菊池製作所へ
取材に行った

菊池製作所のショールームにお邪魔した。

いつも口癖のように言っている「自分の思いが詰まった車椅子をつくりたい」というお話しをしたところ「参考になるかどうかわかりませんが、車椅子も我が社で関わっている面白いものがたくさんありますよ」というお声がけをいただき、ありがたくお邪魔することになった。

以前、菊池製作所の方々が我が家にいらしてくださったとき、さまざまなベンチャー企業や大学での研究で、製品を支援・援助してもらったり、共同開発したりしているというお話を伺った。ようやくそれらの製品を拝見しに行けた。

大学の研究室で妻が
マッスルスーツを初体験

話せば長い長い話になるんだけど、2014年に東京理科大学の小林宏教授の元へ開発中のマッスルスーツやアクティブ歩行器の取材に行ったことがあった。

ちょうどその頃、東京理科大学やサイバーダインのマッスルスーツ、アクティブ歩行器やロボットスーツなどがマスコミにも取り上げられ、世の中にも認知され始めた。いろいろなロボットを取材した。

重いものが持ち上げられる装着型ロボットや歩行をアシストするロボットは、ボクのように歩けなくなった人間にとって夢のようなものだった。

実際、東京理科大学の研究室で妻がマッスルスーツを装着して、ボクを軽々と移乗させたのには驚いた。天井からエアーを繋いだ大掛かりな装置ではあったが、すごいもんができたと思ったものだった。

妻がボクを普段よりもはるかに軽々と持ち上げていることが、やってもらっている側のボクにだってわかった。無理な力がいらないんだなってことが。

わかりやすく仕組みも紹介してくれた。妻は自分の筋肉とは別のロボットの筋肉を背中に背負ったのだ。研究室は何部屋かに分かれていて、人間の機能を補うロボットがたくさん置かれていた。

商品化されたマッスルスーツ
軽さに妻も驚いていたなあ

5年後、商品化されたマッスルスーツをボクの家まで持ってきてくれたのだった。そのとき、東京理科大学の方ではなく菊池製作所の方がいらしたのだ。それがボクと菊池製作所との出会いだ。

商品化された「マッスルスーツ エブリィ」はスマート・コンパクトになり、何より軽量化されていた。研究室で見たものとはパワーは違うが、個人でも手に届く価格設定(14万9,600円)になっている。

実際使ってみた妻の第一声は「まあ、軽い!きっと研究室で背負ったマッスルスーツの半分以下だわね、これ」だった。

研究室では天井からエアーを送り込むチューブなど大掛かりなものだったが、今回は大きなリュックぐらいのサイズだ。操作方法をレクチャーしてもらえば日常使いも簡単そうだった。

実際、飛行場で荷物を運ぶベルトコンベアの横で、女性がこのマッスルスーツを装着して腰痛の軽減に役立っているってニュースでも流れていた。人間の足りない部分をアシストしてくれることが実証済みだ。

我が家でも風呂場で、車椅子からバスタブの縁に移乗するのは、結構難易度が高い介助だ。妻も一人では自信がない作業らしい。

マッスルスーツを装着してみる。マッスルスーツの良いところは、水に濡れても大丈夫なところ。もちろんお風呂場でも使用できるわけだ。

「お風呂場って滑るし、パパを支えてちゃんと立ってられない感じがするけれど、これを着けているとしっかり立っていられる感じがする。力がついたというよりは、ガシッと支えてくれている安定感がある」と妻は言っていた。

妻が菊池製作所の方に「もう随分前に東京理科大学で、これを使ったことあるんです」と言うと「はい、存じ上げています。そのずっと前から共同開発というか、我が社で支援させてもらってるんですよ。この度株式会社イノフィスという会社を共同で立ち上げたんです」と妻に説明してくれた。

誰かに見せたいと思う
良い品物にも出会えた

それからさらに2年。コロナでちょっと先延ばしにもなったのだが、菊池製作所にお邪魔するに至った。

菊池製作所は、大掛かりな支援のほかにも、ホームページ上に開発した商品を掲載するというサービスも行っている。

もちろん菊池製作所のチェックはあるが、ベンチャー企業の面白いものがたくさん出ている。八王子にあるショールームでは常設で置いているものもあるし、インターネット上のカタログでリクエストしておくとショールームで見られるものもある。

ボクが伺う前に「ご覧になりたいものをあげておいてください」そう言っていただいていたので、今のボクに必要なもの、それと夢の車椅子作りの参考になりそうな車椅子を拝見したいと10点ほどリクエストした。

「階段を昇降できる車椅子」「声の訓練ができる機械」「車椅子の動力になるもの」「歩行アシストロボット」「足のリハビリができるロボット」「電力を必要としない階段昇降車椅子」「排泄ロボット」「工業用ドローン」「足漕ぎ車椅子」「キャタピラ付きソファ車椅子」などなど。

自分が衰えていく体を持ち合わせてみて「こんなのがあったらいいなあ」と妄想しているものに近い商品を見てみたかった。

今までも展示会などで、大学の方が真剣に考えたものだったり、長年研究して商売している方々の商品を拝見してきたけれど「そうかあ…」と心に響かないものも少なくない。

研究段階だからコストパフォーマンスがまったく論外だったり、個人宅じゃ大きすぎるだろ、とか「まあねえ…」とおこがましくも思ったり。理由もさまざま。

だけど予想もしていない良いものを見つけることもある。

ボクは声が出ない。なので喉の機能が健常な人より衰えやすい。呼吸筋が衰えると、食べることに欠かせない嚥下機能にも影響してくる。そこで、言語聴覚士の方にもお世話になっている。

菊池製作所で、リブト株式会社の「ブローイング・トレーナーBT2018」というリハビリの効果を音と圧力で確認ができる機械を見せてもらった。いつもやっている訓練もこれで「見える化」したらやりがいにもなるだろうと。

いつもだってiPadで計測できるんだけど、訓練と一緒にできるってとこが良いんじゃないかと思った。

リブトの会社の方が一通り説明実演してくれた。そして最後に「これ、どうぞ」とストローみたいなものをくださった。

「ブローイングトレーナーBT2018は6万6,000円するので、手が届かない方もこれは1,000円ですのでご購入しやすいんです。しかもトレーニングもできるんですよ」と言って手渡してくれた。

吸って吐いてのトレーニングが、そのストローみたいなのでできる。「ん?これ良いんじゃないの!?」

吸って吐くというトレーニングってなかなかないのである。小さな、簡単な構造(に見える)のものだがかなり良いものを見つけた。トレーニングもできる。口を窄めてストローをくわえるような構造もいい。来て良かった。ちょっと良いものを発見できて、誰かに見せたいと思った品物だった。

今回菊池製作所にお邪魔して、追加取材をしたいと思ったものは2つ。これはまた別の機会に。

エネルギーに満ちた場所で
過ごす夢のような時間

菊池製作所の中でも、まだまだ拝見できていないものもたくさんある。ものすごい数の中から自分にとっての宝となるものを探すようなそんな場所だった。

菊池製作所は大学や研究機関、公的機関との連携、ベンチャー企業の発掘調査、育成、研究開発拠点の開設、ユーザーのニーズ探索などに取り組んでいる。

大学発のベンチャーの事業化やスタートアップに出資したり、企業間のマッチング、開発アイディアはあるが製造ノウハウがない企業のアシストなど、考えたものを形にするエネルギーに満ちた場所だった。

菊池製作所を取材したこの日は、ベルトコンベアに乗っているように、いろいろな研究室や会社の人が次々にプレゼンし品物をみせてくださる夢のような一日だった。

ロボットがたくさん置かれている空間
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