みんなの介護アンケート
介護職に腰痛が多い原因
厚生労働省の調査によると、日本人の4人に1人は腰痛を抱えていることがわかっています。また、中腰の作業が多い介護業界では、腰痛に悩む人が多くいることも知られていますね。
また、「日本クラフトユニオン」という全国の介護職員が集まる組合で行ったアンケートでは、「腰痛がある」と回答した人は過半数を超える59.0%でした。
介護職で腰痛が発生する原因は、利用者さんを抱える作業が多いこと、中腰や前屈みの作業が多いこと、毎日腰を使う環境であること、個人的に姿勢が悪いなどさまざまですが、多くの場合は複数の要因が絡むことで発症しています。
入浴介助が最も腰痛を起こしやすい
厚生労働省労働基準局の「職場における腰痛発生状況の分析について」では、職場で発生した4日以上の休業の腰痛について調査分析を行っています。
その結果、社会福祉施設では、腰痛が発生するのは入浴介助のときが最も多いとわかりました。
入浴介助では移乗動作以外に、服の脱衣するサポートや体を洗う、浴槽に移動しお湯をかける介助など、前屈みになったり、体をひねったりする不自然な姿勢が続きます。
また、床が水で滑りやすくなっており、バランスを崩すことで腰への負担がかかるのです。
さらに、お風呂場は高温多湿の状態になっているため、疲弊しやすく、足腰が冷えてしまうことも要因のひとつです。
入浴介助をするときは、以下の4つのポイントに注意してみてくださいね。
- 特殊浴槽やリフトなどを活用する
- 滑りにくいように作業靴を履く、滑り止めマットを使用する
- 水分をこまめにとる
- 冷え対策として、着替える、水をはじくエプロンを着用する
腰痛に効果的な対策
腰痛を予防するのに効果的な対策は主に4つあります。見ていきましょう。
福祉用具の活用・リフォーム
まずは福祉用具の活用で腰痛を発症させないことです。原則は、利用者さんの抱きかかえをするのは一人で行わないことです。
車椅子に乗せる、起き上がるときの介助、おむつ交換などでは、前傾姿勢になるシーンが多々あるので注意しましょう。
また、どうしても高齢者を抱き上げなければならないときもありますよね。そこでおすすめなのは、福祉機器や補助具などの導入です。
腰痛予防に役立つ福祉機器や介護機器の例は、リフト、吊り具(スリング)シート、スタンディングマシーン、持ち手付き補助ベルト、スライディングボード、スライディングシートなどがあります。
福祉用具は、在宅介護をしている方は、介護保険を利用してレンタルもできますし、購入することも可能です。
また、社会福祉施設が福祉用具を購入する際は、その購入費用の一部を負担してくれる「介護労働者設備等整備モデル推奨金」制度を使用することができます。
ボディメカニクスの活用
「ボディメカニクス」という言葉は、あまり耳慣れない言葉かもしれませんね。
ボディメカニクスを使って介助方法をすると、介護する側もされる側も、双方に身体的な負担が少ない介護を行うことができます。
詳しくはこちらの「介護ちゃんねる」の動画を参考にしてみてくださいね。
ストレッチをする
ストレッチとは、スポーツ医療の現場ではストレッチングとも呼ばれており、「伸ばす、伸びる」を意味します。腰を屈めることが多いときは、身体を動かして柔軟にすることで腰痛を予防しましょう。ストレッチングが腰痛に良い理由は、筋肉を緩んだ状態にできるからです。
腰部とその周囲の筋肉が緊張状態にあると腰痛になりやすいので、ゆっくりストレッチをして筋肉を緩めましょう。
疲労回復やけがの予防、リラクゼーション効果もあるストレッチングは、腰痛予防として厚生労働省も推奨しています。
職場定着支援助成金で腰痛対策を
腰痛は休職、もしくは退職につながる可能性もあるため、経営者側にとっても大きな問題です。
介護人材の不足が著しい現状で、腰痛による休職者や退職者を少しでも減らすために、政府も、腰痛による休職者や退職者を減らす対策を重視しており、職場定着支援助成金という助成制度を設けています。
機器の導入で、職場の労働環境の改善が見られた場合、介護福祉機器の導入するときの費用の25%(上限150万円)を助成してくれます。
また、従業員の離職率が低下した場合、介護福祉機器の導入費用の20%、加えて生産性要件を満たした場合は35%(上限150万円)の助成が出ます。
ノーリフティングポリシー(持ち上げない介護)も浸透し始めている
ノーリフティングポリシーとは、高齢者を持ち上げない介護のことを指します。
高齢者を車椅子やベッドから移動させるとき、介護リフトなどの福祉機器を使います。介護職員にとって職業病である腰痛を改善できることや、労働環境も改善も期待され、ケアの質の向上に注力を注ぐことができます。
また、利用者にとっては、全身を預けることが減り、身体に適度な負担をかけることでリハビリの効果が期待されています。
職員や利用者の相互にメリットがある新しい介護の技術で、徐々にですが、介護業界に浸透し始めています。
リフトが普及しない理由
ノーリフティングポリシーでは介護リフトが推奨されています。介護職の腰痛対策として、政府からも購入時の助成金制度もありますが、国内の普及率を見てみると10%にも達していません。
リフトが普及しない理由としては、導入にコストがかかることが挙げられます。
また、導入できない理由としては、収納スペースの問題を挙げる施設もあります。
介護施設では人員不足が続いているため、機器の操作方法を研修したり、練習するための時間をかけられなかったりすることも、普及に至らない理由の一つです。実際問題、介護リフトを使うよりも人力のほうが速く移動できるので、人的介護が一番効率的であるといった意見も根強く残っています。
人員不足のために開発が進んでいる介護ロボット。人材不足の解消につながる期待はありますが、購入や運用に必要な費用の負担を考えると、介護業界に浸透するにはまだ時間がかかるでしょう。
腰痛になったら整形外科へ
もし、急に腰痛が始まって痛くて動けないときや腰痛が長引く時は、整形外科を受診しましょう。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疑いがあります。
腰のヘルニアでは、お尻や足にしびれや痛みがあり、力が入りにくくなります。
治療としては、痛み止めや炎症を抑える薬を飲むか、ブロック注射やリハビリテーションが挙げられます。
気を付けたいのは、腰痛の改善に良いとされているストレッチ体操です。急に始まった腰痛の場合は、ストレッチなどで身体を動かすと悪化させることもあるため、理学療法士などに相談するなどして注意しましょう。