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パトリック・ハーラン「今の高齢化問題は、少子高齢化が問題視され始めた1970年代、当時の政府に圧力をかけなかった今の高齢者たちにも責任がある」

最終更新日時 2016/11/07

パトリック・ハーラン「今の高齢化問題は、少子高齢化が問題視され始めた1970年代、当時の政府に圧力をかけなかった今の高齢者たちにも責任がある」

お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンこと、パトリック・ハーランさん。タレントとして司会者やコメンテーターとして数多くのテレビ番組に出演する他、ハーバード大学卒の高学歴を活かし、東京工業大学の非常勤講師として教壇に立つ顔も持ち合わせている。また、大統領の演説 (角川新書)ツカむ! 話術 (角川oneテーマ21) を出版するなど執筆活動も意欲的に行う。日本人の国民性をよく知ったパックンが語る日本の問題点とは!?

文責/みんなの介護

日本はすばらしい国。だけど、“真っ先に政府が動いてほしい”という気持ちが強いのが日本人

みんなの介護 パックンは、日本に住み始めて、今年でどれくらいになるのですか?

パックン もう20年が経ちました。お世辞抜きで、日本という国はすばらしいと思います。僕はよく旅行をするんだけど、すでに47都道府県を3周ぐらいはしましたよ。本当に、日本が大好き。改善できる点はあると思うけれど、大げさじゃなく、100歳まで、日本で暮らしたいと思っています。

みんなの介護 改善できる点がある…とのことですが、今日は、日本の問題だと思われているところをお話いただければと思います。

パックン わかりました。言った通り、日本が大好きだから、あえて少々厳しめのことを言わせていただきます!

みんなの介護 今の日本では“高齢者と若者の間には世代間格差がある”といわれている現状があります。さらに、若い人の間では”年金をもらえないんじゃないか”と考えている人も少なくありません。

パックン 年金、それは公的年金に対してですね。来日した当時、僕は会社員だったので、厚生年金に加入していました。一方で、アメリカの年金のほうには、実は新聞配達を始めた10歳の頃から払っています。アメリカでは、収入がある人は年齢に関係なく全員払うシステム。自営業であれば、収入の3%を納めるのですが、10歳のときから今も、ずっと払っています。

20代のときは、将来の年金のことをそれほど気にはしてはいなかったけれど、アメリカでも「年金制度は崩壊するだろう」としばしば言われています。でも毎回「大げさだよ」という冷静な声も上がっていて。“給付額を3割減らせば制度が崩壊することなく給付し続けられる”といった感じ。でも、日本のみなさんと同じで、中年ぐらいになるといろいろと気になってきますね。

みんなの介護 違うといいますと…?

パックン 例えば、遠い国で震災が起きたとします。アメリカでは、赤十字を通してでも私的に寄付をします。日本の場合は「レスキュー隊を派遣するように」と思う人が多い。もちろん、各報道機関が“◯◯募金”とやってはいるけれど。“真っ先に政府に動いてほしい”という気持ちは、アメリカ国民にはそれほどないんですよね。

「賢人論。」第27回(前編)パトリック・ハーランさん「現在の高齢者に対して相続税を上げるとか所得制限をつけるとか、思い切った政策も必要では?」

北欧のような高課税・高サービスでもなく、低課税・低サービスでもない日本は、中課税・中サービス

パックン 地域を活性させるにも、中央政府からどれくらいの補助金が出るのかといった話が出るまでは何も動かない、というのが日本の悪い癖だと思います。日本では待機児童の多さが問題になっているけれど、アメリカ人は「義務教育は6歳だから、どうして保育園まで政府が用意しなければいけないんだ」と思うものなんですよ。

アメリカの保育園は民間の企業やNPOが経営するものであって、政府が経営するなんて、僕は聞いたことがありません。基本的には保育園を自ら探して、近所になければ“教育ママ”のような人を探します。世の中のニーズに答えるのは政府よりも民間、という価値観が強いというのが、アメリカ人の特徴。

みんなの介護 年金についてはどのようにお考えですか?

