もうちょっと入院させてくれてもいいのに…
急性期病院はまるでベルトコンベアーのよう

ようやく退院できたばかりだが、今回の入院は長かった。なかなか退院できなかった。

いままで急性期の患者が多い大学病院に入院することが多かったので「え?もう退院?まだ食事がはじまったばかりなのに」と、ぎりぎり感が否めない退院もあった。

「大丈夫ですよ、神足さんは往診の先生や訪問看護の担当者とも、うちの病院では連携がとれてますから、今後のことは引き継ぎます」そういわれてさっさと退院の運びとなる。

たまに、すぐに舞い戻ることもあるのだけれど、家になるべくいたいというボクの望みを叶えてくれる範囲に収まっている。だからそれはそれでありがたい。

けれど、もうちょっといさせてくれてもいいのに、なんて感じることもある。

急性期の病院だからスタッフは本当に忙しい。ベルトコンベアーに乗っているみたいに毎日のスケジュールもほぼ決まっていて、起床し検温やらバイタルの記録。それからおしぼりが渡されて洗顔をし、朝食やお茶も決められた時間に配られる。

決まった時間になると食事も下げられてしまう。「もういいんですか?」と聞かれて、ほとんど食べていなくても頷こうもんならさっさと下げる。

でも、仲良くなった看護師さんに当たったときは、「もうちょっと食べた方がいいですよ」なんて口に運んでくれることもある。

「様子をみる」は「いまはなにもできない」ってこと
でも、だいたい治って家に帰れるならそれでいいよね

9時になれば毎日かならず手術や大掛かりな治療を必要とする人がベッドごと運ばれていく。そして何時間後には帰ってくる。

「痛くないですか?」と、麻酔から醒めた患者に点滴をする。痛い痛いとうずくまってナースコールを呼ぶ人など、頻繁に出入りがある。

午後になればお見舞いの人がやってきて家族の内緒話がカーテンの向こうから聞こえてくる。リハビリの先生がやってきたり、迎えにきたり、そんな日中が終わりかけると担当の先生方も様子を見にくる。夜勤との交代の挨拶。夕食。身支度、就寝。

数日経つと担当医からの説明があり家族とともに聞く。悪かった部分、こういう治療をしていて今後の見込みはこう。退院はいつぐらいの予定で、帰ってから何か困りそうことはあるか?心配は何か?そんなことを聞かれて退院の運びとなる。

「先生、もう大丈夫なんですか?また繰り返すってこともあるんですよね?」。そんな質問をすると、「いま病院でできることは、コレとコレで、すでに結果が出ています。あとは様子をみましょう」ということになる。

最近思うのだが、「様子をみましょう」という言葉は「いまはなにもできない」ということなんだなぁと痛感する。

ちょっとは心配もあるけれど、早く家に帰りたいボクは「だいたい治って家に帰れるぐらいならそれでいいよね」そう思って帰宅する。急性期の病院の特性なのだからそれは心得てもいるんだけど。

しかし今回入院した新しい病院はそれとはまったく違っていた。

本当の病人にどんどんなってくような気がする
(まぁ病人なんだけどね)

今回、妻が検査入院をするために、3日間ボクは「レスパイトケア」として入院するはずだった。

レスパイトケアというのは介護する側に小休止してもらうというシステムらしいが小休止どころの問題じゃない。妻に病気が発見されたのだから一大事だ。妻は休むどころじゃない。

話を聞いていると、「さっさと終わらせて一番はやく済む方法で」なんて横で言っている。

「おいおいそんな心配なこと、じっくり検査でもなんでもしてゆっくりすればいい」そう思っていた。

が、なんと申し訳ないことにその計画入院の2日前に救急車で運ばれてボクの方が入院することになってしまった。妻の留守中には、定期的な看護師さんの往診があるのだが、血液中の酸素量の目安となるサチュレーションが90を切りあがらず「息が苦しい」。そこからバタバタと救急車に乗って2日早い入院となった。

時間差で駆けつけてきた妻は、ボクを見るなり「なんだ元気そうね、すぐ退院できるね。息ができないって聞いたからビックリしちゃった」そう言った。

ボクも「すぐ退院できる」そう思っていた。サチュレーションは90後半になったし、悪いところはない。そう感じていた。

けれど、血液検査の結果は思いのほか悪かったらしい。「CRP(炎症反応)がかなり高いです。念のため食事は止めて点滴で抗生物質の投与を始めます」とのこと。

絶食が始まった。まぁここでは詳しい話はするのはやめておくが、ここからの入院は長かった。一度退院できる日がきまったが、ちょうどその日の朝から熱が38℃も出てしまい退院は延期。また絶食。そして入院は続く。

はやく帰りたいと妻に愚痴を言う。身体もグッと痩せてしまった。本当の病人みたいにどんどんなっていくような気がしてくる(まぁ病人なんだけどね)。

計画入院は4日間ぐらいの予定だったが3週間以上の入院になった。

ゆっくり時間が流れている
こんな病院もあるんだなぁ~と感慨深い

知人がNetflixを見られるようにしてくれたが、それがなかったらほんと大変だった。「早く退院させてくれ」毎日そう妻に懇願した。

20床ばかりの入院施設は静かである。寝たきりの高齢者がほとんどみたいだ。けれど看護師さんはほとんどの方が本当に親切だ。

急性期の病院とはちがって立ち止まって話し相手にもよくなってくれる。そうはいってもボクは話せないから相手の質問に頷いて返事をすることになる。

ボクの出身地の話になり、言い当たるまで北海道から順番に広島まで。「広島なんですね、広島のどのあたりなんですか?」気の長い話し方だが付き合ってくれる。

嬉しいではないか、ボクが暇を持て余しているのは見ればわかる。で、話し相手になってくれているのだ。

「これ読みますか?」と雑誌なんかも、持ってきてくれる。食事もホールに車椅子で移って食べさせてくれる。とにかくゆっくり時は流れている。こんな病院もあるんだなぁと感慨深い。いままでの病院とはまったく違う。

寝たきりのお年寄りを抱えていたり、家族がターミナルケアの時期に入っているご家庭ではどんなにありがたいか。看護師さんが親切なのがまたいい。家族は安心できるだろう。

またボクの知らない世界が垣間見えた。こんな病院があったらいいなって思ってる人も、きっといるんだろうな。

妻のためにならまた入院してもいいし、優しい看護婦さんもいるけれど、どう考えても暇すぎる。暇と思えるくらいの容態だったわけなんだけど。贅沢なはなしだよね。そんな世界もあるんだとまた違う世界を見たような気がした。