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金美齢「『人生100年時代』で重要なのは、老後までにどんな人間関係を築いてきたか」

最終更新日時 2020/01/06

金美齢「『人生100年時代』で重要なのは、老後までにどんな人間関係を築いてきたか」

台湾出身の金美齢氏は、並み居る知識人を舌鋒鋭く論破する気鋭の評論家として知られる。「朝まで生テレビ!」「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」などの討論番組で、田原総一郎氏、田嶋陽子氏、堀江貴文氏らと交わした激論は今でも語りぐさだ。金氏のテレビ初出演は意外に遅く、59歳のとき。以来四半世紀を経た今も、85歳の現役評論家として活躍し続けている。自身が後期高齢者でもある金氏は、「人生100年時代」を迎えた日本社会をどのように見ているのだろうか。お話を伺った。

文責/みんなの介護

「来る者は拒まず」の晩ご飯をきっかけに、59歳で評論家としてデビュー

みんなの介護 金さんがテレビで評論家として活躍するようになったのは、50代後半からだと伺っています。それまでの金さんは、1959年に早稲田大学第一文学部英文科に留学するために来日し、1964年、当時東京大学大学院の留学生で、後に東京理科大名誉教授となる周英明さんと結婚。2人のお子さんの子育てをしながら、英国ケンブリッジ大学客員研究員や早稲田大学講師などを務めていました。

テレビと無縁だった金さんが出演するようになったきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。

 私がテレビ出演するようになったのは59歳のとき。ずいぶん遅いテレビデビューでした。きっかけは、長女が某テレビ局に就職したことですね。

わが家はもともと、「来る者は拒まず」というオープンな家庭で、私たち夫婦や、長女、長男の友達がよく訪ねてきては、ご飯を食べて帰るのがずっと通例になっていました。

これは、台湾の家庭ではごく普通の風習でもあります。客人には、作りおきのおかずである「常備菜」を何種類か、温かいご飯と一緒に供します。特別豪華な御馳走を振る舞うわけではないので、訪ねてきたほうも「じゃあ、いただきます」と気兼ねなく食事できるんですね。

そういう家庭だったので、テレビ局に入社した娘も、「ママ、みんなまだ晩ご飯食べてないんだけど、ウチに何かある?」と電話してから、同僚や上司の方をしばしば自宅に連れてくるようになりました。

私も手料理で歓待し、みんなで楽しくお喋りしながら食卓を囲んだものです。

そうやって、みんなでわいわい食事をするうちに、娘の上司であるワイドショーのプロデューサーの方が、「金さんは喋りが面白いから、ウチの番組にコメンテーターとして出演しませんか?」と声を掛けてくださったのです。

みんなの介護 夕食の手料理とお喋りでテレビ出演が決まるとは、すごい展開ですね。

 私がコメンテーターとしてワイドショーに出演することに、長女は反対しました。「テレビは人を消費するところだから、ママは絶対に傷つく」と言うのです。

でも私は、大学講師の仕事を通して、自分の言葉を大勢の人に伝えることに面白みを見出していました。また、テレビという未知の世界への好奇心もありましたね。

結局、あれから四半世紀以上もテレビの世界とかかわっているのですから、私とテレビの相性は良かったのだと思います。

金美齢「『人生100年時代』で重要なのは、老後までにどんな人間関係を築いてきたか」老後は自分の人生の総決算、どんな老後を迎えるかは、基本的に自己責任です

「政府が悪い」「社会が悪い」と言っているだけでは、そこから学べることは何もない

みんなの介護 わが国では国民の長寿化が着実に進行していて、「人生100年時代」が現実のものとなりつつあります。国民の寿命が延びることは本来、ことほぐべきことのはずですが、2019年6月に金融庁が「老後資産は2,000万円足りなくなる」と公表してから、長寿であることの弊害も大きく取り上げられるようになりました。

私たちはこれから、人生100年時代をどう生きていけばいいのか。金さんはどのようにお考えですか。

 おっしゃるとおり、「人生100年時代」は必ずしもいい時代とは限りませんね。100歳まで生きられたとしても、100歳まで健康でいられるか保証はどこにもありませんから。

