あけましておめでとうございます。新年の一回目ということで、昨年を振り返るところからお願いします。どうでしたか、2020年の日本の新型コロナウイルス対策は?
今回のゲストは経済アナリストで、獨協大学経済学部教授の森永卓郎さん。以前から都会と田舎の間に位置する「トカイナカ」で生活していた森永さんは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて激動の一年間だった2020年をどう振り返るでしょうか。漫画家くらたまがこれからの日本社会のことを聞きました。
- 構成:みんなの介護
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて未曽有の一年となった2020年。森永さんは著書で日本の後手後手の経済政策が日本経済に「大転落」をもたらし、急激な「格差」の拡大を引き起こしていると指摘します。新型コロナウイルス対策の分析を交え、日本社会がはらんだ「官僚主義と東京中心主義」の問題に迫ります。
コロナ禍の2020年を振り返る


新型コロナウイルス対策については、政府は日本の歴史始まって以来のとてつもない大失敗を続けています。それをずっと言い続けているのに、なかなか理解してもらえませんが。
国内の世論調査も概ね新型コロナウイルス政策を評価していますね。11月からの感染爆発を受けて「GO TOキャンペーン」の見直しなどがあって、少しは内閣支持率も下がったけど、相変わらずの高止まりです。

そうですね。

だいたいAPI(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ)の『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』では「ファクターX」の存在を無視していますよね。
そもそも、日本は何らかの原因によって、これまで死亡者が欧米に比べてはるかに少なく済んできたけど、それが何なのか確定していないんです。
アジア諸国で比べると、日本の人口当たり死亡者はフィリピンに次いで多いんですよ。

アジアの中では、日本の死亡者数はまあまあ多いということですね。

まあまあじゃなくて、ぶっちぎりで多くの人が亡くなっているんですよ。だいたいWHO(世界保健機関)は、当初から徹底的検査と隔離を呼びかけてきたのに、日本は真っ向から背いてきたでしょ。

検査件数も増えてないですよね?

そう。検査も隔離もしないで、 GO TOキャンペーンで旅行や外食を煽ったのだから、感染爆発は当たり前です。でも、報告書には書かれていません。
新型コロナはまさに「東京の問題」

菅総理が7月に「新型コロナは圧倒的に東京問題」と言いましたけど、まさに感染は東京の問題なんです。
東京の人口密度は全国平均の約20倍ですが、これは離島なども含めての数値だから、東京中心部だとだいたい200倍の計算になります。子どもが考えたってわかるんですけど、人を密集させたら感染しますよ。

感染は、人口密度と相関関係がありますよね。

だから東京がむちゃくちゃ危ないのは明らかなんだけど、政治家も官僚もメディアも、すべて東京中心部にいるから指摘できないんです。
でも、国際的にはニューヨークもパリもロンドンも大感染を受けてロックダウン(都市封鎖)をしています。東京だけがしないから、日本だけがとてつもなくひどい目に遭っているんです。
GO TOトラベルキャンペーンに「東京」を入れる前は、ずっと感染数は横ばいだったのに、東京を加えた瞬間に大爆発したじゃないですか。でも、世論的には、「GO TOキャンペーンで政府はいいことやってくれた」「GDPが上向いた」と喜んでいる。

そうですね。

各国のデータと比較しても、2020年7~9月期の日本のGDPは前年比マイナス5.7%と約6%も経済が縮んでる。中国は前年比4.9で、もうプラスになってる。
ほかのアジア諸国もマイナスの国はあるけど日本ほどではない。日本だけがバカみたいに爆発的感染拡大を続けて、経済も低迷している。

世界中がこうじゃないの?

感染拡大は散発的には出ることもけど、日本ほどじゃない。台湾も韓国もベトナムも、出たところを封じ込めて、あとは日常生活に戻れていますよ。

でも、そういうふうに言われてないですよね。

それはメディアが東京中心だから。一時的に株が爆上がりしているのも、「政府のおかげ」だと言っているんです。
東京は10年以内に崩壊する?

新型コロナウイルスの問題だけじゃなくて、私はもう東京はダメだと思いますよ。
東京から千葉や埼玉、神奈川への転出超過は続いているし、自然災害の問題がある。
近い未来に線状降水帯が東京上空に来れば、荒川が決壊して23区の3分の1が水没するし、首都直下型地震が起きれば政府は最後の引導を渡されます。

そこまで極端に想定されているんですか?