パックン もちろん国民年金はありますが、それだけで安泰に暮らせるとはアメリカ人の多くは思っていませんよ。

日本ではしきりに「少子高齢化だ」「現役労働者一人で高齢者〇人を支えなければならない時代」とか叫ばれていますが、少子高齢化が問題視され始めたのは、なんと1970年ですよ。今から50年近く前の出来事で、そこからどうして動いていないんだ?と思ってしまいます。

さらに言えば、日本は北欧のような高課税・高サービスでもなく、かといって低課税・低サービスでもない。 “中課税・中サービス”の国であると感じますね。今のように、「なぜもっと良いサービスが出ていないんだ」と国民が怒っているでしょう。でも、政府がそんなサービスを提供できるほどの税金を納めていません。国民の税負担は北欧に比べると大したことないんです。

みんなの介護 現役世代の親に介護が必要になったとしても、親は介護施設に入居できず、仕事を辞めざるを得ない“介護離職”の問題もあります。

パックン その問題も、20年、30年前から取りかからなければならないことだったと思うよ。

みんなの介護 少子高齢化問題も含めて、さまざまな問題が先送りされてしまった結果の現状だと思うんです。

パックン その通り。でも、今介護を必要とする年齢にさしかかっているみなさんは、20年前は有権者でしたよ?

みんなの介護 今65歳の人の20年前というと、45歳ですね。

パックン 率直に言うならば、そのときの政府に強い圧力をかけなかった、今老後を迎えようとしている人たちの責任もあると思うんです。もちろん、いろいろな事情はあるだろうけれど…。その責任をどうやって負うか。例えば、相続税を思い切り上げる。それから、お金持ちに対する所得制限をつける。こういうことをやったりしてもいいんじゃないの、とは思います。

「賢人論。」第27回(前編)パトリック・ハーランさん「アメリカ人の感覚から言えば、自分の老後は自分の責任。政府に頼りきるのではなく、必要なお金は自分で貯めておかなくちゃ」

東京にいる子どもの近くに住みたいという気持ちもわかるけれど、地価の高い東京に住み続けたいなら、自分でその分だけ貯めておかないと

パックン 僕自身は、消費税も健康保険も、累進課税としてもいいという考え。理想を言うならば、“政府に責任を預けよう。そのかわりに高い税金を払おう”という北欧モデルですね。

今って、国が地方移住をすすめているでしょ。日本人の感覚からすると「都会に住んでいる人たちは地方に行けばいいじゃない」と言われると“責任転嫁だ”と感じる人は多いかもしれません。でも、自分の老後は自分の責任でしかないと、アメリカ人は思います。東京に何年も住んでいるからって、死ぬまで東京に住むことが優先されるとは思わないです。

結局は、自分で自分の面倒を見ることが必要なんだと思うんです。“政府にもっとやれよ!”と圧力をかけながらも、内心では“すべてそうはならないだろうな…”と思いつつ、自分の老後は自分で考えるしかない。

みんなの介護 うーん、厳しいお言葉です。

パックン とはいえ、実質賃金が上がっていない中で、どうやって貯金する?本当に難しくない?というのが正直なところ。僕には子どもがいるけれど、子どもたちの塾代を削って貯金するか?なんて考えると、簡単にはいかない。

みんなの介護 今は教育費も上がっているんですよね。

パックン ねえ。非常に難しい。家族旅行費を削る?車を手放す?引っ越しを諦める?大変な選択ばかりです。でも、それが現実。

今働いている人たちが、退職してからもずっと地価、生活費の高い東京に住み続けたいなら、自分で必要な分だけ貯めておかないといけないとは思います。政府に頼りきるんじゃなくてね。子どもが地方から東京に上京してしまって、子どもの近くに住みたいという人の気持ちもわかりますけど。

みんなの介護 今後10年間、首都圏では13万人分の介護施設が不足するとも言われています。

パックン 僕個人の意見としては、東京から電車で1時間くらいのところの老人ホームを活用してもいいと思うんですけれどね。老人ホームの数が少ないのであれば、ぜひ民間企業が動くべき。介護職員が足りないのなら、移民政策の見直しやオートメーションの進化などさまざまな手を考えられる。柔軟性でもって考えれば何とかなると、信じたい。自分も介護離職はしたくないし。

自分の推測、寿命とか他の投資の配当金とかさまざまなファクターを見て、自分に合った老後の資金計画を立てるべき

みんなの介護 先ほど、アメリカ人と比べると“政府任せ”の傾向が日本人には強いとのご指摘がありました。ご自身では、将来に備えて実践されていることはありますか?