とはいえ、日本が世界有数の長寿大国であり、これから人生100年時代を迎えつつあることは厳然たる事実です。だとすれば、国民一人ひとりがその事実にきちんと向き合っていくしかありません。

老いはある日突然、やってくるわけではありません。人生100年時代に向けて毎日をどう生きていくかは、一人ひとりの自己責任でしかないと私は思います。自分の老後は、自分の人生の総決算なのですから。

日本人の良くないところは、ひとたび何か問題が起きれば、何でもかんでも責任を政府に押しつけようとすること。先頃の「老後資金2,000万円問題」にしても、「自分たちの老後の保障はどうしてくれるんだ!」と騒ぐのではなく、まず自分たちにどんな準備ができるのか、できる範囲で考えるべきでしょう。

そのうえで、どうしても老後資金が足りないという人が出てきた場合に、何らかのセーフティーネットで対応すればいい。

私は、マスメディアの姿勢も良くないと思います。あの金融庁の問題も、最初に騒ぎ始めたのはメディアですよね。もちろん、あの問題をきっかけに、多くの国民が自分の老後について真剣に考え始めたとすれば、メディアもそれなりに役割を果たしたと思いますが。

みんなの介護 なるほど。「人生100年時代」の老後については、でき得る限り自己責任で対応すべき、ということですね。

 私が申し上げているのは、老後資金をいくら貯めるとか、必ずしもお金の問題だけではありません。

むしろ、「自分が年老いていくまでに、どんな人間関係を築いてきたか」のほうが重要かもしれませんね。もっと端的に言えば、「どんな家族関係を築いてきたか」。

10年ほど前、NHKが「無縁社会」についてシリーズで放映して、大きな話題になりましたね。私も番組を見ましたが、「これは少々危うい」と思いました。というのも、番組に登場する「孤立無援」になった人が、それまでにどんな家族関係を築いてきたのか、ほとんど語られていなかったからです。

妻や子どもがいたとすれば、家族となぜ疎遠になってしまったのか。その点に触れることなく、「政府が悪い」「社会が悪い」「この人がかわいそう」と言い募るだけでは、そこから私たちが学べることは何もないし、単なるお涙頂戴で終わってしまうと思ったのです。

娘夫婦に息子夫婦、そして5人の孫たち。これこそが、私の人生で築いてきた財産

みんなの介護 金さんのお言葉を借りると、老後は自分の人生の総決算であり、たとえば介護が必要になったりしたとき、「自分の身近に誰がいてくれるか?」が重要だということですね。

 そういうことです。なぜなら、年老いてから自分の周りにどんな人たちが残っているかは、半分以上、自分の責任だと思うからです。

私の場合、夫の周英明は2006年に他界しましたが、娘夫婦と息子夫婦がいて、5人の孫がいる。この家族こそ、私が85年かけて築き上げてきた財産だと思う。今でもみんな、仲がいいんですよ。この9人に、私の秘書を加えると、私のすぐ身近にいる人間は10人になる。

この10人はアテにしていいと考えているので、もしも私に何かあったら、1人が10日に1回ずつ、私の様子を見に来てもらえるんじゃないかと期待しています。

みんなの介護 金さんにとって、やはり最も大切なものは家族なんですね。

 というより、私が家族を支えているし、家族がいるから私はハッピーなのだと思う。

家族は人生を豊かにしてくれるものですが、単に仲がいいだけではいけません。人間は誰でも平等ですが、しかし立場の違いというものがあります。

家族の中にも当然ヒエラルキーがあって、その頂点にいるのが祖母であり、最年長者である私です。頂点にいるからこそ、全員が幸せになるように目配り、気配りしなければなりません。

教育の専門家の中には最近、「大人が子どもの目線まで降りていって…」などという人がいますが、私は、大人が子どもの目線まで降りていくべきではないと思っています。

大人と子どもの間には、厳然とした上下関係が存在していると思うからです。生まれたばかりの子どもは、大人がいなければ死んでしまう。大人は常に子どもを育てていく責任があるし、子どもは大人を見上げることで成長していけるのですから。

