娘が高校生のときボクが倒れた
生活も一変し、苦労をかけた…
ボクには二人の子どもがいる。7歳違いの息子と娘。息子の方は30代前半で結婚もして、今年は赤ちゃんも生まれた。娘は就職して何年か経った。
「親」っていうものの「子育て」の目標は、子どもに自立する能力が備わるようにすることだと昔聞いた。
確かにどこまでが子育てなのか…欧米では子どもに関しての考え方も違って、生まれたときから寝るのは別室、大学生になったらもう親元を離れて生活するのがレギュラーなことだという。
日本は少なくとも大学卒業ぐらいまでは面倒をみるのかな?面倒をみるって言っても、それができない親だっているわけで、教育に関しては問題も多い。
我が家の場合、息子のときは大学までの学費は払っていたが、小遣いも、学校で必要になる教科書代や経費を含めて息子本人が自分でやっていた。取り決めがあったわけではなかったが、「ください」と言われたことがなかったのでなんとなくそうなった。
娘にいたっては、高校生のときにボクが病に倒れてしまった。我が家の家計はそれまでと一変した。その頃は入院中で生死の境目を行ったり来たりしている頃で、医療費もかなりの金額だった。それに勤め人でないフリーのボクは、倒れてすぐに収入がなくなったのだ。
大学選びも制約が出たのではないか?と今更ながら心配する。しかし娘は、兄や高校の先生といろいろ相談し、自分でも調べて大学も選んだそうだ。しかも彼女は頑張って学費免除の成績を4年間通して卒業してくれた。当然、小遣いをあげるどころの話ではなかった。
横入りする子にもやさしい兄
うさぎになりたかった夢みがちな妹
こう書くと二人はバリバリ頑張るような子どもに見えるかもしれないが、基本二人はおっとりしている。
7年離れて生まれたので、二人とも一人っ子みたいなものだ。息子は幼稚園生の頃、滑り台に並んでいるとき、元気のいい友達に「ボクの方が先」とか言われると「どうぞ」とか言って譲ってしまうような子だった。
今でもとてもやさしい子だ。虐められるのではと心配したが、字が読めるようになってからは本をかなり読むようになった。知識もあったし「自分」というものを持っていたんだと思う。
その頃からまあ一風変わっていたのかもしれない…。男の子の世界はいろいろあったのかもしれないが、認めてくれている友人が周りにいたので、ボクとは違う方法で青春を生き抜いていた。
一方の娘は、赤ちゃんの頃からボクが不在がちだったので、息子が代わりに面倒をみてくれていた。とても可愛がってくれていた。で、「可愛い、可愛い」で育ってしまった娘は夢みがちな少女であった。
幼稚園の七夕で短冊にお願いを毎年書くのだけど、はじめてのときは「ウサギになれますように」で、その次の年も「ん?」と思うようなものだった。年長さんになったときは「魔法使いになれますように」で、ようやく人間ぽいものになってきて良かったとパパ友と話したものだった。そんな娘がボクは大好きだ。

息子のプリントをビリビリにしたボク
「塾には行かない」我が家のルール
息子が小学生になったとき、妻が友人もやっているからと言って「公文」をやらせると入会してきた。それから間もなく、眠い息子と今日の分の宿題をやらせたい妻のバトルが始まった。
息子は8時になると体内に時計があるのではないかと思うぐらいピタッと眠くなってしまう子だった。どこでも寝られた。
その日も8時近くなってそんなことをやっているので、ボクは息子と妻の前で「公文は今日でおしまい」と言い、プリントはビリビリに破き「もう寝なさい」と諭した。
怒ったわけではなかったが二人ともシーンとした。ボクは普段家にあまりいない夫でありお父さんだったが、そんなことを言い出してみて、良い気分だったのかもしれない。でも「本当に必要があるのか?」と疑問だったのだ。
彼は十分自力で学習する力があるように思えた。そういう親の選択が良かったのかどうだったのか、今でもわからない。
それからというもの、「塾には行かない、自分で勉強したければする」そんなルールが我が家にはできた。それにお稽古なども、親がやらせたいものでも子どもが嫌ならNG、自分がやりたいと言ったものならやっていい、けれど簡単にはやめない、最後までやり切る、というルールもできた。
なんであんなに頑張ってたんだろう?
でも確かなのは「継続は力なり」
息子は小学生のとき、何を思ったのかその頃まだ子どもの習い事としてはメジャーではなかったゴルフを習いたいと言い出した。小学校低学年から大学を卒業するまでゴルフのスクールに通っていた。大学受験のときも休むことなくやっていたなあ。
そんなにうまくはないかもしれないけど、継続は力なり。練習場でのショットのアーチはなかなかのものだ。今は実践を活用できる職場にはいないけど、続けて良かったなあと密かに思っている。
娘は幼稚園のときピアノをやりたいと言い出した。ボクはピアノの弾ける人間になりたかったと常々思っていたので、そう言い出してくれて実は嬉しかった。娘は体育系の何かがきっと向いているんじゃないかと思っていたが、まあそれがやりたいならそれでいい。
娘のピアノは、まず「リトミック」というリズムを体に叩き込まれるような教育から始まった。それからリトミックと並行してピアノも習う。探してきたピアノ教室がちょっと変わっていたのだ。とにかく練習。練習がものをいうスタイルだった。
ピアニストになるわけでも音楽学校にいくわけでもないと本人も親も思っていたが、当時を振り返って「なんであんなに頑張っていたんだろう」と娘。やはり大学生になるまで続けていた。継続は力なり。
ボクも小学生から大学生まで水泳(水球)を続けてきた。精神面での力は、やはりそのときに培った自信から来るものではないかと思う。実力ではない。継続できているということだ。