パックン 実は、僕は20代後半から投資をしているんですよ。

みんなの介護 それは、将来年金の給付額が減った場合に備えてのことでしょうか?

パックン そうではなくて、単純に、老後の生活で苦しみたくない、という理由からです。年金を全額もらっても、生活が楽になるわけではないですから。僕は旅行が好きだから、バックパッカーでもいいから世界一周の旅をするための費用を考えてね。あとは、子どもの大学の教育費もあるし。今まで、家を購入したとき以外は貯金を減らしたことはないですね。

みんなの介護 常に老後への備えとして考えていらっしゃるんですね。アメリカの65歳以上の人は、どのような老後を過ごされるんでしょうか?

パックン そりゃあ、一概に言えないですよ。貧富の差もあるし、価値観のバリエーションはすごく幅広いし、英語を話せない方もたくさんいらっしゃるし、一概に言えないのがアメリカなんですが!

僕の家族は、わりと普通くらい。普通というのは、似ている人が人口の4割くらいいるという感覚。家族はずっと国民年金を払っていて、父親の世代は会社の年金もあるから受給する予定がある。さらには個人でお金をずっと貯金していて、少しずつ投資して増やしておいて、アニュイティ(annuity)を契約します。アニュイティはもちろんご存知ですよね?日本語では何て言うんだろう?日本でも、最近はアニュイティとよんでいると思うんですけど。

みんなの介護 あまりなじみがない言葉です。詳しくご説明いただけますか?

パックン 例えば、1000万円を70歳のときに預けるとします。そのかわり、死ぬまでに月々10万円もらえる、というような民間の年金のことです。

みんなの介護 1000万円は一括で?

パックン 一括です。いろんなやり方はあるんですよ。日本の健康保険の場合、中には任意保険もあるけれど、アメリカは最初から全部が任意保険のようなものなんです。これにはさまざまな種類があって、「わりと元気な人は大病にならない限り保険金がおりない」、あるいは「お金をかけていいからケアを受けるときは絶対個室で高級な病院に通えるように」といったように、自分の価値観に合ったプランを選ぶことができます。年金も一緒です。

民間の年金はどういうことかというと、一括で1000万円払って、70歳から毎月10万円を受け取り始めるとします。75歳で死んでしまったら、すごく大損したことになりますよね。でも、100歳まで生きたらボロ儲けしたようなもの。だから、そういう自分の寿命や他の投資の配当金などさまざまなファクターを見て、自分に合ったプランを選ぶ方も多いです。

みんなの介護 なるほど。そうであれば安心して長生きできますね。介護施設についても、介護の手厚い施設とそうでない施設と、さまざまですか?

パックン うちのおばあちゃんは安定した収入を得ていて、立派な老人ホームにも入って、数年後に隣接している終身介護ホームに移動して、去年の12月に他界したんだけれど、お葬式も施設の中で行いました。そういう施設で看取りをしてもらえるように、けっこうな額のお金を貯めていたようです。

お父さんもおばあちゃんと同じです。お母さんは…そこまで立派な施設に入るお金はないから、ワンランク下にはなるだろうけれど、施設に入るお金はあるだろうと。みんな、やっぱり医療や介護などがどれだけかかるか心配に思っているので、様々な保険やプランを持っています。

「賢人論。」第27回(中編)パトリック・ハーランさん「アメリカの年金制度は自分が払った価値を若い頃から実感できる仕組み。それが日本との 決定的な違いだと思う」

アメリカの年金通知は、払った金額と将来に受け取る金額も書かれている。日本もそうすべき

みんなの介護 日本でいうところの、介護保険制度のような公的な制度はあるんですか?