みんなの介護 噂で聞いたのですが、金さんはご家族に「ボス」と呼ばれているとか。

 はい。5人の孫たちには、私を「ボス」と呼ばせています(笑)。

「美齢」という名前のとおり「美しく齢を重ねる」ことが、自分に課せられた生き方だと考えています

みんなの介護 金さんの著書『九十歳美しく生きる』を、とても興味深く拝読しました。金さんは今年85歳。金さんが考える「理想の老い」について、お話を伺いたいと思います。まず、「金美齢」というお名前ですが、まさに「美しく齢を重ねる」と書きますね。どなたが名付けられたのでしょうか。

 父が名付けました。私が生まれた当時、父は貿易商で主に「米」を扱っていたので、最初は「米齢」を考えたようですが、それでは名前らしくないので「美齢」にしたと聞きました。台湾語では、「米」と「美」は同じ発音なんです。私は、この自分の名前が大好きなので、結婚後もあえて名前を変えませんでした。

自分の年齢を意識するようになった中年以降は、「自分の名前に恥ずかしくないように生きよう」と心がけるようになりましたね。「美しく齢を重ねること」が、自分に課せられた生き方だと思うようになったのです。

みんなの介護 著書に書かれていたように、「アンチ・エイジングではなく、ビューティフル・エイジングをめざす」ということですね。

 そのとおりです。老いることに抗ってみても、仕方ありません。それよりも、美しく老いるように、あるいは老いた自分を美しく魅せるように努力すべきですね。

加齢にともなう白髪や、肌のシワ、シミ、たるみも、自分が生きてきた年輪と思えば、むしろ誇りに思えます。

シワや白髪があっても、シワや白髪が魅力的に見えるような「おしゃれ」や「身だしなみ」をすればいいんです。若い頃のおしゃれよりも、老いてからのほうがセンスや工夫が必要。そう考えると、歳を取ってからのほうが、おしゃれのしがいがあります。

みんなの介護 「美しく歳を重ねる」のために、普段から心がけていることはありますか。

 自然に反するような、人工的なものは極力肌に触れさせないように気をつけています。たとえば、テレビに出演するときと講演会で人前に立つとき以外、私はお化粧を一切しません。

今日もすっぴんです。もちろん、洗顔後に保湿ローションを塗るなど、必要最小限のお肌の手入れはしますが、フェイスパックなど美顔や美白のためのケアはやったことがありませんね。

科学的な根拠はまったくありませんが、人工物をつけると、なんだか正常な皮膚呼吸が妨げられるような気がして…。

それから、髪を染めることは髪をいじめることになるので、この歳になるまで、髪を染めたことも一度もないんですよ。

みんなの介護 ありのまま自分として生きることが「ビューティフル・エイジング」なんですね。

美しく歳を取るには、日常のストレスを溜めこまないこと

みんなの介護 普段の生活ではどんなことに気をつけているのでしょうか。

 私の生活の基本は、ストレスをすべて他人に押しつけること(笑)。

まあ、それは冗談ですが、ストレスはできるだけ溜めないようにしています。ストレスを溜めないというより、「ストレスにしない」と言うほうが正しいかもしれません。基本的に、自分が嫌だと思うようなことはしません。

みんなの介護 それはたとえば、どういうことでしょうか。

 そのときそのときのケース・バイ・ケースなので、一概には言えないんですが…。

たとえば、ごく些細な例で言うと、自分が不在だったために、宅配便を再配達してもらうようなとき。「宅配便のお兄さんに何度も足を運んでもらうのは申し訳ない…」と思うと、それがストレスになりますよね。

そんなときは、感謝の気持ちを伝えるために、宅配便のお兄さんに、ちょっとしたお礼の品を渡すようにしています。

みんなの介護 それはどんなプレゼントですか。

 いいえ、プレゼントというほど、大それたものではありません。たとえば、友人知人からいただいた、季節の果物や地方の銘菓など。たとえば、宅配便の配達員さんだったら、「お宅、4人家族だったよね?これ、もらいものだけど持っていって」と、仙台名物のおまんじゅうを4つ渡したり。

