体の衰えや病気の後の回復には、適切なリハビリが大切です。リハビリが必要な高齢者が入居を検討する際には、機能回復と健康的な生活のために専門的なリハビリができる施設を選ぶことが重要です。
施設によってリハビリの内容や質は大きく異なるため、状態や目標に合った施設選びが必要です。
本記事では、高齢者施設のリハビリの種類と特徴、施設選びのポイント、症状別の適したリハビリについて解説します。
高齢者施設のリハビリ内容と特徴
高齢者施設でのリハビリテーションは、身体機能や認知機能の維持・向上を目的として実施されています。
厚生労働省の統計によると、通所リハビリテーションの利用者数は年々増加傾向にあり、高齢者のリハビリニーズの高まりを示しています。
さまざまなリハビリを提供する施設が多く存在し、選択が難しいため、施設ごとの特徴を確認しましょう。
リハビリを重視する高齢者施設の種類と特徴
高齢者施設は大きく「医療系」と「介護系」に分けられ、それぞれリハビリテーションの内容や専門性が異なります。
医療系施設は、医師の指示のもとで専門的なリハビリテーションを提供します。
リハビリテーション病院では、脳卒中や骨折などの急性期治療後に集中的なリハビリが行われます。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職が多数配置され、医療保険が適用された毎日複数回のリハビリが実施されるのが特徴です。
介護老人保健施設(老健)は、病院と在宅の中間施設として位置づけられ、在宅復帰を目指した医学的管理下でのリハビリを提供しています。
医師や看護師が配置されており、専門的なリハビリスタッフも配置されています。
介護医療院は、長期的な医療と介護の両方を必要とする高齢者向けの施設で、慢性期の医療ケアとリハビリを提供しています。
一方、介護系施設は、日常生活の支援を中心としながらリハビリも提供します。
特別養護老人ホーム(特養)は、長期的な生活の場として位置づけられる施設です。
基本的な生活リハビリや機能訓練が行われている場合が多いですが、専門的なリハビリスタッフの配置は施設によって異なります。
有料老人ホームは施設によってリハビリ内容に大きな差があります。医療型の有料老人ホームでは、充実したリハビリプログラムを提供する施設もあるでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は住居としての側面が強いものの、併設サービスや外部サービスを利用してリハビリを受けることが可能です。
グループホームは認知症の方向けの少人数での共同生活の場として、日常生活を通じた機能訓練が中心となっています。
各施設タイプには、それぞれ特徴があり、積極的な機能回復を目指す場合は医療系施設が、長期的な生活の場としてのリハビリを希望する場合は介護系施設が適している場合が多いでしょう。
介護老人保健施設(老健)の特徴
病院での治療後、自宅に戻るための準備をする施設で、入所期間は原則3〜6ヵ月ですが、長期化するケースもあります。
医師・看護師による24時間の医療ケアと、リハビリ専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)による専門的なリハビリが特徴です。
老健では主に以下のリハビリプログラムが提供されています:
- 個別機能訓練:専門職による一対一の運動療法や日常生活動作訓練
- 集団リハビリ:複数利用者が参加し、社会性の維持・向上も目的とするグループ活動
- 生活リハビリ:食事、入浴、排泄などの基本的な生活動作を通じた機能回復
老健の強みは医学的管理下での専門的リハビリと生活全般のケアの両立です。
脳卒中後のまひがある方が歩行訓練を受けながら、日常生活場面でも機能回復のサポートを受けられます。
施設を選択される際のポイントは在宅復帰率、リハビリ専門職の配置人数、個別リハビリの実施頻度、「在宅復帰」重視の方針の有無です。
特別養護老人ホームと介護医療院の特徴
特別養護老人ホーム(特養)と介護医療院は、どちらも長期的な生活の場ですが、リハビリテーションの内容や医療体制に違いがあります。
- 【特別養護老人ホーム】
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- 要介護3以上の高齢者が対象で、生活の場としての機能が中心
- 機能訓練指導員(看護師、理学療法士など)が配置されていますが、老健より少ない場合が多い
- 主に「生活リハビリ」を提供し、集団体操や個別機能訓練が週に数回程度実施
- 積極的な機能改善よりも現在の機能維持と自立した生活支援が目的
- 【介護医療院】
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- 2018年創設の比較的新しい施設で、長期的な医療と介護の両方を必要とする高齢者対象
- 医師や看護師の配置が手厚く、リハビリ専門職も配置され、医療機関に近い体制