パックン 基本は自己責任ですが…65歳以上だと、メディケアという高齢者の保険があります。珍しく、国が運営している健康保険制度。この制度は立派なものですよ。

65歳以下の年齢層にも拡大すればいいのに、と思ったりもします。64、63、62、61と、毎年1歳ずつ加入年齢を下げていってほしいです。制度自体はあるのに、なんでやらないんだ!と言っている人も多いです。

これとは別に、生活保護制度もある。生活保護を受けるくらい貧困であれば、国からお金が出ます。介護費用も含めてですよ。でも、資産がゼロでないといけないから、みんな、ちょうどギリギリのところで資産が消えるように計算して使っているんです。豪華ツアーに行ったりして、最後の数年は政府のお金で暮らそうか、という話になっているんですね。

みんなの介護 自己責任社会と言われているアメリカも、社会保障費に関しては国が負担している額は決して少なくないですね。

パックン 日本の皆保険はアメリカより立派だし、医療費自体が安いところも日本の良いところなんです。それでも、貧困層にしてみたら、自己負担の1~3割というのは高いんですよね。

さらに言うならば、日本の年金制度が非常にわかりにくいというのは問題だと思います。アメリカの国民には年金の給付額が一目瞭然の通知が届きますが、日本のみなさんにも毎年届きますか?

みんなの介護 “ねんきん定期便”という通知が誕生月に届きます。

パックン その通知には「あなたは65歳になったら、これぐらいもらえます」といったことが書いてありますか?

みんなの介護 何年何月にこの額を納付した、というのは書いてありますが…。計算のやり方は書いてありますが、いくらになるといった具体的な金額は書かれていませんね。

パックン アメリカでは報告書が毎年送られてくるんですね。(スマホで検索中…)この人の場合、推測給付金、67歳から受給するならば、月々1680ドル、70歳まで待てば2094ドル、早めに受給したならば62歳なら1159ドル、十分単位を払ったと書いてある。単位というのは、年金納付年のことです。

万が一、今、怪我をして働けなくなったときに1527ドル、今年亡くなった場合に子どもは1100ドル、配偶者が65歳以上だったら1500ドル、家族で最大2900ドル、と書かれています。ここまで詳細に書かれた報告書が毎年必ず届くから、払い込んだ価値を若い頃から感じることができるんです。

みんなの介護 それは20代の人にも届くんでしょうか?

パックン そうですね。その年に払った金額と、これまでに払った金額の合計が書かれている。将来にもらえる金額も。

みんなの介護 日本では、そこまで詳細に書かれていないですね。

パックン それじゃあ、自分が払った価値が一目でわからないね。“今怪我したらいくらもらえるか”という情報を知れば、ちょっとは安心できるでしょう。アメリカではここまで詳細になっているんです。

「賢人論。」第27回(中編)パトリック・ハーランさん「社会は絶えず変わるのに、国も、国民も変わらなかった。そのことを棚に上げて文句ばかりを言っていても現実は変わらない」

日本も北欧モデルのように高課税・高サービスのモデルに移転する、と決めて動いてもいいと思う

みんなの介護 先ほど老人ホームの話題が上がりましたが、日本では比較的利用料の安い特別養護老人ホームの待機者が多い、という問題が上がっています。

パックン アメリカのように規制緩和するというのが一つの手だと思います。ただし、自由になるかわりに、規制が緩和された分、自分で判断しなければなりません。口コミなどを調べて、いろいろ試算しながらどんなにサービスがいいのか。例えば、相部屋のホームを増やすとか。

みんなの介護 特別養護老人ホームであれば相部屋のところはあります。

パックン それは介護付きのホームでしょ?高齢者専用マンションのようなところには相部屋はないだろうけれど、コスト削減のために考えてもいいと思いますよ。学生寮みたいな感じで。さすがに2段ベッドは厳しいかもしれないですけれど、いくつかの方法は考えられるはずです。本当に困った方は、そういうところも選択肢としてはある。最低限の衛生面は国の規制で保障するけれども、それ以外の部分は、自分の家族も含めて自分で選んでください、といったアメリカ式でやってもいい。