あるいは、宅配便の配達員さんは小さなお子さんがいる方なら、クリスマス用のブーツに入ったお菓子を渡したり。

みんなの介護 配達員さんの家族構成まで知っているんですか。

 はい。私はおしゃべりなので、配達してもらう度にちょっとずつお話しして、いつの間にか家族のことまで話す間柄になっていますね。

そうやって、普段から配達員さんとも気兼ねのない関係を作っておけば、再配達をお願いしなければならないときでも、ストレスを感じることなくお願いできるし、むしろ「ありがとうございます」と言われることで、私自身の喜びにもなります。

そうやって、感謝の気持ちを伝え合えば、みんな仲良くなれるんです。

金美齢「老いることにあらがってみても、仕方ありません。それよりも「老いを美しく」見せるように努力すべきです」日本人の人づきあいは、あまりに儀式的過ぎます。もっとフランクで気軽に、つきあうべき

形式的な物のやりとりほど、空しく意味のないものはありません

みんなの介護 先ほどの、宅配便再配達への対応は素晴らしいと思います。そうやって、自分の感謝の気持ちをちょっとしたもので相手に伝えることが重要なんですね。いざ、自分でやれと言われても、難しいかもしれませんが。

 そうですね。日本の人たちは、そういう場面になると、なぜかシャイになってしまいますから。私たち台湾人のように、フランクで気軽に物をやりとりすることが苦手なようです。ちょっとしたものをあげたり、いただいたり。私にとっては、それが生活習慣の一部になっているんですけど。

逆に私から見ると、日本の人たちは社交上の物をやりとりするとき、あまりに儀式的過ぎますね。お中元、お歳暮、結婚祝い、内祝いのお返しと、形式を重んじるあまり、贈り物に心がこもっていないように感じることも少なくありません。

みんなの介護 冠婚葬祭やお祝い事に関して、日本人は確かに形式的すぎるかもしれませんね。お祝いになん円いただいたから、半返しでなん円分のお返しをあげる、とか、相場はいくらだとか、そういうことを異常に気にします。

 そうでしょ?型どおりのお礼とお返しほど、空しく意味のないものはありません。私はそういうのが嫌いだから、お中元やお歳暮をいただいても、そのタイミングでお返しはしません。代わりに、年末にまとめて、台湾のカラスミを贈るようにしています。

コミュニケーションで重要なのは、相手をどれくらい思いやれるか

みんなの介護 贈答品ひとつ取っても、その人の生き方や考え方が端的に表れるんですね。

 コミュニケーションで重要なのは、相手の人をどれくらい思いやれるか、ですね。

テレビ出演や講演の仕事をしているので、いろいろな地方にいって、その土地の名産を御馳走になったり、送ってもらったりすることが多いのですが、一度だけ、名産品を送ってきた人に抗議の電話を入れたことがあります。

みんなの介護 せっかく名産品を送ってきてくれたのに、「怒りの電話」を入れたのですか。

 はい。というのも、年の暮れも押し詰まってから、クール宅配便で、とんでもなくかさばるものを送ってきた人がいたからです。年末はどの家庭も、冷凍庫は満杯状態になりますよね。まして私は独居老人ですから、どんなにおいしいものでも、一度にたくさんは食べられない。そんなことは、少し考えてもらえばわかるはずなんですが…。

早く冷凍庫に入れないと食材は悪くなってしまうし、本当に困ってしまって、それで送り主に電話をしました。こんな時期に、大量の冷凍食品を送ってくるのは非常識だと(笑)。その人は、「ウチではすぐに食べ切ってしまうので…」とかなんとか、もごもご言っていましたが。

みんなの介護 その後、その方との交流は続いていますか。

 いえ、それ以来、その方とはおつきあいしていません。

みんなの介護 やっぱり(笑)…。金さんの著書を拝読すると、ご自分から贈答品のリクエストをすることもあるそうですね。

 何でも言い合える関係の人には、リクエストすることもあります。たとえば、ある方から「郷里の淡路島からちりめんじゃこをお送りします」と言われたとき、ちりめんじゃこはすでに別の方から毎年いただいていたので、「できれば、淡路島のおいしいタマネギをお願いします」と伝えました。