- 医療的ケア(人工呼吸器など)が必要な方にも対応し、状態に合わせたリハビリを提供
選択の目安として、医療的ケアが必要な方は介護医療院が、安定した生活の場を求める方は特養が適しています。
要支援や軽度要介護の方には有料老人ホームも選択肢となりますが、施設によってサービス内容や料金が異なるため、提供されるリハビリ内容の事前確認が重要です。

入所前に確認すべきポイント
高齢者施設選びでは、リハビリテーションのサービス内容が重要な判断材料です。施設のリハビリ体制を事前に確認し、状態や目標に合った施設を選びましょう。
リハビリ専門職の配置状況と個別プログラムの有無
リハビリのサービス内容を左右する重要な要素として、専門職の配置状況が挙げられます。
主な専門職とその役割は以下の通りです。
- 理学療法士:歩行や起立など基本動作のリハビリを担当。
- 作業療法士:食事、入浴、着替えなどの日常生活動作や手指の細かい動きのリハビリを担当。
- 言語聴覚士:嚥下機能や言語機能のリハビリを担当。
介護保険施設では「機能訓練指導員」(看護師、柔道整復師など)がリハビリを担当することもあり、資格によって専門性が異なります。
リハビリ内容についても以下のポイントを確認しておきましょう。
- 個別リハビリの有無と頻度
- リハビリ計画の評価方法と見直し頻度
- 家族への進捗報告方法(面談や報告書など)
- 具体的な目標設定(「自宅の玄関から居間まで伝い歩きで移動できるようになる」など)
高齢者の状態は個人差が大きいため、個々の状態や目標に合わせたプログラムを提供する施設を選びましょう。
リハビリ設備と実施頻度
施設のリハビリ環境を確認する際は、設備と実施頻度の両方が重要です。
- 【確認すべき設備】
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- 在宅復帰を目指す場合:実際の生活に近い環境での訓練ができる模擬的な台所、浴室、トイレなどの設備
- 認知症ケアを重視する場合:認知機能訓練のための教材や設備(回想法用の道具、計算問題など)
- 特殊なニーズがある場合:電気刺激治療器具やリハビリ用ロボットスーツなどの先進的機器
- 【実施頻度の確認ポイント】
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- 個別リハビリの週あたりの回数と1回あたりの時間
- 集団リハビリの頻度、内容、1回あたりの参加人数
- 日常生活場面(食事、入浴、排泄)での自立支援の取り組み
施設見学の際はリハビリの様子を実際に見学させてもらい、リハビリの雰囲気や利用者の参加状況、スタッフの関わり方を直接確認することをおすすめします。
これにより具体的なイメージを持つことができ、本人の安心感にもつながります。
搬送先医療機関について確認したり、どのような状況で救急搬送を判断するのかを確認したりすることも大切でしょう。
病院とのカルテ情報の共有方法や、施設内での医療情報の記録・管理方法について確認することも忘れないようにしましょう。
ご家族の健康状態の変化や通院結果などが家族にどのように報告されるかといった点も確認しておくとよいでしょう。

症状・疾患別に見る高齢者施設でのリハビリ効果と選び方
高齢者の状態や疾患によって、必要とされるリハビリテーションの内容は大きく異なります。
ここでは、代表的な症状・疾患別に、効果的なリハビリの内容と、それを提供している施設の選び方について解説します。
脳卒中後遺症のためのリハビリ
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)は、高齢者に多い疾患であり、後遺症として片側のまひや言語障害、嚥下障害などが残ることがあります。
脳卒中後のリハビリは時期によってアプローチが異なるため、状態に合わせた施設選びが重要となります。
- 急性期(発症から2週間程度)
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一般病院や脳神経外科病院での内科的・外科的治療と並行して、ベッドサイドでの早期リハビリが始まります。この時期はリハビリ専門の施設を選ぶ段階ではありません。
- 回復期(発症から2週間〜6ヵ月程度)
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最も積極的にリハビリを行う時期で、回復期リハビリテーション病院が最適とされています。 リハビリ体制の整った介護老人保健施設(老健)も選択肢となるでしょう。
- 維持期(発症から6ヵ月以降)
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回復のスピードは緩やかになりますが、適切なリハビリにより機能維持や緩やかな改善が期待できます。
在宅復帰を目指す場合は、リハビリ体制の整った老健や、通所リハビリ(デイケア)と訪問リハビリを組み合わせた在宅生活が選択肢となります。
