さかまき。さんは介護職員としてかれこれ10年以上働かれているんですって?
今回のゲストは、お笑い芸人のさかまき。(マッハスピード豪速球 )さん。 実は、テレビ番組・ライブ・寄席など芸人としての仕事のかたわら、主に夜勤で介護職員を続けてきました。 介護職の経験は10年以上。認知症の方を中心に、100人以上の「利用者さん」と向き合ってきたといいます。 今年の4月には、『介護芸人のコントな世界』(代官山ブックス)を上梓。現場のリアルを、"お笑い”たっぷりで描きました。 介護の仕事を始めた意外な理由、独自の介護論、さらには本に書けなかったホンネまで… さかまき。さんの素顔にくらたまが迫ります!
- 構成:みんなの介護
お笑い芸人の目線で描かれる「利用者さん」との日常は、ユーモラスでありながら人情味たっぷり。コントを見るように楽しく読める電子書籍なので、介護業界で働いていない方にもお勧めしたい一冊です。
気がついたら介護歴が10年を超えていた
くらたま
さかまき。そうなんですよ。「note」に介護歴を書こうとしたら10年を超えていたことに気がついてびっくりしました(笑)。「介護は大変だね」なんて言われたりするんですけど、苦にならないというか…それほど大変だって思わないんですよね。
くらたま10年続いたらもう完全にプロですよ。
さかまき。もともとは「生活リズムに合うバイトだから」という、履歴書に書いたらすぐに落とされそうな理由で始めました(笑)。
当時、芸人の友だちが介護の仕事をやってたんです。「夜勤で探しているんだったら、介護の仕事はいくらでもあるよ」って言われたのがきっかけで。
くらたま最初に勤めた介護施設が閉鎖になっても、迷わず介護の仕事を探したと本に書かれていましたよね。「性に合った」ということですよね。
さかまき。はい、まさに性に合ったという感じです。他のバイトを探そうという思いにはまったくなりませんでしたね。
そんな自分が10年も介護とかかわる事になってしまい、なんなら、最初に働いていた介護施設が閉鎖した時、迷うこともなく、新たな介護施設を探してしまうほど、なんか知らんが筋金入りの介護野郎になってしまった。ついこの間などコロナ禍の勢いで介護職員実務者研修を修了。昔でいうホームヘルパー1級を取得し、もう一歩で国家資格の介護福祉士になってしまう。
(『介護芸人のコントな世界』P5より引用)
くらたま芸人と介護以外のお仕事をされたことはあるんですか?
さかまき。いろいろやっています。マンガ喫茶とか、居酒屋とか、100円ショップとか…。
くらたまいろいろやった上での選択なんだ。やっぱり「そんなにはしんどくない」というのが大事なのかな。私もいろいろな仕事をやったけど、どんな仕事でも「楽しくてたまらない!」ということはそうないじゃないですか。
昔、テレビに出る仕事が憂鬱だなって思っていたときがあったんです。前日になると「明日テレビか。嫌だなぁ」という思いが湧いてくる。それで「私テレビ向いていないなぁ」なんて思っていました。
「こんな下品なこと言えないよな」とかセーブしながら話さないといけないのは楽しくない。でも、40代越えてから吹っ切れたんです。「女性としてどう見られるかはもういいや」って。

さかまき。そんなことがあったんですね。
くらたまさかまき。さんは、「この利用者さんはちょっと苦手だなぁ」とか思うことないんですか?