ずいぶん厚かましいお願いですが、名産品を送ってくださる方にとっても、送り先に本当に喜ばれるものを送るほうが嬉しいのではないでしょうか。

みんなの介護 なるほど。金さんがストレスを溜めない理由が何となくわかった気がします。要するに、言うべきことは心の中にしまっておかずに、相手にきちんと伝えることが大切なんですね。それが、ストレスを溜めないコミュニケーションの秘訣なのかもしれません。

 そう言われればそうかも、という気がします(笑)。

「高齢者は、免許返納を真剣に考えたほうがいい」高齢ドライバーの暴走事故に喝!

みんなの介護 日本社会の少子高齢化は加速度的に進んでいて、最新のデータによれば、総人口に占める65歳以上の割合は27.7%。4人に1人以上が高齢者です。しかも、このままでは、2040年までに全国896市区町村が消滅するかもしれないといわれています。超高齢社会を迎える日本の未来について、金さんは今、どのようなご意見をお持ちでしょうか。

 政府は早くから、市街地をコンパクトに集約する「コンパクトシティ」の構想を打ち出していますが、先行きは不透明ですね。ここ数年は市街地でも大規模災害に見舞われるケースが頻出しており、山間部より市街地のほうが必ずしも安全とはいえなくなってきました。コンパクトシティ構想は、災害対策の面からも見直しが求められそうですね。

私自身についていえば、台湾時代から都市部以外に住んだことのないシティガールなので、今後も東京から離れられそうにありません。

そもそも、自動車の運転免許を持ったことは一度もないので、移動にはどうしても、公共の交通機関かタクシーが必要。そういう面からも、都市部を離れられないのです。

みんなの介護 金さんが運転免許を持っていないとは、少し意外でした。

 私は自分に運転の才能がないとわかっているので、若い頃から免許を取るつもりはありませんでしたね。私の主人も免許を持たなかったし、娘にも免許を取らせませんでした。

わが家で運転免許を持っているのは息子だけ。彼には運転の才能があると思い、免許を取らせたんです。そのおかげで、彼はもっぱら、牛乳やパンの調達など、私の買い物に付き合わされていますが(笑)。

みんなの介護 ここ数年は高齢ドライバーによる重大事故が多発しているので、逆に運転しなくて正解かもしれません。

 心からそう思います。免許を持っていない私が言うのも変な話ですが、高齢者の方はこれから、ご自分の運転免許の自主返納を真剣に検討したほうがいいと思う。ご自分の人生を総決算する時期に、悲惨な事故の加害者になることだけは避けたいところですから。

みんなの介護 2019年は、特に悲惨な事故が多かったですね。

 東京のど真ん中でも、痛ましい事故がありました。交通機関のない地方ならいざ知らず、都心で高齢者が事故を起こすなんて、罪は深いです。しかも、お金がないわけでもなさそうなのに、なぜタクシーを使わなかったのか。思い出すだけで腹が立ちます。

日本人は何事も悲観的に考えすぎる。それは多くの人が、自分の国しか知らないから

みんなの介護 先ほどの高齢ドライバー問題については、少しずつ対策も進んでいますね。2009年から、75歳以上を対象に免許更新時の認知機能検査を始めており、政府は今後、安全運転支援機能を持つ車だけを運転できる限定免許の発行や、高齢者対象の実車試験導入を検討しているとか。高齢者の方にとっては、必ずしも明るいニュースではないかもしれませんが。

 いいえ、高齢者の方が今よりも安全に運転できるようになるわけですから、確実に明るいニュースだと思いますよ。

私が普段から気になっているのは、日本の人たちが何事も悲観的に考えすぎる傾向にあること。私たち台湾人のように楽観的になれ、とまでは言いませんが、日本人は自分たちの国や社会に、もっと自信と誇りを持っていいと思います。