勉強が特技な子がいたっていい
そう気づいたのはずっと後だった…
長男を育てていて思ったことが一つあった。彼はどう見ても運動面で活躍する部分が少なかった。高校ぐらいになったときにはそう感じなくなったが、小さいときはハラハラした。
ドッジボール大会や運動会、なかなか活躍は難しい。しかし、彼には記憶力や理解力のような学習能力があった。
勉強が特技な子がいたっていいんだなって、当たり前のことに気がついたのだ。運動が得意な子が運動会のエースになるようにね。だけどそれに気がついたのは、親として恥ずかしいがずっと後のことだった。子どものマイナスな部分ばかり見ていても仕方ない。
子どもたちの学校は、昆虫博士みたいに虫に詳しい子がいたり、バレエを熱心にやっている子がいたりと、割と子どもの特性を重んじてくれる傾向があった。息子は自分のやりたいようにカリキュラムを作り勉強できていた。なので二人とも中学から英語は習っていたが、予備校にも行かず大学受験もした。

幼稚園児の息子に諭されていた悪い父
でも常に真剣に一緒に遊ぼうと思ってた
またまた暴君のような話になるが、まだ元気だった頃のボクは、「大体学校で学ぶことが100%理解できていれば大学受験なんて平気だ、予備校なんて行く必要はない」みたいなことを言っていた。浪人しているボクが言っているのだから、なんとも説得力がないのだけど。
彼が予備校に行こうかなあなんて悩んでいたから、「行くなら行けばいい、けど行きたいの?」そう聞くと「古文がちょっと気になる」そう言ったので、古文だけを見てくれる先生に1週間お願いしてみてもらった。
ボクにはわからなかったが、彼のモヤモヤは短期間集中の勉強で解決したようだった。だいたい国語力というのは、すべての教科に通じる。文章を読んで問題を解くわけだから読解力がものをいう。
だから幼い頃からの読書が大切なわけだな。まあ、そんなことを思って読書をさせてきたわけではないから、幼い頃から図書館や本屋に行くのがレクリエーションだった我が家は、環境的には良かったのかもね。
高校は兄妹同じところに行ったが、進学校でもなく二人にあったのんびりした暖かな良い学校だった。その各学科の先生に必要なプリントをいただいで解いていくというのが二人の受験勉強だった。
二人とも文系に行ったが理数系が得意だった。そっちの方があってるかもなあと思っている。就職は本人がやりたいことをできているかは疑問だけど、まだ先は長い。いくらでもまだ学べるし、やりたいことも見つけられると思っている。
ボクは子育てに関して何もしていないのだけど、以前、我が家の教育システムを本にでも書かないかと言われていた。その話も病に倒れてそのままになってしまったけど。「今時、塾にも行かない、予備校にも行かない教育方法なんてあるんですか?」とよく聞かれた。
塾にまったく行っていなかったというと語弊があるが、基本自学が85%。それがあっていたんだと思う。
こうして書いていると良いことしか見えてこないが、彼や彼女なりの苦労もたくさんあったと思う。子育ての中には、子ども同士の喧嘩に悩んだり、病弱で入院をしたり、アトピーで悩んだり怪我をしたり…心配だって絶えなかった。
その都度話を聞いて、喧嘩のときなんてボクの方が熱くなってしまって、「相手のきんた○蹴りあげてこい!」なんておっかないアドバイスをして、「暴力はいけないんだよ」と幼稚園児の息子に諭されたりもした。悪い父だ。
まあ、あまり一緒にいられない環境ではあったけど、常に真剣に一緒に遊んではいたと思う。二人が生まれたとき、この子たちが「もうパパいいよ」と言うまで一緒に遊ぼうと決めていたから。

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