でも僕の本音を言えば、高課税・高サービスの北欧式が好きです。日本も、北欧モデルのように高課税・高サービスのモデルに移転する、と決めて動いてもいいと思うんです。今の日本は中途半端で、両制度にはたどり着けないけれど、双方の良い部分を見て“いいなあ”と思っている。でも、個人も責任転嫁しないで自分で対策を取ることも大事、とアメリカ人の僕は思います。確かに、社会自体は変わっていくのに政府が変わらなかったという点も問題です。でも、政府を変えなかったのは国民なんだから、文句ばかり言ってちゃダメでしょう。

みんなの介護 ニーズはあるわけですから、規制緩和が進んで民間企業が参入しやすくなれば入居待機者が減る方向に進めばいいのですが。今は介護も保育も公的サービスでくくられているわけなので、税金の中で、国の制度の中で、という縛りがあるわけです。

パックン 「ニーズがあるのに、なぜ民間企業が答えないんだ。それは規制が厳しいからだ」と言うなら、規制を緩和してもいいのではないでしょうか。問題を解消しなければいけないのは政府だけではないと、僕は思います。そんなにニーズがあるならおいしい市場になるわけだから、民間企業や個人で施設を運営する方法もありますよね。

例えば、地価が安い地域に介護施設を作って、その老人が歩いて通えるエリアに病院、スーパー、娯楽施設、図書館とかを設置して、わかりやすい老後の大型コミュニティを作って、みんなそこへ移住するような施策をとるのは、僕は反対じゃない。それが強制ではなくて、選択肢の自由であるならね。

都内で土地、高いマンションとかを持っている大家さんは、売って、自分の好きなところに移住すれば、その運営費をかけて、共同生活できるんじゃないかなとも思います。専門家じゃないから詳しい金額はわからないけれど、単純計算するとそうなるんですよ。

みんなの介護 規制緩和に対しては、抵抗勢力の反対があるから進まないという声があるのも事実です。

パックン もちろん、さまざまな意見があって当然です。ずっと同じ町に住んでいた人は町内会の付き合いもあるでしょう。なるべく最後まで住み慣れた土地で暮らしたいという気持ちもわかる。でも各々が過去に選択したことは、政府の責任じゃないと思う。今は空き家がものすごく増えているのに、なぜ老後施設はできないんだ、って思ってしまいます。規制に守られている面もあれば、規制によって解決策が阻まれている面もあるかもしれません。

例えば、保育園にしても、規制を緩和して、ちょっと暗い、ちょっと汚い、ちょっと給料の安いスタッフのもとで子どもが一日例えばテレビを見ているとすれば、それこそ取材が入って、大バッシングされるでしょう。僕が出ているような番組でも、ガンガン取り上げます。でも、それによってお母さんが働けるとしたら、かなり助かる親御さんもいらっしゃると思うんです。

子どもにとってはもちろん普通の保育園に行けるのが理想なんですが、いけない子が多いのが現状。そこで、保育園にも行かずにずっと生活保護で暮らす家庭で育つか、数年それほど環境の良くない不認可の保育園に通う代わりに家庭が中流階級に入るか、という選択肢があるとまだいいです。どちらも理想的ではないが、どちらを選ぶかは、お母さんに預けていいと思うんです。

今は選択肢さえありません。認可保育園も不認可保育園もなく、困っている親子が多いです。人数分の認可保育園ができるまでは規制を緩和して、せめて選択肢を与えたいですね。これはアメリカ式の「低サービスで自己責任」という考えです。何度も繰り返しますが、僕は充実した保育園も介護施設も政府が提供する、高課税、高サービスのモデルが好きですけどね。アメリカ人なのに、考え方は北欧っぽいです。

アメリカ人の多くは子どもが老後の面倒を見てくれるとは思っていない

みんなの介護 ここまで、国民も政府に要求するだけではなく、自らが行動していかなければといったことを伺いました。ただ、選挙の期間になると、社会保障について本当に課題にするべきことが論じられないことも事実です。