長期的な施設生活を想定する場合は、リハビリ専門職が配置された特養や介護医療院、リハビリプログラムが充実した有料老人ホームなどが選択肢となるでしょう。
脳卒中後は、適切なリハビリを続けることで、発症から時間が経過しても機能改善がみられる場合もあります。
そのため、「もう回復しない」とあきらめるのではなく、長期的な視点でリハビリを継続できる環境を選ぶことが重要です。
また、脳卒中の再発予防も重要な課題であり、血圧や血糖値などの管理ができる医療体制や、適度な運動プログラムがある施設を選ぶことで、再発リスクを低減できるでしょう。
認知症ケアのためのリハビリ
認知症の方に対するリハビリテーションは、身体機能の回復だけでなく、認知機能の維持・改善や生活の質の向上、行動・心理症状の軽減を目指して行われます。
近年、認知症に対する「認知症リハビリテーション」の重要性が認識されるようになり、多くの施設で専門的なプログラムが導入されています。
軽度認知障害や初期認知症の場合、施設選びのポイントとしては、認知症予防プログラムがある通所リハビリ(デイケア)や、認知症ケアに力を入れている有料老人ホームなどが適しているでしょう。
まだ在宅生活が可能な段階であれば、通所サービスを活用しながらの生活が望ましい場合が多いです。
中等度認知症の場合は、認知症ケア専門士などの専門スタッフがいる施設、小規模な生活単位で落ち着いた環境が整っている施設が適しているでしょう。
重度認知症の場合であれば、医療的ケアも含めた総合的な支援体制があるかどうか、認知症ケアの専門性が高い施設かどうかを確認することが挙げられます。
認知症の方に対するリハビリで重要なのは、「できないこと」を訓練するのではなく、「できること」を維持し、活かせる環境を整えることです。
そのため、施設選びでは、個々の認知症の方の特性や残された能力を理解し、適切な関わりができる体制があるかどうかがカギとなるでしょう。
また、認知症の行動・心理症状に対しては、薬物療法だけでなく、環境調整や適切なコミュニケーション、日中の適度な活動なども効果的です。
施設見学の際には、穏やかで落ち着いた環境があるか、個別性を尊重したケアが行われているかを確認するとよいでしょう。

骨折からの回復のためのリハビリ
高齢者の骨折、特に太ももの付け根の骨折や脊椎の圧迫骨折などは、日常生活動作に大きな影響を与え、寝たきりのリスクを高める重大な問題です。
適切なリハビリテーションによって、骨折前の生活レベルに戻ることを目指しましょう。
骨折後リハビリのための施設選びとしては、急性期〜回復期初期は整形外科病院や回復期リハビリテーション病院が適しています。
選ぶポイントとしては、手術の実績、リハビリ専門職(特に理学療法士)の充実度、早期離床の取り組みなどがあげられるでしょう。
回復期中期〜後期は回復期リハビリ病院または老健が適しています。
選ぶポイントとしては、集中的なリハビリが受けられる体制、退院後のフォロー体制などを確認するとよいでしょう。
維持期になると、在宅復帰の場合は通所リハビリ(デイケア)と訪問リハビリの併用が、
施設入所の場合はリハビリ体制が整った特養、有料老人ホーム、サ高住などが選択肢となります。
ここでのポイントは、継続的な運動プログラムの有無、転倒リスク管理、骨粗しょう症への対応などが重要です。
施設見学の際には、リハビリの様子を実際に見学し、利用者が活発に動いている様子がみられるか確認してみるとよいでしょう。
また、再骨折予防も重要な課題です。転倒リスク評価と対策、環境整備などが総合的に行われている環境が理想です。
まとめ
高齢者施設におけるリハビリテーションは、単に身体機能を回復させるだけではなく、その方の生活の質を高め、できる限り自立した生活を送るための重要な支援です。
施設選びの際には、本人の状態や目標に合わせて、最適なリハビリ環境を提供している施設を選ぶことが大切になります。
医療系施設(回復期リハビリ病院、老健など)は専門的なリハビリが充実している一方、
介護系施設(特養、有料老人ホームなど)は生活の場としてのリハビリが中心となっています。
入所前には、リハビリ専門職の配置状況と個別プログラムの有無、リハビリ設備の充実度と実施頻度、医療機関との連携体制を必ず確認しましょう。
症状や疾患に応じた施設選びも重要です。
脳卒中後遺症の場合は専門的リハビリが受けられる医療系施設、認知症の場合は認知症ケアに特化したプログラムがある施設、
骨折の場合は段階に応じたリハビリプログラムがある施設が適しているでしょう。
ご家族に最適な施設を選ぶためには、複数の施設を見学し、実際のリハビリの様子や生活環境を確認することをおすすめします。
また、ケアマネージャーや医療ソーシャルワーカーなどの専門職に相談することで、より具体的なアドバイスを得ることができるでしょう。
リハビリテーションは継続することで効果が現れるものです。長期的な視点で機能維持・向上を目指せる環境を探していきましょう。