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便漏れ(便失禁)とは?
便漏れ(便失禁)とは、無意識のときや、または自分の意思に反して便が出てしまうといった、通便のコントロールがうまくいかない状態のことです。
便漏れは約500万人が悩んでいるとも言われており、誰でも年齢とともに起こる頻度が高くなる病気です。
とはいうものの、年だからしょうがないと割り切れるものではなく、「当たり前のことができなくなった」という羞恥心が勝り、周りに知られることが少ない病気です。
しかし、便漏れは恥ずかしがらずに、病院で相談し薬を処方してもらうなど適切な治療をすれば、症状が改善することが多い病気なのです。
便漏れはQOLに深く関係する
便漏れが起こることは何よりも患者本人にとって衝撃が大きく、その後の精神状態や行動に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
人は誰しも、幼い頃から排便のタイミングを覚え、コントロールして日々の生活を送っています。
それができなくなることに大きなショックを受けることは、誰にでも容易に想像できます。
便失禁に悩んでいる方は、漏れとそれによる臭いに対する心配・不安から、社会的に孤立することもあります。
介護者や周囲の人は、便漏れが本人にとってデリケートな問題であることを理解し、迅速に介入して治療、症状の改善に取り組むことが大切です。
対策が遅れると、身体上の衛生状態を悪くするだけでなく社会的な行動をも制限してしまい、日常生活の質(QOL)を大きく低下させ、心身状態の悪化を早める恐れがあります。
決して特別な病気ではない
便失禁は生活の質を左右するほどの大きな問題ですが、「疾患」として取り上げられることはあまりありませんでした。
しかし、2017年に日本大腸肛門学会が『便失禁診療ガイドライン』を発行したことで病気・症状としての理解が広まり、今では治療の対象として認識されるようになっています。
便失禁は定義上、無意識あるいは自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状であるとされています。
有病率を調査したところ、65歳以上人口の約6~8%に上っており、決して稀な病気ではありません。
しかし、実際に便失禁を診療、治療する病院は全国的にまだまだ少ないのが現状。
発症者数の多さを考えると、今後は大腸・肛門の専門医でなくても、あるいは特定の医療機関ではなくても、便失禁の診療を適切に行えるような医療体制を作ることが必須と思われます。
便失禁の原因は?
便失禁には、我慢しようとしても便漏れが起こる「切迫性便失禁」、いつの間にか便が漏れている「漏出性便失禁」、両方の症状が混在する「混合性便失禁」の3種類があります。
その中でも最も多くみられるのは、高齢者における漏出性便失禁です。
加齢が進むと排便をコントロールする肛門括約筋の機能が衰え、さらに直腸の感覚も低下していきます。それにより便意を感じにくくなり、便漏れが起こるのです。
ただ、便失禁には加齢以外にもいくつか原因があります。
まず1つが、大腸や痔の手術の影響です。手術による影響で肛門括約筋がうまく機能しなくなり、便漏れの原因となることがあります。
また、過敏性腸症候群あるいは炎症性腸疾患など下痢が慢性的に続く腸の病気になると、便失禁の症状が現れることも多いです。
さらに事故や手術の後遺症によって起こった脊髄損傷や先天性の脊髄疾患を持つ人は、神経の麻痺により排便障害を起こすことがあります。
ほかにも、糖尿病や脳梗塞、認知症の影響、あるいは出産直後の後遺症なども便失禁を引き起こす原因です。
改善策(排便ケア)には何がある?
