ふと思うことがある
「ここにまた来られるのか」

「またどこかに行けるんだろうか?」「またここに来ることはできるんだろうか?」旅の途中でそんなことを思うようになったのは、やはり病気になってからだ。

しかも、最近「歳をとるということはこういうことなんだな」そう思いあたることがある。また今までとは違う世界の入り口に来たのかもしれないと思う。

今まで「体が悪くて車椅子に乗っているボクにとっては不便だ…」そう思って書いてきたことに対して、歳を重ねることで違う気持ちを持つようになった。当たり前のことだけど、それに戸惑っている。

数年前に広島の妹に会ったとき、「『じゃ、またね』と言っているけど、『いつもこれが最後かもしれない』とそう思って別れる」って話したら「私もそう思っている」と言われたことがある。こんなこと、若い頃は思ってもみなかった。

離れて暮らしていたし、両親が他界してからは兄妹にはなかなか会う機会もなかった。

美しい風景を見たとき、「今度はいつ会えるのか?」そんなふうに思う。綺麗な風景からはそれだけで心に染みるほどの感動をもらえるが、見ていて切なくなることがある。

「センチメンタル?」「今の気持ちがLOWなのか?」「感動という心の動きの奥に潜んでいるものなのか?」もう、ここに立って見るこの風景は最後かもしれないなあと思う。

石垣島の海を眺めるコータリさん

今回の旅の行き先は
西表島だ

今回の旅で西表島にも行った。よく考えてみれば西表島のこの海岸に来ることなんて、若い子だって一生にそう何回もないことだろう。最初で最後のことだって少なくない。

それでも「ここに来るのも最後だろうなあ」なんて昔は思わなかった。地球の果ての海外だって「ここに子どもを連れてまた来たいなあ」なんて思っていた。

そんな気持ちの表れか、出かけた地を目に焼き付けておきたいと、肌で感じていたいと、強く思うようになった。できればこの感動を残しておけたらとも思うようにもなった。自分がいたことの証かもしれない。だから旅は、最近自分にとっては重要な位置付けになっている。

忘れてしまう記憶の中、不安と闘うことが多くなったせいかもしれない。自分に自信が持てなくて、自分が言ったことにも「あれ?そうだっけ?」と思ったり、「いやそう言ったよ!」と強がったりする。

でも、「実際はどうだったんだろう、合っていたかな?」そんなことを思って不安を打ち消すために怒ってみたり、知らん顔したり。ああ、これか、お年寄りが急に怒り出すのは、そういうことだったのか。

ボクはあいにく喋れないのでこの感情が伝わることは少ない。妻がボクの微妙な顔の表情や相手に向ける視線で「ん?何かある?」と察知する以外はその感情はそのまま過ぎていく。

たまには「ちょっといい加減にしなさい」と声を出したくなることはあるけれど、喋れないのでそのまま何事もないように過ぎていく。若いときは気にも留めなかった感情が現れては消える。そして諦める。

ちょっと話は逸れたがそんな日常の中、ボクにとって今旅をするってことは「まだできる」っていう証。一番、日常と離れた限界を試していると言ってもいいだろう。

車椅子のボクにとって
移動はかなり大変!

大体、旅の移動だけとっても車椅子の人間が移動するってことは面倒なことが多い。

普通の電車に乗るのだって改札を通ってから乗るまでに20分はかかる。改札にて、ホームで乗せてくれる係員や降りる駅の係員に連絡をとってもらう。車掌さんにもホームで連絡する。なので手続きに時間がかかる。

出勤時間の混雑の電車に乗ったことはないが、そういう方はいつもどうしているんだろうと思う。それほど車椅子の人間を乗せるには大変なお手間をかける。

新幹線に至っては予約するために窓口に行ってから1時間ぐらいは手続きに時間がかかる。乗り換えから車椅子の種類まで詳しく聞かれる。乗る前だって「早めに来てください」と言われる。

その代わり乗るときはかなり手厚いサポートだ。係員が付き添って乗せてくれる。新幹線の中にも連絡が入っていてドアまで来てくれていて、どの程度の手伝いが必要か、的確に聞いて、新幹線の中でもサポートしてくれる。けれど、さっと乗るってイメージからは程遠い。

こんな感じなので思い立った当日にとか、明日から旅に出ようということはなかなかできない。

今回のコンセプトは
ラフな旅行

今回の企画の旅は、「もしボクがふらっと思い立って行くとしたらどんな感じなんだろう?」というコンセプトでいきたいと話した。ちょうどVRの撮影の旅の話が持ち上がったのも、出発日まで1ヵ月を切っていた。ちょうどいい。一番ラフに行くとしたらどんな感じ?というのを試してみたかった。

旅に出るコータリさん

普段は使い慣れたANAで飛ぶ。ラウンジを使えたり、専用の窓口を使えたり、慣れているのでスムーズだ。サービスも手厚いと感じている。

今回の旅の時期、ANAの羽田・石垣島の片道料金は障害者割引で3万9,750円。3日前までに車椅子使用の旨や車椅子の種類などを伝える。

当日は、車椅子を搭乗口で預けるか、カウンターまで運ぶか選ぶ。もちろんANAの車椅子で機内まで進む。最近では、木でできている車椅子を使用することも多い。荷物検査のゲートを通るとき、木製の車椅子は反応しないのでボディチェックもしやすいとのこと。JALもほぼ同様。

