元・厚労次官 村木厚子さん「より良い介護はより良い働き方から」
「ヤングケアラー」という言葉が出てきたのは良いこと
みんなの介護 介護の問題に戻って、例えばヤングケアラー問題などはどうお考えでしょうか。

村木 まず、ヤングケアラーという言葉が生まれたことが良かったと思います。実態があってもそれを端的に表す言葉がないと、なかなか社会課題として認識されない。言葉が生まれたことで、政府も自治体も危機感を持つことができた。相談窓口をつくるために努力しています。
家族内の困ったことも外に相談できる。そう思える仕掛けをつくることが大切です。ヤングケアラーの悩みもそうだし、虐待を受けている子どもたちも、大抵は言わないんです。
「何かあったら聞きに来て」鈴木福さんに教えられた
―― 相談することにハードルがあるということですね。
村木 先日、俳優の鈴木福さんとの対談で、大事なことを教えてもらいました。「何かあったら言いなさい」じゃなくて、聞きに来てほしいと。

自分から相談に行くのは、ものすごく勇気がいる。でも、時々「どう?」と聞きに来てくれたら言えるかもしれないと。
それだとハードルがぐっと下がるし、今度はこんなふうに説明しようと準備もできると言っていました。
特にヤングケアラーの問題などは、大人が子どもたちにときどき聞きに行くことが大切ですよね。
軽く「相談」と言うが、そのハードルは高い
―― 悩みごと全般に通じることですね。
村木 日本で一番自殺率が低い町には、「病は市に出せ」という言葉があるそうです。困ったことは早めにカミングアウトして人の助けを借りる。それが命を守る方法だというのです。
―― 地域にそのような風土が根付くと、自然と相談できるようになるのでしょうか?
村木 相談窓口があることはすごく大事だと思います。だけど、相談って結構ハードルが高い。自分が何かに困っているという認識がある。その課題をある程度言葉にできる。人に話す勇気を持てる。そのすべてが揃うことで、初めて相談ができます。
ハードルが高いなら、その手前に人とつながれる居場所をつくる。すると茶飲み話をしながらぼろっと困りごとを言いやすい。キャッチする側の感度がよければ、そこから専門機関への相談につながります。
―― それは地域としてできることかもしれませんね。
村木 介護事業者さんは、地域にそのような場所をつくるお手伝いができるはず。多くの場合、異変を感じてから要介護になるまで、時間があります。その間、介護が必要になった場合に備えて情報を得られたらいいですね。
―― 悩みを解決するために、ほかに大切なことはありますか?
自立の定義を変えることですね。自立というのは、誰にも頼らないことではない。たくさんの人に少しずつ依存できるようになること。依存症の研究をしている医師がそう語っていました。
ヤングケアラーは、福祉はもちろんですが、学校の先生やお友達などいろいろな人や機関がそれぞれに出来ることを支援する必要があります。それによって、本人は初めてつらさをしのぎながら、自分らしく生きる道を見つけられると思います。

撮影:花井智子
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