さかまき。そりゃありますよ! 攻撃的な人に対しては、「この人、若いときだったら嫌いだっただろうな」と思うこともあります。でも、そうは言っても「おじいちゃんおばあちゃん」なんで許せちゃうんですよね。
くらたまそう思えるかどうかも重要ですよね。「こいつ許さん!」という思いのままだったらオムツ交換もしんどそう。
さかまき。そうですね。この間もこんな事があったんです。
利用者さんにオムツ交換をしてあげているとき、「何をするんだ!」って突然言われて。「いや、おしっこで濡れちゃってるので交換するんです」って言ったんですけど「やめたまえ!!」って。「いや、これ交換しないと汚いんで」って言ったら、髪をぐっとつかまれてしまい…。
くらたまそれはびっくりしますね。
さかまき。「やめてください。仕事だからやっているだけなんです」って言って、「おじいちゃんのためだから一生懸命やってるんです!」と伝えたら、泣き出してしまったんです。「そうだよね。ごめんね。強い言い方をしちゃったよね」って。
くらたまそんなことが…。
さかまき。その後、ベッドに連れていって寝てもらいました。そして3時間後にまたトイレに連れていったときには、「何をするんだ君は!」って(笑)。もうそうなると、腹立つとかのゾーンじゃないんですよ。本にも書いた「ダメだこりゃ」のゾーンに入るんです(笑)。
ただ介護の現場で、なにしとんねんワレ、と激昂したとて無意味である。疲れるだけである。キリがない。誰も得しない。なので、自分はボケたるご尊老に振り回されるコントの主人公になる。 このマインドをみごとに体現する言葉がある。偉大な喜劇人の言葉である。『ダメだこりゃ』この〝精神〟でいく。なにしとんねんワレとなっても、この言葉をひょいと添えればよい。するとちょっと愉快になる。
(『介護芸人のコントな世界』P203より引用)
くらたま確かにね。いちいち腹立ててられないですよね。ちなみに、プライベートでは介護にかかわることはあるんですか?
さかまき。うちは、母が他界してるんですが、父は健在です。今のところ、認知症になりそうな気配はないですね。
もし認知症になったとしても、ひょっとすると父は幸せかもしれないって思うんです。
くらたまそれはどうして?
さかまき。夜中に「仕事行かなきゃ」って起きてしまう高齢者の方がいるじゃないですか。一種の逆行が起きるわけです。例えば、父が認知症になったとしたら、母がいた時代に意識が戻るのかなぁって。
周りからすれば「それは忘れることなの?」ってなるかもしれませんけど、本人はそんなに不幸だと思っていないのかもしれないなって。

「あなたも施設に入ります」キャンペーンで教育を
くらたま万が一、お父様を介護しなきゃいけない状態になったら、やっぱり施設に預けた方がいいと思います?
さかまき。絶対いい! 入った方が安全ですよ。家で看るのは家族の負担がとても大きいと思うので、プロの力をがんがん借りるべきですよね。
みなさん葛藤されているのは、介護施設にご家族を入れるのが「申し訳ない」と感じるからだと思うんです。だから、早めに「教育」しときゃいいと思うんですよね。
「現代は高齢化社会です。みんな自然な流れで介護施設に入るので覚悟しといてね」って。そんな悪いとこじゃないからって思います。
くらたま「そんな悪いとこじゃないから」ってフレーズ、いい!救われる言葉ですね。
さかまき。まだまだ一般社会ではそういうことは言われていませんよね。だから施設に入りたくないと思う気持ちはわかるんです。
厚生労働省が言った方がいいですよね。「みんな、施設に入りますよ!」って。「あなたも、そこのあなたも施設に入ります」みたいなキャンペーンをやったらどうでしょうか。
くらたまそれ、超良いキャンペーン。実態を知らないことで施設に対する気持ちが重くなってしまう人はいますよね。あと家族の心配の一つとして、介護施設で看てくれる人がいい人か悪い人かわからないとかもあると思う。
さかまき。そうですね。それはやっぱり事前のリサーチが大切だと思います。飲食店にも良いお店と悪いお店があるように、介護施設だっていいとこばかりだとは言えないですからね。ろくでもない奴だっていますよ。
くらたまリサーチか…なるほど。昔は夫婦のどちらかが倒れたとき、もう一方が看るのが美徳とされていましたよ。「お嫁さん」が、姑や舅をみることに対しても。
「あそこは立派ね。ご自宅でご両親を看られて」みたいに言われていた。そんな考え方の中で暮らしていると「じゃあ私もそうしないと」ってなりますよね。
さかまき。そうですね。それに、施設に預けるということに対して、家族が見放したようなイメージを持つことが良くないんです。見放すんじゃなくて、そこが一番安全だから預けるんです。
くらたまいいね。そういう認識にもっと変わったらいいですよね。さかまき。さんは、いい介護をするために意識していることはあるんですか?
