場合、なぜそう思えないのか。そんな、自分の中で昇華できない複雑な思いがあったからこそ、『少女』の中で老人ホームの場面を書いたのだと思います。

撮影:丸山剛史

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人と人。対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ、「“伝える”って何だ?」ということを、青海学院放送部のみんなと、真剣に考えてみました。 ――湊かなえ

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
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