アルツハイマー病に期待の新薬「ドナネマブ」が最終段階の臨床試験で効果! レカネマブとの違いや今後の見通しを解説

アルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」が、臨床試験で有望な結果を示したことが世界的に話題になっています。開発したイーライリリー社の発表によれば、第三相臨床試験という、最終段階の試験で、初期のアルツハイマー病患者において認知機能と日常生活能力の低下を有意に遅らせる効果が確認されました。既に、FDA(米食品医薬品局)への承認申請も完了。日本でも申請する方針とのことです。
アルツハイマー病の新薬といえば「レカネマブ」(エーザイ)が先行していますが、「ドナネマブ」はどこが違うのか? メリットやデメリットなどをお伝えします。
ドナネマブのメカニズムは?
ドナネマブは、アルツハイマー病の原因とされる物質・アミロイドβを除去するための薬剤です。原因物質に直接作用することがポイントです。
そもそも、アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が異常に蓄積することが原因の一部であると考えられています。
アミロイドβは健康な人の脳にも存在していますが、何らかの原因で適切に排出できなくなると、健康な神経細胞にもダメージを与えてしまいます。その結果として、認知症を発症するという説があります。このアミロイドβを除去することを目指した薬剤がドナネマブなのです。
それでは、どうやってアミロイドβを除去するのでしょうか?
ドナネマブは脳内の「掃除人」
ドナネマブにはアミロイドβに結合する「抗体」が含まれています。抗体は、いわば「目印」のような働きをします。この目印がつくと、体の免疫がアミロイドβを認識しやすくなります。この「目印」付きのアミロイドβは、免疫系の細胞(マクロファージやミクログリアと呼ばれる細胞)によって「食べられ」、分解・除去されます。
簡単に例えるなら、ドナネマブは脳内の「掃除人」のような役割です。アミロイドβの「ゴミ」を見つけ、それに「目印」をつけ、体の「清掃員」である免疫細胞に「ここにゴミがあるよ」と教えるのです。そして、免疫細胞はその「ゴミ」をきちんと処理し、脳内から除去します。このように、ドナネマブはアミロイドβの除去を助け、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があるというわけです。
ドナネマブで期待される効果は?
臨床試験では、アミロイドβが蓄積している状態のアルツハイマー病の患者を対象に、ドナネマブを使用したグループとプラセボ(偽薬)を使用したグループでアミロイドβ(プラーク)の除去率や認知能力の違いが調べられました。
その結果、アミロイドβの除去率は、ドナネマブ使用群では84.2%、プラセボ群では3.2%と大きな差が出来ました。
また、症状については、ドナネマブを投与された参加者の約半数(47%)が1年間で臨床的な進行がなかったことが報告されています。これに対して、プラセボ(偽薬)を投与された参加者では29%でした。
また、ドナネマブの投与により、症状の進行が遅くなり、日常生活に関する能力の低下も40%低く抑えられたとの結果が出ています。
老年医学の専門医・山田悠史先生(米マウントサイナイ医科大)は、この結果に対して次のようにコメントを寄せてくれました。
「楽観的に捉えれば、米国FDAがすでに正式承認したレカネマブに引き続き、繰り返し同種の薬剤がアルツハイマー型認知症の進行を遅くするという効果を示したとは言えるでしょう。
レカネマブとこの薬の効果を比較して、こちらの薬の効果が高いという報道も見かけますが、別の対象者を扱った研究に基づくデータであり、それぞれの単純比較はできません。
ただし、レカネマブが正式承認されたことを考えれば、このドナネマブも今後大きなトラブルがなければ承認される可能性が極めて高くなったと言えるでしょう。」
ドナネマブの副作用は?
効果が確認された一方、副作用についても報告されています。
特筆すべきなのは、アミロイド関連虚血性神経症状(ARIA)と呼ばれる状態です。これは、脳の血管周辺に液体が溜まる状態で、頭痛、めまい、視覚障害などの症状を引き起こす可能性があるものです。ドナネマブを投与された参加者の約27%で認められました。
その他の副作用としては、脱力感、下痢、発疹などが報告されています。ただ、これらの副作用は一般的に軽度から中等度で、治療を中止するほど重篤なものとはいえないようです。
実際に使用する中で新しい副作用が確認される可能性もありますし、また、長期的な安全性については新薬ということもあって未確認です。リスクについてもある程度はあるものと認識しておく必要がありそうです。
副作用などデメリットについて、山田先生は次のように話しています。
「今回のドナネマブでも投薬と関連した死亡が複数報告されています。少なくとも2人は薬剤のよく知られた副作用である脳のむくみや出血が原因で死亡したと判断されています。また、過去の同種薬剤では長期投与により逆に脳の萎縮が進行する可能性も指摘されています。そうなると、長期成績は投与した方が悪いという可能性も残されます。まだまだ手放しに薬の登場を喜べるという状況ではないと思います。加えて、コストの問題も見過ごせません。今後この薬のコストをどのように取り扱っていくのかについては、日本国内でも十分な議論が必要です。」
レカネマブとの違いは?
ひとつ気になるのは、先行しているレカネマブとの違いですよね。
効果については、いずれも進行を遅らせる点で共通しています。ドナネマブの場合は、1年間の進行抑制。
レカネマブの場合は、投与から18か月の時点で半年程度、進行を抑制できたとされています。実験の条件が異なるので単純な比較はできません。
実は、メカニズムについては、ドナネマブとレカネマブでは違いがあります。アミロイドβの蓄積を防ぐ点では共通していますが、ドナネマブの方はアミロイドβそのものを除去するのに対して、レカネマブはアミロイドβが形成される前の「原材料」を除去します。
山田先生は、両薬剤の違いについて、次のように指摘しています。
「どちらの薬剤もアミロイドβの蓄積を阻止することでアルツハイマー病の進行を遅らせるという目的は同じです。実際の効果や副作用の違いについては両薬剤を直接比較するような試験が行われるまでは、まだよく分からないというのが現状です。」
今後の認知症治療はどうなる?
ドナネマブなど、新薬の登場でアルツハイマー病に関しては光明が見えてきたと言えるかもしれません。しかし、根本治療は現在の医療や科学技術では不可能です。
認知症のケアにあたっては、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善や心理的サポートなど、多角的なアプローチが必要です。新薬の開発とともに、これらの全体的なケアとサポートの強化も必要です。社会全体が協力して、認知症の当事者の方々を支援できるような体制作りが進むことに期待したいですね。