さかまき。絶対に感情的にはならないようにしていますね。
くらたま男女ともに、かっとなってしまう人は一定数いますよね。『だめんずうぉ~か~』を書いていたときにも思ったんですけど。そういう人は、介護に限らずどんな場面でもかっとなるんじゃないでしょうか。
さかまき。そうですね。そこで自制できる人じゃなきゃ介護はダメですよね。
くらたまできる人はね。でも、手を挙げる男とかも自制ができないんですよね。
さかまき。「だめんず」はやっぱり危ないですね。
くらたま女の人でもかっとなりやすい方は向いてないのでしょうね。
さかまき。どちらかと言えば向いてないと思います。それに、あまり長く続かないですよ。その人にとっては多分ストレスだと思うんです。
夫婦愛の究極形を生きた“白石夫婦”
くらたま本を読んだスタッフさんの反応はどうでした?
さかまき。スタッフさんが「思い出すわぁ。懐かしい」て言ってくれたお話がありました。白石夫婦(仮名)というご夫婦がいたんです。
おばあちゃんが、夜になると「怖い怖い怖い」って言ったりするんですよ。で、僕がいろいろなだめるんですけど、なかなか落ち着かない。
そこにおじいちゃんがやってきて「大丈夫」って言うんです。その「大丈夫」に何の根拠もないんだけど、不思議とおばあちゃんは落ち着くんです。もう会話の究極系というか……なんかすげえなぁって思いましたね。
くらたますごい世界ができているご夫婦っていますよね。
さかまき。多分この夫婦は、ずっとそんなふうにしてきたんだろうなと思っていました。過去が見えるんですよね。おばあちゃんがぶつぶつ言うと、「うっせいな」と内心で思ったおじいちゃんが「大丈夫」ってなだめる。
くらたまずっとそれでやってきたんでしょうね。
さかまき。でもそのおばあちゃんが亡くなってしまって。そこから一切おじいちゃんの声を聞くことがなくなりました。おじいちゃんは「大丈夫」しか話さない人でしたから。すごく切なかったです。
くらたまお話を聞いただけですごく切なくなりました。
さかまき。でもね、スタッフには「ちょっと盛ってたね」って言われました。「うっせぇなぁ」って思ったんですけど(笑)。

くらたまあはは(笑)。本に書いたお話と、書きたかったけど書かなかったお話があると思うんですけど、その基準ってどんなふうに考えたんですか?
さかまき。本の最後に書いた、おじいちゃんが施設の外に出ちゃった話はちょっと笑えないと思いましたね。そのおじいちゃん、デカくて強いから、足払いされて投げられちゃうんですよ。
あと、離設(介護施設の利用者が無断で施設を出てしまうこと)が起こったという話自体が「事故案件」だから、あんまり良くないかなぁと。でも、前の施設の話だしいいかと思って。
くらたまたしかにね。
さかまき。でも離設ってどうしても起こり得るんですよ。本当に閉じ込めちゃえば起きないですけど、施錠とか縛ったりするのは法的にも絶対だめなんで。
くらたまあり得る話ですよね。読者さんからはどんな声がありました?
さかまき。介護職の方もいますが、そうじゃない人からも「認知症の人たちはこういう世界なんですね」っていう声が届いています。
あと、昔の知り合いが、なぜかこの本だけ見つけて連絡をくれたんです。「今は介護士頑張ってやってんだね!」って(笑)。
くらたま芸人の方じゃなくて(笑)。

マッチングアプリの企画をやったらメッセージが来た
くらたま夜勤のバイトとお笑い芸人を10年以上両立するのって大変だと思うんですけど、それでも芸人を続けられている動機って何ですか?
さかまき。箸にも棒にも掛からなかったらもう辞めてると思うんです。でも、小指ぐらいはかかってる感じがあって。ゴールデンラジオとかたまに呼んでもらったりとか、たまにテレビに出られたりとか、キングオブコントの準決勝まで行ったりとか……
くらたま逆に脱落された方もたくさん見てこられましたよね。
さかまき。もちろんたくさん見ていますよ。僕と同じぐらいのところまで行ったけどやめた人もいますし。でも、僕はなぜか「引き際」までは行けませんね。
くらたまリアルだ。
さかまき。それに僕が独身だからやっていけるというのもあります。
くらたま家族持ちたいなとかそういうのは?
