元・厚労次官 村木厚子さん「より良い介護はより良い働き方から」
与えられたポジションで、仕事に全力傾けた官僚時代
みんなの介護 村木さんは常に情熱を持って、仕事に打ち込まれてきた印象を受けます。
村木 正直に言うと、私は特定の分野に思い入れを持つという感じはあまりなかったのです。一生懸命取り組んでいる現場の人たちに喜んでもらうこと。それが、やりがいでした。
現場の人たちは「この制度のここがダメ」「ここが変わったら現場が変わる」と私に伝えてくれます。そして、制度が改善されるとすごく喜んでくれる。
―― 周りの人が喜んでくれることをやり続ける中で、今の道に導かれたのですね。
村木 そのように感じます。私は官僚時代、2年に一度ポジション移動をしながら、いろいろな分野に携わってきました。そのポストに就いたら、そのポストの仕事を一生懸命する。会社員と同じですね。
―― 具体的にはどんなポジションでお仕事をしてこられましたか?
村木 最初のキャリアだった労働省では、女性や障がい者、非正規雇用の方など多様な人が自分の力を発揮できて、良い環境で仕事ができる。やりがいを持てる。そのために20年以上奮闘してきました。

後半は、わりと福祉が多かったです。生活も含めて、どうしたらその人らしく生きられるかのお手伝いをしてきました。
現在は若者の支援活動にも力を入れている
―― 最近は若者の支援活動にも携わられています。
村木 若草プロジェクトや首都圏若者サポートネットワークなどです。厳しい環境に置かれた子ども・若者を支える活動をしています。それから大学で教鞭も取っています。
高齢化が進んだことで、高齢者の問題に向き合う必要があると感じます。しかし、若者の可能性が開ける環境を整えないと、日本の将来がない。
―― そう考えるようになったキッカケはなんでしょうか?
村木 変な話ですけど、大阪拘置所に拘留されていたときの経験が大きいです。

拘置所では毎日することもなく、お昼と夜のニュースが外の世界とつながる手段でした。中でも、子どもの虐待のニュースが心に焼き付いて離れなかった。
何でなのかなと考えました。そして思ったのです。子どもたちがつらい目に遭っているのは、大人の責任なのだと。
拘置所で広がっていたのは福祉の現場と同じ光景
―― 役人という立場を離れ、一人の人間として心に響いたのですね。
村木 刑務所に入っている人と言うと、悪いことをした怖い人たちというイメージがあるでしょう?でも、そこにいたのはハンディキャップを持った人たちでした。まるで、福祉の現場で見ている光景そのものだったのです。
障がいがあったり、知的なボーダーであったり、精神疾患があったり、外国の方が多かったり…。若い女性も多かったです。可愛くて一生懸命仕事もする。刑務官に「あの子たち何したんですか」って聞いたら、薬物や売春だと。

彼女たちがそうなる背景には、とても厳しい環境がある。ある意味、被害者だと思います。その環境の悪さから薬物に依存したり、売春したりする。
また、お正月にそこに入りたいがために、スケジュールを逆算して無銭飲食や万引きする人たちもいると聞きました。
私がいたのは11月ですが、「ここで冬を過ごしたくない」と真剣に思う場所です。しかし、その時期に入ってきたいと考える人が少なからずいるのです。いったい塀の外でどんな生活をしているのかということです。
”ここ”に来る川上で助けることができていれば
―― 罪を償って出所しても、弊の外に出れば、逃げ出したくなるような環境が待っている。
村木 罪を償って塀の外に出ても、環境は変わらない。振り出しに戻るわけです。上手く福祉にもつながらないし、仕事が持てない。刑務所にいる人の中には再犯がとても多いです。
そんな姿に触れると、思うじゃないですか。ここへ来る前に何とかできなかったのかって。もっと手前の川上のところで、助けることができていればって。
撮影:花井智子
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