一方、以前から乗ってみたかったLCCはどうなんだろう。記事にもしたことがあるが、車椅子ではちょっと無理なんじゃないかっていうのが3年ぐらい前までの雰囲気だった(「障がい者だって旅行がしたい!」~車椅子ユーザーが普通に行動できる世の中はまだ遠い。バニラエアの一件で思うこと~)。

タラップを上り下りするタイプの飛行機が多く、車椅子を上にあげるリフトの設備も必ず整っているわけではなかった。逆にタラップを自力で登れない人は飛行機に乗れないということになっていたのだ。それも今では改善された。

飛行機のタラップ

ボクが旅行に行った時期の成田・石垣島間の、LCCであるPeach Aviation(ピーチ・アビエーション)の片道料金は、バリューピーチなら約1万3,000円。受託手荷物や機内持ち込みの料金も含めて、席も自由に選べて、この価格だ。LCCとしては中間の料金。一番安いのは9,800円だった。

車椅子使用の旨を5日前までにFAXする。折り返し電話がかかってきて詳細を連絡。当日はカウンターで自分の車椅子を預ける。今ではもちろん、車椅子やストレッチャーなどを使用している人がそのまま機内に乗り込むことができる「パッセンジャー・ボーディング・リフト」もある。それに乗って介助者と飛行機に乗る。

飛行機に乗り込むコータリさん

飛行機の中まで航空会社の車椅子に乗り換えていくが、移乗は同行の介助者が行うことになっている。係員にはやってもらえない。

機内まで移動する車椅子
車輪が変わるのには驚き!

ここでいつも感動するのは機内まで運んでくれる車椅子の機能だ。飛行機の外では車輪が大きい(たぶん18インチぐらい)で進む。大きい車輪なら多少の段差でもダメージが少ない。飛行機のドアまで来たらその大きい車輪を外す。

車椅子の車輪

すると、ベビーカーのような小さな車輪となって通路も移乗もやりやすくなる。ワンタッチでこんな感じに車輪が変更できる。こんなタイヤの機能を駆使すれば砂浜でもどこでも進みやすい車椅子ができるのになあと思っている。これはまた別の記事で。

LCCは安くて合理的
でも困ることもなく快適!

ANAの通常料金は一人3万9,750円。LCCだと1万3,000円。しかし、ANAは羽田発で、LCCは成田発という違いがある。

今回は、乗用車に乗って行き、成田の第一ターミナル駐車場に障害者割引で停めた。高速代やガソリン代もあわせて1万8,000円ぐらいかかったかな。3人で乗って行ったのでちょうど飛行機代は半額ぐらいの料金帯となる。

そのほかの違いは、座席のピッチが4cm違う。4cmの差は大きいか。また、LCCには機内サービスがほとんどない。飲み物も有料で自分のスマートフォンで機内Wi-Fiを使って注文する。映画や音楽サービスも自分のスマートフォンを使ってPeach専用のコンテンツを機内Wi-Fiで見る。

機内の様子

あとは、ちょっと優雅さがないのは否めない。なんでそう感じるのか?「お飲み物は何になさいますか?」そんなサービスがないからか?マニュアル通りに動いているって感じだからか?先入観だけなのか?

規則には厳しい感じがした。帰りのカウンターで受付時間に5分過ぎたお客さんにも、もう受付時間が過ぎたから乗れないとしっかり断っていた。決まりは決まりだ。噂通りなんだと感心した。

従来の航空会社だってマニュアル通り動いているんだろうが、どこが違うのか?もしかしたら、最小限の人員でできる最小限のサービスを提供しているという印象なのかもしれない。

かといって何か足りないものがあるわけでもない。客室乗務員も感じは良かったし、「何かあったらおっしゃってくださいね」と声をかけてくれた。地上スタッフもちゃんとサービスしてくれて問題ない。車椅子も誘導してくれた。困ることはない。

機内を車椅子で移動するコータリさん

そういえば、預けた車椅子を従来の航空会社はBOXに入れたりカバーをかけたりしていたが、LCCではカバーなんかはないので、「もし必要ならご自分で用意してください」と予約のときに言われたそうだ。そういうサービスまではないということだ。

ああそうだ、海外で乗る国内線のイメージと似ているなと感じた。移動の手段であって手厚いサービスはないあの感じ。日本での“飛行機に乗る”という特別感がない。

ヨーロッパやアメリカでの短いフライトだったと思う。搭乗口の前にフックがあって機内で必要なものがあったら購入、もしくは無料のものは持っていくという形だった。水のペットボトルやスナックもあったかな?ほかには、雑誌とか新聞とかイヤフォンとか。

帰りは、そこに捨てていくか戻すか、っていうシステムでいたく感動したのを思い出した。合理的だ。もう20年以上前のことだ。そんな感じ。

ボクの今回の旅のテーマであるラフな旅。LCCに乗ることだけでおもしろくてワクワクする。昔の旅を思い出して嬉しくなる。

結論から言えば、車椅子でも全く問題なくLCCで石垣島に行けた。それはそれでこんな安上がりに行けるんならいいかもしれないとさえ思った。健常者と同様に選択できるってことだ。

車椅子の人間を連れていく旅はじっくり練った特別な旅の場合が多い。そんな特別な旅でなくてもできそうだと感じた。

今回の旅でできなかった心残りがある。だけど、「それだけのためにまたすぐ行けるかも?」そう思えてお安いLCCの旅も今のボクにとっては嬉しい。

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