さかまき。あります。結婚したいんです!!

くらたま生々しい願い(笑)。彼女はいるんでしょう?
さかまき。先日、ライブの企画でマッチングアプリをやったんです。それを見ていたお客さんがマッチングアプリで僕を見つけて「単独ライブ見ました」ってメッセージをくれました。まさかのマッチングアプリで感想をもらいました。そのままデートでなくライブ勧誘してしまってます。記事が出る頃にはどうなっていることやら(笑)
小池都知事との対談&くらたまによる本の漫画化なるか?
くらたまやっぱり夢はガツンと芸人として売れることですよね?
さかまき。そうですね。ただ、介護のことを伝えることも、もっと形にできたらいいですね。社会貢献的なこととか。
くらたまビジョンはあるんですか?
さかまき。小池百合子さんと対談したいです。
くらたま小池百合子さん?
さかまき。本を書くきっかけをくれたのは、「マシンガンズ」の滝沢さんという芸人の方なんです。その方がゴミ清掃の仕事をずっとされてて……
くらたまその本読みましたよ!マンガだったよね。
さかまき。そうです! ごみ清掃のバイトをマンガにしたら、それがフィーチャーされてあれよあれよと小池百合子さんと対談することになったんです。僕も滝沢さんみたいなのあったらいいなあって、楽屋で滝沢さんに相談していたんです。
芸人界はいま空前の「もう1つなにか」時代である。ネタが出来るのは当たり前。そこにもう一個、なにかにめちゃくちゃ詳しいだとか、変わった趣味があるだとか、すごい特技があるだとか、ドラが乗ってなければこの世界は今渡り歩けない。2個乗ってればなおよい。3個も乗れば満貫である。「だから、もう1つなんかを見つけたまへ」とよく諸先輩方に言われた。
(『介護芸人のコントな世界』P199より引用)
そしたら、滝沢さんに「バイト何してるの?」って言われて。「介護っすね」って。「どんぐらいやってんの?」。「10年以上ですかね」って介護を続けていることを伝えました。
すると「それしかねーだろ!めちゃくちゃいいじゃん介護なんて」って言ってもらったんです。そこから介護の本を書くことになりました。
くらたま大正解でしたね。
さかまき。だから小池百合子さんとの対談が目標です!
くらたまそういうことなんですね。でもこの本、漫画化しても面白そうだもんね。
さかまき。えー!描いてくださいよ~。最高だなぁ倉田さんに描いてもらえたら。
くらたま精神科ナースの方が書かれたマンガがあるんです。いろんな精神科の患者さんのことが描いてあるんだけど、具体的な話って見ることないから面白いんですよね。
さかまき。すごい話とかありそうですもんね。
くらたまあります。あります。でも介護もそうじゃないですか、やっぱり頭で考えたって絶対に出ない話だから面白い。その方のマンガ結構売れたんですよね。
お笑い芸人というところでは、矢部太郎さんの『大家さんと僕』とかもありましたよね。
さかまき。えっ!今ドキッとしました。実は、僕の本に書いているイラストって、ちょっと『大家さんと僕』のタッチをパクッたんです(笑)。色使いとか薄いパステルカラーで表現したところとか。
くらたまやっぱり!ちょっと似てるなぁと思いました。機会があればぜひやりましょう。
- 撮影:丸山剛史

さかまき。(マッハスピード豪速球 )
1982年生まれ。岐阜県出身。2010年結成のマッハスピード豪速球でボケを担当。夜勤の介護士をしながらお笑い芸人として活動。介護職員実務者研修を修了したほか、認定心理士の資格も持つ。2014年第1回コント新人大賞 準優勝。2014年第35回ABCお笑いグランプリ 準決勝進出。キングオブコント2015 セミファイナリスト。2015年第37回ABCお笑いグランプリ 準決勝進出。2019年ビートたけし杯漫才日本一 優勝。「とねるずのみなさんのおかげでした」「にちようチャップリン」「ネタパレ」「爆笑ドラゴン」「有田ジェネレーション」など出演番組多数。2022年4月『介護芸人のコントな世界』(代官山ブックス )を出版。