便漏れにはどんな対策があるのでしょうか。
骨盤底筋体操
便漏れ対策になる体操としては「骨盤底筋体操」が知られています。
いくつかの方法がありますが、以下ではその一例について紹介しましょう。
取り組む順序としては、まず、お尻の内側に向けて力を入れて肛門、膣、尿道をぎゅっと締め、その後緩めます。
この運動を2~3回繰り返しましょう。
それから、ゆっくりとお尻を締めていき、3秒ほど締めたままにします。
最後にゆっくりとお尻の力を抜いていくのです。これを2~3回繰り返しましょう。
運動を日々続ける中で、お尻を引き締める回数および時間を少しずつ伸ばしていきます。
最初のうちは1回5分ほどのペースで行い、慣れてきたら10分、20分と時間を伸ばしていきましょう。
また、スクワットも漏れ対策として有効と言われています。
やり方としては、まず、両足を肩幅まで開いて両手を頭の後ろで組み、背筋を伸ばしましょう。それから、息を吐きながら膝は90度まで曲がるように腰を下ろしていきます。
そして最後に息を吸いながら膝を伸ばし、元の体制に戻すのです。
この一連の動作を朝晩に20回ずつ行うと予防につながります。
食生活の改善
便漏れを防ぐうえでは、下痢を起こしやすい食べ方をしないことが大切です。
そのためにはまず、食物繊維を多く含む食事を心がける必要があります。
特に、果物や芋類、キャベツ、大根、海藻類などに多く含まれる水溶性食物繊維は腸の働きを整える力があるので、煮物やスープなど加熱して柔らかくして食べるのがおすすめです。
また、一日にビールを何本も飲むような過度の飲酒は控えるようにしましょう。
コーヒーなどに含まれるカフェインも腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進するので、摂取し過ぎないことが大切です。
脂身が多くついた肉など、動物性脂肪も控えめにする必要があります。
便失禁は患者のライフスタイルによって現れる症状が異なってくることが多い症状です。
自分でコントロールできる食事内容に気をつけることが、便漏れを予防するうえで重要になるのです。
どんな専門的治療法があるの?
生活習慣や骨盤底筋体操などで改善が見られなかった場合、専門的な治療に入ります。
治療には、薬を使った内科的なものと、大腸を洗浄するなどの外科的な治療法があるので、代表的なものをご紹介しましょう。
薬による治療
便失禁に対しては、保険適用ではありませんが,軟便が原因の場合はポリカルボフィルカルシウム(コロネル・ボリフル)やロペラ・ミド塩酸塩(ロペミン)などが有効だと言われています。
特に、ポリカルボフィルカルシウムは、便秘を引き起こす副作用がないので、使いやすい薬です。
過敏性腸症候群の疑いがあるときは、ラモセトロン製剤が処方される場合もあります。
また、患者が普段から服用している内服薬に刺激性の下剤が含まれていることもあるので、持病に対する薬の調整をすることも必要です。便秘改善を目的として下剤を服用したところ、便失禁を起こしてしまうこともあります。
便の硬さを適切に保つことが難しい患者も多く、その場合は服用量の調整を行うことが大切です。
バイオフィードバック療法
最初に、バイオフィードバック療法をご紹介します。
これは、ご本人の骨盤底筋の運動をモニターで確認しながら行う訓練です。
ご自身で画面を見ながら、どこに力を入れればいいのか確かめられます。
また、筋肉の使い方と合わせて正しい姿勢や生活習慣などの指導も含まれます。
投薬をしないため、最初の治療として進められることが多いようです。
仙骨神経刺激療法
専門的な治療法として、肛門に関係する仙骨神経を刺激して便失禁を治療する方法があります。
効果を長期的に持続させるため、心臓ペースメーカーのような装置を体内に植め込み、電気刺激を与えます。
体内に埋め込んだ装置はなくすことも可能なので、柔軟な治療ができるほか、国民健康保険や高額療養費制度の対象となっているので、費用面でも安心です。
それ以外の外科手術による治療
内科的な療法でも便失禁が改善されないときは、外科治療が必要です。
仙骨神経刺激療法以外の手術としては、手術で作った穴から大腸内を定期的に洗浄する順行性洗腸法があります。
ほかには、傷ついた括約筋を縫い縮める肛門括約筋形成術、太ももの筋肉の一部を肛門の周囲に移植して肛門を締める有茎薄筋移植術、人工肛門(スートマ)を取り付け、便や尿を排出する出口を別に作る人工肛門造設などがあります。
医師に相談のうえ、ご自身の健康状態にあった治療法を見定めて行く必要がありますね。
排便の記録をつけて医師に相談しよう
毎日排便の記録をつけて医師の指示を仰ぐようにすると、問題点が分かりやすく、改善につながるアプローチを検討しやすいです。
普段から下剤を服用している場合は、便失禁が起こっているからといって、いきなり飲むのをやめるのではなく、医師と相談しながら段階的に減らして様子を見るようにしましょう。
下剤の服用量を減らすと、重大な疾患を招くのではないかとも懸念されるところですが、異常事態に配慮して機械的に下剤を投与するよりも、本人の生活の質(QOL)に配慮することも大切です。
不必要に下剤を服用して下痢の状態が続けば、本人の不快感に加えて、スキントラブルを引き起こす恐れもあります。
排便の記録を医師に見せながら薬の服用量について相談・調整し、下痢症状を緩和していくことが、便漏れを予防するためのポイントです。