世界一のバリアフリー水準!?新しい国立競技場を取材
車椅子に乗った記者はもちろんボクひとり(笑)
東京オリンピックの開会式が行われる予定の新国立競技場で2019年12月15日に竣工式が行われた。
新しい国立競技場は世界一のバリアフリー水準だと聞いて、どうしても見てみたかったので、メディア向けの内覧会にお邪魔した。
報道者関係各位に向けた注意事項の書かれたメールが届き、テレビ局や新聞社などなど一社につき最小限度の人数しかそこに入れない厳重体制だ。
一緒に回るグループも抽選で決める。大勢いる報道陣の中で車椅子に乗った記者はもちろんボクひとり。ボクの記憶のために新国立を余すことなく撮ろうと360度カメラも同行。
ザワザワとした殺気を感じるガチの取材陣に囲まれるのは久しぶりのことだ。

いまの時代、車椅子のカメラマンや記者がいたっておかしくない。取材に限ったことではないが、車椅子だったり、バリアのある人間は行動に一手間かかることが多い。誰かの手を借りることになる。
取材に来ましたっていって、車椅子だと知るとびっくりされることもしばしば。
ボクは、バリアのある人だって共存して働けるのが当たり前の社会になってくれればと願って取材をしている。でも現場のプロフェッショナルな空気に触れるとちょっと気後れしてしまうのも事実だ。
いやいやこれだって、誰かが切り開いて行かなければならない課題のはずだ、と言い聞かせ取材に挑む。
杉の木を使った「杜のスタジアム」は
車椅子席も充実して設計されている
まずは、外構部分(ドーム外観)から取材を始める。見上げると噂の木がふんだんに使われているデザイン。その場で空気を吸い込みたくなるような清々しい気持ちになる。凛としたデザインだ。

ボクは車椅子なのでほかの人たちとは入り口も違う。階段での移動は代わりにエレベーターだったりして、専属の誘導してくれる人がついてくれた。
ドームの高さは約47.4m、地上5階、地下2階の競技場は「杜のスタジアム」という名前をコンセプトに、47都道府県から集められた国産の杉の木をふんだんに使用している。

競技場を囲む外周部分の360度のひさしには、北側には北海道や東北の木を使い、南側には九州や沖縄の木を使用するなどよく考えられている。鉄骨のフレームも木目で覆われていて木の温もりが感じるようになっている。
競技場内の客席は、すり鉢状になっている。傾斜は最大34度と観客席からはトラックがより近く見える設計になっているが、観客席に続く階段はかなり急だ。小さな子どもや高齢者は注意が必要かな、という印象。
1階の車椅子席は、コンコース沿いにぐるっと1周ある。コンコースの周りを囲むように、授乳室やキッズルーム、ベビーカーを置くスペースやユニバーサルデザインのトイレなどが数ヵ所ずつある。

車椅子席が、一緒に来た家族や仲間と見れるように設計されているのは嬉しい。座席の前にはドリンクホルダーや観戦中に充電可能な電動車椅子用のコンセントまで用意されている。
1階の車椅子席からの眺めはけっこういい。2階に20席、3階に85席、4階24席、パラリンピックの時は3階と5階にさらに車椅子席が増設されるという。
障がいがある人やLGBTの人のためにも
やさしい配慮がいろんなところにある
トイレも、いろいろな人を想定した作りになっている。

利き手を配慮した手すりの位置が違うアクセシブルトイレ(多機能トイレ)や多目的シート(ベッド)つきの個室。LGBTの方でも気兼ねなく使用できるようなトイレもある。
授乳室も、車椅子の人でも使いやすい高さのおむつ替えの台や車椅子でもゆったり入れるカーテン付き授乳室などもあり、いろいろな障がいに対応できているなぁといった感想。
スタンドの各所には、聴覚障がいのある方向けの集団補聴システムや知的障がいの人のための部屋や、子どもが遊べるプレイルームもある。

障がいがある人やマイノリティのためにも、本当によく考えられている。
視覚障がいの人が使う黄色い点字ブロックは通常の半分の溝の深さになっていて、車椅子の人が段差で困らないようになっている。やさしい配慮が至る所で見受けられる。
「まぁ、ふつうじゃないですか?」
ボクでも利用できるトイレがあるだけで安心

競技場の取材中に車椅子のボクに取材してきた人がいた。「バリアフリーが世界一と言ってもいいと聞きましたがどうですか?」と。
紹介してきたように確かに綺麗だし、普段ボクがこうだったらいいのにと思うものは揃っている。今までの日本のこうした施設の中では高水準。
とにかく綺麗なのだ。トイレの手洗いなんてアイランド型で数は少なめ。デザインを優先しすぎではないか?と心配したぐらいだ。
コンサート会場や映画館だって車椅子の人と介助者が一緒に見られるように配慮されている劇場はまだまだ少ない。そう思えば新国立競技場は、すごい。
だけど、前回(「夢と魔法の王国は”ユニバーサルデザイン”もすごい」~妻に『ディズニーお泊まりバースデイ』をサプライズ!~ 参照)書いたディズニーランドのバリアフリー水準はずっと前から当たり前だったし、荒削りで予算だってそんなにないだろうなって感じの海外のスタジアムにだって普通にユニバーサルデザインは溶け込んでいたりするのだ。
ボクは「まぁ、ふつうじゃないですか?」と質問に答えた。声をかけてくれた記者の人はちょっとがっかりだったのかもしれない。「すごいですね、新しい国立は」そんなコメントを期待していたようにも思う。まぁ、欲を言ったらきりがないのだが。
とにかく国立競技場には、ボクでも利用できるトイレがある。それだけでも安心だ。
そうそう、小さな個室(2、3人しか入れない)にエアコンがついている部屋があった。暑すぎて気分が悪くなった人の休憩室って聞いたけど本当かな?