私から見る限り、いまや日本は世界一住みやすい国になっているのですから。

みんなの介護 そうでしょうか。日々のニュースを見ていると、それほど住みやすい国とは思えませんが…。

 それは多くの日本人が、自分の国しか知らないからです。

私が大学留学のために来日したのは、60年前の1959年。その後、台湾の独立運動に関わった関係で台湾当局のブラックリストに載せられ、1964年にパスポートを無効化されました。その後、台湾は民主化され、1995年に中華民国のパスポートを再取得しましたが、台湾は国際社会で国家として認められていないため、海外旅行に出かけようとしても簡単にはいきません。

たとえば、日本人の知人とイタリア旅行を計画しても、ビザを取るために私だけイタリア大使館に何度も足を運ばなければなりませんでした。

ところが、2009年に日本に帰化して日本のパスポートを手にした途端、海外旅行が夢のように自由になりました。世界130ヵ国以上に事前のビザ申請なしで訪れることができ、たとえビザ申請が必要な場合でも、日本パスポート所持者のチェックは驚くほど緩やか。日本のパスポートは“五つ星”なんです。

それほどまでに、日本は国際社会で一流国と認められているわけですね。

みんなの介護 言われてみれば確かに、日本人の多くは、自国のパスポートをそれほど有難いものだとは思っていないみたいですね。

 そうでしょう。日本人はすでにとても恵まれているのに、いつも不満ばかり言っている。台湾出身の私からはそう見えます。

日本人はもっと、「自分たちは世界的に見てもすごく幸せな国に暮らしているんだ」と自覚を持ったほうがいいですね。そのうえで、自分たちの国の未来や、他の恵まれない国々との関係を考えていくべきです。

歳を取ることは素晴らしい。だから、アンチ・エイジングは目指さない

喜怒哀楽の数が、自分の人生を美しく磨きあげてくれる

みんなの介護 今回は、金さんの人生観を中心にお話を聞いてきました。冒頭でご紹介した金さんの著書、『九十歳美しく生きる』の中に、とても印象的なフレーズがあります。「喜怒哀楽の数が人生を美しく磨きあげる」。このフレーズに込められた思いを聞かせてください。

 日本の多くの人たちは「アンチ・エイジング」を理想に掲げ、「歳を取ること」を否定的にとらえているようです。しかし私は、歳を取ることは素晴らしいことだと思う。

無駄に歳を取るのではなく、歳相応の充実した経験を積み重ねていけば、年齢は若さ以上の艶と輝きを人生に与えてくれるからです。

私も若い頃は、邪念や嫉妬といったマイナスの感情にとりつかれることもありましたが、歳を取るごとに、そういった劣情をうまくそぎ落とせるようになり、よりシンプルに自分の人生と向き合えるようになりました。

今の自分に満足できるのは、歳を取ることを肯定し、むしろ喜び、無駄なあがきをしなかったから。喜びをかみしめ、怒りに打ち震え、哀しみを乗り越え、楽しみを見出す。そんな喜怒哀楽の数が人生を美しく磨きあげるのだと思います。

みんなの介護 何よりご家族を大切に思う金さんですから、喜怒哀楽の中には当然、ご家族との濃密な時間が含まれているんですね。

 私は13年前に最愛の夫である周英明を失いました。その哀しみはとても大きかったのですが、彼は今もすぐ近くから私を見守っていると感じます。

先日、ある知人に「どんなときにご主人を思い出すか」と聞かれ、「毎日思い出している」と答えました。特に、今が旬の柿の実を見かけるたび、柿が大好きだった彼の姿が目に浮かびます。

みんなの介護 それほど、ご主人を愛していらしたんですね。

彼のお骨はまだ埋葬せず、娘の家で預かってもらっています。私が死んでお骨になったとき、お父さんの骨と混ぜて、一緒に樹木葬にしてほしいから。だから主人には毎日、「もう少しだけ、こっちの世界に居させてね」と話しかけています。

まだまだ現役として、自分の意見を社会に発信し続けていきたいですから。

撮影:公家勇人

金美齢氏の著書『九十歳 美しく生きる (WAC BUNKO)』は好評発売中!

「生涯現役」を理想とする金美齢氏が、歳をとることのすばらしさ、人生の喜び、台湾独立運動に捧げた半生について綴る。高齢社会ニッポンへ向けて、自立した品格のある老後を送るためにどうすべきかを問いかける最新作。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
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