撮影当時の関口監督の心境は?
主治医は本当に<母の認知症>のことを理解しているのか、信頼に足るのか、大いに疑問を持つに至りました
この当時、認知症の薬といえばアリセプトでしたよね〜。
母の主治医がアリセプト派(と敢えて書きますね)だったので、私もそういうものかとあまり薬のことを深く考えずに受け入れてしまいました。
しかし、最初は3mgだったのが、あれよあれよという間に7mgまで強くなっていきました。
その期間は、たかだか2週間ほどだったと記憶しています。
そして、すぐに問題発生!
最初はお腹がゆるくなる程度だったのですが、その先さらに大変なことが…。

興奮状態に陥った母が、トイレットペーパーを探し求め家中を駆けめぐったのには、本当に驚きました。
さすがにアリセプトの効用というよりは、副作用ではないのかとチラっと思いましたが、当時の私は真面目に母の代行の役目を遂行してしまうのです。
主治医のところへ飛んで行き、母の状況を話すと、主治医は母を落ち着かせるべくメマリーという薬を処方してくれました。
このメマリーの副作用は、傾眠なんですね。
母はこの薬の服用後、興奮が嘘だったように今度はパタッと倒れて寝てしまいました。
ますます恐ろしい!脳関係の薬はヤバイのではないか…?
自分のメンタル・ノートに深く刻み込んだ瞬間です。
また、主治医は本当に<母の認知症>のことを理解し、信頼に足るのかどうか、大いに疑問を持つようになりました。
しかし、家に閉じこもっている当時の母の状況を考えれば、ほかの医師のところへ連れて行くのは至難の技。
さて、どうしたものか…思案に暮れていた時期でしたね。
そのとき関口監督がとった行動は?
途方にくれたときこそリサーチ!認知症キュア(治癒)ではなく認知症ケアという考え方に行き当たる
母には申し訳ないですが、アリセプトとメマリーの薬の副作用のエピソードがあったからこそ、私の目は<認知症=薬>から外れることができたんだと思います。
では、薬に頼るのではなかったら、どうすればいいのか。

振り返れば、ここが大きな分かれ目でしたね。これもプランBの考え方です。
途方にくれたときこそリサーチをする!
リサーチをしているうちに、認知症にはキュア(治癒)ではなくケアだという考え方に行き当たり、そこを突き詰めていったところ、私が認知症ケアにおいて唯一無二と考えるようになった<パーソン・センタード・ケア>という概念に出会ったのです。
そして、さらにリサーチを続けるうちにパーソン・センタード・ケアの理解と実践の専門家で精神科医である英国のヒューゴ・デ・ウアール博士と運命的な出会いを果たし「毎日がアルツハイマー2」に登場して頂くことになりました。
ヒューゴ・デ・ウアール博士との出会いは、本当に大きかった!博士の助言のおかげで、私は母の認知症の薬をやめたのですから。
そして、2019年の今、アリセプトはあまり効果がないという結論が出ていることを鑑みれば、正しい決断だったと考えています。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
しっかりと認知症の人を観察し、本人に合ったケア計画、ケア・チームを作る
薬の副作用が強く出たこともあり、母は薬をやめてよかったと考えています。
しかしこの考えは、薬の代わりにパーソン・センタード・ケアをするという代案があったうえでのことです。
ここで強調すべきは、認知症になっても十人十色ということですね。
認知症ケアのもっとも難しい点は、カスタマイズされた個別ケアが必要であるということで、薬についても個別の関係性があるかと思います。
例えば、主治医が認知症の薬を絶妙に処方できるのならば、頭から薬を否定することはできないと思います。
まずは、しっかりと介護をしている認知症の人を観察し、本人に合ったケアの計画を立て、介護保険を駆使してケア・チームを作り実行する。ここに尽きると思います。
(みんなの介護編集部より)
2019年10月1日、『毎日がアルツハイマー』の関口祐加監督のご母堂で“主演女優”の宏子さんが永眠されました。心からご冥福をお祈りいたします。
『毎日がアルツハイマー』公式サイトによると、「あっぱれという気持ちとリスペクトでいっぱい」「誠に見事な最期」「有言実行で逝った母には感嘆しかない」と、関口監督らしい言葉が綴られており、宏子さんらしい最期を迎えられたことがわかりました。
本コンテンツはこれからも、今までと変わらず発信し続けてまいります。
きっと、これからも多くの方を魅了し、笑い、涙し、考えさせていくことでしょう。
読者の皆さまのお役に立てられるよう、編集部一同、一層精進していく所存です。
宏子さん、89年の長い人生、本当に本当におつかれさまでした!