どんどん変わっていく家族
妻の大切さを切に感じた

倒れてから、この秋でもう9年になる。若かった妻だっていつの間にか60を過ぎて、病気になった。
介護する妻や家族が若かったり結婚してなくて家にいたりだったが、家族構成も変わる。いや子どもたちにはどんどん羽ばたいていってほしいと常に願っていたのだから喜ばしいことだ。今は頼り切っている妻のことを考える。妻が病気になって入院をしなければいけなくなったとき、その重大さを切に感じた。
年齢だって当たり前だがどんどん上がっていく。
同居している義父母だって70代だったのがもう80も半ばだという。しかもボクはしゃべれないし寝返りすらろくにできない。妻の身体を案じても何もできないボクは、無理をかけないようにそっとしておくくらいしかできない。
けれど、妻を少しだけ楽にできる機械やロボットたちがわが家でもだんだん活躍してきている。
バリアがバリバリのベトナムに
OriHimeを連れて行った
ちょっと前に1ヵ月OriHimeというロボットを借りてみた。どうしても試したかったのだ。昨年は6回以上入院してどんどん動けなくなっていく自分に危機感を感じた。もともと動けないんだけど、文字通りベッドの上で どんどん弱っていく自分が手に取るようにわかった。食べ物も食べられなくなってきて流動食になった。筋肉もどんどんやせ細り拘縮(こうしゅく)も始まった。
「もしもこのまま弱っていったら取材にも出かけられなくなっちゃうなあ。」本当にそう思った。今でも十分取材にはいきづらい身体だけど、もしも自分の代わりに、もしくは車椅子では出向けない場所にロボットが代わりに行ってくれたらいいな、そう思ったのだ。
OriHimeをバリアがバリバリなべトナムに連れて行った。せまい市場の通路に荷物が一杯積み上げられていて、容易には車椅子で入れない。色とりどりの名前もわからない野菜や果物が並んでいる。じっくり見物したいが入ってはいけないとのこと。
そこにOriHimeを連れて行ってもらった。
ボクはそこにいなくてもロボットの手で「もっと右見たい」「左」なんて合図できる。実際は遠隔でボクはロボットからしゃべることだってできるはずなんだが…まあしゃべれないのでOriHimeの手で合図することにした。市場の中の、味のあるフォーの店のカウンターにだってOriHimeは座る。まるでボクがそこに座っているかのようだ。店のおばちゃんとあいさつをして手を振り合う。実際のフォーが食べられないのは残念だが、リアルタイムでどんなものがどんぶりの中に入っているかわかるし、すする音だって聞こえる。

このOriHimeはインターネット経由で遠隔地でも自分の分身として存在できるというものらしい。例えば九州にいるベッド上の人が、渋谷の喫茶店でオーダーを取ったりもできる。実際そんなふうに働いている姿を喫茶店で拝見した。働けないと思っていた車椅子の人やベッドから動けない人が、お客さんのオーダーを取ったり話したりしていた。
実は今までも360度カメラを使ったりして、東京大学の稲見・檜山研究室の登嶋先生のもとボクの入院中に取材先の風景を遠隔で流してもらっていた。パソコン上で見たりマウントディスプレイで見たりした。それと人型のロボットとどう違うんだろう?と若干疑問にも思っていた。それが実際ベトナムで使って見て実感した。
注目を集める、かわいがられる!
OriHimeの威力を実感した
とにかく注目を集める。こっちを向いてくれる。その中に遠く離れたボクがいるとわかると、さらにOriHimeをかわいがってくれる。
恥ずかしくなるぐらいそばに来てくれる。手を振ろうもんなら「お~~~」と歓声まで上げてくれる。しゃべれないボクが初対面の人とこんなにコミニケーションが取れることは滅多にない。

「ああ、これがOriHimeの威力だな」そう思った。妻は「OriHimeがパパの部屋にいてくれたら私はいつでもパパの部屋が見られるし、話すことだってできるのよね」そういってレンタル期間が終わって返すことを残念がっていた。利用用途としては反対かもしれないが、出先で妻がボクの部屋にいるOriHimeを通じて話したり手を振ったりすれば。ちょっとはさびしくないんじゃない?それにいつでもどんな状態か見られるし…ということらしい。いなくてさびしいかは別問題として妻の心配が減るのなら有効だ。OriHimeという分身が家にいてくれたらいいのにな。そう思った。レンタル料はまだちょっと高い。個人向けにはこれからの展開になるのだと思うが、そんな時代が来たらまたうちに来てほしいと思う。
この9年でずいぶん取材もしてきて、本当にロボットやAIが介護の手助けをしてくれる時代が来たんだなあと思う。5、6年ぐらい前だろうか、筑波の研究所にお邪魔してHAL®(ロボットスーツ)で長い間特訓をした。
自分が頭の中で「脚よ動け」そう思うとロボットが電気信号を筋肉から拾ってアシストしてくれる。「動かなくなってしまった脚も壊れた脳とつながっていてくれたんだ」という発見ができただけでも嬉しかった。実際動かない左足を何千回とHALで動かすことによって脳の違うところが忘れていた動きを学習しているようだった。それをはじめ東京理科大の小林教授のところにお邪魔してマッスルスーツ®の初号機を妻が装着してボクを持ち上げた。そのころ60万はするといっていたスーツは、15万円ちょっとになって家庭普及用ができたとのこと。今、雑誌の撮影もかねてわが家でお試し中である。これについてはまた詳しく書くことにする。
ロボットがいるのが当たり前!?
いつのまにかわが家も進化している
そのほかにだって、風呂場には湯船につかるためのリフトがあり、門から玄関の間の階段ではスウェーデン製のロボットがボクを持ち上げてくれる。吸引機に吸入器、ベッドだってそうだ。体温調節が難しいボクのためにあったかくなったり涼しい風が出たり、寝返りが打てないボクのために数時間ごとに右が高くなったり左が高くなったり、かなりの高性能ベッドなのだ。それがないときは、妻が3時間ごとに起きて体位を交換してくれていた。考えてみればかなりロボットに助けられている。なければやっていけないという感じだ。もっともっと便利になるんだろうなあと思う。この数年でわが家のロボット事情も進化したものだ。