パックン その通りです。与党もしっかりしてほしいし、野党もしっかりしてほしい。今は、一党独裁とまではいかなくても、ほぼそれに近い状態になっているといえます。野党がしっかりしない限り、選挙時には選択肢がなくなるでしょう。与党の危機感がなくなるし、改善する必要性も感じなくなる。そこがネックかもしれません。

しかしながら、民主主義である限りは、年金を廃止する政治家は一人もいないでしょう。年金だけは、守ると思います。

みんなの介護 年金の受給額は減っても、制度は残るということでしょうか。

パックン 票田となるお年寄りの方々がとっても敏感な問題です。受給額は少し減っても、政治家が制度自体をなくすことはありえません。働き盛りの皆さんは同等の政治力を持っていなくて、年金を支えるためにグンとお金がかかることになると不満に思ってしまうかもしれませんけどね。

年金制度自体は世界規模で見ても新しいんですよ。アメリカが1937年に初めて開始した制度だから、テスト期間だと思うとちょっと気が楽。維持可能な理想形をまだ探っているところです。もう少し長期的な目で見てもいいのかもしれません。

でもね、贅沢な悩みですよ。韓国よりはマシだと思うし、中国よりは絶対マシ。インドネシアやフィリピンなどの東南アジア各国は“いいなあ待機児童問題、子どもを預けることを前提で文句言える人は“。“老人ホームができるだけでもすごい”という世界ですからね。年金制度に崩壊の恐れはあっても、比較的しっかりしている。日本が、とてもうまくいっている国だからこその悩みだとも思うね。

みんなの介護 世界から見れば日本はうまくいっている国なんでしょうが、時代が変化していくのと同様に、制度も変えていかなければならないと思うんです。

パックン 確かに、これまでの日本には3世代で暮らす風習がありました。おじいちゃん、おばあちゃんが昔から子どもの面倒を見てくださり、最終的に子供や孫に面倒を見てもらっていましたね。政府が面倒を見るところと、大家族が面倒を見るところ、昔は2本柱で成り立っていました。それは日本の素晴らしさでもあると思うんです。

実は僕にとって第二のふるさとは福井県で、子どもを連れてよく遊びに行くんですね。僕が知っている福井の高齢者の人たちは本当に恵まれています。一番仲のいい家族は、子ども夫婦の家を実家の隣に立てて、同居ではないけれど、一緒にごはんを食べたり、孫の面倒を見たりして、いつも行き来しています。別の人は、また実家の隣に息子用の家を建てて、数年後に家を交換するとか。うまく考えているんですよね。僕の知っている人たちはすごく幸せそう。

田舎だし、車社会だし東京よりは不便なところもあるけれど、みんな子どもを見る目がやさしいです。そういう意味では、福井の人は東京の人よりも余裕があると感じます。

みんなの介護 昔は地域の目もありましたよね。

パックン ありました。家庭だけではなく、地域で支えあう面もありましたし。おそらく高齢者の問題もそうだったと思います。でも一極集中型で都市化が進んで、核家族化になって、さらに平均寿命が伸びて、いろんなファクターで昔のままの社会じゃ、今の日本人の生活を支えることができないのは明らかです。

アメリカ人の場合、基本的に老後は老人ホームに住む前提で考えていると思うんです。子どもが面倒を見てくれる前提では考えていません。僕はずっと日本に暮らしているし、半分“日本人”になっているから、本当にギリギリまで自分の子どもと暮らしたいと思っているんだけれど、子どもに断られても大丈夫なくらいのお金は貯蓄しようと思っています。

「賢人論。」第27回(後編)パトリック・ハーランさん「若い家族向けの政策に期待するとしたら、未成年の投票権をその親に持たせるのもいい」

人口が少ない若者世代は“20歳代の1票は大きい”と思うかもしれないが、それは民主主義の落とし穴。ある意味“無視される20代”と言ってもいい

みんなの介護 年金制度の話に戻りますが、若者よりも選挙に行く高齢者の方の人数のほうが圧倒的に多いので、「高齢者優遇の政策が重視される」という声が大きくなっています。