そうです。私は10年以内に東京は100%ダメになると思っています。

その根拠は?

新型コロナウイルスのような感染症の問題も形を変えてずっと続くからですよ。

新型コロナウイルスワクチンの承認が進んでますけど、根本的な解決にはならないということですか?

なるはずがない。今、国内で審査が進んでいるワクチンは、まず日本人に効くかどうかわからない。そのうえに効力が短い。2回打たないといけないし、それでも1年効果が持つかどうかわからないんです。
それに、マイナス70度で貯蔵して運ぶ設備なんて、マグロ漁船くらいだから、日本国民に行きわたるにはかなりの時間がかかると考えた方が良いと思います。
さらに、ウイルスの変異に対応できるかどうかもわからない。

確かに、専門家も懐疑的な人が多いですよね。

私もいろんな医者や専門家に聞いたけど、信頼できる人はみんな「新型コロナウイルス問題はまだまだ解決しない」と言っていますよ。

そうなんですか…。

新型コロナウイルスは、グローバル資本主義の限界を真っ先に露呈させました。グローバル資本主義は、今回の感染症拡大のほか地球環境の破壊、とてつもない経済格差、大都市への一極集中をもたらしてきました。
今まではそれでもだましだましやってきたわけですが、もう限界を迎えつつあるんです。日本だけじゃなくて、世界が大崩壊していくと思いますよ。
不可能に近い在宅介護をカミさんは1年半頑張ってくれた

「森永予言」は今後どうなるのでしょうか…。ところで、森永さんはお父様の介護もやられていたんですよね…。

父は2006年11月に突然脳溢血で倒れて、左半身麻痺が残って要介護度4になりました。
それで埼玉にある私の自宅で在宅介護をすることしたんだけど、私は仕事があるんで世話をするのはカミさんでした。本当に申し訳なかったですね。
もともと2000年に母が亡くなってから、親父の身の回りのことはカミさんがやってくれていたんです。そもそも要介護度4や5の人を家で介護するのは不可能に近いけど、それでもカミさんが1年半くらい頑張ってくれました。
今振り返ってみても、親父は思考はしっかりしてたんだけど、限界を超えてるって誰が見ても明らかだった。

具体的にどこがしんどかったんですか?

もともと新聞記者だったんで、まともに人の話を聞かないんですよ。何でも「ウラがあるんじゃないか」って考えてしまう。親切にしてもらっても、テレビを見てても、「ホントは違うんだろう?」とか言うんです。
周りをみんな不快にさせるから、息子たちも怒っててね。それに、体が動かないのに、免許更新がしたくて高齢者講習を勝手に東京で予約しちゃったり。「ムリだよ」て言っても、「いやもう治るから」って耳を貸さないんですね。

治る気がしちゃうんですね。

そう。それに親父は英語とドイツ語とフランス語が話せるんだけど、死ぬまでイタリア語を勉強してたしね。

すごい…!

それで、美術館とかタダになるから「身体障害者手帳を取ってこい」とかいう。「要介護4なんだから歩けないでしょ?」と言っても全然聞かないの。
風呂も勝手に自分で入って、出られなくなっちゃう。それで「救出」に行くんだけど、カミさんはこれで腰を痛めちゃって、今でも痛いって言っていますよ…。
うちの近くに入居金ゼロ円の施設を見つけられて、ようやく落ち着きました。
何でも東京に集めるからダメ

私がいいたいことは、「高齢者は東京にいてはいけない」ということです。

そうですよね…。でも、引っ越しとか転校を経験させたらしんどいなって、親になって思うんです。

日本国内なら、引っ越しや転校なんて、どうっていうことないじゃない。私なんか小学1年生でボストン、4年生はウィーン、5年生はジュネーヴにいたんだから。

うわあ…。そんなしんどい思い、子どもにさせたくないです。森永さんは海外に行ってよかったです?

