今年の春は、解散総選挙があるのかないのかで大騒ぎになり、「解散しない、する、やっぱしない」という雰囲気の中で、結局解散はありませんでした。“うっかり”解散総選挙でも設定されると私の夏休みが選挙対策でなくなってしまいますので、家族旅行を山本家で検討していた私も胸をなでおろしております。

さて、医療関係では国会周辺の動きが慌ただしくなっております。マイナンバーの利活用も含めた、デジタル化の流れがいっそう推進される方向で話が進んでおり、制度的にも盛りだくさんな内容になっております。

今回は医療とデジタル化に関する諸問題を掘り下げてみます。

「すったもんだ」はまだまだ続く!?デジタル化を巡る議論

まず、6月1日に首相官邸で開かれた規制改革推進会議のお座敷の一つである「国家戦略特区諮問会議合同会議」で、規制改革推進について「医療等データの利活用法制等の整備」を行うとする答申が決定されました。

この辺の仕組みが“ややこしい”のは、規制改革推進会議はあくまで岸田総理が専門家に「どう思うよ?」と問題を投げかける(諮問する)先の会議体であり、その会議体が「こういう感じでどうでやんすか」と回答する(答申する)仕組みであって、答申が出たから決定というわけではありません。

この答申を踏まえて、例えば「骨太の方針」など政府全体の制作の方向性を政策分野ごとに固めて閣議決定をし、各省庁に「この方針で仕事しろ」とか「不足なことがあったら法律の改正やら予算申請などをせえ」となるわけですが、政策を見ている人たちからすると、ここにぼんやりとした方針の一文が盛り込まれるか盛り込まれないかで雲泥の差があります。

政府方針もないのに、省庁が独自で何か好き勝手なことをしようとしてもハードルが上がってしまうのが、我が国の行政府の仕組みになっておりますから、この辺は本当に痺れる調整と議論があるのが普通です。

そんな中で、改正マイナンバー法が成立しました。紙によって運用されている健康保険証が2024年秋をめどに廃止されることが盛り込まれ、一部界隈で大騒ぎになり、なぜかデジタル大臣の河野太郎さんが謝罪に追い込まれるという「謎」の事態も発生しました。

マイナンバー制度とマイナンバーカードは違う! みんなまだ知らなかったんですか?

今回のマイナンバー問題は、次の3点に集約されます。

  1. 公的書類の交付(コンビニなどで発行できる住民票など)で他人に証明書が出てしまった問題
  2. 「マイナ保険証」が他人に紐づいていて、健康保険関連の情報が漏れてしまった問題
  3. 還付される税金などの公金受取の登録口座が間違って他人の口座になってしまっていた問題

実はこれ、マイナンバー制度そのものの欠陥で起きたわけではありません。いずれもマイナンバーカードの情報登録について本人確認(KYC)が充分にできていなかった業者側の問題であって、マイナンバー制度の本質の問題じゃなかったわけですね。

もちろん、前に入力した人のデータが残ったまま次の人のデータが入力できちゃうグダグダな感じの入力画面(UI)など、「なんでそんな雑なシステム設計してたの!?」という話はありますけれども、これ単体では制度全体を揺るがすような話じゃありません。

他方、紙の保険証が利用廃止になるにあたっては、立憲民主党など野党側からも慎重な姿勢を求める声などが上がっています。ようやくまともな議論が出てきたなという感じはしますが、これから問題となった箇所のシステム改修をする話も進んでおりますので、どういう経緯であっても「予定通り紙の保険証は廃止するでござる」という流れでそのまま行く感じはします。

さらに、国民の医療データの利活用を促進して、創薬や治療効果促進のために役立てようという「改正次世代医療基盤法」も成立しています。

仮名加工情報(※)の集約で、本人特定の可能性もあるという指摘も出つつ、本件もデジタル化推進の際に何を優先し、どれを諦めるのかという優先順位をどうつけるかというところに力点が置かれて審議が進んだのは間違いありません。

※他の情報と照らし合わさない限り、特定の個人を識別できないように、個人情報を加工して得られる個人に関する情報のこと。

社会保障制度は「待ったなし」どころじゃない! DXは多少のリスク込みで推進するしかない!!

マイナンバーにせよ医療情報にせよ、国民からすればどんな仕組みでも低コストで優れた医療サービスが維持・提供されることが求められています。一方、今までずっと政治問題として議論が重ねられている通り、高齢者が増え続ける中で医療費をどう抑制するのかは大事なポイントです。

デジタル化という意味でのDX推進が医療費の削減になり、医療機関にとっても国民にとっても便利で安全なら、多少のリスクは踏まえても推進するべきというのは岸田政権の方針としては変わらないのかな、と思うわけです。

他方、おそらくこれから医療制度の劇的な変更と、年金を含めた社会保障改革関連の議論が大詰めを迎えていきます。

前者は地方の医療機関が「このままではもたん」ということから、遠隔でのオンライン診療がコロナ禍で“なし崩し”的に解禁となったため、それを診療報酬の体系にどう組み込み、かかりつけ医も含めた制度設計に盛り付けて行くかが問われていきます。

また、社会保障制度全体で言うならば、保険制度も込みで年金支給額の増大もあって年間100兆円どころか150兆円も視野に入ってきた状況で、ずっと「社会保障改革待ったなし」と言ってたのに、「まだ待ったなしとか言ってるのか」というレベルになってきました。

とはいえ、これから年金支給額が目減りしたり、支給開始年齢の選択的引き上げで追いつかない場合は、これもなし崩し的に支給水準の引き下げを余儀なくされることでしょう。

一連の議論の中では、病院や介護業界は割と「必要だけど、はじっこ」の扱いで議論されているようにも感じられ、我が山本家のように主要な話題の一つが両親の介護にある世帯にとってどうなってしまうのか不安でしょうがない面もあります。

次回からは、おそらく政策的議論に出てくるであろうベーシックインカムという名のぶん投げ社会保障と、ついに出てきてしまった地域医療による世界的な安楽死・自殺幇助の拡大について論じていきたいと思います。