パックン まあ当然でしょうね。民主主義の、そして超高齢社会の落とし穴です。だから、変な話、少子高齢化は年齢の高い世代にとって得な社会と言えるかもしれない。まあ、得したと思わないでほしいですが、“一票の格差”は地域別にあると同時に、“総票の格差”が年代別にあるんです。つまり、高年層の票が多くて、若い人は、人口が少ないし投票率が低いから、ある意味“無視される若年層”になりがちです。

ひとつの解決策を紹介しましょう。“年代別代表選挙”をすることです。今の制度では若者の票が無視されて上の世代の人たちの票数に飲み込まれちゃうから、若者だけで代表を決めよう、という案です。地域ごとの選挙区ではなく、若者の代表、中年の代表、高齢者の代表、というふうに。

それぞれの枠を決めて、極端な話、70代に一人、60代に一人、50代に一人、という風にすれば、逆にそこで若年層有利の一票の格差が生じるんですが、こうすれば若者向けの政策も考えてもらえるんじゃないか、という制度を提唱する声もあります。

みんなの介護 選挙制度で、他にこうあったらいいなと思われることはありますか?

パックン 実現できそうなレベルで言えば、親に未成年の投票権を預けるということ。親は子どもの面倒を見ているけれど、いくら親が子どものためにやっても、2人で1票にしかなりませんよね。少子高齢化社会の今は、未成年の子どもがいる世帯より、いない世帯のほうが断然多いからです。大人の表だけを数えると、家族向けの政策をやってもらえない可能性が高い。それならば、未成年の子どもにも政治力を持たせましょう、と。さすがに小学生に1票の権利は与えられないから、それを親に預けるというわけ。

親は父親、母親の2人、子どもが3人いるとすると、父親と母親に1.5人分の票をプラスする、という形。そういうのは考えられます。これなら、日本のみなさんは納得するんじゃないですかね?

「賢人論。」第27回(後編)パトリック・ハーランさん「就活、婚活、そして終活…。早くから考えて、準備しておくに越したことはありません。日本の若者よ、危機感を持ちなさい!」

若者よ、危機感を持ちなさい!

パックン 女性の立場も子どもの立場も、少しずつ良くなっていることは確かなんだけれど、これからの日本を考えれば、まだ足りないと思います。

みんなの介護 どのようなときにそういったことを実感しますか?

パックン 例えば、電車でベビーカーを押していると、にらまれたり舌打ちされたりすることも多いし、おじいちゃん、おばあちゃんって余裕はあるはずなのに、厳しい方もいらっしゃる…。僕はいろんな国に行って、子どもが外で遊ぶ光景はよく見るんです。フィリピンでもインドネシアでも北欧でも。北欧は出生率がそこまで高くないのに、子どもをよく見るし、走り回って騒いでいる。コペンハーゲンやベルリンなどの大きな街でもね。東京は、子どもが遊んでいる姿はほとんど見ない。みんな“室内にいなさい”とでも思っているんですかね?

みんなの介護 “東京は子どもに厳しい街”という人もいらっしゃいます。

パックン ねえ、本当に。「保育園に落ちた日本死ね」と書いたお母さんの気持ちもよくわかります。“子どもの声がうるさいから保育園を建てちゃダメ”という主張を認める自治体のことが理解しがたいです。認可保育園なのであれば、建てる権利はあります。住民の人たちが文句を言う権利もありますけれど、それが地域の子どもの権利に勝ると思いません。納得ができる代替案を出してくるまでは僕だったら建て続けますね。で、“住宅街は子供がつきものです。引っ越す自由はありますから、どうぞ静かな森の中で暮らしてください”って言うかもしれません。

みんなの介護 日本の若い人たちに、言いたいことはありますか?

パックン 就活、婚活、最後の終活全部、今のうちに考え始めたほうがいい。結婚は思っている以上に難しいし、子育ても思っているよりもウンとお金がかかります。長期計画を持っている若者は少ないんじゃないかなあ…。10年後、20年後、自分はどういう人生を送りたいのか。途中で変更してもいいから、早い段階からイメージしておいたほうがいいと思います。日本の若者よ、危機感を持ちなさい!

撮影:小林浩一

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07