二度と行きたくない。すごい差別を受けたんでね。
だいたいクラスメイトの9割はいいやつなんだけど、1割くらいすごい人種差別主義者がいるの。
トランプがメディアに出てきた時に、「あの時のいじめっ子だ!」と思った。

でも、トランプ支持者は今も多いですよね。

トランプの支持者が多いのは、心の奥底でそういう差別意識を持っている人が多いということだよね。大人になると言わないだけで、子どもは無邪気だからストレートに言っちゃうだけですよ。

なんだかお話を伺っていると暗くなってしまいますが、お正月なんでどうにか明るい話題もお願いします(笑)。

日本人は、今までバカみたいに働いてましたよね。親父が勤めていた新聞社も24時間・365日動いていたし、中央官庁もそうでした。でも、今は日曜日なんか誰もオフィスにいなかったりする。
一方で、庶民は地獄の底まで働いているし、生産性も爆発的に上がっているのに、誰も幸せになってない。
こういう構造が大きく転換して、みんなが幸せになる第一歩が踏み出せるようになればいいですね。
そもそも生きていくためにそんなにお金はいらないんです。2020年の夏に『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル)という本を出したんだけど、これからは近くの人が作った物を食べて着るような、「近隣の支え」が大切になると思います。
これを世界中でやっていけば、貧困も格差も、感染症の拡大もこんなにひどいことはならない。反グローバリズムへの第一歩ですね。

でも、人間は欲張りが多いからなあ…。

新型コロナウイルスに感染しても金儲けをしたい欲張りは、都心部の「レッドゾーン」に集まればいいし、欲のないやさしい人たちは「グリーンゾーン」に住めばいいんですよ。私は、かつての「東京緑地」の復活を提唱してます。
昭和初期に、東京緑地計画が立てられて、東京をぐるりと緑地で囲むことが行われたんです。ただ、太平洋戦争中に食料不足を解消するためにそこを農地化していたため、戦後の農地解放で東京緑地は壊れてしまった。今の小金井公園や砧公園は、東京緑地の残骸なんです。この東京緑地を復活させて、その外側を「グリーンゾーン」、内側を「レッドゾーン」として、日本に一国二制度を導入するんですよ。
あとは、首都機能移転ですね。何でも東京に集めるからダメなんです。
1992年に「国会等の移転に関する法律」が施行されて、99年には政府の審議会が首都機能移転の候補地に「栃木・福島」「岐阜・愛知」、準候補地に「三重・畿央」を挙げていました。でも、結局は国会が2003年に候補地の絞り込みを断念したんですけどね。私は福島がいいと思いますよ。東京からも近いし。
中長期的な新型コロナ対策としては、首都機能移転は重要な選択肢であるが、その実現に加えて、新型コロナウイルスから国民と経済を守るためには、もう一つの戦略を重ねる必要がある。それは、東京を日本から切り離すという戦略だ。
(『なぜ日本経済は後手に回るのか』P207より引用)

なるほど。
年⾦をもらっている⼈はどこでも⾏ける

私が高齢者の皆さんに言いたいのは、「年金をもらっている人はどこでも行ける」という、とてつもない自由があることです。
普通のサラリーマンはせいぜい千葉とか神奈川とか、通勤できる範囲にしか逃げられないでしょ?これからは東京のキラキラした刺激に溢れたエンターテインメントより、もっと安全でいつも楽しめることにシフトした方がいいんじゃないですか?と言いたいですね。
夫婦で厚生年金をもらって、家があって、畑があれば十分食えます。これから厚生年金の支給額は13万円くらいまで減るでしょうから、今のうちに貯金をしておいて、家賃を支払う必要がないか、安いところに住んで畑をやれば生活できますよ。地域の人間関係についていけなくなるから、できれば40代から移った方がいい。
感染リスクの高い大都市に居住する高齢者は、死にたくなければ、いますぐ避難を考えるか、巣ごもりをすべきだ。そして、中長期的に郊外や地方への移住を考えた方がよいだろう。日本は経済規模で転落しただけでなく、お年寄りを大切にしない国に堕落してしまったのだ。
(『なぜ日本経済は後手に回るのか』P223より引用)

本当ですか?

それで地域のコミュニティに参加していくんです。私も特にコロナ禍以降、近隣のおっちゃんたちと付き合うようになりました。

どうですか?

みんな畑をやってるから、すごく面白い。農業について語り合うと、みんな詳しいし、お節介も焼いてくれるんです。アドバイスを聞いてスイカを作ったら、大成功しましたよ。
- 撮影:荻山 拓也

森永卓郎
1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。著書として『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『なぜ日本だけが成長できないのか』『消費税は下げられる!』(角川新書)、『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(インターナショナル新書)など多数。執筆のほか、テレビやラジオ、雑誌、講演、自身のコレクションを展示した「B宝館」の運営など幅広く活躍している。